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JMM [Japan Mail Media]  「民主主義の変質」  冷泉彰彦 
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投稿者 愚民党 日時 2006 年 4 月 09 日 15:02:10: ogcGl0q1DMbpk
 

                              2006年4月8日発行
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JMM [Japan Mail Media]                No.369 Saturday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼

  ■ 『from 911/USAレポート』第245回
    「民主主義の変質」

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)


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 ■ 『from 911/USAレポート』第245回
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「民主主義の変質」

 ハリケーン被災への対応の遅れから低迷を始めた、ブッシュ政権の支持率ですが、
ズルズルと低いままで推移しているのは、イラク戦争の戦況も影響しているのでしょ
う。更に港湾管理の問題で「アラブ系企業」をかばったことも政権には失点になった
ようですし、目下のところは不法移民対策という難題を突きつけられて更に求心力が
問われてきているようです。

 そんな中、今週の6日の木曜日には、かなり大型のスキャンダルが出てきました。
ここ数年、延々とくすぶっている「CIA工作員の身元という機密漏洩事件」の公判
で、チェイニー副大統領の補佐官であったスクービ・リービィ証人が「機密漏洩につ
いては大統領の承認の下で行われた」と法廷証言したのです。CNNが第一報を流す
と、木曜日から金曜日にはTV各局は大騒ぎとなりました。

 ストーリーとしては、イラク戦争の開戦直前に、「サダム・フセインが核兵器製造
のためにニジェールからウランを輸入しようとした」という情報があり、その真偽を
確かめるために国務省はアフリカのガボンに駐在の外交官を使って調査したのですが、
調査の結果は「シロ」というものでした。これでは、開戦の口実が失われたことに
なってしまいます。現在のところ、法廷で言われているのは、その「政治的な報復」
として民主党系であった外交官夫妻のうちの奥さんの方がCIAの秘密工作員だった
ことをマスコミに暴露して、夫妻の政治的抹殺を図った、という話です。

 この問題がどうして騒ぎになるのかというと、911以降の「戦時体制」において
ブッシュ大統領は「国家機密を漏洩したものは絶対に許さない」と何度も言明してい
るからであり、もしもチェイニー副大統領が「報復」に関与していたのであれば政府
の方針を自ら踏みにじることになるからです。そして、今回の報道のように大統領自
身が関与していたのなれば、これは特大級のスキャンダルということになる、はずだ
というわけです。

 MSNBCの『ハードボール』という番組を主宰している政治評論家のクリス・マ
シューなどは「イラク戦争でこれだけ米兵が死に、イラクが混迷しているのはそもそ
もWMD(大量破壊兵器)の疑惑があったからでしょう。その疑惑が結局証明できな
いばかりか、疑惑がないと言った人間を法律を犯してまで陰湿な報復をした、それほ
どまでに予見に満ちた姿勢で戦争に誘導し、その結果が失敗に近いというのであれば、
これは許しがたいでしょう。これは大スキャンダルになりますよ」といつものクール
な姿勢を捨てて吠えていました。

 ですが、私には、この問題が一直線に大統領罷免というような事態にまで進むとは
思えません。呆れたことにホワイトハウスは疑惑を全否定するだけでなく「尚、大統
領には機密情報の機密扱いを外す行政権限があるから違法にはならない」という言う
必要のない弁解まで発表しているのですから、政治的センスを疑います。ですが、そ
れでも「死に体」にはならないのではないか、私はそんな風に見ています。

 現在のところは大統領は共和党の反対派と民主党の全員から批判を浴びています。
ですが、この二つのグループともに、政権を担うだけの一貫した哲学に欠け、強いリ
ーダーも不在です。そんな事情の中では、一気にブッシュに取って代わるのではなく、
ブッシュを「生かさぬように殺さぬように」しながら自分のグループが中間選挙を有
利に戦えるような策を練る、その中にはブッシュ叩きを続けることで、何とか選挙を
生き延びようという計算も見え隠れするからです。ブッシュが「死んでしまっては」
どうしようもないというわけです。

