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JMM [Japan Mail Media]  ゼロ金利解除で利益を受ける層、不利益を被る層
http://www.asyura2.com/0601/hasan47/msg/326.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 7 月 19 日 00:04:38: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2006年7月17日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.384 Monday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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●編集部より 寄稿家・飯田泰之さんの著書を紹介します。

    「ゼミナール経済政策入門」(岩田規久男・飯田泰之)  日本経済新聞社
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日本経済の舵取りに必要な「ミクロ政策」「マクロ政策」「所得再分配政策」を体系
的にまとめた待望の基本テキスト。
  <http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532133106/jmm05-22>
なお一刷の訂正については
http://www.nikkei-bookdirect.com/bookdirect/13310.pdfなどをご参照下さい。
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▼INDEX▼

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第384回】

   □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
   □土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部助教授
   □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
   □岡本慎一  :生命保険会社勤務
   □津田栄   :経済評論家
   □金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
   □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
   □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 ■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』

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 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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 Q:718への回答ありがとうございました。ドイツW杯が終わりました。比較す
るのはおかしいのですが、どの試合よりも、中田英寿選手の現役引退のほうがわたし
にとっては切実で重い出来事でした。

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 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第383回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:719
 ゼロ金利政策が解除される模様です。どの層が利益を受け、どんな層が不利益を被
るのでしょうか。

========================================================================
====
※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 ゼロ金利政策とは、人為的に金利水準を極限まで引き下げることによって、わが国
の経済活動を活性化することを狙った金融政策です。金利は"お金のレンタル料"です
から、本来、ゼロになることは不自然です。しかし、そうした極端な政策を行わなけ
ればならないほど、1990年代後半から2000年代初頭、わが国の経済が不調で
あったということです。ゼロ金利政策は緊急避難的な政策であり、経済が正常な状況
に戻った段階で、早期に解除されるべき政策と考えます。

 先ず、ゼロ金利政策によって、どのような経済効果が発生していたかを考えます。
"お金のレンタル料"が極端に低下するわけですから、お金を借りている人、あるいは
これから借りる人には、大きなメリットは発生します。一方、預金金利が大幅に低下
しますから、お金を金融機関に預ける人には不利益が発生します。つまり、お金を金
融機関等に預ける人=預金者から、お金を借りる人=債務者に、所得が移転していた
ことになります。

 一般的に、債務者は企業が多く、預金者は個人が多いわけですから、ゼロ金利政策
は、家計部門から企業部門に所得を移転することによって、経営の苦しくなった企業
を救済したという図式になります。ただ、企業部門の中には、資金を潤沢に持ってい
る企業があります。こうした企業は、金融機関から資金を借りるよりも、むしろ、預
金者の立場になります。そうした企業にとっても、ゼロ金利政策はマイナスの効果が
あったことになります。従って、より正確な表現をすると、ゼロ金利政策によって、
最も大きな恩恵を受けたのは、借入をしているや企業等など言うことになります。

 もう一つ、多額のお金を借りているセクターがあります。それは公的部門です。わ
が国の資金循環を見ると、最大の債務者は国と地方公共団体などの公的部門になって
います。公的部門は多額の公債発行残高を抱え、利払いの負担があります。利払い
は、債券のクーポンによって決まるため、金利水準が低いと、それだけ利払い負担が
減ります。逆に、金利水準が上がると、利払い負担が増えることになります。現在、
長期国債の発行残高は500兆円を越えています。金利水準は1%上昇すると、単純
に考えれば、1兆円近い利払い負担が増加する計算です。今まで、政策的に金利水準
が低く押さえられていたことは、公的部門にとって、極めて大きなメリットと考えら
れます。

 また、国内外の投資ファンドなども、ゼロ金利政策の恩恵に浴していたグループと
考えられます。彼等は、借入等を行って資金を調達することが多いため、わが国のゼ
ロ金利政策は大きな福音です。金融が超緩和の状況にあると、資金を借りることは容
易で、しかも、利払いの負担が軽くて済むからです。特に、海外の大手ヘッジファン
ドなどは、デリバティブ等の手法を使って、日本で調達した安価な資金を、海外の市
場で運用することによって、多額の利益を手にしていたといわれています。

 仮にゼロ金利政策が解除されることになると、基本的には、今までとは逆のことが
起きます。一部の金融機関は、既に預金金利を引き上げ始めたようです。これは、預
金者にとっては大きなメリットです。いままで移転し続けていた所得の一部が、預金
者の手許に残るからです。それと同じように、債券の流通利回りも、徐々に上昇し始
めています。それによって、今後発行される債券のクーポンは、次第に上昇傾向を辿
るはずですから、大手の債券発行者である国や地方公共団体から、債権保有者に、少
しずつ所得が移ることになります。

 それは、利払いを行う国や地方公共団体にとっては、大きなデメリットになりま
す。クーポンが上がって利払い負担が増えると、財政状況がさらに悪化することが想
定されるからです。政府は、2011年までに基礎的財政収支=プライマリーバラン
スを黒字化する計画を作りました。その目標を達成するためには、金利が上がること
はマイナスの効果をもたらします。政府や与党の一部が、日銀のゼロ金利政策解除に
慎重なのは、そうした背景もあるのでしょう。また、ファンドなども資金調達コスト
が上昇する可能性があります。これは、彼らにとっては、マイナスの要因になると考
えられます。

