★阿修羅♪ > 国家破産47 > 439.html
 ★阿修羅♪
JMM [Japan Mail Media]  デイトレーダーとして成功する条件と、そのリスクとは? 
http://www.asyura2.com/0601/hasan47/msg/439.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 8 月 07 日 19:42:42: ogcGl0q1DMbpk
 

                            2006年8月7日発行
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JMM [Japan Mail Media]                 No.387 Monday Edition
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

▼INDEX▼

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第387回】

   □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
   □北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
   □三ツ谷誠  :金融機関勤務
   □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
   □岡本慎一  :生命保険会社勤務
   □津田栄   :経済評論家
   □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
   □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
   □金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 ■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 Q:721への回答ありがとうございました。7月29日日曜日のNHKの夜7時
のニュースのトップは「梅雨明け」でした。イスラエルによるレバノンの空爆のニュ
ースは扱いが4番目か5番目でした。このニュース番組を見た子どもたちは、イスラ
エルとレバノン(ヒズボラ)の戦争より「梅雨明け」のほうが日本人にとっては重要
なのだと思うでしょう。日々そういった刷り込みを受けている子どもたちに向かって、
ある日突然校長先生が壇上から「人の命は何よりも大切です」と訴えても、切迫感に
欠けます。大手既成メディアはそういったことに無頓着のように見えます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第387回目】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
====質問:村上龍============================================================

Q:722
 インターネットでのデイトレーディングが相変わらず盛んなようです。デイトレー
ダーとして成功する条件、またデイトレードのリスクについても教えていただければ
と思います。

============================================================================
※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 最近、パソコンの前に座って株式の売買を繰り返す、いわゆるデイトレーダーと呼
ばれる投資家が増えていると聞きます。それに伴って、株式市場での売買高は、加速
度的に増加した時期がありました。また、個人投資家向け雑誌で、デイトレーディン
グで多額な利益を上げたという特集などが組まれているようです。デイトレーダーに
対する関心は、かなり高まっています。こうした現象を見て、私は、「個人投資家に
誤解をして欲しくない」と思います。

“デイトレーディングで多額の利益を上げた”という例が紹介されると、それを見た
人が、「リスクさえ取れば、誰でも簡単に、儲かる」と思ってしまいがちだと思いま
す。しかし、実際にデイトレードで利益を上げ続けることは、とても難しいことです。
特に、長い期間、安定して、デイトレーディングで利益を上げることは、プロのディ
ーラー連中でも至難の業です。私自身、金融機関でディーリング業務を行ってきまし
たが、一定の期間以上、利益を出し続けるのは本当に難しいということを身にしみて
理解しています。

 デイトレードで利益を上げ続けることが難しい主な理由は、人間の心理にあると思
います。相場が上がってくると買いたくなり、下がると売りたくなる。それが、一般
的な人間の心理です。しかし、考えてみると、それでは、いつも高値を買って、安値
を売ることになりかねません。また、相場が自分の思った方向と反対に動くと、含み
損が発生します。含み損が発生すると、人間は、どうしても、かすかな希望を頼りに、
“損切り”=ロスカットすることが出来ず、ポジションを持ち続けるケースが多いと
思います。

 相場動向にもよりますが、そうしたディーリング手法では、安定的に利益を上げる
ことは困難です。こうした人間心理は、個人投資家に限らず、プロのディーラーでも
同じです。金融機関のプロディーラーが、颯爽とディーリングを行い、常に利益を上
げているかといえば、そうではありません。市場を相手にディーリングを行っている
ディーラーの中で、本当に儲かっている人たちは、ほんの一握りと考えてよいでしょ
う。それほど、ディーリングで利益を上げ続けることは難しいのです。

