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JMM [Japan Mail Media]  アメリカの不動産市場はバブルか?
http://www.asyura2.com/0601/hasan45/msg/181.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 2 月 06 日 16:58:24: ogcGl0q1DMbpk
 

                              2006年2月6日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.361 Monday Edition
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▼INDEX▼


■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第361回】

   □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
   □中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
   □金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
   □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
   □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
   □津田栄   :経済評論家

 ■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』


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 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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 Q:647への回答ありがとうございました。一連のライブドア事件を箱根でテレ
ビで見ていました。箱根ではニュース以外テレビは見ません。箱根では「原稿を書く
ときだけ世界とつながっている」という感じで、まるで隠者のように生きています。
大手既成メディアのライブドアを巡る「大騒ぎ」に関しては、予測ができたのでこん
なものだろうと思いました。違和感を覚えたのは、堀江前社長の衆議院選挙立候補の
際に実際に現場で応援したという自民党武部幹事長と竹中総務大臣の「弁解」です。
二人は、「反省すべきは反省する」とインタビューで答え、そこだけがくり返し流れ
たので、そのあとの記者とのやりとりは不明ですなのですが、非常に奇妙な感じがし
ました。

「反省すべきは反省する」という弁解には主語がありません。ただ、主語がないから
意味がわからないというわけでもありません。反省している主体はきっと本人なんだ
ろうという暗黙の了解があるので、意味は伝わります。たとえばスペイン語も主語を
省略しますが、動詞の変化で主体がわかるようになっています。しかし日本語の「反
省すべきは反省する」という表現は、主語を省くことによって主体との間に距離が生
まれ、ニュアンスを曖昧にすることが可能です。しかも、まるで抽象的な格言のよう
な響きと効果を持つのでたいていそこで話は完結しがちです。「わたしは反省します」
というダイレクトな表現と比べるとそのことがはっきりします。「わたしは反省しま
す」と言ってしまうと、霧が晴れるように主体と行為が合致し、ダイアローグは完結
せずに続きます。

「具体的にどの言動を反省しているのか」
「反省しているということは、間違ったと認めるのか」
「間違っているかも知れないという危機感はゼロだったのか」
「そんなお粗末な経済感覚で構造改革を担っているのか」

 というようなや応酬が可能になります。他人事のような「反省すべきは反省する」
という表現の利点は、要するに「反省すべきだとおっしゃいましたが、誰が反省する
んですか」とは聞きにくいということです。その場にいる人はみんな理解できるはず
だ、という暗黙の了解があるから成立する表現なので、「誰が反省するんですか」と
いう質問が許されるのは子どもか外国人だけでしょう。ただし英訳される場合にはち
ゃんと主語が入っているはずなので、外国人記者も「反省する主体は誰か」とは聞か
ないと思われます。

 大手既成メディアは、「反省する主体は誰か」と問い直すべきです。政党の幹部や
閣僚とダイレクトに接して言質を取ることができるのはその場にいる記者しかいない
からです。しかしこのエッセイで何度も書いてきた通り、絶対にそういうやりとりは
起こりません。大手既成メディアが結果的に容認し醸成する現状の曖昧さは、市場・
投資・企業モラルの形成の阻害を助長しているのだと思います。リスクや責任という
言葉とその概念が浸透しないのは、主体を曖昧にしたまま発言してもメディアに追求
されることがないというアナウンスメントの効果が絶大なのですが、当の大手既成メ
ディアはそのことにいまだ無自覚なままです。

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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第361回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:648
 どこかでわたしのアドレスが洩れているらしくてアメリカから広告メールがよく送
られてきます。いくつかのアメリカ・メディアのメンバーになってメールマガジンを
取っているので、多少の漏れはしょうがないと言えばしょうがないとあきらめている
のですが、中にはアメリカ社会の傾向を示して興味深いものもあります。大半はバイ
アグラなど医薬品、サプリメントの広告で、あとはブランド商品やPCソフトウェア
ですが、最近、mortgage、つまり住宅ローンの借り換えの広告が目立つようになりま
した。広告の文面からは万国共通の怪しい臭いが漂ってきます。アメリカの不動産市
場はバブルだという指摘もありますが、実際はどうなのでしょうか。またバブルだと
したら、収束・崩壊した場合にどういう事態が起こり、日本経済にどういう影響を与
えるのでしょうか。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 FRBのグリーンスパン前議長は、米国の住宅市場について“フロス(froth =小
さな泡)”と表現しています。80年代後半から90年代前半までの日本の“不動産
バブル”ほど大規模ではありませんが、米国の住宅価格が、理論値を上回る上昇傾向
を辿っていることは確かだと思います。1995年末時点の居住用住宅資産の市場価
値は約8兆ドルでした。それが、2005年6月末時点では18兆ドルに増加してい
ます。約10年間に年率約9%で上昇したことになります。

