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カリフォルニア州職員退職者年金基金カルパース 【CSR Archives】
http://www.asyura2.com/0510/hasan43/msg/765.html
投稿者 hou 日時 2005 年 12 月 17 日 11:16:34: HWYlsG4gs5FRk
 

http://www.csrjapan.jp/research/newsletter/006_05.html


はじめに
   
  いまから2年前、米国のSocialFunds.comを運営するSRI World Group社は2000年の3大ニュースのひとつに、カリフォルニア州職員退職者年金基金カルパースの積極的な社会的責任投資行動をあげた。現在でも1,300億ドルという巨大資産を有する米国最大の公的年金カルパース。社会的責任投資家としての彼らの顔は以下のように大きく5つに分類される。
   
  ■タバコ産業の排除
   
  第1はタバコ産業を排除する投資家としての顔。2000年10月、カルパースは保有していた5億ドルあまりのタバコ関連企業株式を売却する決定を下した。訴訟が続き、法規制が強化されるなかで、タバコ産業への投資を続けることは株主価値を減じさせる、年金加入者の長期的利益に背反するというのが理由だが、パッシブ運用を行う場合にも方針を適用するという厳密さから話題となった。しかしながら、こうした特定業種を対象にしたネガティブスクリーニングがそれ以降、拡大しているわけではない。決して倫理的動機からタバコ産業を排除したとは言明していないのに、米国のSRI関係者がこの決定を過大評価した面は否めない。
   
  ■新興国投資における国際労働基準遵守度の配慮
   
  第2は国際労働基準に対する政府の姿勢から特定の新興国には投資しないとする投資家の顔。2002年2月にコンサルタント会社であるWilshire Associatesの報告書を受けて、国の透明性、政治の安定性、国際労働基準に対する政府の姿勢などをもとに主に新興国の投資適格性に関する見直しを行った。

適格と判断されたのは、アルゼンチン、ブラジル、チリ、チェコ、ハンガリー、イスラエル、メキシコ、ペルー、ポーランド、南アフリカ、韓国、台湾、トルコの13カ国。アジア地域では、フィリピン、タイ、マレーシア、インドネシアがリストから外され話題を呼んだ。しかしながら、評価の詳細を見ると、国の透明性、政治の安定性、国際労働基準に対する政府の姿勢というマクロレベルの評価の他、市場の流動性と変動性、市場のルールや投資家保護、市場の開放性、決済の成熟度、取引コストなどのマーケットレベルの評価があり、国際労働基準に対する政府の姿勢という項目のウエイトは12.5%に過ぎない。

また、国際労働基準に対する政府の姿勢という項目の実際のスコアを見ると、フィリピンとタイについては台湾と同じ5段階評価中2と評価されている。したがって、社会的責任投資のクライテリアである国際労働基準が考慮されていることは事実だとしても、この方針が新興国投資に社会的責任投資の考え方をそのまま適用したものとは必ずしも言えない。ちなみに、カルパース投資委員会は2002年5月にデータの誤りを理由に、フィリピンを投資適格国に戻すことを表明。2003年4月には、投資適格国からある国が外れても1年間はその国の改善状況を見て、最終的に投資の引き上げを行うという新たな方針を決定している。

この方針決定は、相手国の改善を迫るエンゲージメントを可能にする措置だが、米国が外交政策としてこれを政治的に利用する懸念も囁かれており、当初からイスラム諸国が不当に低い評価となっている等の不満もくすぶっている。

■コミュニティ投資

第3はコミュニティ投資を行う投資家としての顔。カルパースは以前から高齢者向け住宅整備に積極的に投資を行うなどの取り組みを行ってきたが、2002年6月に決定されたECONOMICALLY TARGETED INVESTMENT PROGRAMでは、こうした姿勢をさらに明確化させている。

California Emerging Markets Investmentと名付けられた取り組みは、労働力やインフラが存在しながらも再活性化が必要な州内のエリアに焦点を当てるもので、債券や未公開株、不動産への投資が想定されている。具体的には、経済的に遅れた当該地域における企業やオフィス、商店、住宅、工場などの不動産が対象になる。投資方針では、カルパースの全投資ポートフォリオの2%までが投資配分の目標とされている。

しかしながら、ここでも受託者責任との関連が極めて慎重に配慮されているのが実情だ。投資方針では、こうしたコミュニティ投資が地域経済の改善や住民の福祉の向上に資するという目的をもちながらも、それは「副次的(collateral)」意図であることが強調されている。これらの投資は、忠実性義務、注意義務の範囲において可能とされている。さらに他の投資と相当の収益率を獲得することが第1の目的であり、地域の経済発展は第2の目的に過ぎないことが明記されている。さらには、地域社会の副次的利益が経済的利益とみなされたり、州経済の改善がリスクの削減とみなされることはないとうたっている。