 ゼロ金利政策は、本来、緊急避難的な政策で、人為的に、"お金"という重要な資源
の配分を行う金利の価格機能を限りなく低下させる政策です。資源配分を人為的に、
長期間に亘って歪めることは適切な政策ではないと考えます。1999年2月、ゼロ
金利政策が導入された当時は、そうした政策が必要だったのですが、現在のわが国の
経済を見ると、できるだけ早期に正常化すべきでしょう。その意味では、ゼロ金利政
策の解除は、長い目で見て、わが国の経済全体に重要なメリットをもたらす可能性が
高いと考えます。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部助教授

 ゼロ金利政策が解除されるといっても、まずはコールレートの上昇を日銀として容
認するというだけです。ゼロ金利政策の解除以降の金融政策の動向を見極めなけれ
ば、どの層が利益ないしは不利益を受けるかは自明ではありません。

 つまり、ゼロ金利政策の解除直後は、短期金利が若干上昇するという影響までで
す。確かに、その影響を先取りしてか、銀行の普通預金金利が上昇傾向に転じている
ようですが、それはあくまでも短期金利の範疇に過ぎません。これが、長期国債金利
をはじめとした長期金利の上昇にまで早期に影響が及ぶかは、「ゼロ金利政策の解
除」ということだけでは断言できません。

 この点については、早くも財務省と日銀の間でマスコミを舞台とした駆け引きも垣
間見られます(事務レベルの水面下での動きは別として)。ゼロ金利政策解除を前
に、日銀は長期国債買い入れ額を解除後も維持する方針を示しています。これは、少
なくとも、「時間軸効果」のような短期金利の動向を浸透させて長期金利に影響を与
えるという政策手法からすれば、長期金利が急には上がらないように日銀は対応する
と理解できます。そうならば、今後の国債保有者がゼロ金利政策の解除で直ちに利益
を受けるとは限りません。

 国債保有者と言っても、長期金利の上昇局面では、単純に利益を受けると一括りに
はできません。長期金利上昇前に国債を購入している人・機関からすれば、国債金利
上昇=国債価格下落で、金利上昇後に売却すれば損失を被ることすらあります。売却
しないとしても、機会費用という意味で、国債を購入した資金を、金利上昇前に国債
を買わずに現金で持っていて、金利上昇後により高い利率の国債を購入することで得
られたであろう利益を逸してしまった、という意味で、不利益を被ることになります
(それは、自己責任であり、政策当局を含む他人を責めるべきことではありません
し、それを避けるために政策決定を捻じ曲げることも許されることではありません)。

 先日閣議決定した「基本方針2006」(いわゆる骨太の方針2006)で取りま
とめられた財政健全化策からすれば、国債金利は4%程度を念頭においています。た
だ、この金利水準は、そこまで上昇することを政府が容認したというのではなく、堅
実な財政健全化策を策定するために保守的に設定したと見るべきです。国債金利が4
%程度で推移し、11.4〜14.3兆円の歳出削減を行えば、消費税率に換算して
1〜2%程度引き上げれば、2011年度に国と地方の基礎的財政収支を黒字化でき
るとしています。国債金利がより低い水準で推移すればそれだけ財政負担を軽減でき
るという利益を広く国民が受けることになります。ただ、金融市場を歪めてまで低金
利に維持するべきではありません。それは逆に、金融市場の機能を損なわせたこと
で、国民が広く不利益を被ることになります。

 政府は今後の財政健全化策を示しました(その具体的対処は今後さらなる詰める必
要はありますが)。次は、日銀が今後の金融政策についての明確な方針を示す番で
す。単に「ゼロ金利政策の解除」だけを宣言しただけでは不十分で、今後の政策方針
も合わせて明確に(曖昧な文学的表現ではなく)示さなければなりません。財政政策
は(内容はさらに詰める必要はあるにしても)2011年度に基礎的財政収支の黒字
化というスケジュールを示した(ついでにいうと、日銀総裁は経済財政諮問会議のメ
ンバーとしてこれに関与された)のですから、今後の金融政策は諸般の情勢を勘案し
て、などという場当たり的な対応では、日本経済を健全に導くことはできません。こ
れまで日銀が忌避してきたターゲット等にもコミットして、今後の金融政策のスタン
スを明確に示す必要もあるかもしれません。そうすることで、日本経済をよりよくす
ることができるとともに、どの層が利益を受け、どんな層が不利益を被るかもさらに
明確になることでしょう。

                    慶應義塾大学経済学部助教授:土居丈朗

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 日銀によると、超金融緩和によって、1990ー2002年に企業の利払い負担は
250兆円減少した一方、家計の受取利息は1993年以降の10年間で154兆円
減少しました。ゼロ金利は純負債を持つ政府や企業にプラスだった一方、家計にマイ
ナスに働きました。家計は2005年度末に1.115兆円の金融純資産を持つた
め、金利が0.25%上がれば、単純計算で2.8兆円(雇用者報酬の約1%)の所
得が増えることになるので、利上げは家計消費にプラスとなるでしょう。

 逆に、政府部門(中央・地方政府+公的企業)は743兆円の純負債を持つため、
金利が0.25%上がれば、1.9兆円利払いが増えます。民間事業会社も453兆
円の純負債があるため、0.25%の金利上昇は、1.1兆円の利払い増加につなが
ります。政府首脳に日銀の早期利上げを牽制する発言が多かったのも、デフレへ逆戻
りするリスクを恐れたばかりでなく、利上げの政府予算への悪影響を恐れたからかも
しれません。