 ただ、ほんの僅かではありますが、利益をコンスタントに上げているディーラーも
います。私が見てきたプロのディーラーにも、何年間も利益を上げ続けている人がい
ます。そうした人たちを見ていると、色々なタイプがいますが、その中にいくつかの
共通点があるように思いますが、一つは、しっかりした経済の見方を持っていること
です。金融資産の価格は、中・長期的に見ると、経済のファンダメンタルズ=基礎的
要因に大きく影響を受けるはずです。経済の先読みが出来る人は、それだけ相場動向
を予測するができることになります。

 二つ目は、しっかりした自分の考え方を持っているケースが多いと思います。“あ
の人がこういった”、“有名ストラテジストが、ああ言った”ということに、殆ど関
係なく、自分の景況感や相場観を持っています。正しいかどうかわからない、他の人
の意見に影響されて売買を繰り返していては、儲け続けることは出来ないでしょう。
多少、天邪鬼といわれても、自分の考えに基づいて、相場を張っていくことは必要で
す。

 そして最も大きな要素は、“損切り”が出来ることです。相場が予想した方向に動
かなかった場合、含み損が発生します。多くの人は、それを迅速に処理することが出
来ず、結果的に大きな損失になってしまうことが多いと思います。短期のディーリン
グを行う人たちにとって、損切りを迅速に行うことは、最も大切な資質といえるかも
しれません。私の知る“儲け続けられるディーラー”は、例外なく、恬淡として、ロ
スカットをすることが出来ます。それは、普通の人から見ると、実に見事です。その
他にも、敏捷性など変化に対する行動の速度を、重要な資質に上げる人は多いようで
すが、それは、「意外と必須の要件ではない」というのが私の印象です。

 デイトレーダーのリスクですが、これは、相場を張る投資家すべてに共通するもの
だと思います。相場にのめり込んで、冷静さを失い、考えられないくらいに損失が膨
らむことです。最近は、信用で株式の売買を行ったり、先物などのデリバティブを使
うことが多くなっています。こうしたケースでは、どうしても損失額が膨らむリスク
が高いでしょう。

 もう一つのリスクは、デイトレードを仲間と一緒に行う場合、自分に都合の良い
“噂”や“風評”を流してしまうことも想定されます。それは、証券取引法違反に該
当します。1990年代後半、米国でデイトレードブームが起きました。一時期、
ネットトレーダーの教祖のような人材が出現しました、彼は、“東京ジョー”と呼ば
れ、ネットトレーダーとして多額の利益を上げました。

 彼は、次第に教祖のような存在になり、やがて、お金を払って、彼のご託宣を聞く
投資家が多くなりました。彼は、それを利用して、ご託宣を発する前に、自分のポジ
ションを作るようになり、結果的に、彼はご託宣によって、相場操縦を行うように
なったといわれています。結局、彼は、SECに摘発されてしまいました。インター
ネットなどのメディアを使う現在、“東京ジョー”の例は、一つの教訓になるかも知
れません。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト

 歴史に残るデイトレードの成功者といえば、1815年6月18日のウォーターロ
ーの戦いにおけるロスチャイルドではないでしょうか。

「イギリス軍の攻勢がナポレオンをたおすとすぐに、その時まだほとんど無名だった
一人の男が特別仕立ての馬車に乗ってブリュッセルへの道を走り、そしてブリュッセ
ルから海へ、一隻の船が彼を待っている海へと進んだ。彼は乗船してロンドンに渡り、
イギリス政府が戦争の結果についての急便をまだ受けていない先にロンドンに到着し、
そしてロンドン市が戦争の結果についてのまだ知らない通知を彼が知っていたことの
おかげで株式市場に大変動を起させることに成功した。この男はロスチャイルドであ
り、この天才的なやり方によって彼は一挙に別の一帝国を、あたらしい一治世を設立
した」(『人類の星の時間』シュテファン・ツヴァイク)。

