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中国企業の海外M&A戦略 [中国経済新論]
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投稿者 あっしら 日時 2005 年 10 月 29 日 00:46:28: Mo7ApAlflbQ6s
 


中国企業の海外M&A戦略

国務院発展研究センター企業研究所所長 張文魁

昨年以降、中国企業の海外におけるM&Aが国内外で大きな関心を集めている。中国の台頭に伴い、80〜90年代の日本のように海外の資産を買いあさるようになったのではないかと懸念されている。しかし、2004年まで、中国は果たしてどのくらいのM&Aを行ったのだろうか。商務部の統計によれば、統計開始以降のM&Aの累計額は36億ドルである。しかし、そのうち、レノボ(聯想)によるIBMのPC部門の買収だけで12.5億ドルと全体の35%を占める。そのほかにも、中国石油天然気(ペトロチャイナ)、中国海洋石油(CNOOC)などが比較的大きな買収を実施し、その合計額は約5億ドルにのぼる。これらの数字からも分かるように、中国の海外におけるM&Aの規模は非常に小さく、年平均で見ても1億ドル強にとどまっている。海外で一定の地位を占めたといって喜ぶのはまだ早いようである。

ここ数年間、中国企業は海外でのM&Aに急に興味を持ち始めた。その理由としては、次の点が挙げられる。

(1)天然資源志向。海外M&Aの主目的を、ある社会資源を手に入れることに置いている。昨年、CNOOCおよびペトロチャイナによるM&Aの案件があった。たとえば、ペトロチャイナがカザフスタンの油田の株式12%を取得し、CNOOCはスペインの石油会社のインドネシアの子会社を買収した。現在、中国では資源の需要が非常に旺盛であるため、多くの政府部門が、国有企業による海外の資源関連企業の買収を奨励、支援している。

(2)技術能力志向。現在、中国の製造業は急速に発展しているが、コア技術を持っていない。自ら開発するのは時間がかかりすぎるため、買収によって技術を獲得しようとしている。民営企業の華立によるフィリップス社のCDMAの研究開発部門の買収、格林科爾(グリーンクール)によるイギリスの自動車の設計研究部門の買収などが技術能力志向型の例である。

(3)市場シェア志向。企業が一層発展し、国際市場で一定のシェアを獲得するには、ほかの企業を買収し、その企業の市場シェアを手に入れる方法がある。たとえば、聯想によるIBMのPC部門の買収がこれに当たる。これにより、聯想の国際市場シェアは急速に上昇した。

(4)ブランド志向。中国メーカーのブランドはいまだに海外に受け入れられていない。海爾(ハイアール)が米Maytag社を買収したのも、海外進出を始めてから長い年月がたったにもかかわらず、海外市場におけるブランド力をいまだに確立していないことが理由にある。企業のこのような志向は、非常に合理的であると言える。これは、中国の企業がある段階まで発展した後、より高い段階に進もうとする意欲であり、戦略でもある。しかし、この目的をM&Aで実現できるかどうかは各社の経営能力にかかっている。

一方、中国企業にとって海外M&Aは、次のようなリスクがある。

一つ目は、政治リスクである。特に大型案件については、必ずといっていいほど政治リスクを伴う。すでに多くの国が中国経済の高成長に不安を感じ、なかには恐怖感さえ覚える国がある。中国製品が洪水のように海外に輸出されていることが、海外の大きな不安を引き起こしている。これに加え、海外企業を買収し、しかもすべて現金で買っていることが、さらに大きな不安をもたらしている。

二つ目は、法律面のリスクである。海外の一部の国では、企業の買収は労働組合の同意や年金支払いの保証が必要であることが法律で定められている。中国企業は、海外でのM&Aが国内のM&Aと同じようにできると考えているが、実際には外国の法律は中国に比べて厳しい。

三つ目は、経営管理面のリスクである。中国企業が行ったM&A案件についても、実施後はじめて経営管理が非常に難しいことが判明したケースが多い。場合によっては、パートナーがいなくなったり、再編が困難になったりする。とくにTCLはこのことを深く実感したのではないだろうか。実際、再編は決して簡単なことではない。

四つ目は、コーポレート・ガバナンスのリスクである。中国の多くの人は、買収したら、経営者をすぐに換えることができると考えているが、実際にはそうではない。外国では取締役会の安定性を保つため取締役の交代の順番が決まっていることが多い。大株主だからといって、会長や財務担当役員を換えることができるという訳にはいかない。CEOを換えることができない場合もある。

