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(メルマガ紹介)『山崎通信』第19号 パフォーマンスということば
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投稿者 ちあき 日時 2005 年 9 月 01 日 00:42:21: QYdgBsttAJ9L6
 

http://www.yamazaki-online.jp/mailmagazine/yamazakix10.html

山崎通信 2005.08.31

パフォーマンスということば


 かつて会社を経営していたときに、一番大事なことは実績でした。どんなに素晴らしい計画を立て予算を計上しても、実績が伴わなければ何の意味もありません。あるビジネスモデルを他の分野に応用するときも、すでに実施した分野での実績が重要です。もし、関連した分野でのビジネスモデルに実績が出ていないときは、ビジネスモデル自体の有効性を問い直すのは民間企業では当たり前のことです。

 政治の世界では、そうした民の世界の常識がどうも通用しないようです。決算よりも予算が重視されます。実績よりも理念やスローガンや「パフォーマンス」が重要になります。パフォーマンスという言葉からして、英語では政治分野で使えば「実績」という意味なのに、日本政治の言葉になったら「しばしば実態とは関係のない、大げさな行動」に変わりました。確かに政治は政(まつりごと)であり、祭りでもあるのでしょう。しかし「官から民」というスローガンを掲げている経済政策の分野では、スローガンよりも実績と実態に基づいた判断が行われるべきではないでしょうか。結果によって影響を受けるのはまず国民と企業の懐なのですから。

 これからの日本の方向を決めていくはずの郵政民営化の目的は「官から民へ」お金の流れを変え、特殊法人に郵貯や簡保に集まったお金が行かないようにすることでした。なぜなら、特殊法人が損を出し続け、それを財政赤字で埋め、最後は国民が負担するという今の財政のやり方を変える、というのが小泉さんの主張でした。この主張には大賛成でした。そのために小泉政権が実行したのが道路公団民営化であり、これから実施するのが郵政民営化です。つまり、2つの民営化は、同じ目的のために同じビジネスモデルを同じ経営者が行なうものとみていいでしょう。ビジネスの世界なら、道路公団民営化の実態と実績を、これからの郵政民営化への重要な判断材料にするでしょう。まして、あと1ヶ月で民営化される道路公団のナンバー2と3が逮捕され、道路公団自体が談合という国民への背任横領罪の主役であり、財界を代表する企業と一緒に世間を欺いてきたことが明らかになったのです。談合とは必要以上に経費を支出し、見返りに天下りなどの個人の利益を得ることですから、税金を投入した国民と高い料金を払った利用者への背任・横領の犯罪行為の疑いが濃厚です。小泉さんが任命した財界出身の総裁は、まったく知らなかったそうです。上場企業であれば上場廃止、会社の解散に当たりそうな事態です。小泉流民営化はうまくいくのでしょうか。道路公団で起きていることを今真剣に考えるべきときではないでしょうか。

 ところが、政治の世界では道路公団民営化は忘れたいことのようです。小泉さんも他人事のようです。ご参考までですが、そんな嘆かわしい風潮の中で、道路関係四公団民営化推進委員であった川本裕子さんが、道路公団民営化の実績についてきちんとした評価を行っています(日本経済新聞社刊、2005年6月22日発行、八代尚宏編『「官製市場」改革』第三章、高速道路事業の「民営化」問題)。

 最近発表された民主党のマニフェストは、改めて高速道路無料化と道路公団廃止を約束しています。民主党案は「高速道路の債務返済と道路の維持管理に必要な年間2兆円は、約9兆円の現在の道路予算から振り替える」としていますが、これでは高速道路を使わない人にも負担させることになり、受益と負担が不公平ということになります。以前から指摘しているように、日本では、高速道路利用者から徴収した分のおよそ3兆円にも上る道路財源(9種類の税金)を、米英独などのように高速道路の整備に回さずに、そのほとんどを高速道路以外の一般道路の整備に使っています。その上で3兆円近い通行料金を徴収しています。高速道路利用者から税金と料金の二重取りをしているのです。だから、米英独で高速道路が基本的に無料なのに、日本ではいつまでも世界一高い料金を取り続けるのです。したがって、民主党が「高速道路で徴収している3兆円の税金のうち2兆円を高速道路無料化に使う」といえば、受益と負担が一致することがはっきりするのです。

 つまり、高速道路無料化とは、今すべての道路利用者から取っている税金の範囲内で一般道路も高速道路も作り、過去の高速道路を作るための借金も返してしまう、ということなのです。それでは道路が十分に作れないという声が上がりそうですが、日本とほぼ同じ国土面積のドイツと比較すると、日本の道路延長はドイツの約2倍以上です。高速料金がなくても9兆円という道路財源は、ドイツの3倍、イギリスの11倍にも上ります。つまり、日本は道路投資額において先進国トップクラスの財源を持ちます。すでに世界一の道路を持つ日本が、高速道路を無料にしたあとでも、総税収の4分の1にもあたる巨額のお金を相変わらず道路につぎ込む必要があるのでしょうか。年金や介護、教育、少子化対策などのもっと緊急の分野があるのではないですか。この程度の改革ができなくて何が改革なのでしょうか。