 こうした住宅価格上昇の背景には、米国内の人口増加、経済成長に伴う所得増加に
よる住宅購入余力などがあるといわれています。また、2000年のITバブル崩壊
に伴って、金融政策が緩和され、金利が低下傾向を辿ったことも大きな要因と考えら
れます。特に、金利低下による住宅ローンの借り換えや、金融機関の積極的な住宅ロ
ーン扱いの姿勢などが、住宅価格の上昇を加速したといえるでしょう。それは、住宅
ローン=モーゲージローンの顕著な増加として現れています。

 その結果、2000年代初頭以降の米国経済の流れを見ると、“ITバブル”を
“住宅バブル”に乗り継いだ格好になっています。つまり、90年代後半にITバブ
ルが発生し、株価、特にIT関連企業の株価が急激に上昇しました。バブルは長続き
せず、2000年代初頭から株価は急速に下落しました。わが国の80年代後半と同
じ状況に追い込まれたのです。それに対して、米国の金融当局は、迅速に金融を緩和
して、潤沢に資金を供給しました、その一部が住宅市場に流入したと考えられます。

 住宅価格は上昇し、米国の家計は、積極的に住宅ローンを借りて住宅を取得したり、
取得した住宅を転売して利益を得る行動をとりました。一方、金融機関も住宅ローン
の増強に努め、新型のローンなどを開発し、住宅価格の上昇傾向を加速したと考えら
れます。米国のモーゲージ・エクイティー・ローンは、わが国の住宅ローンとは違っ
て、資金使途が住宅所得に限定されていません。そのため、株式投資や消費などに使
うことができるのです。

 例えば、3千万円で購入した住宅が5千万円に値上がりすると、2千万円分の担保
余力ができます。その分を、金融機関から借り増しをすると、2千万円分のキャッ
シュのインフローが発生します。その資金は、何に使っても良いのです。これは、取
得した住宅のキャピタルゲイン部分の含み益をキャッシュ化する行動です。つまり、
投資した資産の値上がり益を、ローンを組むことによって実現して、その資金を使う
ということです。

 しかも、ITバブルが崩壊した後、FRBは積極的に金利の引き下げを行いました
から、金融機関からの借り増しをしても、金利の支払い負担が大きく増加することは
少なかったと考えられます。さらに、最近では、IO(Interest Only )ローンなど
新型のローン商品が開発されています。IOローンでは、一定期間は金利の支払いだ
けでよく、元金の返済負担が猶予される仕組みです。米国の家計部門は、こうした仕
組みを利用して、高い生活水準を維持してきたと考えられます。

 グリーンスパン前議長は、住宅価格の上昇を前提として、家計がローンの借入に
よって消費を増加させてきたメカニズムに対して幾度か警鐘を鳴らして来ました。し
かし、その効果は、今までのところ、なかなか顕在化していないのが実情です。20
04年6月以降、FRBは、0.25%ずつ小刻みに金利を引き上げましたが、最近
まで住宅価格の上昇には歯止めが掛かりませんでした。

 一方、昨年の後半に出た指標を見ると、住宅市場にやや変調の兆しが見え始めてい
るようです。中古住宅販売の伸び率などには鈍化傾向が見て取れます。住宅価格の上
昇傾向に頭打ち、あるいは下落の傾向が出るようだと、米国経済に影響を与えること
は避けられないでしょう。ウォールストリートジャーナル紙が掲載した年初のアンケ
ート調査によると、今年の住宅市場は減速するとの見方が有力のようです。また、住
宅市場の減速は、米国経済にとって最も大きなリスク要因と見ている向きもあります。

“住宅バブル”が弾ける場合には、家計の住宅ローン返済の負担がずっしりと重荷に
なることが考えられます、また、住宅ローンを貸し出した金融機関にも大きなマイナ
スの要因になるはずです。それは、90年代後半、わが国の金融機関の不良債権処理
の過程を振り返れば、よく分かると思います。こうした現象は、経済活動全般に阻害
要因になります。“住宅バブル”の崩壊は、米国景気を減速させる可能性は高いで
しょう。

 ただし、米国の国土の広さや、住宅市場の広がりを考えると、日本のような全国的
なマグニチュードは低いと考えます。住宅価格の上昇は、全土にわたって一律ではな
く、一部の地域に顕著な現象と考えるべきでしょう。“住宅バブル”が崩壊しても、
それが生産や雇用など経済全体に大きな影響を及ぼすのではなく、グリーンスパン前
議長が指摘しているように、住宅価格、株式、為替や金利といった市場の価格要因に
よって吸収可能かもしれません。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト

 米国人と話をしますと、住宅バブルを示す事例はニューヨーク、マイアミ、ラスベ
ガス、ロサンゼルスなどでは事欠かないようです。マンハッタンのある地域のアパー
トの価格(家賃ではありません)がこの4〜5年で2倍になったとか3倍になったと
か、これまでも随分聞かされました。そういう意味では米国で住宅バブルが発生して
いるのは確かでしょう。ただ、それが上記の大都市で起きている局地的な現象か、米
国全体で起きているナショナル・レベルかで、今後バブルがはじけた時の影響に大き
な違いが出てくるでしょう。

