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エイズ否認主義と歴史修正主義
http://www.asyura2.com/0505/holocaust2/msg/123.html
投稿者 はてな? 日時 2005 年 5 月 17 日 20:27:15: Cgi16yXgIem4U
 

私が時々訪ねる法政大学の五十嵐先生のブログ
http://sp.mt.tama.hosei.ac.jp/users/igajin/home2.htm
によれば先生のお弟子さんがイタリアへの出張の際の機内の読み物として持参した3冊の本の一つが歴史修正主義に関するものだったそうです。
いま、歴史修正主義に関してどんな議論がされてるのかを知りたくGoogleで検索した所、一寸古いのですが下記を見つけました。まさか、ホロコーストがエイズと関連付けて論じられるとは思いませんでした。しかし、エイズ差別にかこつけて、ホロコースト懐疑者を葬り去ろうという論理は、皆様よんで頂けばお分かりのようにいささかわかりづらい。
以下引用ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エイズ否認主義と歴史修正主義
弁護士会会議夕食会 ロンドン 2002年9月27日
Bar Conference dinner, London, Friday 27 September 2002
エドウィン・キャメロン・南アフリカ最高上訴裁判所裁判官
Mr Justice Edwin Cameron Supreme Court of Appeal of South Africa

http://www.arsvi.com/2000/020927ce.htm
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Date: Mon, 27 Oct 2003 11:03:05 +0900
From: masaki inaba
Subject: [viva_hiv_aids]
エイズ否認主義と歴史修正主義:南アフリカ・エドウィン=キャメロン最高上訴裁判所裁判官のスピーチ

皆様 こんにちは。

 8月に依頼した南アフリカ共和国の最高上訴裁判所裁判官エドウィン・キャメロン
氏のスピーチの翻訳がほぼ完成しましたので、お送りします。
 このキャメロン氏のスピーチは、ムベキ大統領を筆頭に南アフリカ共和国政府の一
部がとってきたご都合主義的なエイズ否認主義の立場を、欧米におけるホロコースト
否認主義(歴史修正主義)と重ね合わせて厳しく批判し、それに対する司法の役割の
重要性を強調したもので、内容的には、大変格調の高いものとなっています。ちなみ
に、南アフリカ共和国政府は、国内外の厳しい批判によってすでにこの立場は放棄
し、HIV/AIDSの治療計画に関しても現在、徐々に進めているところです。
 キャメロン氏はゲイであり、かつHIV感染者であることを公表している裁判官であ
り、南アフリカのレズビアン・ゲイの権利運動、HIV感染者の運動を積極的に支援し
ています。南アフリカの「治療行動キャンペーン」(TAC)の支援者の一人でもあり
ます。日本ではこうした裁判官の存在はほとんど考えられないところで、ポスト・ア
パルトヘイト時代の南アフリカ共和国の民主主義の、一方での懐の深さを体現してい
る存在でもあります。
 以下のスピーチの内容ですが、エイズ否認主義に関する分析が必ずしも十分ではな
いのではないかと思うところもありますが、こうした観点からの論考を正面切って展
開した文書は他にはなく、日本の法曹界・思想界にとっても重要な示唆を与えるもの
であろうと考えて訳出をお願いしました。
 翻訳していただいたボランティアの皆様、本当にありがとうございました!!
 ということで、ご関心ある方はお読み下さい。

※英文テキスト:
http://www.tac.org.za/Documents/Speeches/EdwinCameron-20020902.doc

 ちなみに、キャメロン氏は本スピーチを踏まえて、同じテーマで、論文「TheDead
Hand of Denialism」を書いているようです。

アフリカ日本協議会
稲場 雅紀

*************

弁護士会会議夕食会 ロンドン 2002年9月27日
Bar Conference dinner, London, Friday 27 September 2002

エドウィン・キャメロン・南アフリカ最高上訴裁判所裁判官
Mr Justice Edwin Cameron
Supreme Court of Appeal of South Africa

1. 丁寧なご紹介をいただき、また、私に敬意を示していただき、ありがとうござ
います。皆さんに優しく、また礼儀正しくしていただいた後に、私たち法律家がいか
に退屈な人種であるか、そのことをふびんに思う、などというために、私がここまで
来た、などと言うのは、あまりにも礼儀知らずな皮肉屋だ、と思われることでしょ
う。

2. 私たち法律家は、恐ろしいほど熱心に働きます。そして、法律についてひっき
りなしに語る傾向があります。弁護士であれば不愉快な判事たちの前に現れなければ
なりませんし、判事であれば、不愉快な弁護士に耳を傾けなければなりません。そも
そも、弁護士というのは判事の能力や洞察力、理性に対して感謝の意を表することな
どめったにありません。

