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ITに拠点化は必要だったのか→東洋のシリコンバレーが壊れる→俄に注目されるマンガロール【The actual INDIA
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投稿者 姫子音 日時 2006 年 1 月 01 日 18:52:07: ufZh96zaorBXw
 

以下は、森尻純夫氏による『第七十七回 東洋のシリコンヴァレーが壊れる 2005年12月』より引用:


すべてはバンガロールへの道

 最近、旧国道をナショナルハイウェイと書き換える工事が各地で散見できる。舗装化と拡幅だ。雨期で止まってしまっている工事場が多く、相変わらず効率が悪い。
目立つのは、あらたに設置された標識に、必ずバンガロール○キロという表記があることだ。地域と地域を結ぶ道路は、州都バンガロールへ向かう道に変りつつある。

 州政府のポリシーであるとともに大都市バンガロールの深刻な情況を示唆してもいる。ローマへの道は、結局、ローマの滅亡を招いたのだ。 水害被害は、大都市バンガロールも例外ではなかった。新聞は、バンガロール新興住宅街が膝上水没している写真を載せ、都市機能の麻痺した情況を二度、三度と詳報した。

 バンガロールがこれほど注目されるのは、IT都市、東洋のシリコンヴァレーと呼号されて急拡大した州都が危機に瀕しているからなのである。 もともとバンガロールは高地の避暑地として植民地時代に白人によって拓かれた地域だ。だから、市内には他の都市に比べて寺院などの宗教施設が非常に少ない。

 緑に包まれた人工都市は、植民地政庁の地になり、独立後、マドラス(チェンナイ)、マイソールの行政区と分離、統合を経てカルナータカ州の首都になった。 こうした経緯から内陸交通の要衝として政治、商業活動の拠点になった。中心はマジェスティック・バススタンドと呼び習わしている公営バス発着所と隣接する鉄道駅だけだった。

内陸の交差点からシリコンヴァレーへ

 九〇年代のはじめ、IT産業が参入してきた。といっても当初は、輸入ハードの仲卸的業務にすぎなかった。それがアメリカで出稼ぎインド人のソフト開発能力が認識されると、数年を経ずに東洋のシリコンヴァレーと尊称?を賜るまでになった。

 九〇年代半ば、多国籍企業を含めた集合団地ITパークがバンガロール郊外に発足した。名実ともにバンガロールはITの拠点になったのである。当初は四百人程度の就労者だったITパークは、たちまちのうちに拡大していった。05年現在、就労者は二万人を数える。
当初は市内からバスで三〇分ほどの通勤圏だったが、過去二年、自家用車でも二時間近くは普通にかかるようになってしまった。労働効率は非常に悪くなっている。

 市内からITパークへの導入部へ高架高速道が数年前にできたのだが、なにしろ市内の道路事情が変わらないのだから意味がない。市の反対側にもうひとつの拠点団地ができつつあるが、それも事情は変わらない。

 ITパーク以外でも、市内には関連企業が軒を連ね、そこに従事する職業人口は限りなく肥大し、郊外の畑地、休閑地には新興住宅とアパートが林立した。上下水道も完備していない、舗装もない道路は大雨がくるとたちまち水没してしまう。自然膨張に任せた結果、一千万都市としての体裁を持っていないのである。

特殊な都市化・バンガロール

 経済都市バンガロールは、実はインドではかつてない特殊な都市化の例なのである。 近世から近現代、インドは他国に比べればゆっくりだが、都市化が進んできた。古代、中世に文化都市を持っていたこの国は数百年の外国植民地に荒らされ、遅れたのだ。

 ニューデリーは、ムガル王朝のイスラム文化が底部にあったとはいえ、首都として政治の中心地である人工都市になった。ムンバイは一六世紀後半、海浜の一小村から貿易港になった。 このふたつの大都市を追うように、バンガロールは二〇世紀末に拡大した。

 ムンバイは商業都市として発展したが、周辺の広大な農業、漁業地帯からの流入者で成り立っている。周辺部からの移住者たちは、出身地の言語、文化といっしょに移住してきた。 マラートと称する人びとは親族、眷属とともに定着している例が多い。

 成功すると、故郷から、お寺や司祭(ブラーミン・僧侶)まで呼んで居住区をつくった。最近は、州の公式言語マラーティが劣勢で、訛ったヒンディ語がシェアを上げているが、家庭ではやはり出身地のことばをしゃべっている。

 バンガロールにはこうした移住と定着のかたちがない。バンガロールにも、比較的古い町には、そうした例がある。タミール州からの移住者たちが住む地域には、カソリック教会があり、タミール語が流通している。しかし、こうした古い町は、いまや片隅に追いやられてしまった感がある。

 バンガロールを拡大した流入者は、学歴をキャリアとして農民の二〇倍の給与を得て、アパートに住む。過去の職能や共同体から切り離された核家族化した人びとなのである。 彼らは郷里に給与の大半を送り、郷里に貯蓄する。いずれは帰りたいのである。新婚の妻だって郷里の出身だ。

 ここが、日本の核家族、都市生活者と違うのだ。バンガロールに税金を払って、子孫までの街づくりを望むことはない。古い井戸にどっぷり浸かった新人類なのだ。
実は、インド人もこのことに気付いてはいない。研究者、政治家も都市化を経済発展の結果として歓迎し、そのゆがみを捉えていないのである。