 全米住宅価格指数の推移を見ますと、現状は90年に比較して2.2倍、これに対
して、個人の可処分所得も90年比で2.2倍と全く同じ伸びとなっています。要す
るに平均で見ると、所得の増加に見合って住宅価格が上昇しているのであって、住宅
価格だけが突出して上がっているわけでありません。「大都市だけが住宅バブルで
あって、中西部なんか住宅価格は安定しているよ」と元Fedの知人は言っています。
多分、これが実態なんだろうなと思います。

 ただ、全米住宅価格指数の前年比の推移を見ますと、これまで1桁の伸びだったも
のが、04年から05年には2桁の伸びとなるなど住宅価格の上昇加速が確認できま
す。これはITバブル崩壊後にデフレ経済への突入を阻止すべくFedが超金融緩和
政策を採用したことで住宅ローン金利が2000年初めの8%から5%まで低下した
ことが影響していると考えられます。しかも、景気回復が明らかになり、Fedが利
上げに転じても住宅ローン金利は依然として6%と安定しています。この住宅ローン
金利の低位安定と景気回復による所得増加が住宅需要を押し上げて住宅価格の上昇加
速を招いたと思われますが、それが局地的には住宅バブルを生み出したということで
しょう。

 ただ、さすがに最近、大都市部では住宅価格が頭打ち、ないし下落が目に付くよう
になってきた、と知人は言っています。よって、局地的にはバブル崩壊もありえます
が、全米レベルでは上記のようにバブルと言うほどの価格上昇ではありませんので、
影響は限定されるかと思います。しかも、やはり潜在的な住宅需要が強いということ
も指摘しておかなければなりません。90年代初めに米国の市民権を取った移民の人
たち、それにベビーブーマー・ジュニアの世代が丁度、住宅購入に向う時期に当たる
ようです。これらの根強い需要が住宅価格の下落を下支えするのではないでしょうか。

 よって、全米レベルでは住宅バブルが起きていないので、住宅バブル崩壊もありえ
ない、というのが私の結論ですが、この予想が外れて、今回の質問にありますように、
住宅バブルが存在し、住宅バブルが崩壊すると仮定した場合の想定される影響を以下、
簡単にまとめてみたいと思います。先ず、住宅バブル崩壊で影響を被るのは家計であ
り、消費でしょう。米国の家計は住宅価格上昇の結果、住宅担保の借り入れを増やし、
所得以上の消費を行なってきました。昨年の個人貯蓄率はマイナスに転落しています。
もし、住宅バブルが崩壊すれば、保有する個人の資産価値(住宅)が大きく減少する
わけですから、個人は消費の抑制に動かざるを得ません。

 消費が抑制されると、企業収益が悪化して、企業は次に設備投資と雇用を減らしに
かかるでしょう。雇用の減少は更なる消費の減少を引き起こします。米国は景気後退
に陥り、これまで米国の過剰消費の恩恵を受けてきた中国など、世界経済への影響は
深刻なものとなるでしょう。グローバル景気が後退に向いますので、せっかく景気が
回復している日本経済も影響を逃れられません。景気回復はストップ、日銀の量的緩
和解除や財政再建という経済政策の正常化もストップしかねません。

 以上が想定される米国の住宅バブル崩壊の影響シナリオです。ただ、上でも述べま
したように、私はこういう悲観的な見方は取っていませんので、私の見通しが外れな
いことを祈りたいと思います。

               伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也

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 ■金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 アメリカの不動産市場の動向については、商業用不動産市場と一般個人向住宅市場
とを分けて見る必要があります。商業用不動産には、オフィス、ショッピングセンタ
ーなどの小売商業施設、倉庫、ホテルなどの物件が含まれます。アメリカでは一般に、
商業用不動産物件は不動産購入価格に対する賃料収入などの不動産所得の利回りを尺
度として取引されることが多いとされています。

 こうしたアメリカでの商業用不動産物件の投資利回りの水準(価格水準)について
は、米国リート(REIT=不動産投資信託)の配当利回りに注目することによって
簡単に推測することができます。米国リートの昨年12月末時点での平均配当利回り
は4.57%(NAREITエクイティー・リート指数)と、米国10年国債利回り
4.42%を若干上回る水準となっています。

 リートの配当は、主に不動産賃料収入からリートの運営費、不動産管理費用および
減価償却費用などを差し引いたものを原資としていますので、不動産への実質的な投
資利回りを反映したものと考えられます。さらに、リートは、金融商品として実物不
動産と比べ高い流動性を持つため、不動産純資産価値に対して通常10−15%程度
のプレミアムで取引されていることも併せて考えますと、リートが投資しているアメ
リカの商業用不動産物件の投資利回りはネット・ベースで米国国債利回りを0.6%
〜1%弱程度上回る水準にあることが推測されます。

 このように見ますと、アメリカの商業用不動産物件の価格水準がバブル=異常な価
格水準にある、というのは言い過ぎのようです。現状の投資利回りの水準は不動産投
資のリスクを考慮しますと必ずしも高いものではありませんが、減価償却などのコス
ト控除後のネット・ベースの試算での利回りであること、不動産元本価値や賃料収入
の上昇に対する期待を織り込んだ利回りであること、などから合理的な価格形成の範
囲にあると言ってもよいでしょう。