3. 裁判官であろうが、弁護士であろうが、私たちは不平ばかり言っている人間で
す。英国ではどのような状況なのかは分かりませんが、南アフリカでは、判事は弁護
士時代に、「ケントリッジの割合」 Kentridgean Proportions に関する実際的な実
践を持ちます。しかしながら、その実践のスケールと評判にも関わらず、私の同僚は
一人も依頼人に高い料金を請求したことはなく、弁護士時代に金儲けをしたこともあ
りません。少なくとも、きまって言われる、弁護士の料金はせいぜい裁判官のお茶代
程度、といった怒りにまかせた苦情から推測する限りは。

4. 私たちの技術は、目に見えるような、また、何かを作り出すような発明といっ
たものではありません。遺伝子工学や電子回路など、魔法のような創造と比較できる
ような、法律における修辞や文章などはありません。

5. 私たちは言葉によってで生計を立てています。しかし、私たちは認めなければ
なりません、私たちの能力は、詩作といった創造的な実践にあるわけではないので
す。もちろん、「文学としての法律」などというテーマをたてて、それに見合う論考
を集めた論文集などが作られたことはありましたけれども。私たちはたまに、深遠な
真理や明晰さ、道徳的な力などを見いだすことのできる文章を、偉大な判決の中に見
いだすことができます。しかし、私たちの仕事の多くは、人間関係のもつれや商売上
の紛争の解決といったことです。

6. 社会的な力としての法律には、より独特な限界があります。法制度や裁判官
は、軍の師団に命令を下すわけではありません。その命令を執行しようとする政治的
な意志が欠如している場合、法は単に権威を示す以外の役割を果たしません。

7. ジンバブウェにおける現在の危機で見いだされるのは、司法を威嚇し、侮蔑し
て、法秩序をなきものにしようという政府のキャンペーンです。無法な人々が優勢を
占めた場合の、法というものの無力さが、最も悲劇的な形で表されています。

8.ここからわかることは次のことです。私たちが自ら選んだ、この天職の背景にあ
る真実は、政府が司法に対して、最低限の丁重さ、尊重、抑制をもって接するという
状況なしには、法制度とそれを担う法律家、判事はまったく無力だということです。

9. こうした事実は、人を失意に陥れるものですが、一方で、なぜ私たちが法とい
う世界を選んだのかということだけでなく、この会議でも議論しているように、なぜ
私たちが「次の世代」を気にかけ、また、法律家がどのように「変化」と「正義」と
のバランスをとっていくのか、ということに関する疑問を提起するものです。

10. 私たちは、本質的な欠点や体系的な欠陥にも関わらず、私たちの職業とその
成果に執着を持っています。しかも誇りを持って。なぜならば、私たちは法というも
のがいつでも、世界に影響をあたえ、それを形作り、議論し、さらに、その成果をも
形作ることができる力を持っていると感じているからです。

11. このことは、最近起こった、真実を追い求める二つの重大な闘争に表現され
ている、と私は信じています。それは私たち各自の国、すなわちイギリスと南アフリ
カの法廷で起きたことです。それぞれの疑問が含み込むものは、大きくてきわめて重
要なことであり、その解決は、私たちのそれぞれの国において、重大な意義を持って
います。

12. 私が「真実のための闘争」(struggles for truth)というとき、それは単に、
ささいな歴史上のことがら、詳細に関する見方の違い、受け取り方のニュアンス、意
味についての言い争いや、確認された事実に関する意義付けの違いを意味しているの
ではありません。

13. 私が述べたいのは、圧倒的な証拠を基礎として確立された、ほとんどの専門
家や多くの人々に受けいられられているところの事実について、イデオロギー的な目
的のために提起される基本的な論争に関することです。

14. 私は二つの、この種の論争について言及しました。まず第一の論争は、特定
の著述家の集団が、第二次大戦中に大陸ヨーロッパで行われたユダヤ人に対する体系
的な虐殺の事実を否定することから始まりました。彼らはそのような虐殺の存在を認
めたとしても、その規模を意図的に矮小化しています。彼らは自分たちの見解を喧伝
するために会合や会議を開催し、ウェブサイトをつくり、歴史「研究所」や出版社を
設立しています。

15. 彼らは次のように主張します。第二次大戦中に、400万人から550万人に登る
ユダヤ人が虐殺プログラムの一環として殺害されたという事実は、ユダヤ人とその同
盟者たちによってねつ造され、喧伝されたものであると。彼らは、ユダヤ人たちがそ
のようなことをしたのは、ユダヤ人たちが、世界それ自体、もしくは世界における闘
争の場の支配を達成するのに、犠牲者という観念が有効だろうと考えたからだ、とい
うのです。

