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俺はお前が心配だ。大丈夫か?
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投稿者 野次馬だが 日時 2005 年 6 月 27 日 02:41:30: Dro3EqnXD343s
 

筒井康孝、「私説博物誌」より抜粋 p109〜p112 センザンコウ

人間が身につける精神的な鎧は、まことに多種多様である。
いちばん多いのが常識を身にまとってしまう人間だろう。
馬鹿と罵られようが、頑迷固陋と嘲笑されようが平気である。
それによって傷つくような柔らかい部分は、すべて鎧の下にあるからだ。
しまいには、その柔らかい部分さえ、あまり活動させないものだから干涸びて、こちこちになってしまう。
あとは常識だけで生き続けるのだ。
理論武装というのは、主として若い連中の鎧である。
一種の借着なので身にあわぬ部分が多い。
しかもこれを鎧っている間はほかの理論を寄せ付けないので、いつか身にあわぬと知って鎧を脱ぎ捨てた時、あとには何も残っていないことになる。
僕は何も勉強しなかったので理論武装もできなかったが、こうなってくると勉強した方がいいのか悪いのかよくわからない。
インテリに多いのは観念の武装である。
高橋和巳氏の小説『悲の器』の第十四章には、次のような一節が出てくる。

「喘ぐような中年期の坂から、自分の限界の指標をたしかめるまでの惑いの時期に、男は俗物へ俗物へと堕してゆく。満足よりも満足すべきと思われる位置にあることを重視し、観念も変革力を失って、ただ自己の砦を築くためにのみ動員される。」

−中略−

たいていの人間は自分の境遇に満足していず、自分を不遇だと感じているが、中年を過ぎるともう自分がそれ以上どうにもならないことを知り、現在の自分を肯定しようとして、なぜ不遇であるかという理由、その原因を自分以外のものに求め、今度はそれでもって自己を正当化し、身を鎧ってしまう。
あらゆる観念、あらゆる論理が自己肯定の道具に過ぎなくなってしまうのだから、どんな主張をし、どんな議論に加わろうが、その論理が首尾一貫性を備えているのは当然といえる。
さいわいぼくはまだ、高橋和巳氏のいう「着なれた丹前にくつろぐことを好む」ほどの「疲れた中年男」ではないので、もっともっと論点不明確、論旨めろめろ、論拠はちゃはちゃ、首尾不一貫というエッセイを書かなければなるまい。

鎧うということは、中身が腐って早く形骸化してしまう恐れがあるということである。
その上、もしも鎧の中に外敵にもぐりこまれてしまった場合、自分ではどうにもできないためにかえって生命が危険にさらされることにもなる。
もっとも、精神的に何かで鎧った場合、中身がぼろぼろに風化していても生きてはいける。
ちょうど西洋の甲冑みたいに、外側だけでも立っていられるのと同じ理屈である。
しかし、そのような代物が、はたして人間と呼べるかどうか疑わしい。

世の中はさまざまであって、中には自分が馬鹿であることによって鎧うという人間まであらわれる。
自分に不利な話だと、「おれにはむずかしいことはわからねえけどとか、「どうせわたしは馬鹿だから、そんな高級なこと言われても」とか言って、相手の言うことを聞くまいとしたり、理解できないふりをして見せたりする。
この場合は、多少の内容があっても無内容のふりをするわけだから、内容があることを見せまいとするための鎧という、ややこしいことになる。
だがこの場合だって、馬鹿のふりをしているうちに本当に無内容になってしまうことも考えられ、そうなると鎧が馬鹿で正味が馬鹿、なんとも救い難いことになる。

ある動物園での話だが、大型のカメがひどく弱っているので飼育係が介抱していたところ、背甲に亀裂があり、そこから一匹のゴキブリが出てきて、さっと逃げていった。
驚いて、六角形をした小骨板の一枚を切り取って背中から剥がしてみると、中にいた何十匹ものゴキブリが一度にわっと逃げ出した。
ひびの入った甲羅の中へもぐりこみ、背中の肉を食い荒らしていたのである。
かんかんに怒った飼育係は、気ちがいのようになってゴキブリを踏み殺し続けたという。
カメはすぐに手当てを施されたが、まるで人間のように眼から涙を流すのが痛々しく、飼育係りはとても見ていられなかったそうである。

−後略−

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