 アメリカの商業用不動産市場では、オフィスなどの主な物件の1割程度が、リート
による保有などを含めて、証券化の対象となっていると言われています。こうした証
券化を通じて、不動産物件についても他の金融商品の利回りとの裁定などにより価格
形成が行われるため、バブルと言われるような異常な価格水準の発生が抑えられてい
る面もあります。

 一方で、一般に個人向住宅市場については、価格形成の効率性は商業用不動産市場
と比較して相対的にかなり低いものと考えられます。まず、住宅不動産の購入者は、
必ずしも経済的な意味では合理的ではありません。住宅の購入に当たっては、個人的
な欲求や嗜好など、経済合理性以外の判断基準に基づいて購入を決定する傾向が強い
ようです。これは、特に高級物件などについては、保有による社会的ステータスの獲
得、個人的な満足、など別の効用を求める要素が強くなることにも現れています。賃
貸住宅の家賃などとの比較による経済性から価格が正当化できるのは、通常は低級な
物件に限られます。

 従って、個人向住宅市場については、純粋に価格水準を評価してバブル発生の有無
を判定するのは、難しいといえます。その意味では、現在のアメリカの個人向住宅市
場についても、現在の価格水準よりも、今後の価格動向が重要な関心事項となってい
ます。端的には、現在の上昇傾向がいつまで続くのか、また、その先にあるのが安定
なのか、大幅な調整なのか、ということです。

 現在のアメリカの個人向住宅市場の状況において懸念される点としては、1)住宅
価格が高い上昇率を維持しながら、長期に亘り上昇が続いていること、2)住宅価格
上昇による購入資金の借入額の増加、さらに不動産の価格上昇分を担保にしたホーム
・エクイティ・ローンによる借入の追加などにより、個人の負債比率が高まっている
こと、3)これらの状況が、アメリカにおける金融引き締めの最終局面を見極めるべ
き時期になっても継続していること、が挙げられます。

 3)については、金融政策の効果により経済全般が減速する局面になってから、住
宅市場が遅れて調整局面の入ることで、その調整の振れが大きくなるリスクを孕んで
います。また、2)に関連して、不動産の価格上昇によるホーム・エクイティ・ロー
ンを通じた実体以上の消費拡大とその反転収縮による弊害を指摘する議論もあります。

 ただし、こうした不動産価格上昇による消費性向の拡大は否定できませんが、アメ
リカの過剰消費体質はより根源的な問題のように思えます。実際、仮にホーム・エク
イティ・ローンが使えなかったとしても、オート・ローンを利用して自動車を購入す
ることもできますし、クレッジト・カードのリボルビングを利用して買い物をするこ
ともできます。要は、最も有利な調達(金利と返済期間)としてホーム・エクイティ
・ローンを利用しただけ、とも言えるでしょう。

 ところで、住宅市場が価格調整に入るないし価格上昇が頭打ちとなる時期について
は、ホーム・エクイティ・ローンによる借入の利用額がピークを打ってから3四半期
程度の時間差をもって住宅価格の上昇も止まる、といった経験則もあるようですが、
必ずしも相関を裏付ける明確な根拠があるわけではありません。ただし、ホーム・エ
クイティ・ローンによる借入の目的には、個人の投資用の不動産購入もかなりの割合
で含まれており、そうした資金の循環が関係している可能性はあります。現状として
は、アメリカではまだホーム・エクイティ・ローンによる借入がピークを打った状況
ではないようです。

 さて、アメリカで住宅価格が下落に転じた場合の影響については、どのように考え
たらよいのでしょうか。アメリカの経済および市場への影響としては、個人消費の後
退を通じての経済への影響が想定されます。ただし、経済や市場に対しては金融政策
による影響度がはるかに大きいと考えられ、既にアメリカでは利上げの最終段階に近
いと見られるなかで、その打ち止めの時期がどのように総合判断されるかに市場の関
心が集中していると思われます。

 また、円ドルの為替レートに対しても、日米の株式市場の動向や金利差がより直接
的な決定要因になると考えられます。国際間の資金フローを直接促すのはこうした市
場の要因であり、米国の不動産市場の動向によって日米間で動く資金フローは限られ
たものと考えられるからです。

 結論としては、アメリカで住宅価格が下落に転じる局面があるとしても、日本経済
に対しては直接的な影響を大きく与えるものではないと考えられます。影響があると
すれば、アメリカの経済および市場の動向を通じて間接的に影響をもたらす場合です
が、その場合には金融政策など他の要因がより支配的な影響をもたらす形になるで
しょう。

                外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

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 ■ 菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 米住宅市場だけでなく、最近の日本の急速な株価上昇もバブルかどうかの議論があ
りますが、それはバブルの定義次第ということになります。バブルはある資産価格が
ファンダメンタルズ・バリュー(公正価値)から大きく乖離した状況をいいますが、
ファンダメンタルズ・バリューの計算は容易でありません。結論的には、米住宅市場
は大きなバブルではなく、退任したグリーンスパン議長が指摘されたようなフロス
(小さな泡)でしょうし、日本株も大きなバブルの状況にはまだなく、小さなバブル
が始まったばかりといえましょう。