米国では、過去に公的年金のコミュニティ投資において、巨大な損失が生じ、訴訟事件にまで拡大した例がある(Kansas Public Employees Retirement System)。したがって、上記のような受託者責任への配慮は、年金基金にとって必須のものになっているが、このことが社会的責任投資を行う際の機動性を制約することになっているのも事実なのである。

■株主議決権行使

第4は、企業社会責任に関しての議決権行使を行う投資家の顔。1999年9月、カルパースは自らの組織に企業社会責任に関するグローバルサリバン原則の適用を決定した。また、2001年3月に従来のInternational Proxy Voting Guidelines と Domestic Proxy Voting Guidelinesを統合するかたちで公表されたGlobal Proxy Voting Guidelinesでは、初めて「企業責任の原則」という章を立てて、「株式を保有している企業がグローバルサリバン原則やマックブリッジ原則で盛り込まれたものを含め、それに留まらない実践や方針と整合的な行動を取ることを期待する」、「仮にある国で深刻な人権侵害が起きたとしたら、そうした侵害を排除するための最大限の対策が講じられることを期待する」と表明した。

このようにカルパースは、一般には企業社会責任についても積極的に議決権行使を行う投資家とイメージされている。

しかし、注意深く見ると、ここにも受託者責任からの制約が当然及んでいる。2001年3月以前に示されていたDomestic Proxy Voting Guidelinesには、「理事会の政治・社会問題に関するガイドライン」として33の領域について具体的な株主提案の事例をあげて、賛成、反対もしくケースバイケースで対応という基本姿勢が盛り込まれていた。

その前提としては、企業に何らかの公表を求める議案に関しては、「その問題について米国内もしくは海外において規制が十分働いていないか、株主との個別のコミュニケーションに値するほど深刻な問題だと判断される場合に、個別の公表を求める議案に賛成する」という立場をとっていた。また、企業に何らかの活動の中止を求める議案に対しては、「その問題について米国内では規制が十分働いており、海外においては別の規制や考え方が適用されており、活動の中止が企業に大きな経済的足かせをもたらす場合は、議案に反対する」という立場をとっていた。具体例のなかには、「研究所での動物実験の禁止を求める議案には反対」、「ミャンマーでの投資や操業からの撤退を求める議案には反対」など、社会的責任投資でよく行われる株主議決権行使の姿勢とは必ずしも一致しない項目も数多くあった。

また2001年3月以降のGlobal Proxy Voting Guidelinesには、こうした類の具体的記述は削除されている。これは、問題が複層化するなかで議決権行使を機動的に行うためと推測されるが、運用がより裁量的に行われることを懸念する声もある。

■コーポレート・ガバナンス

第5は企業のコーポレート・ガバナンスを改善させようとする投資家の顔。カルパースは本来の力を発揮していない企業を企業統治などの改革を通じて業績を回復させ、そこから収益を獲得するという投資手法を、米国、日本、ヨーロッパなどで展開しており、現在の投資規模は30億ドルに達しているといわれている。カルパースは、今後もこうした投資手法を拡大させていく姿勢を見せている。

この4月14日にもカルパースは、日本の景気がすでに底をつき、将来はコーポレート・ガバナンス(企業統治)などの改革によって利益増が見込めるとして、日本向けのコーポレート・ガバナンス・ファンドに2億ドルを追加投資することを発表した。具体的には、タイヨー・パシフィック・パートナーズとウィルバー・ロス氏の投資会社WLロス&カンパニーとの共同出資会社タイヨー・ファンド・マネジメントが運用を担当する。日本に関しては昨年9月、スパークス・アセット・マネジメント投信株式会社を通じて同様の投資を2億ドル行うことを公表しており、今回の決定はその延長線上にある。

カルパースは、不況に苦しむ日本の企業に投資する絶好の機会だと判断したのだという。日本企業はコーポレート・ガバナンスの重要性を認識し始めており、大手銀行と大企業間での株式持合いが次第に解消しつつあり、社外取締役の任命や監査委員会の設置などの改革も進みつつある。これを一層促進させることで株主としての収益機会を獲得できるとの判断が働いている。