 このように金利上昇の主体別影響を考えれば、家計にプラス、政府や企業にマイナ
スということになります。各種アンケート調査で、福井日銀総裁に対する批判が根強
いにもかかわらず、利上げを歓迎する声が多いのは、一般の人が預金の利息収入の増
加を歓迎しているためでしょう。家計は企業部門より景気回復の波及効果が遅いとい
われますが、過去最高の利益をあげる上場企業に対して、家計もようやく給与上昇や
利息収入の増加を通じて、景気回復の果実を味わえるような状況になってきたといえ
ます。

 上記は金利上昇の一次効果のみを単純化して考えたもので、実際の影響はもっと複
雑で、二次効果や動学的影響も考慮する必要があります。金利も、コールレートの上
昇に対して、中長期の金利がどの程度上がるかによって、影響が異なります。日銀が
直接的に操作できるのは短期金利のみですが、市場で決まることが多い中長期ゾーン
の金利は、日銀の金融引き締めを見越して、既に上昇に転じています。国債市場は海
外経済・市場の影響も大きいため、10年国債利回りの大底は2003年6月の0.
45%(世界の歴史上の最低金利)と今から3年も前でした。

 企業でも、いわゆる優良企業は、ネットキャッシュ状態(保有金融資産が金融負債
を上回る状況)の企業が多いため、利上げの恩恵を受けます。輸出企業は、日銀の利
上げと米国の利上げ打ち止めが円高につながれば、悪影響を受けます。小売、不動産
・建設、その他金融、中小企業などでは負債比率が高い企業が多いため、利上げの悪
影響を見越して、最近株価が下落した企業が多く見られました。電力や電鉄会社は長
期固定などの借り入れが多いため、借り換え時期が来るまで悪影響は免れる一方、不
動産会社は3ー5年のノンリコースローンへの依存度が高いため、悪影響を受け始め
ています。ただ、不動産会社は賃料の上昇で利払いの増加を相殺できる企業も少なく
ありません。銀行は利上げ局面で、利鞘が拡大することが多いため、プラスの影響を
受けます。

 個別事情によって利上げの影響が異なるのは家計も一緒です。住宅ローンを抱えて
いれば、利上げの影響はマイナスです。年齢別の貯蓄・負債状況を見ると、40歳代
前半までは負債が貯蓄を上回る状況である一方、高齢者ほど純貯蓄が多なっていま
す。利上げは高齢者に優しい政策といえましょう。このように利上げの効果は複雑で
すが、一般的には家計にプラスで、政府・企業にマイナスと結論づけられます。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 岡本慎一  :生命保険会社勤務

 まず、物価と所得移転の関係を整理するために、企業が100万円を1年間5%で
借り入れ、10%の収益が得られるプロジェクトを考えます。この企業は100万円
を借り入れ1.1万円で売れる商品を100個作ります。計画通りなら、収益が10
万円で利払い費が5万円となり、5万円の利益を得ます。しかし商品価格がデフレに
より10%下落し1万円になると、この投資の1年後の利益はマイナス5万円です。

(デフレで)製品価格が低下したとき、お金を貸した銀行は貸出先企業が潰れない限
り、5万円の返済を受け取れます。5万円の返済価値を投資先企業の製品価格で計測
すると、価格下落前は5÷1.1=4.5の価値でしたが、価格下落後は5÷1=5
と増えることになります。

 この例はデフレになると債務者である企業の儲けが小さくなる一方で、債権者であ
る銀行が受け取る実質価値が大きくなることを示します。デフレ下では基準物価で測
定した相対的な価値が「お金の借り手から貸し手へ」へ移転されるのです。

 また、雇用や賃金が守られている人にとってデフレは心地良いものです。モノやサ
ービスが安く買える一方で自分の所得は減らないのですから。しかし経済全体で考え
れば「安く買える」ことを支えている人(企業)がいることになります。デフレにな
ると企業は生き残るために売値を下げ、売値を下げても利潤を保つために賃下げや雇
用カットを行います。つまり、デフレは雇用や賃金が確保されている人にとっては心
地よく、雇用や賃金が不安定な人にとっては苦しいものとなります。

 さて、今回のゼロ金利解除を金利上昇という現象面だけで捉えれば、預金を持って
いる人の収入が増え、住宅ローンを抱えている人の負担が増えます。しかし、もっと
大きな影響は今後の経済がデフレに逆戻りするか否かです。2000年8月にも日銀
はゼロ金利解除を実施しましたが、その後デフレが急速に進み、結局「お金の借り手
から貸し手へ」へ、そして「雇用が不安定な人から雇用が守られている人」への大き
な移転が発生しました。

 今回もゼロ金利解除によってデフレ経済に逆戻りするとはいえませんが、利上げは
明らかに引き締め圧力を持っていることを認識することが重要でしょう。金利が適正
水準に戻ることは好ましいことですが、拙速な金融引き締めは将来的なデフレと激し
い低金利を生み、結果的に大きな所得移転を生みます。ゼロ金利解除で発生する損得
よりも、解除後の物価の動きで更に大きな損得が発生することが重要だと思います。