16. 彼らの否定の意義は、近代ヨーロッパの文明、およびそれを救うために
1939年から45年の間に闘われた戦争にかかっています。この歴史に関する真理の追
求、歴史への配慮と認識なしには、世界に道義に基づく声を響かせるのだというヨー
ロッパ諸国民の主張は、虚偽の上に永眠することになるでしょう。

17. もう一つの闘争は、異論派の歴史学者、社会問題の評論家、科学者たちを含
み込んで起きている闘争です。彼らは、エイズという近寄りがたい事実に関して、こ
れを否認する試みを始めています。彼らの否認は、様々な形態をとっています。しか
し、その本質として彼らが否定しているのは、ウイルスによって引き起こされる特定
の状態、すなわち、多くが性行為によって感染し、人間の免疫システムがウイルスの
活動によって組織的に破壊され、ついには圧倒されてしまうというこの状態が、今、
中央および南部アフリカの多くの人々を蝕んでいる、という事実です。

18.  彼らは次のように主張します。
○ HIVという感染症は存在しない。
○ 例えHIVが存在したとしても、AIDSの原因となるものではない。
○ エイズによる数百万人の死、そして今後さらに推測される数千万人の死は(今後
8年間で、南アフリカだけで500万人と推測されています。)企業、医者、科学者、
そしてヘルスケアワーカーによって仕立て上げられた、虚偽とまやかしのグロテスク
な陰謀の産物である。

19. エイズ否認主義 AIDS Denialism のアフリカ的形態は、ホロコースト否認主
義と同様に、人種的陰謀を前提としたものです。アフリカのエイズ否認主義者たち
は、エイズに関する事実を、黒人であるアフリカ人に対して仕立て上げられた怪物的
な陰謀として描き出します。彼らは次のように喧伝します。すなわち、「全能の機
関」omnipotent appratus たる白人の欧米の利権集団が、アフリカ人たちを堕落さ
せ、搾取し、有害な毒物を組織的に与えて殺害するために「抗レトロウイルス薬を促
進する巨大な政治的・商業的キャンペーン」を展開しているのだと。

20. エイズが存在するというだけでなく、エイズが我々の国と大陸とを破壊して
いることを示す数多くの証拠を目の前にすれば、この疫病の存在と、それが数百万人
のアフリカ人、およびアフリカの文明そのものにとって脅威となっているという事実
を覆すのは不可能のように思えます。

21. にもかかわらず、それは可能となっているのです。私たちの国にとって、エ
イズ否認主義がもたらす意味はたいへん重大なものなのです。私たちの大統領、大統
領であるムベキ自身がこの考えを公に認め、公的に推奨しているのですから。彼のこ
の立場は、当然のことながら、一般の南アフリカ人たちに混乱と失望、そして破滅的
な結果をもたらしました。何しろ、この感染症から命を守るためには、自己防衛と行
動変容の必要性を公教育によって認識させることが、死活的に重要なのですから。

22. しかしより重要なのは、ムベキ大統領の態度が、この病に対する国家的な対
応のあり方を混乱させ、不幸にも今もなお混乱させ続けているということです。政府
は、この疾病を克服し、今起こっている荒廃を最低限にとどめるための早急かつ後退
のない措置を遂行してきませんでした。その代わりに、曖昧さ、不作為、動揺、言い
逃れといった形でしか、この疾病に対処してきませんでした。民間および非政府のセ
クターがとった勇敢で創造的なイニシアティブを別にすれば、国家レベルで効果的な
対策をとることは、事実上機能停止していたということができます。

23. どれほど慎重な言い回しを使うにしても、人間の生活とその苦難にという形
であらわれるコストは、恐ろしいほど法外なものになるだろうとしか言いようがあり
ません。

24. 政治的な現実という観点から見れば、法および法的手続は、これら2つの真
実を求める大規模な闘争に何ら関与してこなかったと言えるでしょう。しかし一方
で、法曹界は、疑いなく人好きのしない方法ではあっても、虚偽・混乱・歪曲の皮を
はぐことのできる方法を提供してきました。有能かつ高潔で、自身の使命に専心する
自立した法律家がいれば、裁判所は少なくとも、真実に関わる論争について決定を下
す有用な場を提供することはできるのです。

