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『大陸の風−現地メディアに見る中国社会』 第71回---JMMNo.374 Thursday Editionから
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投稿者 ミスター第二分類 日時 2006 年 5 月 11 日 23:59:13: syFUAx3Wc1pTw
 


■ 『大陸の風−現地メディアに見る中国社会』 第71回
  「見えない手」

  □ ふるまいよしこ :北京在住・フリーランスライター

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 ■ 『大陸の風−現地メディアに見る中国社会』           第71回
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「見えない手」

 旧正月からこっち、人々が心待ちにしていたであろうメーデーのゴールデンウィークがやっと終わった。
会社員や学生ならば4月29、30日に振替通勤、通学をして「勝ち得た」1週間の長期休暇、時と場合によっては29日から9日連休となった人もいたそうで。

確かに春は黄砂が激しいといえども、これから暖かくなっていく時期の連休にうきうきさせられるのは間違いない。香港紙『明報』によると、今年のメーデー休暇期間中に移動した人の数は昨年比20%増ののべ1億4600万人、観光関連総収入は585億人民元(1元=約14円)に上ったそうである。


 確かに人々は豊かになった。
連休中、北京の「銀座」とかつて日本のガイドブックに形容された王府井を通りかかった時、歩行者天国の大通りを埋め尽くしていた、中国各地からの観光客たちの身なりや態度を見ていても分かる。
2年前と、いや3年前と、いやさらには10年前とはまったく違う。人々は都会の街で食べ歩き、買い物をし、のんびり観光してまわることにすっかり慣れている。
かつてのように王府井の真ん中でぼうぜんとこの「大都会」を眺め回しているような人はほとんど見かけなかった…中国は間違いなく豊かになった。

 ただ、その時に思ったのは、こうして北京に遊びに来れる人は豊かになった。なら
ば、ここにいない人たちは?

「内蒙古自治区烏拉特前旗でこれまでずっと村民に『汚水爆弾』と呼ばれ、その建設に大きな反対の声が上がっていた臨時汚水溜め池で、とうとう先月の10日と11日の砂塵暴にあおられて堤防が決壊し、九つの村落が水没した。当局は人命を軽視して村民の死活問題を無視したと被災者が責めると、現地の政府関係者は(筆者注:彼らが採った汚水貯め池という)応急措置が黄河の汚染を回避し、損失を最低限に引き下げることが出来たと自分たちの功を論じた」(「中国評論:カネによる消災、その責を逃れられず」明報・5月2日)


「砂塵暴」とは、前回も書いたが「黄砂の嵐」である。
特に砂塵暴発生地に近い内蒙古あたりではその威力はただものではないだろう。
その日吹いたのは、その後約700キロ以上離れた北京にすら30万トンもの黄砂を運んできた風だったのだから。

 この『明報』紙の記事によると、汚水排出基準を上回った同地区の製紙工場に国家環境保護総局が汚水ゼロ排水を命じ、現地政府は8万人の職員を抱える企業の存続大事、4ヶ所に汚水溜め池を造り、住民の生活汚水や企業汚水をそこに流し込んでいたという。
つまり、黄河に流れ込んでいた汚水を「隠す」ことによって国が定める基準を達成して、事なきを得ようとしたのである。

環境保護を急ぐ中央政府と、基準達成任務を負わされた地方政府、地元経済を支える工場企業、そして土地を資本に生きる農民たち。
それらを結ぶのは上から下への目標達成要求、そして圧力伝達という構造関係である。
これはもちろん、内蒙古に限ったことではない。

 北京のような都会にいると、そこまであからさまな圧力構造は直接目にすることはないが、外国人の目からすると不思議な光景は枚挙に暇がない。

わたしが暮らす地域は市街地の高級住宅地のへりに当たるのだが、ゴールデンウィーク中にブルドーザーで芝地がひっくり返されたかと思うと、チューリップやパンジーなどの鉢植えの山が次々と運び込まれ、車がひっきりなしに走る大通り脇にあれよあれよと色鮮やかな花壇が出来上がった。
春らしいといえばそうなのだが、そういや、去年もこんなことをしていたなぁ、そうして夏になり、秋が来て、零下の気温が続く冬となった。
もちろん、花も草も見るも無残である。
そして春が来て土地が掘り返され、またトラックいっぱいの草花が運ばれ……