                         生命保険会社勤務:岡本慎一

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 ■ 津田栄   :経済評論家

 8日大手新聞で13・14日に行なわれる日銀金融政策決定会合で、ゼロ金利政策
が解除される運びになると報じられ、それを見越して既にマーケット、企業、金融機
関、個人などはその対応に動き始めています。それは、利益を得たい、あるいはでき
るだけ負担や損失を避けたいと思っての動きです。

 そもそも、金利は本来資金の需給関係で決まりますが、デフレ経済下では、先行き
の物価に対する期待・不安により物価下落が続き、資金を貸し付けるよりも保有して
いる方が価値が高いとみて、資金需要がなくなるだけでなく、資金の供給も控えら
れ、さらに回収する動きとなったため、日銀は無担保コール翌日物金利をゼロに持っ
ていき、さらに量的緩和により大量の資金を供給することでゼロ金利のもとで資金の
需要を回復させようとしてきたのが、3月までの金融政策でありました。

 そして、日銀は、ようやく堅調な設備投資、雇用環境の改善などから資金需要が回
復したと判断して、量的緩和政策を解除し、14日ゼロ金利政策の解除を決定したと
いえます。今回、ゼロ金利政策の解除の是非を後に述べるとして、実際行なわれた場
合、引き上げ幅は0.25%との予想が大方の見方でしたが、実際そうなりました。
これだけの幅であれば、長短の金利が若干の上昇にとどまって、経済にはそれほどの
大きな影響がないと見られています。

 しかし、実際、市場はその先を読んで動きます。先行き、もしかしてもう一段の金
利引き上げがあるのではないかと不安が広がれば、債券が売られ、金利がさらに上昇
することもありえます。そうなれば、日銀やエコノミストなどが予想した以上に経済
に悪影響を与えかねません。そして、ここに来て今回で終わらず、年内もう一回の引
き上げがあるのではないかという見方が台頭しているのが気がかりです。その点で、
日銀は、国民に理解できるようにゼロ金利政策解除の決定の理由を丁寧に説明し、次
の引き上げを含めた金融政策の基準や見通しを明確に打ち出すことが求められます。

 ところで、金利は、資金の貸し借りにおける使用料(賃借料)といわれます。その
意味で、資金の貸し手となる預金者は使用料をもらうことから、金利が上がれば使用
料を多くもらえて利益を受け、資金の借り手である債務者は、逆に使用料を払う立場
なので、金利が上がれば使用料も多く払わなければならず、不利益を被ることになり
ます。つまり、お金を持っている人にとってみれば金利は利益を生み、お金を借りて
いる人にとってみれば、金利は負担となって、不利益に当たります。

 さて、ゼロ金利政策が解除されることで金利が上がることになれば、単純化して、
お金を借りる企業、住宅ローンなどで借金する個人などが不利益を被り、貯蓄してい
る個人や年金受給者などは利益を受けるといいます。また国債や地方債をこれから
発行する政府部門はクーポン(利率)が上がるので不利益だが、その国債や地方債を
これから買う人は利益だという見方が一般的です。そして、総じて家計である個人に
は利益、政府、企業には不利益ということになります。

ただ、もっと詳しく見れば、企業も、個人も、政府も、一概に一様ではない上に、
金利上昇の経済への影響の経路を考えると、利益が得られる層も最終的に不利益を被
ることもありえます。つまり、そんな単純なものではなく、今回のゼロ金利政策の解
除で利益を受ける層、不利益を被る層とはいっても一概にきれいに分けられません。
個人、企業、地域の事情により、また対応の仕方により、あるいは回りまわって利益
が不利益になってみたりで、異なってくるのではないかと思います。

 まず、企業サイドでは、金利上昇により、設備投資のコストが上昇し、長期借入金
などの債務を抱えていればその支払い債務の上昇につながり不利益を被ります。ま
た、金利上昇によるコスト増から収益が減少し、また生産コスト上昇もあいまって設
備投資が抑制される恐れがあります。その結果、設備投資関連企業の業績は悪化する
かもしれません。もちろん、日銀は旺盛な設備投資を気にして、それがバブルを生む
のではないかと恐れているために、今回のゼロ金利解除への判断につながっていると
も言われています。

 しかし、全ての企業がそういうわけではありません。預金している企業もあり、そ
こから利子が得られます。一方、大企業と中小企業との間で、資金調達の方法が異な
り、金利上昇に対するリスクに差が出ています。大手企業は金融機関に対して中小企
業に比べて交渉能力が高いので、金利交渉も有利に進められます。

 特に上場企業は、その信用力を利用して社債発行や新株発行による公募増資など、
低利で資金調達を図ることが可能であり、最近この動きが加速しています。しかし、
中小企業では、金融機関からの融資が大半ですから、金利上昇の影響をそのまま受け
ることになり、収益は大手、上場企業に比べて悪化の度合いが大きいといえます。

 さらに、地方では、中小企業が大半な上に、東京などと異なり、依然土地価格は下
落するデフレ状況にあります。しかも、金利上昇による土地価格の下落は、東京は別
にしても、地方でさらに高まって緩やかになったデフレがまた進む恐れがあります。
つまり、土地担保主義を基本とする金融機関にしてみれば、倒産リスクを考え、金利
上昇により増加する資金コストを転化することを考えると、地方における中小企業へ
の貸し出しはさらに一段と厳しくなることが予想されます。