25. これら2つの論争は、我々の国の裁判所に持ち込まれました。いずれも重大
な結果をもたらすことになりました。

26. (ロンドンの)ストランドの王立裁判所において、2000年1月11日から4月
11日まで、グレイ(Gray)判事による審理が行なわれました。この裁判は、あるイギ
リス人の著述家によって提起されたものです。彼は、自分が「ホロコースト否認主義
者」と名指しされ、歴史的資料を改竄したと非難されたことに対して、これを誹謗と
して法廷に訴えを持ち込んだのです。

27. 裁判では、原告側の主張は棄却され、原告に対する被告側の主張に理がある
と立証されました。裁判官は、歴史学者としての役割や責任を果たすことに対して、
実のところあまり積極的ではありませんでしたが、にもかかわらず、その判決は厳格
な歴史分析によって生み出された偉業ともいえるものとなりました。彼の判決は、否
認主義者の主張の根幹をなす歴史的証拠を、歴史分析によって精細に調査し、否認に
固執する人々が、職業上の清廉さや真理を欠いているということを見いだし、広く知
らしめたのです。

28. 不偏不党で公平な態度をつらぬき、いかなる場所でも、その公平さを疑われ
ることがなかったこの裁判官は、それゆえに、前世紀においてもっとも退屈な、何度
となく提起されつづけた、感情によって左右され続けたこの論争に終止符を打つ決定
を下すことができたのです。念入りに審理が積み重ねられていたために、控訴裁判所
は原告の控訴申請を却下しました。審理と歴史に関する評決は、虚偽、ねつ造、歪曲
を非難する立場を堅持したのです。

29. 南アフリカ共和国における不条理な真実の否認も、司法による審理の対象と
なりました。ムベキ大統領がエイズ否認主義者たちに公的に賛意を表明し始めてから
11ヶ月後に当たる日、憲法裁判所は、国家機関による、HIVに感染している求職者に
対する差別に関する事案について、一つの判決を下しました。憲法裁判所は下級裁判
所の決定を覆し、平等に関する憲法上の権利を堅持し、求職者の人間の尊厳を尊重し
て、この求職者の採用を命令する判決を出したのです。

30. さらに意義深いこととして、この事案では医学的な問題は争点にならなかっ
たにもかかわらず、公衆の教育と肯定のために、裁判所はあえて、通常のやり方を越
え出て、「HIVはエイズの原因である」という、疑いのない科学的証拠の詳細にまで
踏み込んで判断を下したのです。

31. 判決のこの部分は、その18ヶ月後に憲法裁判所が挑まねばならない、民主主
義体制への移行後最大の司法の挑戦の一つがどのようなものであるかを明らかにしま
した。政府は、妊娠中の母親から幼児へのHIVの感染をとめるための国家計画を導入
することを拒否したのです。人道的見地は脇に置くとしても、数限りないほど多くの
文書によって、母子感染予防のプログラムの有効性、達成可能性、および財政的な実
現可能性が証明されているにもかかわらず。さらに、母子感染予防の薬はただで供給
されるにもかかわらず、政府はこのプログラムの導入を拒否したのです。

32. 政府を代表して、高等裁判所および憲法裁判所に提出された多くの文書を参
照すると、政府によるこの拒否は、母子感染予防の薬剤の、いうところの「毒性」に
関する疑念に基づいたものでした……この「毒性」というのは、エイズ否認主義者に
よる包括的な謀略理論 the entire conspiratorialist theory の骨格をなすもので
あると言えます。

33. 裁判所は、エイズの原因をめぐって出された以前の判決から学ぶことによっ
て、薬剤の安全性をめぐる議論は、「偽善」以上のものではない、という証拠を握っ
ていました。さらに、抗レトロウイルス薬の使用が「母親と子どもの双方に、有害な
影響をもたらす」と判断しなければならない証拠は何もありませんでした。

34. 裁判所は、エイズこそ、私たちの国の公衆衛生にとって最大の脅威である、
ということを踏まえ、次のような判決を下しました。その判決とは、妊娠中の女性と
新生児には、HIVの母子感染を防ぐための医療サービスにアクセスする憲法上の権利
があり、政府が利用可能な資源の中で、これを実現するための包括的で統合的な国家
計画を立案することは、憲法上の義務である、というものです。

35. 憲法裁判所は、おそらく、民主主義体制への移行後最も有効に機能した機関
であるということができるかも知れません。憲法裁判所の裁判官や判決は、つねに高
いレベルでの尊重を受けていました。裁判所は、政府の社会的な、また民主主義的な
目標に対して、(その純粋な党派政治的観点とはまったく別に)公然と賛意を表明し
てきました。エイズの問題に関して、憲法裁判所は、その実績と権威とを賢明に、か
つ抑制的に、しかし、明白に権力の行使として、活用したのです。