 デイトレーダーとして成功する条件の一つは、この例にもあるように、数日後、い
や数時間後には誰もが知ることになる情報を、人よりも先に知っていることです。逆
に、いかに相場に大きな影響を与える重要な情報でも、他人と同じ時間に知った場合
には、それで儲けることはほぼ不可能でしょう。例えば、米国の雇用統計などそうで
す。市場の事前予想から大きく乖離する数字が発表された時、当たり前のことながら、
相場は大きく変動しますが、こうした値動きで儲けることは出来ません。例えば、株
価が上がると誰も考える指標が発表された時、その指標を見た瞬間に買いに行っても、
実際に買うことが出来るのは、その日の高値ということになりがちです。

 こうした重要な情報を知るタイミングによる不平等を避けるために、米国証券取引
委員会(SEC)は、選別的情報開示禁止規則(レギュレーション・フェアディスク
ロージャー)を定めました。もっとも、ルール化にあたって問題になったのは、重要
事実とは何か、差別的情報開示の範囲はどこまでかについての明確な定義です。情報
は、重要情報と非重要情報に完全に二分されるわけではありません。何事もそうであ
るように、どちらともいえないグレーゾーン(重要情報として規制の対象にはならな
いが、重要度の高い情報)が必ず存在するものだと思います。冒頭の例でみたウォー
ターローの戦争の結果などは、果たして重要情報として規制に対象に入るのか、なか
なか難しいところです。

 実際、証券市場では、こうしたぎりぎりの情報を求めて、しのぎを削っている面が
あります。例えば、手数料を他の投資家よりも多く支払うことによって、グレーゾー
ンの情報を誰よりも早く仕入れるという戦略も成立するでしょう。いわば「ロスチャ
イルド・モデル」です。ロスチャイルドだって、コストなしに情報を得て、それを活
かしたわけではありません。馬車を仕立てるにも、船を雇うにもコストが掛かった筈
です。彼には、こうしたコスト以上のリターンがあるという「読み」があったので
しょう。ここで重要なことは、「読み」が当っていても、コストをかけねばやはりリ
ターンは期待できなかったということです。

 結果的に誰もが知ることになる重要度の高い情報を、1時間でも早く知る仕組みを
作り上げることが出来たなら、デイトレードで収益を上げることも可能でしょう。特
に、日本のように、情報に対してコストを支払うことを厭う文化があるところでは、
情報の価格が相対的に安くなっていることがあり得ますから、少し高めの報酬を支払
うことで重要度の高い情報を割安に仕入れることが出来るかもしれません。何も、見
つけなければならないのは割安な株だけではありません。情報のコストが割安である
ならば、それを利用して勝負するという手もある筈です。面白いもので、割安株を探
すのに血眼になっている人が多い割には、割安な情報の利用を考える人は少ないよう
に思います。なお、言うまでもないことですが、割安とはいえ、こうしたコストを支
払うことなく、リターンだけを上げ続けるというのは至難の技だと思います。

                 JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一

----------------------------------------------------------------------------
『人類の星の時間』シュテファン・ツヴァイク著/みすず書房
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4622050064/jmm05-22>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 三ツ谷誠  :金融機関勤務

 「デイトリッパーとデイトレーダー」

 デイトレーダーと聞くと、印象的なイントロから始まるビートルズのデイトリッパ
ーを連想します。中期の彼らを代表する一連の作品群、例えば「涙の乗車券」や「ア
イフィールファイン」「恋を抱きしめよう」などと同類のビートの効いたポップな曲
ですが、デイトリッパー、イエー、という曲の最後を占めるリフレインに、デイトレ
ーダー、イエー、と叫んでみても、余り違和感ないような気がします。僕は分かった
んだ、僕は分かったんだ、という感じで。

 実際、「その日暮らし」という意味では同じようなものだと思いますが、語感とい
うのは不思議なもので、その日暮らしです、と答えるのと、デイトレーダーをやって
ます、と答えるのとを比較すれば、前者からは場末のスナックの匂いがし、後者から
はもう何か六本木ヒルズの香りがする(笑)から不思議です。そういった錯覚の創造
は特に有為な若者にとってマイナスに作用すると思うのですが……。