 個人においても、金利上昇により受取利子が支払利子を上回っているからといっ
て、楽観はできません。金利上昇による企業の収益悪化は、設備投資の抑制だけでな
く、雇用面にあわれてくる可能性があります。また、住宅取得する個人がローンを組
むことが大半でしょうから、当然、金利負担が増え、不利益を受けると同時に住宅を
買うことを控えることになれば、住宅関連企業の業績にも悪影響がでましょう。すな
わち、改善傾向が見られている雇用や賃金が抑制されるという形で、家計の所得へマ
イナスに働くこともありえます。

 そうなれば、結局、金利上昇が家計にプラスになるのかどうか判断するのは早計の
ように思います。一方、定年退職し、貯蓄のある高齢者には、金利上昇の恩恵がある
という見方もありますが、最近高齢者への社会保険や税金などで負担が急増してい
て、貯蓄を取り崩す動きがこれからでてくることも予想され、簡単に利子収入増によ
る利益を受けると言い切れるのか難しいところです。

 もう一つ、金利上昇が為替・証券市場を通じて、影響がでてきますので、為替が円
高に振れるならば、輸出企業にとってみれば、円高になった分収益に悪影響がでるで
しょう。また、株式市場にとって見ても、金利上昇は株式の変動リスク、ボラティリ
ティを高めますので、その影響から株式の下落につながり、個人や法人、年金などの
資産を悪化させることになる可能性があります。また、金利上昇は不動産の需給悪化
につながりますから不動産価格も低下する恐れが高まります。その結果不動産などを
保有する個人や企業には資産悪化につながり不利益を受けることになります。

 政府部門においては、国の国債発行残高が今後増える中でその金利負担は増加する
のは当然です。また、地方政府の発行する地方債についても同じことが言えます。し
かし、地方においても財政状況に格差が開いている中では、金利上昇による不利益に
も差が付くことになります。もちろん、地方財政をいかに改善するかによってもその
差を縮めることができますから必ずしも大きな差になるかどうかはいえません。ただ、
ヒト、モノ、カネを吸収している東京など都市部の財政に比べ、地方の財政は悪化し
ているのが大半で、そのため、地方債の増加から金利上昇の不利益は大きくなるとみ
られます。

 その結果、国の金利負担の増大は最終的に国民の負担として行政サービスの低下、
増税などの形で将来転嫁されてきます。このことは、地方政府の場合にも当てはま
り、そこの住民の負担として発生してきます。そして、地方政府の財政赤字が大きい
ところほど、その住民の将来負担は大きくなります。それは以前の福岡の赤池町、先
月の北海道夕張市のような財政破綻となる自治体が、この金利上昇で増え、その不利
益を住民が負うことになります。そこには、不利益の程度に差が生じるということに
なります。そして、個人が所属する地域経済社会での負担を考えると、本当に利益が
あると喜んでいられるか、確かではありません。

 このようにみてくると、ゼロ金利政策の解除による金利上昇は、確かに表面的には
個人(家計)には利益、国や企業には不利益になるといえますが、もっと詳しく見て
いけば、金利上昇はいろんなルートを経て経済に影響を与え、その結果、直接的に利
益を受けても、回りまわって不利益が顕在化するときがあって、簡単に利益享受、不
利益負担と分けられるものではないといえるのではないでしょうか。

 最後に、個人的に、今回のゼロ金利政策の解除は、するべきではないという立場に
います。日本経済のデフレ解消は東京など一部都市部だけで、地方ではデフレは依然
解消していないのが現状です。また、日銀の7月地域経済報告では、半数近くの地域
はむしろ悪化している状況です。そして株式市場、国際情勢が不安定になり、解消す
る見通しが立っていません。しかもアメリカ経済にも変調の兆しが見られ、ここで急
いでゼロ金利解除を行なう必要はないというのが理由です。もう少し様子を見てもイ
ンフレが起きる状況ではなく、量的緩和政策の解除からゼロ金利政策解除までの矢継
ぎ早の決定は、あまりにも拙速のように思います。

 もちろん、金融政策は日銀の専管事項ですから、その決定は尊重します。ただ、村
上ファンドへの投資で国民の信用が揺らいでいる日銀総裁であるだけに、経済が思い
がけない結果になったときは、福井総裁をはじめとする政策委員はその責任がものす
ごく重いということを自覚していると期待しています。

 そして、そうした中で企業、個人、地域の間の経済格差が拡大したままでの状況
(貯蓄がゼロの家計が23%という調査結果があるように、どの面でも格差は二極化
し、しかも底辺が拡大していることがもっと大きな問題)での金利上昇はさらに格差
を助長させ拡大させるのではないかと危惧しています。その意味で、日本の経済は質
的に改善し強くなったという見方もありましょうが、個人的には、むしろ日本全体を
見回したとき、都市部など一部に全ての資産が集中した経済であって、ひとたび世界
経済が変調をきたした時のショックは、これまで以上に大きくなるような気がしま
す。その意味で、経済の危機管理からしても、都市部など一極集中経済はリスクを増
大させており、その質的変化は、日本経済の脆弱性を内包させた危ういものといえま
す。