 地域や銘柄によっても、状況は異なります。米国では大都市圏やリゾート地域の住
宅価格の高騰が伝えられていますが、広大な国ですので、田舎はバブル的でないよう
です。日本株も市場全体のPERはハイテクやIT関連株中心に、国際比較で割高な
水準まで上昇していますが、自動車や鉄鋼株の予想PERは割安です。

 米国の2005年通年の住宅着工件数は前年比5.6%増の206.4万戸と、過
去最高を記録した1972年に次ぐ33年ぶりの高水準になりましたが、12月の単
月だけとれば、年率換算で193.3万戸と、前月比も9.9%減り、減速の兆しが
出ています。今後、利上げの累積的効果、アフォーダビリティの低下(所得水準に比
べて住宅価格が上がり過ぎた現象)、値上がりが止まることによる投機需要の減少な
どによって、米住宅市場は減速傾向が明確になってくると予想されます。ただ、人口
が既に減少に転じた日本と異なり(より重要なのは世帯数ですが)、米国は人口増加
が続いている国ですから、日本のバブル崩壊時の不動産市場のような大きな減少は予
想されません。メリルリンチでは、米国の実質GDPベースの住宅投資を2005年
7.2%→2006年0.1%と予想しています。

 米国では住宅価格の上昇がホームエクイティ・ローンを通じて、個人消費をかなり
押し上げてきたといわれています。計量的には住宅価格の上昇が個人消費を1%程度
押し上げたと推計されています。メリルリンチでは、米国の実質個人消費が2005
年3.6%→2006年2.8%、実質GDP成長率が2005年3.5%→200
6年2.6%と低下すると予想しています。米国経済は4年毎の大統領選挙サイクル
が明確であり、中間選挙の年に(今年11月)景気が鈍化し、ドルが下落するという
経験則があることも気掛かりです。

 住宅投資の減速で、米国のGDP成長率が1%低下すると、日本のGDP成長率は
0.3%ほど低下する計算になります。しかし、日本の内需は好調さが維持されると
予想されるため、米国経済が本格的な景気後退にでも陥らない限り、日本経済は大丈
夫でしょう。2006年の日本の実質GDP成長率は3%程度へ高まり、15年ぶり
に米国の実質GDP成長率を上回ると予想しています。ただ、この予想はかなり米国
経済に弱気&日本経済に強気の予想であり、市場では、米国経済は2006年も住宅
投資も含めて底堅く、日本の成長率を上回り続けるというのがコンセンサスのようで
す。

 米国の住宅投資が大きく減速すれば、米国経済への依存度が高い日本企業が悪影響
を受けるでしょう。例えば、建設機械のコマツの株価は昨年3倍に上昇しました。米
国向け建機のみならず、発展途上国からの需要が好調だったためです。しかし、メリ
ルリンチの機械担当アナリストは、ファンダメンタルズから計算した目標株価の達成
や米住宅着工の鈍化懸念を理由に、コマツの株価判断を今週、格下げしました。最近
ソニーなど予想以上の好決算を発表した家電株が急上昇しましたが、ソニーの好決算
の背景には薄型テレビの米国での販売好調がありました。しかし、前述したような形
で、米国の住宅投資や個人消費が減速し、ドルも下落すれば、米国依存度が高い家電
メーカーの株価上昇は持続困難でしょう。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 山崎元  :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 まず、米国の不動産価格について、私が「バブル」ではないかと気になり始めた事
象を幾つか思い出してみます。

 第一が、2000年11月に第一弾が翻訳されベストセラーになったロバート・キ
ヨサキ著『金持ち父さん貧乏父さん』(白根美保子訳)のシリーズが出て、唯一、著
者の実体験に基づくとおぼしき儲けのエピソードが不動産転がしであったことです。
かつての日本のバブル紳士達に一脈相通ずるような尊大な安易さを感じて、アメリカ
では不動産バブルが起こりつつあるのだろうな、と意識しました。

 次に気になりだしたのは、2003年から2004年にかけて、何人かの金融市場
の専門家から、ホーム・エクイティ・ローンによる消費が米国の個人消費を押し上げ
ていると聞いたことでした。住宅価格の値上がり分を担保にして消費が可能になると
いうこの仕組みは、住宅価格の上昇が、経済の活性化を通じて、さらにその次の住宅
価格上昇につながる、バブルの拡張期に見られるような過剰な好循環(長続きはしな
い)が働いているように思えました。

 さらに、その後に聞いた「IO」(インタレスト・オンリーの略)と呼ばれる、当
初は、金利のみの返済で良く、元本返済を伴わない住宅ローンが登場して拡大中であ
ることも、住宅の過剰なブームを感じさせるニュースでした。住宅価格が一般人には
買いにくい水準になりつつあることと、それでも住宅価格が上がりそうだから買いた
い、という需要があるということだろうと思いました。