 結局、道路公団問題も、財政投融資の「出口」の問題も解決できなかったのです。道路公団を廃止して出口をなくすのではなく、形だけ株式会社に変えた特殊法人が、税金と通行料金の二重取りをしながら高速道路を作り続ける仕組みが温存されました。それを可能にするのが財務省からの信用供与です。民営化後も道路公団は政府保証をつけてもらいます。ほかの特殊法人は、財投債(以下「財投国債」)を発行して集めたお金を財務省が貸してくれますからお金の心配は要りません。損が出たらもっと貸してくれます。民営化しても経営内容を上場企業のように公開する必要もありませんから、ムダ遣いやリベートや癒着の温床です。国会の追及も外部株主や証券取引所の追及もない国100%保有の株式会社という、一層都合のいい特殊法人になります。いくら分割民営化し、トップに民間人を持ってきたところで、現在の総裁のように「私は何も知りませんでした。」ということにならないでしょうか。そもそも今回の談合には財界代表の企業も多く参加しています。財界から経営者を送って一緒に隠蔽工作をするのでしょうか。将来の犯罪者を作るような人事に加担しないほうが賢明でしょう。

 小泉民営化全体に戻りましょう。結局、最初の民営化である道路公団民営化の実績は、特殊法人の損失垂れ流しと腐敗した経営を温存し、財政赤字を膨らまし続けます。財政投融資の出口の改革はできませんでした。それでは、今の郵政民営化法案で「官から民に」お金が流れ、財政赤字が減るのでしょうか。答えはノーです。小泉政権ができた2001年から財投国債という特殊法人のための国債が発行され、今では122兆円、国民一人当たり約100万円もの借金をしています。この国債を、郵貯だけでなく年金や個人や銀行も買っています。民のお金を財務省が吸い上げて特殊法人に流す仕組みが確立しています。郵貯が民営化して銀行になっても買い続けるでしょうし、郵貯銀行が買わなければ、国債ですからいくらでも他の投資家を見つけられるのです。ですから、郵政民営化で「官から民へ」お金の流れが変わるというのは、ブラックジョークです。小泉政権は、財投国債という国民の借金で「特殊法人へのお金の流れを拡大した」政権なのです。

 郵貯から特殊法人へのお金の流れを止めるには、郵貯が財投国債を買うのを禁止すれば可能です(もちろん財投国債以外の国債は引き続き買えます)。この条項の入っていない郵政民営化法案は、舵を失った船のようなものです。漂流を続けるでしょう。さらに、特殊法人のムダ遣いとリベート体質を改善するには、財投国債を廃止し、最終的には財政投融資という制度自体を廃止すべきです。国が特殊法人にいくらでもお金を貸すことを止め、特殊法人が自分で格付けをとって債券を発行し、市場と投資家が経営を監視することです。そうすれば、会計も透明になり、債券投資家への説明責任が発生します。債券の返済能力以上に収益性が高くなりうる法人は、民営化し株式上場して株式市場からも監視される体制に移行すべきでしょう。借金を自分で返せない特殊法人の経営者は、格付けの低下、債券価格の低下という形ですぐにわかります。経営改善が進みます。債券を自分で発行できない特殊法人は、廃止するか一般会計の事業として存続させるか選択します。財政の透明性は向上します。財政赤字の根源である財政投融資をなくしてこそ、官から民へお金が流れます。郵貯が財投国債を買うのを止めるのが、その第一歩になるでしょう。

 今の郵政民営化法案の中身を見ると、道路公団民営化法案とそっくりです。特殊法人へのお金の流れは止まりません。半官半民の中途半端な会社が2017年にできます。それまでは、2007年に銀行業に進出する国100%保有の株式会社ができます。規制が外れて増殖しそうです。何より問題なのは、民間で銀行と保険と運送宅配事業を兼営しているところはないのに、郵政民営化会社には認めていることです。将来、この会社の膨張は問題だ、国策会社は不公平だという声が民間から上がるでしょう。本当に民営化するなら、三事業は完全に分離し、株式は直ちに完全に民間に売却するべきです。そうなれば、競争原理と収益原理から全国一律の郵便料金や過疎地の郵便局は維持できなくなります。ところが、それはできないということになりました。ここで道路公団と郵政事業の違いが出てきます。高速道路の料金所がなくなればほとんどの人はうれしいでしょうが、郵便局がなくなれば困る地域が多いということです。