 どうして、そんなことになっているのでしょう。ここはアメリカの歴史を振り返っ
て、二大政党の対立構図を見てゆくことで考えるしかないようです。アメリカ政治の
二大政党制は、民主政治の理想像のように言われてきました。確かに20世紀の百年
間を通じて、どちらかといえば「小さな政府、孤立主義」の共和党、「大きな政府、
国際協調(国際紛争への積極的介入)」の民主党、という構図が機能してきたのです。

 二大政党が全く違う哲学を持ちながら、共に政権担当可能な政党として本当に政権
移譲をしてきたのですから、勿論、その振り子は大きく振れることになりました。民
主党のウィルソン大統領が「民族自決」の理想を引っさげてベルサイユ会議を仕切っ
たと思えば、彼が病に倒れて共和党が次の選挙で勝つ中で、アメリカは会議の成果で
ある国際連盟への加入すら見送ることになりました。

 その後は、大恐慌に対して積極策を取らなかった共和党、反対にケインズ的な政策
を導入しつつ第二次大戦への参戦を探っていった民主党、ソ連との対決を「冷戦」へ
と封じ込めた共和党、「偉大な社会」をスローガンに公民権を後押ししていった民主
党、戦わずしてソ連を崩壊へと追いつめた共和党と、よくも悪くもそれぞれの持ち味
を発揮してアメリカの歴史を大きく動かしてきたのです。

 この対立構図に変質が生じたのは、ブッシュ(父)の時代でした。他でもありませ
ん、湾岸戦争において最終的に地上軍を投入した瞬間に、共和党的な何かが消えてし
まったのではないでしょうか。よくも悪くも他国の利害に対して自国軍の積極投入は
しない、そんな孤立主義の政権にも関わらず、中東の利害に深く関与してしまったの
です。

 その直前のカーター政権(民主)からレーガン政権(共和)の時には、同じ中東の
問題でも、イランでの人質事件に対して強硬策を取ったカーター(失敗に終わった人
質奪還作戦)、陰謀で何とかしようとした(イラン・コントラ事件)レーガンと、漠
然とではありますが、それぞれの党らしい対応を見せています。ですが、ブッシュ
(父)の判断は、これとは一線を画すものでした。共和党政権による他国への侵攻、
そしてその地域の安全保障への積極的なコミットが始まったのです。

 これに続いたのがクリントンの8年でした。クリントン政権の本質というのは、実
はなかなか見極めが難しいのですが、対立構図の崩壊はこの時代にも進んでいたとい
うのが正当な見方でしょう。国民皆保険を狙ったり、同性愛者の人権を支持したり、
そんな「ネオ・リベラル」として登場したクリントンでしたが、結果的は何よりも規
制緩和の流れを加速させて金融のグローバリズムを進め、IT革命を本格化してデフ
レ経済構造の流れを作ったのがこの政権の特徴です。

 クリントンの政策には、コソボやソマリアへのなどで「介入」を行ったり、中国や
北朝鮮に対する宥和策を模索するなど、伝統的な民主党型の色彩もありました。です
が、ITと金融による金ぴかの時代を現出しながら、漠然とした「人権、理想主義」
的ムードだけは残す、そんな8年間に本来の民主党の色あいというものもある種失わ
れていったように思います。

 そして、ジョージ・W・ブッシュの時代です。セプテンバー・イレブンスのショッ
クから起こった、アフガンへの介入、そしてその戦時ムードを一種転用した形でのイ
ラク戦争に関しては、私は「孤立主義的な過剰正当防衛」が本質であると考え、そう
であるならば共和党的な行動として説明できるだろうと思ってきました。ですが、結
果的に現在「イラクの政情不安に対して責任を背負ってしまい動きが取れなくなって
いる」という事態は共和党の持っている孤立主義とは相容れないものになってしまっ
ています。