 加えて、今や有名になった、グリーンスパンFRB前議長が、住宅価格の「フロス」
への懸念を指摘した講演です。「バブル」という言葉を慎重に避ける様子に住宅価格
に刺激を与えないようにという意思を感じましたし、しかし、一部の地域に、という
限定条件付きながら、「持続不可能な価格水準」が見られるというものでした。考え
てみると、「持続不可能な価格水準」とはバブルの定義そのものです。

 外国のことでもあり、不動産価格及び不動産市場に関する「雰囲気」が分かりませ
んが、現状は、幾つかのレポートを当たってみると、1)米国の不動産価格全体は高
いけれども極端なバブルにはなっていない、2)ニューヨーク、カリフォルニアなど
(あとはフロリダ、イリノイ、ハワイなど)では住宅価格が高すぎる水準まで達して
いて目下下落に転じたようだ、ということのようです。

 ニューヨーク連銀のレポートでは、金利・維持費などの住宅保有コスト(「帰属家
賃」)を現実の家賃と比較して、両者の比が、2004年現在、米国の都市部の平均
で、これがほぼ過去の平均並みにあるので、全国的な住宅価格バブルは発生していな
いと結論づけています。

 また、興味深い結果を報じていたのは、みずほ総研のレポート(「みずほ米州イン
サイト」2005年12月2日)でした。同レポートでは、銀行の不動産貸し出しと
預金データから推計した各州別の保有不動産時価総額の全国総額に占める比率を推計
していますが、不動産ブーム発生前の1995年では上位3州の合計が全体に占める
比率が28.6%であった(ニューヨーク、カリフォルニア、イリノイ)のに対して、
2005年4−6期では34.8%(ニューヨーク、カリフォルニア、フロリダ)と
大幅に増加している(21%以上の増加)と計算しています。これは、不動産価格の
上昇が地域によってかなり異なるペースで起こったことを示唆します。

 そして、1月20日にブルームバーグ・ニューヨーク市長が、不動産市場が「劇的
に冷え込んでいる(slowing dramatically)」と述べたように、不動産価格が高騰し
た地域では既に価格が下落に転じ始めたようです。

 全体の状況を見ると、今のところ、米国の不動産市場は、部分的なバブルとその崩
壊が起こっているものの、今後その傾向が拡がるとすれば、むしろ、全般的で大規模
なバブルに至る手前で踏みとどまっていると判断できそうです。今後考えられる、全
国的な不動産価格上昇のストップないし小幅な下落は、米国経済に対しては、過去2、
3年の経済成長を1%内外加速した要因が無くなるか、ある程度マイナスに働くか、
といった程度にとどまりそうです。もちろん、米国の消費者で、所有不動産の値上が
りを頼りに消費を行ってきた人々は、生活上大きな影響を受けるでしょうが、この程
度であれば、日本の経済に対する影響はそう大きくはないでしょう。

 一般に、不動産価格下落のもう一つ考えられる影響は、金融機関の弱体化ですが、
今や8兆ドルに達し、米国政府の債務額を超えたとも言われる住宅担保のローンの行
方が問題になります。不動産価格の下落が広範囲に及び出してきた場合、さらにこれ
と金利の上昇が大きく重なった場合、不動産価格のリスクと共に、金利リスクの管理
が拙かった(或いは金利のポジションで失敗した)金融機関が倒産するケースは出て
くる可能性があります。

 現在、米国は、度重なるFRBの政策金利引き上げで、短期金利が上昇しています
が、長期金利は不思議なほど上昇していません。長期金利が上昇するようなことにな
ると、住宅ローンの金利が更に上昇するでしょうし、不動産価格の下落に拍車が掛か
る可能性があります。但し、短期金利の引き上げが、近い将来の景気のスローダウン
とインフレの抑制を期待させて、長期金利の上昇に歯止めを掛けているとすれば、広
く懸念された米国の不動産バブルは、割合無事な形で収まろうとしているのかも知れ
ません。

 もちろん、上記の状況だけでは、FRBの手腕が見事なのか、単に運が良いのか、
或いは、バブルはまだまだ終わらずに将来もっと大規模に破裂するのか、現時点で確
言はできません。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元

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 ■ 津田栄  :経済評論家

 アメリカの不動産市場はバブルだと言うときには、主に住宅市場をいうのですが、
本当にバブルなのかどうかについて意見は分かれています。一方、オフィスなどの商
業用不動産市場では、投資金額に対する賃料収入(収益)という基準で計算された利
回り(収益還元法)を前提に、借入金利と長期債利回りと比較して取引されますが、
償却費や経費などを考慮してみて大きく乖離していないので、バブルとはいえないで
しょう。

 それでは、住宅市場はどうかというと、見方によりますが、アメリカ全体で見れば
前年比10%台の上昇をしていますが、地域によっては大きく異なります。アメリカ
のフロリダ、ワシントン・ニューヨークなどの大西洋岸、カリフォルニア州などの太
平洋岸など人口増加や雇用増の地域、資金が集中する地域などでは住宅価格が20〜
30%も急騰していますが、中西部や南部での上昇幅は一ケタ台だと言われます。