五つ目は、市場リスクである。市場の変化によっては、M&Aの意味がなくなることがある。特に資源志向型や技術能力志向のM&Aにはそういったリスクがつきまとう。ある日、鉄鉱石の人気がなくなったり、あるいは技術進歩により買収先企業の技術に意味がなくなることもありうる。例えば、携帯電話市場では、今後、チャイナ・モバイル(中国移動通信)がどのような方式を採用するかはまだ分からないため、技術獲得のためのM&Aは主流にならないかもしれない。

このようなリスクを踏まえた上で、中国企業は果たして海外で大規模なM&Aを実施する段階に来ているのかを検討する必要があるだろう。中国企業は、海外で地盤を築くことができるのだろうか。多くの人々は、外貨準備があればM&Aを実施することができると考えている。しかし、海外で大型M&Aを実施する時には、その他にも条件が必要である。

まず、全体的に見て、大型M&A案件を実行するには、大企業であることが必要である。確かに今年に入って、フォーチュン500にランクインされる中国企業数が増えた。しかし、多くは資源分野での企業あるいは、国有企業、独占企業である。中国の上位500社の大企業の多くは、石油、電力、鉄鋼で、本当の製造業あるいはサービス業が少ない。

第二に、多くの国際的な人材が必要である。この点についてはTCLが実感しているだろう。言うは易く行うは難しで、特に国際的な人材を集めるというのは実際にはかなりの難事である。

第三に、戦略的な管理能力を持っていることが必要になる。中国国内における戦略すらうまくいかない状況では、海外に出たとしても、戦略的な管理能力の不足によって失敗に終わってしまう。海外企業を買収しようとしている多くの企業は、戦略面における考慮の足りない企業が多い。

第四に、良いコーポレート・ガバナンスが必要である。多くのアジア企業が海外進出の際に遭遇した問題点のひとつは、コーポレート・ガバナンスの違いである。この違いのために買収先の管理も、そして協調もうまく行えない。日本や韓国企業のコーポレート・ガバナンスは、家父長式の影響が大きいことでも知られてはいるが、中国企業に比べれば国際水準に遥かに近い。さらに、会社の透明性の面においても、情報を開示しなければならないという問題がある。また、社会的責任と企業のイメージの面についても留意する必要がある。

中国企業の海外M&Aをどのように推進するかという点についても考える必要があるだろう。まず、政治権力を利用する形で買収を進めない方が良い。中国は高い経済成長を遂げているため、(M&A案件を)政治的に行うと、かえって良くない結果を招く。商売は商売とみなした上で、商売のルール、商売上の判断、商売の相場に沿って行うべきである。

また、資源志向型のM&Aはあまり支持すべきではない。現在、中国政府は、海外から資源を獲得するM&Aを支持する傾向があるが、海外市場を含め、市場から資源を獲得すれば良い。実際に買った資源が使える資源とは限らない。そして、M&Aが資源を活用するもっとも良い方法であるとも限らない。

第三に、国有企業が派手に行う大型M&Aは阻止しなければならない。海外M&Aを実施した企業の多くは国有企業あるいは国有企業のバックグランドのある大企業である。政府は、国有企業が政治的な業績を上げるための買収や、資源獲得を目的とする買収を過剰に支援すべきではない。このような買収は必ずしも良い結果が得られるとは限らない。また、このような形で手に入れた海外資源も中国の資源の安全を保障できるものではない。

最後に、海外M&Aを実施する前に、買収側に良いコーポレート・ガバナンスがなければならないことを改めて強調したい。良いコーポレート・ガバナンスがなければ、海外企業も接触してこない。中国企業は、透明性を高め、情報開示を徹底し、明確な政策決定メカニズムを構築した上で、社会的責任を担う態度を明確にすべきである。中国でのやり方の多くは海外では通用しない。周知のように、ボーイングの会長も辞職せざるを得なかった。また、海外では個人の生活面の問題も辞職の原因になりうる。コーポレート・ガバナンスに細心の注意を払うことで、ようやくよりよいイメージをもって海外でM&Aを実施することができるのである。

(注)和訳の掲載にあたり著者の許可を頂いている。
(出所)全国工商聯併購(M&A)公会主催セミナー「后股権分置時代併購重組的機遇和挑戦」(2005年7月28日開催)でのスピーチ「中国企業的跨国併購」

 

張文魁 Zhang Wen Kui
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1964年湖南省生まれ。1983年湖南大学卒、1990年中国人民大学修士。1996〜1998年ハーバード大学に留学。1990年より国務院発展研究センターにて勤務、産業部室主任などを経て、2001年より同センター企業研究所副所長。主な研究テーマはコーポレートガバナンス、コーポレートファイナンス、国有企業改革など。

 

2005年10月26日掲載


http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/051026sangyokigyo.htm


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