 ブッシュが共和党の伝統から外れて行っているのは、それだけではありません。
「小さな政府」が徹底できていない点も顕著であり、他でもない共和党内部からの批
判を招いています。アフガンからイラクへの巨額の戦費、そして医薬品への補助を柱
にした老人健保制度、更にはハリケーン対策における連邦政府の支出など、出て行く
お金は増えるばかりだからです。

 歳出が増えているのに、歳入に関しては、共和党のお家芸である「減税」を続行し
ているのも、この政権の特徴です。減税政策のおかげで、2004年の大統領選挙で
は中間層や富裕層の取り込みに成功しているわけですが、歳出増の一方での減税とい
うことで、当然ながら財政赤字は拡大するばかりになっています。

 民主党の側もある意味で更に伝統から外れて来ているようです。港湾管理会社の経
営権を「アラブ系に渡すな」と大騒ぎしてみたり、「治安を守るのは民主党」という
スローガンを掲げたり、今回大きな問題になっている不法移民の合法化に関しては相
当の部分が反対してみたり、「民主党=リベラル」という印象は急速に薄れつつあり
ます。

 先週から今週にかけても、民主共和両党共に、様々なニュースがありましたが、そ
のどれを取っても「落ち着いた対立軸」を実感させるものはありません。例えば、こ
の数ヶ月「ロビイストからの不正献金、マネーロンダリング疑惑」を叩かれていた共
和党のディレイ元下院院内総務が政界引退を発表しました。この引退発表を聞いて、
ワシントンの共和党議員団は喝采を送ったのです。

 私としては「あなたを守り切れなかった」と同志が落ち込むような「浪花節」も決
して立派だとは思いませんが、「党のイメージを落としていた」大物議員が引退を表
明したからと言って「これで自分の選挙が有利になる(ホンネはそういうことだと思
います)」と喝采するというでは、品格も何もあったものではありません。表面的に
は「ディレイ議員の苦渋の決断に敬意を表する」ということなのでしょうが、そんな
高尚な雰囲気はなかったようです。

 先週詳しくお伝えした不法移民問題に関しては、今週になって「上院妥協案」なる
ものが飛び出してきました。これは上院の民主共和両党が超党派で妥協にこぎ着けた
代物なのですが、内容が何とも苦し紛れなのです。何でも不法移民を三段階に分けて
「不法滞在5年以上」「2年から5年」そして「2年未満」の各グループで対応を変
えるのだそうです。

 5年以上はそのまま合法移民へ移行する権利を認める、2年から5年の滞在者は一
旦国境近辺に出頭した者に限り移民を認める、2年未満の人間は違法行為者として国
外退去させ正式な身分証明を経て再入国させる、とまあ何とも不思議な「妥協案」で
す。

 6日のCBSラジオでは早速「違法状態が長い人間がどうして有利になるんだ?」
とか「2年では退去させられるので、頑張って隠れて5年になればアメリカにいたま
ま晴れて合法移民になれるというわけ?」というような「異論」が出ていましたが、
番組としては「まあ野球のインフィールドフライのルールのようなもの(分かりにく
いし必ずしも公正ではないという意味)」だから仕方がないというようなニュアンス
でまとめていましたが。

 この「妥協」を推進した一人が、共和党の大物ジョン・マケイン議員で、そのマケ
イン議員はこの案を説得するために、労働組合の全国組織であるAFL−CIOに乗
り込んで演説を行いました。これも今週の話ですが、その演説中に散々ヤジを浴びた
のだそうです。「とにかく労働者に正当な報酬を払え」というのが組合員達の声で
あって、安い移民労働力が合法化されることへの反発が露骨に出てしまったようです。

 民主党と共和党の対立軸が崩れてきている、この問題を複雑にしているのは上院と
下院の違いでしょう。先週もお話しましたように、どちらかといえば上院は視野が広
いのに対して、下院はそれぞれの議員の選挙区の視点に縛られがちです。そんな中、
思いきり単純化して言えば、(上院共和党)大企業・富裕層の利害代表(上院民主
党)都市部のリベラル世論を代表(下院共和党)草の根保守の情念の代表(下院民主
党)選挙区の産業などの利害代表という形でバラバラになりつつある、そんな傾向も
見て取れます。