 言葉ができることによって妙な安心感が生まれ、そこに安住する人間が生まれる。
するとそこに「みゆき族」や「竹の子族」もっと古くは「太陽族」という存在が誕生
し、世の中に溢れるというように、逆に言葉が人を引き寄せ、抽象的な概念が受肉し
ていくという、あのいつもの作用、デイトレーダーに関しても全くそれと同じ匂いを
感じます。つまり、本当の意味ではそこには誰もいないという存在、それがデイトレ
ーダーではないかと思うのです。

 街で昔一緒に暮らしたことのある女性と偶然、西新宿野村ビル辺りの歩道橋で会っ
て、
 ― 久し振りね、いま何やって暮らしているの?
と聞かれ、
 ― パチスロ(若しくは麻雀)。
と答える無頼派と、デイトレーダーと何が違うのか、実質的には良く分かりません。

 とここまで書けばお分かりのように、私は群生するこの種のデイトレーダーに、寧
ろ苦々しさを感じている大人の一人なのですが、百歩譲ってデイトレーダーを認めた
として、デイトレーダーとしての成功条件を考えれば、その最大の条件は、全体の相
場が強い時期に限って、つまりは上昇相場の中でだけデイトレーダーとして動く、と
いうことだと思います。

 私自身、既に20年近くの日々を株式市場廻りの世界に身を置き、世過ぎ見過ぎし
てきているのですが、要するに相場に勝つというのは、全体の強い相場に、運を味方
にして乗れるかどうか、そこに尽きるという観を強くしています。運とは能力ではな
くつまりは確率論の問題であって、たまたま能力であったり技術であったり、手法で
あったりして見える場合はありますが、それは単に見えるだけで、特に待つことをせ
ず日々鞘抜きに没頭するデイトレーダーであればあるほど、その成功を担保するもの
は、結局は運ということになると思います。

 勿論、情報や人材の錬度などあらゆる意味で優位性を持つ機関投資家のファンドマ
ネージャーが、逆に様々な制約の中で手を出せない、あるいは見逃す機会を、ネット
を通じてプロ並みの勘を養い、鋭く突いて大胆な投機で儲ける凄腕デイトレーダーも
存在することは、様々な報道で見聞きしていますが、それもまた運の範疇の話なので
あって、普遍化、一般化できるものではないと思います。

 では運ではない世界できちんとリターンを取るにはどうするのか、と言えば、それ
は簡単で、投機ではなく投資をする、ということでしょう。

 投機が運や胆力を試すものなのに対して、投資は、価値を作り出すプロセスの中に
存在するもので、歴史観があったり、哲学があったり、経営への洞察力があったり、
粘り強かったりという性格の特性があれば、必ず相応の価値を投資した人間にもたら
すものだと思います。

 で、実際の処、投資がその果実を実らせるためには、相応の期間(最短でも数ヶ月
程度)が必要になるので、デイトレーダーという「立ち位置」では、投資を行うこと
は適いません。

 つまり、デイトレーダーのリスクは、最初のスタンスである投機それ自体にこそ含
まれる、ということだと思います。

 ただ、運だけを頼りに賭場を渡り歩く博徒の侠気がいっそ爽快に感じられるように、
運に身を任す(それも絶対他力の実践のように全て身を託す)行為そのものには、根
源的に魂を震わせる何かがあるのも事実でしょう。

 相場が神意を試す場であるとすれば、運だけを頼りに相場に参加するデイトレーダ
ーたちは、その神に仕える修道士や巫女であり、ごく稀には神託が降り巨富を得る者
もいる、という処でしょうか。