「国家建設部の仇保興副部長はこのほど、都市の緑化建設には『高価緑化』というよからぬ傾向が存在しており、高額で大樹古樹を買い取り、数万元、十数万元を投じても活着率が保証されておらず、巨額の資金及び生態が浪費されていると指摘した。
このような功を急ぎ、目立つことばかりを求めるやり方をしっかりと制止していかねばならないと同氏は語った」
(「建設部が都市建設の高額緑化を批判」明報・5月8日)


 毎年時期が来ると枯れてしまう、色とりどりの小花たち。
時には北部地方には似つかわしくない南方の花まで持ち込まれる。
政府主導の緑化事業はその規模も膨大だ。

それだけの量の花と人力、そしてお金が毎年毎年同じ場所で同じように繰り返し浪費されているのを見ると、この国のお金の使い方はまったく間違っているというしかない。

 一方では急造りの溜め池に汚水を溜め、一方では根付かない小花に溢れるがごとく水をやり続ける。
 『新京報』によると、先月の北京ではわずか9日しか青空を見ることが出来なかったというが、2008年のオリンピックに向けて急ぎエコロジー、環境整備を進めているはずの国で、今だにこのような莫大な浪費による花壇を見るのはあまりにも白々しい。


 一体、こんなばかばかしい政策指示を誰が現場で行っているのだろうか。
 科学や思考が多少発達した社会であれば、ちょっと考えれば分かることなのに、ここではいまだに明らかにそんな理論はまったく無視されているのだ。

 まったくもって不思議なことばかり。


 香港フェニックステレビのウェブニュースによると、先月25日に提出された『不動産青書』では、中国全国の不動産価格は今後長期的に値上がりを続け、2006年には小幅な値上がりとなるだろうとし、一方で北京の不動産価格は昨年比なんと20%増となったと報告しているそうだ。

 実際、わたしの周囲でも人が2、3人集まるとすぐ、「家を買った」「買おうと思っている」という話題になる。30代や40代の結婚や出産を控えた人ならともかく、20代そこそこの子までが「家を…」と言い出すのを聞くと、くらくらしそうになる。

 なぜ、そこまで人々は家を買うことに追い立てられるのか。ここでは間違いなく「家を買う」という話題の頻度は、「今年のファッションは何色が流行るか」「新しく出た携帯電話の機能は…」などというそれを大きく上回っている。


 「『不動産青書』によると、市場容量からすると、住宅市場は不動産市場において最大の市場である。10数年余りの発展を経て、中国の住宅市場の供給と需要総量はともに明らかに伸びており、さまざまなタイプの商品が市場に送り出されている。
 しかし、注目に値するのは、総体的に目下の住宅市場の商品タイプと品質は、消費者の実質的な需要との間ですでに明らかなズレがあり、商品不動産の未入居率は下がらず、市場に危険信号がもたらされている」
(「北京、再び『中国不動産王』に、中国不動産価格がさらに上昇」フェニックスネット・4月25日)


 …おかしすぎる。

 北京は空前の建設ブームだというのに、ネコも杓子も「家を買う」「いつが買い時か」「高すぎる」「買えないよ」という話のオンパレード、または必死という形容が大げさでないほど「家買い」に奔走している。

 なのに、すでに完成して半年以上も経つ我が家近くのアパートを夜、外から眺めても今だに半分以上に灯りが点いていない。

 なのに、どうして皆が皆、「家を買う」ことに必死になるのか?
 巷では不動産の購入資金準備あるいはローン支払いに追いまくられる人を「房奴」(「房」は不動産の意)と呼ぶ言葉も生まれた。