 いずれにしても、二大政党の対立軸が崩れてきているのは間違いないようで、その
意味では仮にブッシュ政権が崩壊しても、今の時点では受け皿がないのです。そんな
現状を象徴するような事件がありました。右派のキャスターとしてクリントン夫妻を
10年以上目の敵のように罵ってきたFOXのビル・オライリーが、5日の水曜日に
「こうなったらヒラリーに大統領をやらせてみたら、そう最近思ってるんです。やら
せてみて、ダメなら思いきり叩きますがね」と言ったというのです。

 ケーブルTVの各局は「オライリー、ヒラリーに降参」というようなニュアンスで
面白おかしく報道されていますが、ある意味でオライリーのコメントは現在のアメリ
カの保守世論のホンネが入っているのかもしれません。もうブッシュではダメだ。だ
からといって露骨に大企業の代弁者のような共和党保守派でも勝てないし、ここは
いっそ右傾化したヒラリーに「やらせてみよう」か、というムードでしょうか。

 奇しくも日本では民主党の代表選で小沢一郎氏の代表就任が決まりましたし、自民
党の方もポスト小泉の総裁レースが本格化しています。アメリカの次期政権選びが、
ここまでお話したように政治的にも二大政党の哲学という意味でも混迷そのものであ
るのに対して、日本の場合は比較的見通しがつけやすいように思います。

 というのは、小沢氏を含めたポスト小泉は(1)対アジア外交の硬軟、(2)規制
緩和か既得権・秩序維持か、(3)政治手腕の熟練度はどうか、の三点で色分けがで
きてしまうように思うからです。メディアが本腰を入れて重心の低い報道をしさえす
れば、日本社会として現実的な選択肢を世論と対話しながら決めてゆくことは不可能
ではありません。

 ですが、アメリカの場合は、課題がどれも重すぎて過去の二大政党の区分けでは対
処できなくなってきているのです。これもMSNBCですが、タッカー・カールソン
という、以前CNNの「クロスファイヤー」という派手な政治討論番組で人気のあっ
た評論家が、こんなことを言っていました。

「僕は、今回の移民法論議を聞いていると空しくなるんですよ。今、不法移民が急増
している都市はどこか知っていますか? それはニューオーリンズなんです。ハリケ
ーンでやられた復興のために建設の仕事がたくさんあるんですが、お金にはなるんだ
けど、キツい仕事なんですよね。そういう仕事はみんな不法移民に頼らざるを得ない
んです。肝心のニューオーリンズにいた人たちは、今でもヒューストンなんかの仮住
まいをしていて、連邦に食べさせてもらってるのですから皮肉なもんですよ。移民が
良い悪いという前に、アメリカ人が働かなくなっている、この問題をどうしたら良い
のか。勿論、人種の問題とかありますけど、僕は考えているうちに何だか悲しくなっ
てくるんです」

 タッカーのコメントは、何とも重たいものがあります。そして、答は簡単に見つか
りそうもありません。移民問題だけではありません。イラクをどうするのか、景気を
どう維持するのか、税制は、そして何よりも財政赤字をどうするのか、今のアメリカ
政治の最大の問題は、政治課題の重さに対して、二大政党制が耐えられなくなってい
ることなのかもしれません。アメリカの民主主義は明らかに変質しつつあります。で
すが、その方向性はだれにも見えていないようです。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。米ラトガース大学講師。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学
大学院(修士)卒。著書に『9・11(セプテンバー・イレブンス) あの日からア
メリカ人の心はどう変わったか』(小学館)『メジャーリーグの愛され方』(NHK出
版)<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140881496/jmm05-22> 最新訳に
『チャター 〜全世界盗聴網が監視するテロと日常』(NHK出版)がある。
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140810769/jmm05-22>
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                   発行部数:128,653部(8月1日現在)
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【編集】 村上龍
【WEB】   http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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