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メノ・メイエス(監督)
絶対的な悪でないかと思うほどの独裁者。モンスター,アドルフ・ヒトラーという男の青春はどんなだったのだろう。画家志望だとは知っていたものの,ただの画家をめざす貧しくも悩める男だったとは思えなかった。鬱屈とした不気味なエネルギーを持てあました野望過多の人間だと感じた。
ユダヤ人の画商マックスは,同じ第一次大戦の帰還兵というだけでなくヒトラーの描く絵に興味を持つ。そして「君の思いのままを書けばいい」と励ます。けれど,ヒトラーはどうしても描けないで芸術への矛先を政治に向かわしてしまう。政治こそ芸術だと,彼は言い切るのだった。
しかし,ヒトラーが「思いのまま描いた唯一の画集」は存在していたのである。マックスだけが目にしたわけだけど,そこにはヒトラーの未来図が描かれていた。
芸術うんぬんを言えるほど,私には審美眼はないのだけれど,アートは音楽や絵画,演劇などに限らずどこにでも見つけることができるのだと思う。ヒトラーは人々の心を動かすことをアートだと感じたのなら政治もひとつのアートなのかもしれない。けれど,破壊することで生み出すのがアートだとするのなら,アートをめざすものが政治をするのは怖ろしいことこのうえないと思う。
この映画の原題は「マックス」で,以前は画家であり戦争で片腕を失い画商になったマックスの名をつけているのだけど,裕福なユダヤ人マックスに対する貧しいヒトラーが強く印象つけられるように作られていると思う。もちろんヒトラーが有名人であるからそうなのかも知れないけれど,マックスを主役にすることで,ヒトラーの歪んだ部分がより顕著に目に残るような気がするのでした。ユダヤ人虐殺や,血の純潔さもマックスとの奇妙な友情が底にあるような錯覚さえおこってしまいました。
映像の作りもアートを意識しているかのように素晴らしく,目を奪います。キューザックが惚れ込んだ脚本だというのも頷けました。
‥‥の頁より