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軽いノリ 深夜の凶行
爆音が、夜の安らぎを切り裂く。蛇行するオートバイの群れが幹線道を占拠し、家路を閉ざす。目抜き通りや公園では、異様な服装の少年たちが座り込み、周囲を威圧する。少年には「面倒見」を気取る暴力団やその周辺者たちが寄生し、上納金をたかる。払えない少年たちは市民、とりわけ弱者にキバを向ける―。都市の「安心、安全、品格」が揺らいでいます。その現実のそばを、目を伏せて通り過ぎるだけでいいのでしょうか。私たちの街は、十分に誇り、愛せる街でしょうか。「平和都市」広島を足場に、読者と一緒に考えたいと思います。
(暴走族取材班)
本通り商店街の真ん中で、たむろする少女たち。深夜の広島の目抜き通りの実態である(5日夜、広島市中区本通)
数台のミニバイクが、けたたましいエンジン音をたてて背後から近づいた。勤め帰りの二十代の女性が突然、自転車ごと引き倒された。少年たちが洋服に手を掛け、体をさわった。
笑い声も聞こえた。女性はなすすべなく、声を失った。会社員の男性が気付いて交番に届けた。警察官が駆けつけた時、少年たちは走り去っていた。交番に保護した後も、女性は震え続けた。
事件は昨年十月の深夜、中国地方最大のアーケード街、広島市中区の本通り商店街で起きた。広島中央署は今年八月までに、十六歳から十九歳の暴走族メンバーら十人を、強制わいせつの疑いで逮捕、送検した。
商店がシャッターを閉ざした通りなどをバイクで行き交い、女性の体をさわって逃げる。昨年夏ごろから、少年たちの間でそんな「遊び」がはやっていたという。「成功」を「万舟(まんしゅう)」と呼んだ。一万円以上の配当の競艇の舟券のことだ。
「冗談半分」。捕まった少年たちはそう話しているという。しかし、被害者の心の傷は計り知れない。「今も一人で街を歩くのが怖い」。事件から一年後、捜査員が聞いた言葉だ。
今年九月の深夜。「路上ミュージシャンを見に行こう」。宿泊先のホテルから、鳥取県の高校二年の女子生徒二人が本通りへ出た。暴走族少女の特攻服姿に目を引かれた。「ガンつけるなや」。少女たちは二人を平和記念公園に連れて行った。正座し、「ごめんなさい」と許しを請う二人を殴り、けり続けた。
悲鳴を聞いた中央署員が、十四歳から十八歳の暴走族少女四人を傷害容疑で現行犯逮捕した。うち二人は、元安川に飛び込み逃走を図った。被害者の二人は、聴取の間もおののいた。顔は黒あざや血で染まっていた。「あの子ら、二度と広島には来んよ」。捜査員は言い切る。
土曜日の深夜。少女たちの暴走族が、アーケードの道幅いっぱいに円陣を組む。十メートル先には数十人の「チーマー」が…。革のジャンパーを着て、口をバンダナで覆う。
午後十一時を回ると、高級車が猛スピードで走り抜ける。路上ミュージシャン(24)は「半ば強引に女性が車に押し込まれる光景はしょっちゅう」と話す。
夜間パトロールを続ける本通商店街振興組合は、深夜のライトアップや防犯カメラの設置を検討している。「安全な本通りを取り戻したい」。望月利昭理事長(59)の思いは切実だ。だが、目抜き通りのやみは深い。
《メモ》 今年、9月までに本通り商店街一帯を管轄する広島中央署本通交番に届けのあった事件の件数は、恐喝19件、傷害9件、強盗、暴行各3件。車上狙いやひったくりなどの窃盗犯は924件に上る。「性犯罪などを含め、氷山の一角」と中央署はみる。