「4月26日、深セン市市民の鄒涛氏がインターネットで『[不動産不買行動]発起に関する市民全体への呼びかけ公開状』を発表し、『房奴』になりたくない人々に不動産価格の吊り上げを謀る勢力に対して対抗するための団結を呼びかけ、人々の間で大きな反響を呼んだ。5月8日に『中国青年報』が発表した市民アンケートの結果によると、8938人の回答者のうち79.1%が『不動産不売行動』への支持を表明した」(「政府はいかに不動産不買行動に応えるか」紅網ネット・5月9日)


 香港に隣接する経済特別区でも同様に不動産価格の値上がりは激しいらしく、この32歳にしてある民間企業の取締役で、年収数十万元という鄒涛氏は、そのブログで同「公開状」を発表した。
 同氏によると、深センで1平方メートル平均価格8000元の90平方メートルの不動産を買ったとすると合計72万元、そこで15年ローンを組んだとして、月収7000元の家庭で毎月3000元余りのローンを支払っていかなければならない。
 この負債は収入の45.71%を占め、国際的に合理的とされる40%を上回ることになる。
 そして15年間にその家庭が実際に支払う利息は17.6万元という。


「ある若者が結婚を控えて家を買おうとし、深センのある物件が気に入ったが、その週に1平方メートル7500元だったものが、次の週にはすでに8600元となり、さらに1週間後にはさらに1000元値上がりしていた。『ロケットよりも速いじゃないか』と若者はため息をつくしかなかった」
 (「一人の一般市民の不動産不買行動より」中国青年報・5月10日)


 深セン市国土資源局によると、今年第一四半期において、深セン経済特別区内の商品住宅平均価格が初めて平方メートルあたり1万元を突破し、1万313.89元となったという
 (「不動産購入がなぜ夢想から妄想になったのか」新華ネット・5月9日)。『中国青年報』は、鄒涛氏も現在、家賃1000元の部屋に住み、深セン市内に買った90平方メートルあまりの部屋はすでに売却し、深センで家を買うつもりはもうないと伝えている。


「今年5月1日、北京市建設委員会は、北京における販売可能住宅の6割が売却されておらず、北京の商品不動産市場は『家を買えない』のではないとの報告を発表した。その理由として、開発業者が大量の不動産を販売せずに、わざと不動産売り切れのニセイメージを作り出し、消費者の販売欲をそそっていることも否定できない」
 (「北京の販売可能不動産の6割が未売、開発業者の不動産売り惜しみに罰則実施」新京報・5月9日)


 人々は気に入った物件を、考えられる一番理想的な価格で手に入れようと奔走している。
 次々と新たな住宅不動産が建設されているのを横目に見ながら……おかしいじゃないか、なぜ物件価格が下がらないのだ? 完全に市場経済に反しているじゃないか。

 中国では未完成住宅の青田売りがほとんどなのに、それを売ろうとしない不動産開発業者がなぜ次々と不動産建設を行うことができるのか。

「『開発業者が指導し、市長が決定し、計画局が実施する』現象が各地で多く見られる、という建設部紀律検査グループの姚兵組長の言葉は的を得ているだろう。

 開発業者がどうやって『指導』するのか?
 『都市経営』において開発業者がどこかの一等地に目をつけると、政府関係者がその地域の立退きを手伝う。出来た不動産が売れなければ、政府はさらに立退きに力を入れて、人為的に『有効需要』を作り出す。
 不動産購入者が躊躇して傍観的な態度を取っていれば、政府はまた土地供給の引き締め、青田売り住宅価格の値上がりなどの情報をたびたび流し、人々を『今買わなければ大損する』という気分にさせるのだ」(「不動産購入がなぜ夢想から妄想になったのか」新華ネット・5月9日)


 不動産市場の動きが景気の目安だって? 中国は市場経済を導入したんじゃなかったのかい? …この国にはまだまだ「見えない手」が多すぎる。


*文中、「深セン」の「セン」は「土」へんに「川」。
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ふるまいよしこ
フリーランスライター。北九州大学外国語学部中国学科卒。1987年から香港在住。
近年は香港と北京を往復しつつ、文化、芸術、庶民生活などの角度から浮かび上がる中国社会の側面をリポートしている。著書に『香港玉手箱』(石風社)。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4883440397/jmm05-22
個人サイト:http://members.goo.ne.jp/home/wanzee

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