具体的には、「その会社および関係会社から独立した取締役を取締役会に含めること」、「最高経営者のパフォーマンス発揮や経営戦略計画の意思決定を効率的および効果的に行う為、取締役会の規模を適切なものに縮小すること」、「その会社および関係会社から独立した監査人の選任をすること」等を掲げながら、過小評価されている日本株を購入するとともに過大評価されている日本株を空売りする運用方針が今後も継続されることになるだろう。

しかしながら、ここにも問題がある。コーポレート・ガバナンスは確かに、企業社会責任における企業評価項目のひとつではある。ただし、カルパースのいうコーポレート・ガバナンスは、株主利益の拡大という発想を出発点としており(カルパースホームページの引用; Corporate governance has become a powerful force in American business over the short span of the past two decades. The movement may best be described as the prudent exercise of ownership rights, toward the goal of increased share value.)、その結果が時として株主以外のステイクホルダーの利益と矛盾をきたすことがある側面をほとんど配慮していないように思われる。

日本向けコーポレート・ガバナンス・ファンドの関係者として名前の登場するウィルバー・ロス氏は破綻した企業への投資・買収で知られており、「倒産の王様」と呼ばれる人物である。ここでは感情的に「外資系はげたかファンドによる日本企業の買い叩き」と批判するつもりはない。「日本が外国の軍門に下るのは悲しむべきこと」という前に、日本にも巨額の金融資産があるのに、誰も企業再生ファンドに投資しないことの方を問題にすべきという指摘ももっともである。

ただし、「売却益が出るならば投資先の日本企業の価値が増したということであり、投資先をすぐにまた売却する行動も非難されるべきではない」という主張になると首を傾げざるを得なくなる。数年後ごとに経営陣が入れ替わり、その都度事業構造が大きくリストラクチャリングされるような企業は、仮に企業が存続できたといっても、社会的責任投資の本来目指す「持続可能な企業への支持」というイメージからは相当かけ離れたものといわざるを得ない。

4月10日、ほぼ2年前にウィルバー・ロス氏らの投資グループが再建に乗り出したある日本の地方銀行の株式が、今年9月に別の地方銀行に譲渡されることが発表された。1,000人の職員が解雇され、債務超過の穴埋めなど4,000億円強の公的資金注入と120億円の公的資本注入がなされた再建劇からウィルバー・ロス氏は事実上手を引く。このウィルバー・ロス氏らの投資グループの最大のスポンサーがカルパースなのである。

■素顔の分かりにくさ、しかし学ぶべきもの

このように、社会的責任投資という文脈に限っても、カルパースはさまざまな顔を見せる。それは、行動の多様さでもあり、時には果たして社会的責任投資と形容してよいかと戸惑いさえもたらす多様性でもある。言い方を変えれば、社会的責任投資家としてのカルパースの素顔は、なかなか分かりにくいということであろう。

例えば「カルパースは社外取締役の存在を歓迎するが、社会問題や人権擁護に向けた株主行動は、慎重に峻別される。カルパースはこの種の問題をコーポレート・ガバナンス・プログラムには組み入れない。しかし、このことは株式価値に直接的に結びつく社会的な懸念に対してカルパースがその影響を評価する気がないということを意味するものではない。

例えば、94〜95年にかけて『職場環境問題』をコーポレート・ガバナンス・プログラムに組み入れた経緯がある。これは職場環境の改善が株式価値の増大に結びつくという研究結果が得られたためである」と説明が行われている。

そうであれば、4月28日の「グラクソ・スミス・クラインが貧困国でエイズ治療薬の価格を切下げるとしたことを歓迎する」とする声明はどのように解釈したらよいのか。「グラクソは人道性に富むプログラムを打ち立てた。今後も長期的な業績を悪化させない範囲でこうした取り組みを一層強化していくようカルパースはグラクソと対話を続けていく」と声明は結んでいる。前述の説明に従えば、エイズ治療薬の価格切下げは株式価値に対してプラスに働くという確信が得られたということになるのだろう。

社会的責任投資家としてのカルパースの素顔の分かりにくさ。そこでは単なるご都合主義という解釈も「受託者責任」を戴く年金基金の限界という解釈も成り立ちうる。

ただし、日本の我々が学ぶべき点は、「年金基金でもここまではできる」という実例をカルパースが示してくれている点であり、同時に公的年金基金の社会的責任投資行動といえども、それは常にその国の歴史、制度、政治、企業観を如実に反映したものにならざるを得ないという点にあろう。

わが国においても、年金における社会的責任投資が議論の俎上に上がりはじめた。そこでは「あるべき論」に縛られるではなく、事例を積み重ねてわが国なりのあり方を形作って行くアプローチを是非とも実現することが必要である。(足達英一郎)





 

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