 そう考えるよりは気楽に、デイトレーダー、イエーと歌ってみるのが私向きではあ
りますが。

                           金融機関勤務:三ツ谷誠

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 デイトレーディングの定義は明確でないと思います。インターネットを通じた株式
売買という統計であれば、証券業協会から発表されていますが、デイトレーディング
の意味合いと思われる短期売買(業界用語でいう日計り商いなど)の割合がわからな
いからです。個人投資家の株式売買代金に占めるインターネット取引の比率は8割程
度ですが、中長期で株式を保有する投資家も多く存在すると思われます。読売新聞が
2月に行ったアンケート調査によると、ネット投資家の4割超が株式購入から1カ月
以内に持株を売却する短期売買ということです。若年層ほど株式投資の目的を小遣い
稼ぎとして、短期売買を行う傾向があるようです。

 企業が望んでいるのは、中長期で保有してくれる個人投資家です。敵対的買収が珍
しくなくなった日本の株式市場で、買収防衛策の一環として、中長期で保有してくれ
る個人投資家の増加を望んでいます。そのため、IRに熱心な企業は、個人投資家向
け会社説明会を開催したり、個人投資家向けのホームページを開設したりしています。

 個人投資家の株式売買が最も活発だったのは昨年後半で、足元は鈍化傾向にありま
す。個人投資家の売買シェアは通常、東証.大証・名証の3市場で3?4割(外国人
投資家が4?5割)、ジャスダックで7?8割(外国人投資家が1?2割)ですが、
2005年下期と2006年上期を比べると、ともに個人投資家の売買シェアが低下
しています。ライブドア事件以降の中小型株の急落によって、個人投資家は大きな打
撃を被り、デイトレをはじめとする株式売買活動が鈍化したようです。

 8月4日付け日経記事によると、インターネット証券最大手のSBIイートレード
証券の7月の総合口座数は127.7万件と前月比1.8万件増加したものの、増加
率は2004年9月以来の低水準となったといいます。7月の東証1部の売買代金が
11カ月ぶりの低水準になったのも、デイレーダーを中心とする個人マネーの流入減
少が一因です。

 一方、デイトレーダー以外の一般個人投資家の資金流入を中心に、投信への資金流
入は順調で、2006年上期に投信は外国人を抜いて、日本株の最大の買い手になり
ました。日本の家計金融資産は預貯金に偏りすぎているため、預貯金から株式・投信
への資金シフトは長年の政策課題でしたが、一般個人投資家資金が、最近の不安定な
株価の動きにもかかわらず、株式市場へ流入し始めていることは歓迎すべき現象です。

 統計的にみると、個人投資家の投資行動は押し目買い傾向が強く、株の売り単価が
買い単価を上回っていることが多いので、儲かっている人が多いと推測されます。動
物的な相場観がある人を別にすれば、株式投資の成功の鍵は正確な情報入手とその解
釈でしょう。インターネットの発達で、個人投資家は機関投資家に近づくような売買
システムと、情報入手経路を持つようになりました。オンライン証券が発行している
デイリーメールなどは機関投資家でも個人投資家動向(特に信用取引状況)を知るた
めに見ている人が多い一方、個人投資家でも知り合いの機関投資家から情報を間接的
に入手している人がいるようです。個人投資家と機関投資家の情報格差は縮小してい
ます。

 機関投資家は3カ月毎に成果を出さないといけないといった制約条件を負っている
一方、個人投資家は精神的な負担を除けば、時間的制約は小さいと思われます。長期
投資は失敗した投機という格言もありますが、日本の経済や企業収益が中長期的に回
復傾向にあるため、短期で損しても中長期で保有すれば、株で儲かる可能性が高まっ
たことは、個人投資家にとって有利な点と思われます。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 岡本慎一  :生命保険会社勤務

 株式運用の付加価値は「技術」と技術を活かした「意思決定の回数」に依存します。
株式運用における技術とは銘柄を選ぶ能力であり、「意思決定の回数」とは、選別す
る銘柄の数や売買を執行する回数にあたります。同レベルの付加価値を得るためには、
意思決定回数の多い人(銘柄を数多くウォッチする人や、毎日の様に売買を繰り返す
デイトレーダー)に要求される技術は相対的に低く、意思決定回数の少ない人には相
対的に高い技術が必要となります。