 我々現代の日本人は明治時代に郵便制度を作ったときと同様の難問に突き当たっているのです。郵便局を全国で整備するには郵便事業の収益だけでは足りません。何か他の事業を行って収益を上げる一方、コストを分担するしかないのです。日本は明治8年に為替と貯金業務を始め、大正5年に簡易保険事業を始めました(こうした事情はほかの国でも同様です。世界の郵便連合に加入する190カ国の中で郵便事業を民営化しているのはわずか一桁です。アメリカでも郵便は国営で、全国でサービスを維持するには民営化では不可能と判断されました。また、多くの国でも他の事業を行っています。バス事業などを行うところも多くありますが、金融事業を行うのが一般的です)。

 郵貯・簡保・年金のお金を財務省が吸い上げて特殊法人に貸し付ける財政投融資の仕組みができたのは昭和26年のことです。戦後復興の資金が足りない時代でした。この制度ができてから、郵貯と簡保は飛躍的な発展をとげました。財務省は国債金利を上回る金利を郵貯と簡保に保証したからです。無料の国家保証であること、税金を払わないことなどの恩典もあります。さらに、1980年代以降は、定額貯金という商品が人気をよびました。金利が上がれば途中解約しても金利が付いて有利に預けかえられるという、貯金者がただでオプションをもらえる仕組みが付いています。リスクを財政に転嫁できる仕組みです。さらに貯金の限度を1,000万円まで引き上げ、口座をいくつも持つような富裕層の資金を集めました。国民の零細貯金のニーズを吸収するという郵貯本来の目的を大きく逸脱したのです。しかし、こうした大盤振る舞いを可能にした財務省からの有利な金利の源泉である特殊法人への貸付は、実は大幅に焦げ付いていました。しかし、かつての民間の不良債権問題と同様に、貸し手である財務省は損失を計上せず、不良債権を先送りしてきたのです。こうして、郵貯には高金利を払い、特殊法人からは貸付が回収できないために、財務省には巨大な損失が発生し財政赤字が膨らみました。これに対して小泉政権が行ったのが、損失を出している特殊法人を処理するのではなく、財投国債という形で郵貯・簡保・年金以外からも特殊法人への財源を広げることだったのです。

 こうした経緯を考えれば、あるべき郵政改革および財政の改革は、
  1. 財投国債を郵政資金が買うのを禁止する
  2. 財政投融資制度を最終的に廃止する
  3. 財務省は特殊法人への貸付をやめ、特殊法人は自分で債券を発行する
  4. 郵貯の預け入れ限度を大幅に引き下げる
  5. 定額貯金を中途解約すれば民間の定期預金同様にペナルティーをつける
  6. 郵政事業は税金、預金保険料など民間と同様の負担をする
  7. 民間上場企業と同様の情報公開と説明責任を義務付ける
  8. 経営効率の大幅改善を図る
ことが主な骨子になるはずです。政府の民営化案には1から5までが欠けています。

 さらに、郵便事業を金融事業で補完する必要があること、一方で郵貯の規模を制限することから、三事業完全分離、民間株主100%の民営化は不可能です。郵便局を民間の補完という元の役割に復帰させ、縮小させるためには、形態は株式会社に変えてもよいのですが、業務への制限を残す必要があります。さらに、民間金融の発展のインフラに徹した上で、国債を上回る資金運用を実現するためには、日本の証券化のスポンサーに徹して、日本では未発達の住宅ローン、奨学金ローン、中小企業ローン、プロジェクト・ファイナンス・ローンなどの民間債権を証券化したものへの投資を行うことによって、郵便局に集まった資金が、本当に民間に流れるでしょう。経営が正常になった特殊法人の債券も国債を上回る運用先になりえます。

 小泉さんの最大の功績は、「郵便局には問題がある。財政投融資が最大の問題だ。」と他の政治家が言わないときから指摘したことでした。しかし、道路公団民営化と郵政民営化法案の実績と実態を見れば、特殊法人の問題は放置されます。どのような政権ができるにしても、本格的な改革の名に値する法案を出しなおすべきでしょう。

 いつにも増して長い山崎通信になってしまいました。申し訳ありません。郵政民営化問題は、複数の連立方程式を一緒に解くようなものです。でも、ここのところを越えていかないと次の時代が来ないと思います。そして、以前から申し上げていますが、まず最大の特殊法人である道路公団の廃止と高速道路無料化を始めることが、国民にとって分かりやすく、また将来が明るくなる改革になります。特殊法人という出口がきれいになってこそ入り口も正常化されるでしょう。

 「わかんねえよ」と開き直るワイドショー政治以上の良識を日本に期待したいところです。

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