36. その判決では、国家の生存すら脅かす最悪の脅威であるエイズに対する南ア
フリカ共和国の対応には、不条理や不可解さが占めるべき場所はいささかもない、と
いうことが強調されています。この判決は、この感染症に対する有効かつ首尾一貫し
た国家的対応=それは現在においても、悲劇的なまでに欠落しているものですが=へ
の道を、政府に対して=もちろん、政府が従えばの話ですが=指し示すものとなりま
した。

37. 南アフリカでは、エイズの感染が拡大し、その被害、そして死が、急激な勢
いで増えています。南アフリカ人の5人に1人がHIVに感染し、もしくはエイズ発症
の状態にあります。ある政府機関は、昨年の南アフリカにおけるエイズの死者数は約
25万人に達したと推定しています。効果的な対応なくしては、今後数百万人が、これ
らの死者の後に続くことになるでしょう。これらの深刻な事態にも関わらず、政府が
憲法裁判所の示した道を歩み始めたという証拠は、残念ながら非常にわずかしかあり
ません。例えば……
・ 世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)に対して直接基金申請を行い、資
金を得た州(訳注:クワズールー・ナタール州)への対応についての結論が、未だに
出ていません。多くの人々は、この資金が抗レトロウイルス薬にかかわる部分を含ん
でいるために、政府が資金の受け取りを妨害しているのだと考えています。
・ いまやHIVは医療的措置によって管理できるものであるにもかかわらず、政府は未
だに、国家によるエイズ治療の計画に参与することを拒否し続けています。

38. エイズは、単にアフリカ諸国の政府に対してだけではなく、世界全体の人々
および政府に対しても、特別な課題を提起しています。それは、単にこの感染症によ
って、次の半世紀間に6500万人が死ぬ可能性がある、とするUNAIDS(国連エイズ合同
計画)の推測に見られるような、その惨害の規模の巨大さだけではありません。エイ
ズは、現代世界におけるあらゆる不公正を際だたせるものとなっているのです:本
来、克服可能であるはずの「貧困」のただ中で、不必要で回避可能な死を強制される
者たちがいる一方で、想像もできないほどの財産を有する者もいる、というこの世界
の不公正を。

39. エイズによる死は、いまや回避可能です。注意深く管理された治療、モニタ
リングを前提とした適切な医療措置によって、エイズはもはや不治の病ではなくなり
ました。このことを、私はよく知っています。ほかならぬ私自身の生命が、この治療
なくしては、数年前に途絶えていただろうからです。

40. エイズと共に生きる人間としてでも、一人の裁判官としてでもなく、世界で
最もすぐれた憲法の下に、誇りを持って仕事に就いている者の一人として、エイズを
巡る真実と行動のための闘争から距離を置くことは、私にはできません。法律家と法
制度は、この闘争の中で、役割を果たしていかなければならないのです。

41. 私たちは、真実というものが数限りない挑戦にさらされている激動の世界に
生きています。戦争を正当化し、不正義に特許を与え、不法を隠蔽しようとする世界
に。

42. 戦争と憎しみの危険に満ちた数世紀のただなかで、私たちは様々な違いはあ
っても、私たちの職業と能力について正しく把握してきました。しかし、私たちが法
律家として日々慎みを持ちつつ実践してきた、合理性を追求する技術と、私たちが対
立関係の調査のメカニズムの中で、慎みをもちつつ磨き上げてきた道具は、虚偽やと
歪曲をえぐりだすのに十分な鋭さをもっていると、また、言語同断で最悪の脅威を形
成している不条理に十分対抗できる力を持っているといえそうです。

43. 法律は、政府による無法・暴力・妨害に直面した場合には無防備なものです
が、その一方で、成功のための最低限の条件が整っている場合に、うまく活用するこ
とができれば、私たちの世界の中で最も強い力となりうるのです。

44. 私たちが最も困難な仕事、最も過酷な状況に直面するとき、また、私たちが
不可避的な沈思のもとに赴く瞬間に=まさにこの会議が提供しているようなことです
が=、私たちは、自らが選んだ職業が、それがしばしばうたっているところの高揚感
にふさわしいものであり、また、私たちが信奉するのはすなわち、知性と情熱とをも
って、正義の原則を追求することであるのだ、ということに確信を持つのです。

45. そしてそれゆえに私たちは、法というものがもつ保障付きの限界にもかかわ
らず、私たちの達成について、慎み深くではありますが、勝利の凱歌を歌うことがで
きるのです。
 皆さんの会議が成功することを願っています。

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