 例えば、年100%の付加価値を目標とするゲームがあるとすると、1回の売買で
1%の利益を上げる技術を持っている人は100回の売買が必要であり、1回の売買
で20%の利益を上げることのできる人は5回の売買が必要となるということです。

 つまり、デイトレードと呼ばれる手法が特別の手法ではなく、取引コストの劇的な
低下が生んだ必然的で有効な手法の一つだと思います。デイトレーダーは組織的に動
く機関投資家に比べて、専門知識に劣り(技術が低く)、ウォッチする銘柄が限定さ
れると考えられます(銘柄を増やすことによる意思決定回数が少ない)。したがって、
こうした投資家が生き残る手法の一つとして、保有銘柄数を限定し、損切りと利食い
に一定のルールを設けて回転率を上げるというのは、理に適った手法の一つだと思い
ます。

 しかし、意思決定の回数をただ増やせば儲かるというわけではありません。小さな
利益でもいいので、一回の意思決定で利益をあげる「技術」がデイトレードにとって
も不可欠です。

 私の少ない経験から、技術を養うポイントを3点あげたいと思います。第一に、
「他人のまね」をしないことだと思います。自分の判断で市場に参加することは不安
を伴います。時には他人と全く逆の行動をとる必要も出てきます。しかし、他人に教
えてもらった情報で株を買っても、売却する時にも他人から情報を教えてもらうこと
が必要になってしまいます。

 不安の中でハッキリと意思決定を繰り返すには、稠密な分析や豊富な経験に裏付け
られた強い精神力が必要であり、これらは時間とお金をかけないと得られません。成
功したデイトレーダーのノウハウ本を読んだり、ブログで他人の売買情報を仕入れた
だけで儲けられるほど、市場は甘い場所ではありません。

 第二に、デイトレードであってもそうでなくても、資産運用にとって大事なことは、
負けた時に、その「負けを認めること」だと思います。自分の技術に自信を持つと、
負けたことを何か他の要因に帰す様になり、負けを繰り返す様になります。棋士の谷
川浩氏は「負けました」と負けを認めることが次の勝負へのスタートだと述べていま
すが、資産運用の世界にも常勝戦略はなく、負けないことよりも負けた後の行動が次
の勝負を決めるのだと思います。

 第三に、勝てる自信がある時にだけ動くことです。勝ちたいという欲求は常に存在
しますが、常に勝てるハズもありません。勝ちたい欲求を抑制し、勝てる時機を判断
する技術が養うことが重要だと思います。伝説的投機家であるジェシー・リバモアは
「金を失わないためには何をすべきでないかがわかったとき、相場で勝つのに何をす
べきかということがようやくわかり始めるのだ」(『欲望と幻想の市場』エドウィン
・ルフェーブル著/林康史訳/東洋経済新報社)と述べています。

 技術を持たない人が、意思決定の回数を増やしても負けるだけです。闇雲に意思決
定の回数を増やすだけではデイトレードで勝つことはできないでしょう。まずは自分
の技術を養うことと、技術水準の見極めが肝要だと思われます。

                         生命保険会社勤務:岡本慎一

----------------------------------------------------------------------------
『欲望と幻想の市場』エドウィン・ルフェーブル著/林康史訳/東洋経済新報社
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492061118/jmm05-22>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 津田栄   :経済評論家

 新聞、テレビ、雑誌などマスメディアは、インターネットでのデイトレーディング
を盛んに取り上げ、そこで成功するデイトレーダーを持ち上げています。もちろん、
マスメディアは、大きく損をしたデイトレーダーも取り上げられていますから、デイ
トレーディングは必ず成功するものではなく、それだけリスクもあるということを伝
えています。本当のところ、デイトレーディングで失敗した人は表に出たがらないで
しょうから、多くの失敗者の上に少数の成功者がいるのが現実です。結論として、デ
イトレーディングで簡単に儲けられると甘い考えを持たないことが肝要です。

