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「都市サラリーマンが小泉自民党を選んだ理由」
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投稿者 天木ファン 日時 2005 年 11 月 25 日 14:17:24: 2nLReFHhGZ7P6
 

寺島実郎の‘発言’(世界 2005年11月号 連載「脳力のレッスン」)

「都市サラリーマンが小泉自民党を選んだ理由」

      
 戦後60年の夏の締めくくりともいうべき9月11日の総選挙において、国民は小泉自民党の圧倒的勝利を選択した。決定的だったのが大都市部での自民党の圧勝であった。小選挙区だけをみても、自民党と民主党の獲得議席は、東京24対1、神奈川17対1、千葉12対1、埼玉12対3、愛知9対6、大阪17対2、兵庫12対0と、これだけで実に89議席の差が生じたわけで、この地域の比例区分の議席差を考えると98議席もの差を大都市部がもたらしたのである。何故、都市中間層は小泉自民党を選択したのか。

日本の大都市部で進行していること

 都市中間層といわれる都市のサラリーマン層の心理は、21世紀に入っての4年間、つまり小泉政権下の4年で静かに変化した。確認すべきは、この4年間で都市のサリーマン層の生活は確実に苦しくなってきたという事実である。勤労者家計調査によれば、勤労者家計の所得は2000年の631.2万円から605.4万円へと4.09%も減少した。実額にして25.8万円も年収が減ったのである。多くの企業が年功序列・終身雇用といった雇用体系を改め、総人件費管理、能力給・効率給の導入、リストラと正規社員の削減という動きを加速させたわけで、この数字は容易に想像がつく。
 しかも、この間の公的負担の増大は顕著であり、雇用保険の料率引上げ、介護保険料の徴収開始と引上げ、国民年金・厚生年金保険料率引上げ、定率減税見直し・配偶者控除改訂などによる税負担増が進行した。まだその負担増は明確に見えていないが、勤労者世帯の最終可処分所得は、2000年の549.6万円から2004年の526.3万円へと4.24%の減少となった。実際に使える金は収入よりもさらに大きく減ったのである。
 この間のデフレ基調の中で、消費者物価も2.1%下がったため、個々の家計にとってお金の使い勝手がよくなり、所得の減少ほどに生活苦が印象付けられないという要素はあるが、都市中間層の生活はじわじわと圧迫されてきたことは間違いない。普通ならば、こうした状況は政権批判を盛り上げるはずである。私も、欧米の日本分析の専門家から何度となく「何故、日本人は劣化し続ける経済生活にもかかわらず怒らないのか」と聞かれたことがある。他の国ならば、デモが吹き荒れ、政権危機に陥りかねない状況なのだが、日本のサラリーマンは怒らないどころか、自らの生活に一層の苦しみをもたらしかねない選択を支持している。
 何故なのか。今回の総選挙における都市中間層の小泉支持には、「自らの分配が苦しくなってきた故に、分配問題に一段と神経質になり始めたサラリーマン層」という構図がみえる。真綿で首を絞められるように生活が苦しくなってきた都市サラリーマンにとって、旧来型の分配論、すなわち産業と人口の集中した中央(大都市部)で税金を徴収して地方(田舎)に政治力で配分するという旧来の自民党型の分配は許容できないものとなってきた。「郵政民営化」の是非を超えて、「郵政民営化反対」を唱えている人達の顔が、旧来の権益を保持しようとする人に重なり、「改革を止めるな」というメッセージに呼応していったのである。民主党も、「労働組合という既得権益」に支えられ変革を拒む勢力であるかのように印象付けられてしまった。
 かつて、竹下内閣の時、「ふるさと創生」のために、全国一律すべての地方公共団体に一億円ずつの資金を配るというバブル期の日本を象徴する分配論を展開したことがあった。高度成長期を経てバブル崩壊までの日本では、都市に吸い寄せられるように故郷を棄ててきた都市サラリーマンは、地方(田舎)にも分配が向かうことに寛大であった。両親や兄弟縁者を田舎に残して大都市に移り住んだサラリーマン第一世代にとって、田舎に舗装道路や公民館ができていく姿を盆暮れの帰省時に確認することは、経済成長の喜びを共有することでもあった。
 ところが、バブル崩壊後、次第に逼迫しはじめた都市サラリーマン第二世代は石原都知事が掲げた「外形標準課税」型の分配論、すなわち「産業と人口の集積している東京で税金をとって東京のために使って何が悪い」という議論に拍手をしはじめた。そして、「小泉改革」を通じて時代の空気が競争主義・市場主義の徹底を醸成するにつれ、競争と市場によらない配分に不公正を感じるようになった。その結果が「郵貯の資金340兆円が市場に任されれば日本はよくなる」という乱暴な議論にさえ支持が向かう結果となったのである。生活の余裕を失いつつある都市中間層が「既得権益者が得をしている」ように見える分配に逆上していく構図が見えるのである。