 つまり、住宅価格は2000年からの5年間で2倍以上になった地域もあれば、2
割から3割しか上昇してない地域もあり、アメリカ全体が一律同じ幅で上昇している
わけではないということです。それでは、倍以上の上昇を見せた地域は、バブルなの
かということですが、価格はここにきてスピードをあげて上昇したことや、支払い能
力を超えた価格など、実需を上回っての上昇を見るとバブル的様相が見られるといっ
てもいいかもしれません。それがグリーンスパン前FRB議長の「フロス(=小さな
泡)」の言葉で表されています。

 そもそも、この住宅市場の上昇の要因に、低金利、所得増(住宅取得能力の上昇)、
人口の増加、多様な住宅ローン商品の登場などがあげられます。長期にわたる低金利
が続いたことや、景気が大きく崩れず長期的に堅調な推移を見せたことが所得の安定
的な増加につながり、それらが住宅取得の意欲を高めたことです。また、移民や比較
的高い出生率などによる人口の増加が需要の増大となったことも一要因です。そして、
低所得者層の住宅取得を容易にするために返済方法の規制を緩和した住宅ローンなど
の多様な住宅金融商品が登場し、それが住宅需要を押し上げたこともあげられます。
そうしたことが、地域によっては住宅価格の値上がり期待につながってきたといわれ
ます。

 ただ、ここにきて、長期金利の上昇を受けて、住宅価格は頭打ちになりつつありま
す。地域によっては売り出し価格の下落も見られるといわれます。だからといってバ
ブルが崩壊するかどうかは分かりません。まずアメリカ全体の住宅市場はバブルでは
ありませんので、全国的なバブルの収束・崩壊というのは正しくありません。ただ、
倍以上の価格上昇が見られた地域がバブルであれば、その収束・崩壊はありえるでし
ょう。

 しかし、現在のところ、アメリカの旺盛な投資意欲や、妥当な価格を割り込めば、
リスクを恐れず投資するダイナミックさを考えれば、日本のようなバブル崩壊の姿に
はならないように思います。現在、適正価格より2〜3割高いといわれる住宅価格で
すから、それを下回れば買い手が現れ、下落は収束してくるのではないかと見ていま
す。

 ところで、アメリカ経済の堅調さを支えた要因に、住宅価格の上昇があげられます。
それは、住宅価格の上昇で資産が増加、その値上がり分を担保としたローン(ホーム
エクイティ・ローン)により資金調達ができ、個人消費につながったことです。ある
いは、高い金利から低い金利に住宅ローンを組み直して、支払い金額を減らすことで
実質的に所得が増加して個人消費を刺激した面もあるのではないかと見られています。

 もちろん、資金の大きな流れとしてみれば、資金は、2000年まで上昇し続けた
株式市場がITバブルの崩壊で低迷するなか、比較的価格下落リスクが小さく、安定
していた住宅市場に流れ、低金利、人口の増加、所得増加、住宅取得促進に向けた規
制緩和などの要因も手伝って、価格の上昇につながったといえます。それは株式上昇
から住宅価格上昇へとうまくバトンタッチした資産効果が堅調な個人消費を支え、ア
メリカ経済を拡大し続けてきたといえましょう。

 したがって、住宅価格が暴落するならば、個人消費が大きく停滞し、アメリカ経済
は悪化します。つまり、所得の減少や雇用の悪化になったり、原油価格の上昇などを
通じて物価が上がり、インフレ懸念が台頭、長期金利上昇によりローン金利が上昇し
たときは、住宅需要が大きく減少することになり、そのときは適正価格が大きく低下
し、住宅価格が大幅下落することはありえます。そうなれば、経済効果が薄れ、マイ
ナスとなった貯蓄率もあって、ローン支払い不能急増で個人消費は悪化し、これまで
のアメリカ経済の好循環が崩れることになります。

 また、アメリカで個人消費をリードしているのは、どちらかというと所得の伸びの
高い中産階級より上位にある高所得者層であり、彼らの住宅投資が旺盛であったこと
が住宅価格の上昇を招き、そこを通じての資産効果から個人消費を拡大させてきたと
もいえましょう。しかも、彼らの多くが住むのは、住宅価格が急騰している地域です。
その意味で、この地域のバブル崩壊は、大きな逆資産効果となり、個人消費を冷やす
懸念がありえます。したがって、場合によっては、住宅バブルの崩壊が、アメリカ経
済のスパイラル的な下落の引き金になる可能性はありえます(現段階では、そう見て
いませんが)。

 さて、アメリカの住宅バブル収束・崩壊が日本経済に与える影響ですが、アメリカ
経済の中心を占める個人消費の悪化を通じて設備投資も悪化し、全体として低迷する
と見られ、そのことは、アメリカの消費・投資の増加に支えられて輸出し経済を拡大
させてきた日本経済に大きな打撃となると見られます。また、アメリカへの輸出で経
済を拡大させてきた中国や東南アジアの経済も大打撃になると予想されます。それは、
中国や東南アジア諸国への輸出で伸びてきた面もある日本経済にとってダブルで打撃
になると思われます。