 さて、株式に関する情報は、これまでいわゆる証券会社や銀行など一部の業者や資
金力のある少数の投資家に独占されてきました。しかし、インターネットは、こうし
た情報の格差を一気に縮めました。また、株式投資家は、これまで既存の大手証券を
中心とした証券業界が決めた高い株式発注手数料を払って電話や窓口で株式注文をし
てきました。それは、営業マンなどの人件費や、企業や経済・金融の調査など非営利
部門のコストを吸収するために高い手数料が必要だったからともいえます。しかし、
インターネットは、営業マンや非営利部門などのコストを極力減らし、その分手数料
の大幅引き下げの実現に貢献しました。

 つまり、個人投資家は、インターネットにより情報や手数料などでの大きな障害が
なくなり株式投資がしやすくなったということです。しかも、インターネットにより
証券会社と全く同じ現在の株式の発注状況(価格と数量)が見られることから、個人
投資家は日計りで株式売買する証券会社の株式トレーダーと同じ立場に立つことがで
き、インターネットによるデイトレーディングが可能になったといえます。個人の売
買シェアが高まっているのを考えると、まさに株式市場は個人も証券会社も巻き込ん
だゲーム的なトレーディング戦場といえましょう。

 ところで、デイトレーダーには日計り商いで毎日売り買いをする個人がいる一方、
数日から1週間、あるいは1ヶ月以上の中長期的な投資をする個人もいます。どこま
でデイトレーダーというのかですが、この場合、ごく短期の投資をする個人投資家と
捉えて考えてみます。

 そこでデイトレーダーとして成功する条件ですが、まず、第一に変動する株式を相
手にしますから、自分の思い通りに動くことは少ないということを認識すべきです。
そのために、自分のデイトレードの売買原則、例えば投資金額などのポジションの限
度、利食いおよび損切りなどのルールをまず決め、そのルールを必ず守ることです。
たとえ、売ってから予想外に上がったり、反転したりしても気にせず、ルールを守る
ことです。また買ってすぐに下がっても、ルールに従って機械的に売ることです。な
ぜなら、いつか戻ると期待して、ルールを無視すれば、どこかで大きな損失を抱える
ことが多いからです。

 第二に、ルールで決めることですが、デイトレーディングの基本は、証券会社のト
レーダーと同じく、日をまたいでポジションを持たないことです。なぜなら、証券取
引所が閉まった後、次の日の朝市場が開くまで世界で何が起きるか分からないからで
す。最近では、テロやハリケーンなど大きな事件・事故・災害、あるいは世界の要人、
金融当局者の発言など、突発的な出来事が起きることが多く、また発表される内外の
経済・金融統計や企業の情報が予想外の内容だったりして、市場が大きく動くことが
多くなっています。今や、世界の株式市場は、大なり小なり連動するほど緊密になっ
ています。つまり、ポジションをオーバーナイトで持つことによるリスクをオープン
にすることは極力避けるべきということです。

 第三に、デイトレーディングで常に成功するわけではありません。マスメディアを
みていると、成功した人は、デイトレーディングによる売買ゲームでミスなく資産を
増やしていったかのような印象を持ちますが、そうした人も小さな失敗をしているは
ずです。小さな失敗をしても、大きな失敗をしないために、失敗の検証を必ずしてい
るはずです。したがって、次の成功につなげるために、その失敗の原因とそれを避け
るためにどうしたらいいかを研究し、ルールを加えていくことです。その意味で、成
功する人は、常に市場と企業を調査し、研究する努力家であるといえます。