                             経済評論家:津田栄

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 ■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 日銀がゼロ金利政策の解除に踏み切った背景としては、国内では景気回復基調が定
着し企業の設備投資や不動産投資などが盛り上がりを見せると同時に、原油などの国
際商品市況が高騰するなかで、金利引き上げにより投資行動を牽制し景気の過熱を抑
えるとともに、物価動向が不用意にインフレに転じるリスクを回避する必要性を認識
したためでしょう。また一方で、海外の景気動向については、米国経済が継続的な利
上げの効果により景気減速の兆候を見せるなど、これまでの拡大基調から流れが変わ
りつつあります。そこでは、早期に国内の金利環境を正常化させることにより、今後
の金融政策の裁量の余地を確保しておこうとの企図もあると思われます。

 要約しますと、日銀はゼロ金利政策の解除により、これまでの景気回復基調の定着
に軸足を置いた金融政策から、インフレ抑制と同時に景気の過熱を抑え持続的な成長
に向けた金融政策に舵を切ったと言えます。このように、中央銀行である日銀は、短
期金利を操作する手段と権限しか与えられていない立場でありながら、物価を管理
し、 健全な経済成長を担保する責任を負わされています。

 ハイパー・インフレーションなどの極端なインフレに対しては、通貨供給量の管理
が効果的であり、通貨発行権を持つ中央銀行が物価変動をコントロールする責任を負
うアンカーとしての役割を担うのは理に適っています。また、一般的なインフレに対
しても、短期金利の引き上げや金融引き締めなどの金融市場政策は十分な有効性を持
つと考えられます。

 ただし、インフレ抑制には常に、その代償として経済成長をどの程度犠牲にするこ
とができるか、という問題が伴います。従って、中央銀行は物価動向と景気動向を秤
にかけながら、政策金利の変更を含めた金融市場政策のオペレーションを行っていく
ことが求められることになります。

 そこで問題となるのは、中央銀行は企業設備投資や住宅建設などを通じて景気動向
に影響を与える長期金利の水準を完全にはコントロールすることができないことで
す。

 長期の資金調達は経済の健全な成長の基盤となる投資を支えており、長期金利の過
度の上昇は一時的な経済成長の減速だけではなく、長期的な経済成長のあり方にも影
響を与えるものです。こうした長期金利の動向は債券市場の需給に大きく依存してお
り、供給面では国債の発行額、需要面では日本の場合は主に金融機関のバランス・シ
ートの状況に依存しています。つまり、長期金利の動向は、金融政策の直接の利害関
係者に人質に取られているのも同然と言えます。

 特に、国債の発行額については、直接は財政当局、実質的には予算を決定する政府
・与党が権限を持っており、そこには、経済成長を優先しがちな政府・与党との葛藤
が生じます。政府にとっては、経済成長は税収増をもたらす上に、ある程度の範囲で
あればインフレ傾向は税収増と同時に債務負担の軽減をもたらします。従って、金利
の引き上げによる、景気過熱の牽制、インフレの抑制、さらには国債発行の金利負担
増加のいずれもが、直接的かつ短期的には政府の利害に反することになります。

 また、政府が財政規律を維持することができれば、長期金利の抑制に有効ですが、
政府は財政規律の見返りに中央銀行には金融緩和を要求することがしばしばあり、こ
れも一筋縄ではいきません。

 このように、中央銀行が物価を管理すると同時に、健全な経済成長を担保する責任
を果たすことは、矛盾を抱えた極めて困難な作業と言えます。

 しかし、こうした中央銀行と政府の金融政策を巡る潜在的な利害対立の一方、一般
の国民、特に社会の健全な背骨である中産階級にとってインフレは有害な存在である
ことを確認しておく必要があります。

 インフレのもたらす影響はゼロサムであると言われる一方で、その本質的なリスク
は、意図しない資産格差の拡大など、社会的なフェアネスやモラルへの脅威と言えま
す。インフレが与える影響は、資産の多くを不動産や保有企業などの実物資産として
保有する富裕層階級や、逆に資産をほとんど保有せず「手から口」で生活する下層階
級などと、中産階級とでは一様ではありません。実際、ハイパー・インフレーション
を経験した中南米などでは、資産の多くを金融資産として保有する中産階級のインフ
レによる没落を招いたことが、ポピュリズムの台頭など政治を不安定化させ、経済混
乱に拍車をかけました。

 また、経済的にはインフレの本質は価格に関する不確実性であり、インフレ抑制と
物価管理の目的は、価格に関する情報コストを引き下げることにあります。つまり、
コストと所得の計画化に際しての不確実性を減じることで、消費者や企業が自信を持
って消費や投資を行えるようにし、社会の生産性を上昇させようというものです。

 このように、当然ながら中央銀行の金融政策による物価管理は重要な機能であり、
独立性によって担保されるべきものです。しかし、インフレは必然的に国民間の所得
の再分配を伴うものであり、国民の審判を経ていない存在である中央銀行が、国民間
の所得の再配分に恣意的に関与するのは好ましくないと考えます。

 そこで、インフレ・ターゲット制を導入することによって、中央銀行にインフレ・
ターゲットを設定・公表させ、その金融政策の決定過程までも開示させることで、こ
うした中央銀行に対して強い規律を要求することが有効だと考えます。同時に、イン
フレ・ターゲットの導入と引き換えに、健全な経済成長を担保するとの責務に関して
は一定の免責を与えることも必要ではないかと思われます。