本当に視界に入れるべきこと

 労働組合の全国組織「連合」が組織している組合員は約700万人、勤労者の2割にすぎない。バブル崩壊後の雇用条件の悪化をうけて、連合傘下の組合員の生活も苦しくなっているのだが、ほとんどの企業が進めたリストラやアウトソーシング(正規社員の削減)によって、例えば年収250万円以下(月収20万円)以下の雇用条件で働かざるを得ない立場の人が極端に増えている。パート・非常勤雇用者1,750万人、フリーター213万人にニート64万人、失業者313万人、生活保護者134万人などを加えると約2,500万人が「250万円以下の収入で生活を立てる人達」と推定される。連合傘下の組合員は比較的恵まれた立場の雇用者ということになり、より弱い立場の働く人達との連帯や団結が困難という苦悩を抱えることになる。
 かつて革新の旗手だった労働組合が、働く者の中では「相対的には身分を保障された恵まれた存在」に変質したのである。労働組合の存在は、働くものの生活水準を守る基点として依然として重要なのだが、社会階層の二極分化によって、皮肉にも「労働貴族」の拠点として指弾されるような局面に立たされてしまったのである。現実に進行していることは、連合傘下の組織労働者を含め、すべての働く者が生活条件の劣化にさらされているのだが、「誰がより多く損をし、より得をしているのか」に対する猜疑心の高揚によって真の問題を解決しようとする意思が、屈折した方向に向かっているのである。
 欧米の国政選挙などを多く目撃してきた立場から奇異に感じるのは、日本の選挙では「JOB(雇用)」が議論されないことである。今回の「郵政民営化」を巡る選挙も広い意味では経済政策を戦わせているはずの選挙なのだが、「誰が得をするのか」という分配だけが関心を惹き、「どういう産業や事業を育て、どういう仕事で日本人が生活をしていくのか」という基本的議論が全くなされないのである。質量ともにどれだけのJOBを生み出したかは政権維持の基本として問い詰めるべき事項であるはずだ。誰かが創りだした繁栄を与件として、「自分だけは割をくわないように」という分配の議論だけを繰り返している愚に気付かねばならない。働き甲斐のある創造的仕事を生み出すことなしに国民の幸福はない。
 真の論点を問い質すことなく、改革幻想のなかで総選挙という選択は終った。しかし、自民党自身が繰り返し、「これは郵政民営化に賛成か反対かの選挙だ」と主張したごとく、結果は自民党という名の「郵政民営化推進の単一争点政党」が成立したが、皮肉にも国民意識には「それ以外は何も議論されておらず、白紙委任したわけではない」という認識が定着している。内政外交ともに課題山積のままである。移ろい易い一見客ともいうべき無党派層の中核をなす都市中間層を引き寄せて勝利を得た自民党だが、都市中間層の心理を考察すれば、その怒りが臨界点に迫り、問題意識が深化して政権批判に向かう可能性を内在させていることに気付かねばならない。 


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