 結局、アメリカの住宅バブルは一部の地域のことであって、アメリカ全体のことで
はないこと、ただ今後のインフレなどによる一段の金利上昇が、高所得者層の資金が
集中している地域での住宅バブル崩壊を起こし、それが逆資産効果を通じて個人消費
を冷やし、アメリカ経済をスパイラル的に悪化させれば、世界的な経済低迷期に入る
可能性があります。ひいては、輸出で回復し始めた日本経済には一段と深刻な影響に
なるという最悪の状況も想定されましょう。

                             経済評論家:津田栄

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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:648への回答ありがとうございました。本当に遅ればせながら、映画『血と
骨』を見て、そのあと小説『血と骨』を読みました。最初WOWOWで映画を見てそ
の完成度に驚き、そのあとDVDを入手してもう一度見て、そのあと原作を読みまし
た。戦前から戦中戦後を大阪で生きた在日朝鮮人とその家族の凄まじい物語ですが、
映画も原作小説も、嘘やごまかしを排除して作られているので全体として独特の清涼
感が残るすばらしい作品でした。

 映画は、演出も役者の演技もキャメラも音楽も全部いいのですが、わたしが特に惹
かれたのは戦後の大阪を再現した美術です。映画の中の建物や家具や衣服や小物に
よって、わたしは昭和30年代の少年時代に引き戻されていくような心地よい錯覚を
覚えたほどです。『血と骨』は、小説も映画も、優れた作品のみが結果として獲得す
る普遍性を備えています。つまり在日朝鮮人とその家族の物語でありながら、そこに
は戦後日本のエネルギーや家族制や父性といった普遍的で重要なテーマが浮かび上
がっているのです。

『血と骨』を読み、見ながら、高度成長期にも格差はたしかにあったのだと思い出し
ました。在日朝鮮人に対する差別というような意味ではなく、わたしが幼いころにも、
貧乏人と中産階級と金持ちがいて経済格差は存在したという単純な事実です。一億総
中流時代と呼ばれるようになるのは高度成長期の終わり、つまり70年代後半から8
0年代初めだったと記憶していますが、もちろんその時代にも格差はあったのだと思
います。ただし高度成長期やそのあとの成熟期には、将来的に自分の暮らしは良くな
るはずだと大半の人が思える「希望」がありました。そしてバブル崩壊以降、一律の
希望が失われつつあって、現在の「格差」を巡る論議につながっているのでしょう。

 5日付の朝日新聞は「格差」に関する大きな特集を組んでいました。格差を巡る論
議にはさまざまなフェイズがあるのですが、わたしは文化的な側面も無視できないと
思います。格差への意識は、往々にして文化に規定され助長されるのではないでしょ
うか。文化・文脈、あるいはもっと具体的に「言葉」と言ってもいいのかも知れませ
ん。「勝ち組」「負け組」という言葉は便利なのであっという間に流通し、メディア
によって社会に定着しました。でも非常に曖昧な言葉です。「勝ち組」に分類される
業態・企業の中にも、競争に負けて減給されたり、配置換えされたり、リストラされ
たりする人びとがいます。また「負け組」の業態や企業から高額でヘッドハントされ
る人も大勢います。

「勝ち組」に加入できる条件や基準も、「負け組」に転落する要因もはっきり示され
ることはありません。また「勝ち組」という言葉には、その中に入ることができれば
それでOKというニュアンスが最初から含まれていますが、それはおそらく終身雇用
のなごりでしょう。また「組」という言葉は、双方に「君は一人ではない」という安
心感を与え、2つに大きく分類することでグレーゾーンの人たちの関心を集めること
ができます。

 わたしは『人生における成功者の定義と条件』という本の中で、成功者の定義とし
て、「生活費と充実感を保証する仕事を持ち、かつ信頼できる小さな共同体を持って
いる人」という仮説を立てました。堀江前ライブドア社長の逮捕で評判にやや傷がつ
いたとしても、きっと勝ち組の象徴は「六本木ヒルズ」ということになるのでしょう。
問題は、それが正しいかどうかではありません。メディアを含めた文化の側が、六本
木ヒルズに象徴される「金のかかる都市文化」以外には、人生の価値を示すことがで
きない、それが最大の問題だと考えています。

----------------------------------------------------------------------------
『血と骨』小説(文庫は上下巻・幻冬舎)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344401050/jmm05-22
『血と骨』映画(ポニーキャニオン)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0007CYVK6/jmm05-22
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Q:649
 個人間、大企業と中小企業、富裕層と貧困層、都市部と地方、中高年と若年層など
に存在すると言われる「経済格差」に対し、国は、どのように関与すべきなのでしょ
うか。

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                                   村上龍

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JMM [Japan Mail Media]                 No.361 Monday Edition
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                   独自配信:104,755部
                   まぐまぐ: 15,221部
                   melma! : 8,677部
                   発行部数:128,653部(05年8月1日現在)

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【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【WEB】   http://ryumurakami.jmm.co.jp/
       ご投稿・ご意見は上記JMMサイトの投稿フォームよりお送り下さい。
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