                外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

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 ■ 山崎元  :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 ゼロ金利政策の解除は、単に資金の貸し手(預金者など)と借り手(借金をしてい
る企業や政府など)の間に生じる直接的な損得だけではなく、複数の経路で国民の損
得に影響します。波及の経路は、二次的、三次的なもの迄を含めると、相当の数にな
るはずですが、影響の大きいものを上げると、(1)資産価格への影響、(2)景
気・雇用への影響、(3)負債の価値への影響、(4)貸し借りの価格への影響、の
四つを挙げることができるでしょう。

 ゼロ金利の解除とは、大雑把にいうと、当面、短期の資金市場の金利をゼロから
0.25%にするだけのことなので、このことだけの直接的なインパクトは大きくあ
りませんが、今後の短期金利の上昇を見越して長期金利が上昇する公算が大きく、こ
の場合、長期の債券の価格は大きく下がり、また、これは、他の条件を一定とする
と、株価に対してもネガティブに働くことになります。また、理屈上は、不動産価格
に対してもネガティブな材料なので、ゼロ金利政策の解除が無かった場合と比較する
と、これらの資産を多額に保有している人たちは損をした、と考えることが出来るで
しょう。

 また、もともと、ゼロ金利政策は、景気とこれに連動すると考えられる雇用状況の
改善のために採られていた政策であり、これを解除するということは、少なくとも短
期的には、景気や雇用に対して抑制的な影響を与えていると解釈することができま
す。ここのところ、失業率は低下、有効求人倍率が上昇するなど、雇用情勢は改善し
ていますが、まだまだ失業者は多数存在し、彼らに対しては、現段階でのゼロ金利解
除は「厳しい政策」と言うことができます。また、現時点で失業していなくても、労
働市場の需給に賃金が影響を受ける層にとっては、ゼロ金利解除が無い方が、賃金が
高かった筈だと言うことができるでしょう。

 資産市場のバブル、あるいは設備などの過剰投資の長期的悪影響は大きなものであ
り、その場合に、経済的弱者は特に悲惨な状況を迎えることは、1990年代に経験
したところであり、「バブルでもいいから、もっと景気を拡大的な金融政策を採れ」
とは言いにくいところですが、景気・雇用の情勢という面からは、ゼロ金利解除は、
雇用市場の弱者や、資金繰りの苦しい中小企業などにとって、「マイナス方向の変
化」であることを認識しなければならないでしょう。

 先ほど、第一に、資産価格に対する影響を挙げましたが、割合に見落とされやすい
けれども、大きな影響が、負債の現在価値に対して存在します。年金や生命保険のよ
うな、長期的な将来の支払い義務がほぼ確定している仕組みにあっては、将来の債務
価値を現在価値に割り引く金利が上昇することは、経済効果として、債務の実質的な
軽減を意味します(現在の資産の運用利回りが上がることはプラスに働く)。たとえ
ば、厚生年金基金のような経済主体の場合、金利1%の上昇は、債務の現在価値の2
割程度の縮小を意味します。

 個人の場合、たとえば、固定金利で長期の住宅ローンを借りていた人は、物価のイ
ンフレ傾向によって所得が改善しているにもかかわらず、金利が上昇しないので、こ
うした人は得をしているようにも見えますが、ゼロ金利解除それ自体は所得にとって
はマイナスに働く方向の政策であり、また、住宅ローンの場合には、資産として持っ
ている住宅価格に対する悪影響が大きいかも知れないので、固定金利のローンだから
といって、ゼロ金利解除を喜ぶことはできません。

 そしてもちろん、預金金利が上昇することで預金者が得をし、借入金利が上がるこ
とで借り手が損をする、という、長短の金利の変動そのものがもたらす損得がありま
す。ちなみに、ゼロ金利政策解除の観測が高まった先週の月曜日に、銀行の株価が大
幅に上昇しましたが、これは、ゼロ金利解除で、銀行から見て貸し出しの金利は早期
且つ大幅に上昇するものの、預金金利は小幅ないしゆっくり上昇するだろうから、銀
行の収益が好転するという観測に基づくものでした。預金と貸し出しの金利変動の時
間差による損得は、一方的に拡大するものではないのですが、金利水準全体の変動
は、金融仲介をビジネスとする主体の収益機会になりやすいといえるでしょう。

 ここで、「損得の合計」ということを考えると、ゼロ金利解除は、(2)を考える
と、経済活動の縮小方向への政策であるだけに、少なくとも短期的には、マイナス方
向の影響の方が大きいでしょう。この環境で相対的に得をするのは、雇用と給与が安
定していて、固定金利で住宅ローンを借りていて、株式などでは多額の運用を行わな
い、堅実な公務員のようなイメージの人たちでしょう。彼らは名目所得が安定してい
るので、仮に日本がデフレに逆戻りしても、むしろ実質所得を増やすことが出来る立
場にあります。もっとも、問題が損得であるだけに、特定の層の損得に基づいて、ゼ
ロ金利政策の解除が、いいとか、悪いとか、を判断することは、客観性を欠きます。