バンガロールの都市改革

 インド民族資本のIT総合会社インフォーシスは、バンガロールを拓きバンガロールとともに発展してきた。いまや世界中をネットワークし、各国に支社を持ち、その総資産は正確には数えられない、といわれている。

 05年六月、そのインフォーシスがくすぶっていたバンガロール都市問題を燃えあがらせた。インフォーシス会長N.R.ナラヤナ・ムルティが、いっこうに捗らないバンガロール再開発は州政府と地元政治家たちの怠慢によるものだと告発した。このままでは、ITパークはもとよりバンガロールからの撤退を考える、というのだ。

 この告発には、やはりバンガロール育ちのウィプロ、アメリカで設立されたインド人企業サティヤンなど、ほとんどのIT企業が彼の背後で同調した。再開発は、道路、地下鉄、第二国際空港などのプロジェクトが計画されている。この計画には、日本政府も参画している。04年、小泉首相訪印の際、地下鉄、バンガロール新空港について借款と無償のODAを申しでている。シン首相は積極的に受け入れることを表明した。

 IT企業からの告発に対して、元首相で地元選出の国会議員デーヴィ・ゴウダは、猛然と反発した。IT企業だけのバンガロールではない。カルナータカ州全体を視野に収めたディザインが必要だというのだ。この稿の冒頭に記したすべてはバンガロールへ向かう道標は、この主張によるものだ。しかも、市内交通には地下鉄だけでなく、路面、モノレールと三案が浮上していて、ゴウダはモノレールに傾いている。

 カルナータカ州政府首相ダラム・シンは、この争いに冷淡で、積極的に関わらない。というのも、シン首相は、04年選挙で勝利した会議派(コングレス)で与党、デーヴィ・ゴウダは敗北して現在は野党会派なのである。

 もともとこの計画は、ゴウダ与党会派時代にでき、中国や日本などとの関係も野党が掌握している。シン内閣にとっては、政策ポイントになりにくい。積極的参与は野党を利することになりかねない。地方政治の党利党略が東洋のシリコンヴァレーを危機に導いているともいえるのである。

にわかに注目されるマンガロール

 バンガロールの未来が暗礁に乗り上げていると見た企業家たちは、冷静にひそかに次の方策を探ってきた。すでに準備、あるいは発進している。 ターゲットになったのは、アラビア海沿岸の港湾都市マンガロールである。

 筆者が居住するマンガロールには、三年ほど前、インフォーシスが一五〇〇人の机を持つ巨大な支社をすでに建設している。一年前には、エムフォーシスが開発センターを河口岸に設置、研修生四〜五〇名を含む一〇〇名近くが稼動している。

 そして、05年、インフォーシス、ウィプロがマンガロール近郊に広大な土地を確保した。場所は筆者の勤務するマンガロール大学の背後五キロの山林だ。規模は、ざっとひと山、八千エーカーといわれている。開発された暁にはひとつの町が出現する規模だ。

 ウィプロはマンガロールではインフォーシスに先行して一〇数年前から、コンピューター機器販売の代理店、営業所を数か所、開いている。大学をはじめほとんどの専科大学のコンピューター学科はウィプロの機器とメンテナンスに頼っている。

 この会社がハードとソフトをインド市場に定着させたのである。現在、日本のミスター・Yen、こと榊原英資氏が顧問になっている。
マンガロールが注目されたのは、中世からの港湾都市で数種の多種言語地域であることから、現代、英語を共通語とし、その教育が行き届いていることが大きい。多種言語ということは、宗教共同体も多種で、インドの宗教見本市のような地域性だ。

 また、近郊と北部数一〇キロの地域に大教育圏を擁し、人材の海なのである。大学、私立専門単科大学、その他の研修施設から、毎年、数百人のコンピューター要員が輩出されている。インド各地から学生を受け入れており、近年、中国、韓国、マレーシアなどからの留学生も多数いる。住み心地のいい地域なのである。

 バンガロールのIT企業にも、多くの人材を供給している。外資を含めて、IT企業がインドに求めているのは、中級技術を的確に発揮する低コストの労働者なのである。マンガロールはそのための広大な海を持っている。

ITに拠点化は必要だったのか
 バンガロールのITパークが膨張のあげくに破裂しかかっている。 バンガロールの都市自体が機能麻痺に陥ろうとしている。いい方を変えれば、ITが都市を破壊しつつあるということだ。

 しかしちょっと視線をひいてみると、そもそもIT企業が集合拠点を持つ必要があったのだろうか。ITとは、脱空間コミュニティであるはずだ。おなじ空間を共有する必要はないはずではないか。ITパークとは、実にフィクショナル(虚構的)な存在なのである。

 都市はいつも虚構性をはらんでいる。しかし、経済を実体化する作業には似合わないフレーズだ。 シンガポール、香港、中国本土、韓国、東京、そして最近では東欧圏でもIT産業は胎動しはじめている。

 エレクトロニクス機器の開発、金融市場、流通と巨大な可能性、異次元のグローバリズムに、いまITは向かっている。そこで展開されるのは、脱空間サテライト(衛星)システムだ。このことをもう少し緻密に考えてみなければならない。


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