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21世紀のコーポレート・ガバナンスと株主価値経営 『経営実務』
http://www.asyura2.com/0601/hasan45/msg/259.html
投稿者 hou 日時 2006 年 2 月 12 日 00:46:15: HWYlsG4gs5FRk
 

(回答先: 日本の株は、三権分立がシステムとして機能していない。 投稿者 hou 日時 2006 年 2 月 12 日 00:33:57)

http://www.jcgr.org/jpn/cg/article.html

企業経営協会 第546号(2001年10月号)


東京大学大学院経済学研究科 教授
ミシガン大学ミツイライフ金融研究所 所長
若杉敬明


1.ガバナンスとマネジメントの分離
アメリカでは証券市場が発展した19世紀後半からいわゆる「所有と経営の分離」が進み、20世紀前半を通して、零細株主のもとで経営者支配が確立したが、 20世紀後半になると機関投資家が誕生し株主の復権が始まった。

その背景には、第二次大戦後の経済成長の恩恵を享受した企業が、 50年代から60年代にかけて、企業年金を設立したことにある。年金基金は、従業員のために企業が拠出した掛金を積み立てて、その元本と運用益とで年金給付の原資を確保しようとする。経済の繁栄を映して、株式市場が好況であったので、年金は株式投資を積極的に行った。その結果、企業年金という機関投資家が誕生した。

企業年金は、資産運用を本業とし合理的な投資家として株主利益を追求した。ここに従来の個人投資家とは異なる株主が登場することになった。しかし、70年代にはいると、経済の停滞、株式市場の低迷で企業年金の資産は大きく傷つき受給権が脅かされたので、政府はその保護のため、 74年エリサ (ERISA 従業員退職所得保障法) を定め、合理的な投資行動をとることが、企業年金の受託者責任であることを明確にした。

企業年金のそれまでの資産運用は、ウォールストリート・ルール (Wall Street Rule) と呼ばれる方式に基づくもので、これから良くなりそうな会社や悪くなりそうな会社の株をいち早く売買する比較的短期の投機的な行動であった。企業年金の普及とともにこのような行動がとりにくくなっていたところに、分散投資を求めたエリサが成立したことから、企業年金の投資行動は分散投資・長期保有に移行し 80 年代は分散投資が年金資産運用の基本になった。

ウォールストリート・ルールの時には、企業の売買が恰好のシグナルになり経営者に投資家の評価を伝えることができた。年金に買われるということはこれから伸びるということであり、売られるということは並の会社になったということである。経営者は株価に配慮せざるを得なかった。ところが、分散投資・長期保有では一度買うと持ちきりが原則であるので、投資家の評価が経営者に伝わらない。その結果、株主の利益が損なう経営が無視できなくなってきた。

企業年金の監督官庁である労働省は、88年のエイボンレターで、それまで禁じていた議決権行使を解禁し、むしろ株主の利益の観点から議決権を行使することは受託者責任の一環であるとして議決権行使を認めた。その後、企業年金は、株主の利益を代弁する社外取締役を取締役会に送り込み、経営者に株主利益を重視した経営を迫り実現しつつある。これを株主行動主義(Shareholder's Activism)という。

その結果、90年代のアメリカ企業では、社外取締役を中心とする取締役会が、ヒト・モノ・カネ・情報を統合して実際の経営 (management) を行う経営者 (執行役員) を監督ないし統治 (governance) するという体制ができあがり、アメリカ企業の経営が急速に効率化・合理化された。これを「ガバナンスとマネジメントの分離」という。

以下では、アメリカにおけるガバナンスとマネジメントの分離の理論とその実態を紹介する。


2.コーポレート・ガバナンスの理論
最初に株式会社の理念を明らかにしておこう。そのためには資本主義とは何かを明確にしておくことが不可欠である。

資本主義は、私有財産制度という社会制度および自由経済と市場経済という経済制度を前提としている。

まず私有財産制度は、(1)すべての財産は原則として個人の所有に帰属する、 (2)所有者は排他的支配権を持ち、財産を自由に利用したり、処分したりすることができる、 (3)利用の結果に責任を持つ、および(4)財産は所有者の死後、近親者に相続させる、という四つの内実をもっている。ここで(3)をリスク負担と呼ぶことにすると、私有財産制度は、所有・支配・リスク負担が三位一体の社会制度であると特徴づけることができる。

資本主義はまた、企業活動は資本と労働の協力で行われるもので、資本と労働が価値を生み出すと考え、労働報酬と資本報酬(金利・利益)の合計を付加価値という。資本主義は、企業活動を自由に行うことを認める。したがって、自ずと競争が生まれ、計画経済と異なり企業活動にはビジネスリスクが伴う。そのリスクは資本と労働のいずれが負担するのであろうか。

資本主義では、会社も私的所有の対象と考え、私有財産として所有者を認める。このときに、資本主義は資本の提供者を所有者とし位置づけ、自由経済に伴うリスクを負担せしめる。株式会社では、株主を所有者と定め、株主にリスク負担を求めるのである。私有財産制度では、所有者に支配権があるのであるから、株主が会社の支配権を持つことになる。

このような株式会社の考え方は私有財産制度と完全に整合的である。それでは、株主はいかにしてリスクを負担するのであろうか。

会社は、株主等から調達した資本で本社や工場などの設備に投資し、従業員を雇いそれを動かす。さらに、取引業者からさまざまな原材料・部品等を購入しインプットして製品をアウトプットし顧客に販売して投下資本を回収する。この過程で、従業員、顧客、供給業者、債権者、株主等々さまざまのステークホルダーが関わり合う。

株主は、売上高という顧客がもたらしたキャッシュフローから、その他のステークホルダーに契約に基づいてキャッシュフローを分配した残りを利益として受け取る。このように利益というのは本来残り物であるから残余利益(Residual Income)と呼ばれる。これは残り物であるから、予め決められているわけではなく不確定である。