 ちなみに、今回の政策によって、損得が最も注目されている個人であるかも知れな
い、福井俊彦日銀総裁の場合、報道されているような資産をお持ちだとすると、株式
(キッコーマン、新日鐵、富士通、三井不動産、商船三井。なかなかお上手な分散投
資です)や投資信託、外貨預金(こんなものまでお持ちだったとは)にとっては、量
的緩和政策とゼロ金利政策の解除はマイナスに働きましたが、2月に解約を申し入れ
たと報じられており、6月には解約されたと推測される、村上ファンドへの出資金に
ついては、解約の申し入れという「運用行為」が、ご本人にとって有利に働いていま
す。もちろん、これは、結果的に有利になっていなくとも(金利以外にも株価に影響
する要因はありますが)、日銀総裁の行動として不適当です(サッカーでいうと完全
にレッド・カードです)。世間から疑念を持たれる行動という意味で、現行の内規に
照らしても十二分に拙いでしょうし、目下、日銀が内規の見直しに動いているという
こと自体が、総裁の判断が不適切であったことの分かりやすい証拠です。私は、遠か
らず福井総裁が辞任されるだろうと推測していますが、このような「恥さらし」状態
で金融政策に関わる時間は、少しでも短い方が、ご本人にとっても国民にとってもい
いことだろうと思っています。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 <http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/>

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 単にテクニカルに短期金利を上げるだけであれば、銀行の預金者に金利が少し付く
ようになり、貸し出しのレートが多少上がることになるでしょう。貯蓄の主体であ
る、家計・個人の受け取りが増えて、これからの借り手である企業や政府の利息の支
払い分が増えることになります。仲介する銀行もたぶん多少利鞘を拡大するでしょ
う。ただ、個人のレベルでも、二極化と言われるような資産や所得の格差がはっきり
してきた社会を前提とすると、単純に個人の預金者が利益を得ると結論づけることは
難しいかと思われます。

 高齢層といえば、確定した年金の受給権とある程度の資産をもち、年金収入と副収
入として給与所得が少しばかりあるといるのが平均像かと思われます。しかし、デフ
レの過程で階層化が進み、貯蓄が数千万円から数億円にのぼる層と、ほとんど貯蓄が
ない層に分化が進んだことが伝えられています。例えば、5千万円の貯蓄があれば
0.5%利率が上がれば、年間25万円利子収入がふえることになりますが、貯蓄ゼ
ロの人にはこの恩恵は及びません。その人が年金収入しかない人であれば、物価下が
るデフレ状態の方が、実質所得は増えて有難かったはずです。その人が最下層の無年
金者で働かなければ暮らせないような人なら、インフレであろうと好景気で仕事が見
つかるかどうかが、最大の問題であるはずです。

 若い世代は、金利上昇で重くなる住宅ローンの負担もありますが、資産や年金の受
給権の積み上げの真っ最中で、それ自体が今後の景気状況に依存しますから、高齢層
に比べるのなら、今後の景気がよければ単純にポジティブに考えてよい世代だと思わ
れます。若年の非正規雇用拡大の問題(ニート問題)も、雇用情勢が上向きに転じた
ことをうけ、あまり話題にならなくなりましたが、これも景気が上向いてきたからこ
そ改善しているのであって、デフレが続いているのであれば、ままならなかったこと
でしょう。

 今回の、日本銀行のゼロ金利解除の動きに関しては、政府自民党の方から、その動
きをけん制するともうけとられる発言がなされていました。政府与党としては、ゼロ
金利でかろうじて支えられているデフレ気味の経済のなか、ゼロ金利解除とともにデ
フレ逆戻りのリスクがあるという認識がある限り、この政策を続けてもらいたいと思
っていたことでしょう。

 政府部門の財政赤字をファイナンスするために、金利は低いにこしたことはありま
せん。インフレがコントロールできなくなる事態は困りますが、名目の経済成長率が
高くなることが、財政再建の必須の条件です。脆弱だった金融システムも公的資金に
よる信用補完と、ゼロ金利により、コストが限りなくゼロに近い資金を注入されるこ
とにより、やっと機能を維持してきました。ニート問題とか、少子高齢化といった、
社会的な問題に取り組むときも、デフレ経済を前提とした処方箋を書くのはむずかし
いとおもわれます。

 伝家の宝刀である金利政策の裁量を自らの手に回復するためにも、日銀としては物
価上昇が続いている限り、当初の予定通りゼロ金利をひとまず解除することに大きな
意義があったのだと思われます。この日本銀行の立場も十分な理由があるのだと思い
ます。

 日本経済の基礎体力はまだ脆弱さをかかえているとするのなら、デフレに逆戻りす
る懸念が大きくなったり、あるいは、階層化した社会の一部が負担に耐えられなくな
ったとき、再度ゼロ金利に戻るぐらいの柔軟性が、今後の日銀の金利政策のポイント
だと思います。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:719への回答ありがとうございました。先週から箱根にこもっています。
「カンブリア宮殿」の収録、それに海外取材などが重なると、積極的かつ効率的に小
説を書く時間を確保する必要に迫られます。箱根には、『半島を出よ』で延べにして
200日ほど滞在したので、ここに来れば、自動的に脳が小説執筆モードになりま
す。ただしそういう状態は単なる「作業の前提」なので、そのあとも独特のエネルギ
ー消費が続きます。でも作品と自分しかない世界というのは嫌いではありません。

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Q:720
 先週は日銀のゼロ金利解除が大きなニュースとなりました。そもそも中央銀行の金
融政策とは、経済活動にどのような影響力を行使できるものなのでしょうか。金融政
策によって可能なことと、金融政策では不可能なことが、ある程度明らかになればと
思います。

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====

                                   村上龍

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JMM [Japan Mail Media]                 No.384 Monday Edition
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部(2005年8月1日現在)
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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