![]() |
|
「メンバーの自転車にいたずらした」。原因はささいな事だった。八月十日夜、人けのない高台にある広島市東区の墓地で起きたリンチ事件。暴走族の少年九人が、高校生五人を約三時間にわたって殴り、けった。
とりわけ、「暴走族でもないのに、金髪に染めている」と以前から目をつけられていた生徒への攻撃は、執ようだった。
生徒は暴行を受けながら、意味不明な言葉を口走った。暴走族少年たちは、目の前に立てた指の本数を数えさせた。意識を呼び覚ますと、なお殴った。その後、血のついた髪をはさみで切り、金を要求した。生徒は一時的な記憶喪失に陥った、という。
広島東署は、これまでに十五〜十八歳の九人を、傷害、恐喝、恐喝未遂などの疑いで逮捕したり、任意で調べて書類送検した。
「態度が気に食わない」「悪口を言った」。そんな理由で、メンバーでもない同世代の少年を襲うリンチ事件が、離脱をめぐるリンチ同様、目立っている。
十月初めにも、仲間数人と共謀して高校生一人をリンチし、一カ月のけがをさせたとして、暴走族メンバーの十六歳と十七歳の無職少年二人が、広島西署に傷害などの疑いで逮捕された。
「縄張りで、パンピー(暴走族以外の一般人)に大きな顔されたら、示しがつかんからでは」。別の事件を起こした暴走族の元メンバー(20)は言う。「けじめをつけようと殴るうちに興奮したのかもしれんけど、やり過ぎよね」。暴走族以外の少年に向けられたせい惨なリンチに、複雑な表情を見せた。
「縄張り」「けじめ」。暴力団まがいの表現で、リンチは正当化される。広島県警によると、一対一の決闘を強いる「タイマン」のほか、全員で一回ずつ殴ったりけったりする制裁手段もある。
「いろいろなレベルの暴力の恐怖で、仲間や周囲を支配している」。暴走族の内情に詳しい少年補導員は話す。その支配を、メンバー以外にも及ぼそうとする傾向も強くなっている、という。
被害者は、事件後も暴走族の影におびえる。東区の事件では、遠方へ転居した被害少年もいる。母親の一人は「近くにメンバーが住んでいるし、再発が怖い」と不安を隠さない。被害者の親たちは時折集まって、暴走族の目撃情報を交換する。
「加害者は更生すれば、嫌なことを忘れられるのかもしれないけど、被害者は一生、心の傷を引きずることを知ってほしい」。別の母親は悔しさをにじませた。しかし、加害者や家族からの謝罪は、まだない。