つまり、株主はリスクを負担するのである。従業員に関しては、労働に対する対価として基本給が年度ごとに定められている。取引先も顧客も売買契約の時に、支払いないし受け取りが確定される。ひとり株主だけが、資本提供の対価に受け取る利益は結果次第である。このような形で株主はリスクを負担する。

同時に株主は所有者として会社の支配権を持つ。これをコーポレート・ガバナンスという。つまり、いかなる事業を行うかや、いかなるステークホルダーといかなる条件で取り引きするか等々を決めることができる。

会社はいろいろなステークホルダーと取引ができて始めて存続する。どのステークホルダーが欠けても不十分でも会社は成り立たない。その意味では、会社はみんなのものであるのに、株主ひとりがガバナンスを持つことは不公平にならないのであろうか。それに対する資本主義の答は次の通りである。会社がすべてのステークホルダーと市場原理に基づいて取り引きするならば、会社は社会的な責任を果たしており、株主がガバナンスを持つことは社会的正義に合致する。

なお、会社がすべてのステークホルダーと公正な取引をしていることは、会社の透明性を確保することによって容易に示すことができる。会社の透明性は株主のガバナンスということと表裏一体である。


3.アメリカのガバナンス革命-ガバナンスとマネジメントの分離
巨額の資本を必要とする生産活動を行ために、会社を上場し、多数の人から大小さまざまの資本を集め投資を行い事業を遂行するのが現代の企業様式である。

株主がガバナンスをもっているということは、株主が会社を経営することができるということであるが、多数の株主が直接会社の経営に関わることは効率的でない。そこで、株主は毎年株主総会を開催し、株主の代わりに会社を経営する取締役を選任し、取締役会に会社を委ねるのが現代の株式会社の代表的形態である。ここでは、いかなる仕組みを用意したら取締役会が株主の利益の実現に邁進してくれるかしてくれるかが重要な問題である。

従来、取締役に会社経営を委ねてきたが 90 年以降のアメリカで新しい経営の形態が確立しつつある。それは独立取締役という株主の利益を代表する取締役を中心とする取締役会を構成すると同時に、これとは別に執行役員を選任し、経営者として事業の遂行を委ねるのである。経営者に対して取締役会は、経営者が株主の利益を実現するように経営の仕組みを作りそれを機能させることを担当するのである。

ヒト・モノ・カネ・情報を統合し事業を遂行するのは経営者であり、その機能がマネジメントである。それに対して、経営者が株主の利益を実現するように、株主の観点から経営者を方向付けることを、最近のアメリカ企業ではガバナンスと呼んでいる。

経営者は、取締役会を通して株主から会社を預かっているので経営者は法律上の受託者責任を負っている。取締役会は、会社の監査部門を使い、経営者の行動を監視 ---実務上は広義の監査---し受託者責任を全うしているかをチェックする。

現代のように自由で豊かな世界では、法律上の義務で人を動かすより、人が自ら進んでやりたくなるような仕組みを作る方が優れている。現代のアメリカ企業で採られている方法は、株主が追求する目的を達成したらそれに応じて報酬を支払うインセンティブ・システムである。その本質は、経営者と株主の利害を一致させることである。株主の株主たる本質は株式を所有していることであるから、そのためには経営者にも直接・間接に株式を保有して貰えばよい。その代表的な仕組みがストックオプションである。


4.株主価値創造がもたらす豊かな社会
株主の代理人としての取締役会の役割は、監査の仕組みとインセンティブとして有効な報酬制度を作ることである。この種の問題は、業界や会社に固有というより経営に共通の問題である。したがって、会社の外部の人にもできる。むしろ、経営者を鼓舞するには外部の人の方がよい。そこで、独立取締役として社外取締役が重用されるというのが最近のアメリカの企業の傾向であり、日本でも商法改正を機に強化されようとしている。

現代の株主の中心は、個人から資産を預かった機関投資家である。高度化・専門化した資本市場で個人が直接資産運用するのは競争上不利である。そこで機関投資家に運用を委ねる。機関投資家にもさまざまあるが、企業年金など現代の中心的な機関投資家は長期的な観点からの資産の増殖を目的としている。そのためには長期的に株価を上昇させていくことが必要である。ここで現代の企業経営者に求められるのは、長期的な株価の成長である。

それは収益性が資本コストを上回る投資機会をコンスタントに開発し実行し、計画した収益性を実現することによって達成される。これが株主価値の創造である。

株主価値の創造は、経営者だけが頑張ってできるものではない。従業員全体が意欲的に挑戦していかなければならない。

21世紀の経営者の役割は、従業員の精勤を引き出し新しい投資機会を創造し実現していくことである。そのためには、株主価値の創造に貢献した従業員の精勤に対しては十分に報いるかたちで従業員を尊重しなければならない。従業員のためのインセンティブシステムがきわめて重要である。

株主価値の創造は、従業員に対してもまた経営者に対しても、通常の報酬を超えた報酬というかたちで返ってくる。株主価値の創造は、実は、企業を効率化し企業が生み出す付加価値を最大化するための中間的な目標であって、最終的には企業の生み出すパイを最大化し、報酬制度という形でそれを再分配し、株主、従業員双方の取り分を最大にする意味を持っている。しかも、現代の株主は一部の富裕層だけではなく、年金やその他の貯蓄を通して、一般の国民が直接間接に株主である。最終的には株主の利益も個人に帰属する。

豊かな自由な国においては、株式会社制度は、会社の活動を通じて国民全体が豊かになるという理想を実現するもっとも効率的な仕組みである。低迷を続ける日本にとってコーポレート・ガバナンス改革は喫緊の課題である。

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