 第四に、情報に対する認識です。あくまで情報に対してそれが正しいかどうかの判
断は、自己責任です。噂や口コミなどの情報は往々にして正しくないときが多く、そ
れを基にトレーディングして失敗することが起きますが、その結果は自己に帰します。
やはり、情報が正しいかどうか、その結果株価はどう動くかを、常にどこまでも客観
的に捉えて判断することが必要であり、見込み違いで失敗しても、市場のせいにせず、
最終的には自分の責任であると認識することです。そして、情報を検討しても市場の
動きがどうしても分からない時には、何もしないことが必要です。

 第五に、個人の資質になるかもしれませんが、思い込みなどしないで売買する冷静
さと、市場は思いがけない動きをしますので、負けたと思ったときには、ルールに
従って潔くポジションを閉じるなど強固な意志が、最後に必要なように思います。そ
して、失敗の検証をして、次の成功につなげる一方で、失敗を後に引きずらないこと
です。いつまでもそれに拘泥すると、精神的に参り、次の失敗を招きます。一方で、
成功したときも驕らないことです。つまり、成功しても偶然性がありえます。その意
味で、成功の検証をしながら、驕らず、市場に対して常に距離を置いて、強い意志の
もと冷静に判断してトレーディングをする資質が求められます。

 最後に、デイトレーディングにおいて、一円でも稼いで成功体験を積み重ねるよう
に努力することが必要ですが、先にも書きましたように、市場はちょっとしたことで
変動しますから、その変動リスクを常に考えておくべきです。ましてや、オーバーナ
イトのポジションは高いリスクになります。従って、一旦買いや売りのポジションを
持った時点で、小さな利益を求めながら大きな損失をこうむる変動リスクを抱えたと
いう認識を持つことです。その点で、常に情報に対して敏感であるべきであり、その
ためのイメージシュミレーションなど想定行動を研究しておくことです。

 結局、デイトレーディングで成功するためには、多くの人が参加して価格形成する
市場に対して流れに逆らわず、冷静沈着さと強い意志で売買を行い、そして絶え間な
い研究が必要であるといえます。

                             経済評論家:津田栄

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 株の運用の世界を見てきた人間として、初心者にデイトレードなど儲かるものでは
ないと何回も言うのですが、なかなか納得してもらえません。その理由は、相場のそ
れぞれの局面をとれば、儲かった人がいて損をした人がいるわけですから、自分も儲
かる側につくのは容易であると思ってしまうことにあります。確かに、相場自体が変
動を繰り返しながらも上昇しているときは、損をした人よりも儲かった人のほうが多
いわけですから、新聞や株式ジャーナリズムも儲かった人の例を盛んに取り上げます。
デイトレード長者がさんざん報道されていたのも、昨年後半から今年の初めにかけて
の相場の急騰時でした。

 しかし、株式市場そのものが上がらなくなれば、トレーディングの儲けは負けた人
の損失に等しくなります。このような状況では、トレーディングに参加しても儲かる
可能性は、良くて5分5分になります。ということは、たまたま運が良くて儲かるこ
とがあっても、トレードを繰り返していくうちに、収支トントンになり、証券会社に
支払う手数料の分は確実に損をしていくという状況となります。

 負けた人の損が勝った人の取り分という状況はギャンブルをしている状況と同様で
す。そこで勝とうと思うなら、ポーカーのゲームのように弱点をもったカモを見つけ
て、その相手から集中的に搾り取ることが最良の方法です。ギャンブルの指南書など
には、参加者の性格を心理分析し、自己の律し方と対応の仕方を研究するような本が
ありますが、心理学の応用本として実に興味深いものがあります。

 相場全体が上昇しないときの株式市場は、勝ち負けが純粋なチャンスで決定される
という点ではルーレットに似ていますが、弱い相手見つけてカモる可能性があると見
るのならポーカーや麻雀に似ています。また純粋なチャンスだけではなく、賭けの対
象を選ぶことで、勝ち負けに差が出ると見るのなら、競馬に似ていると思います。

 しかし、デイトレードという手法は、短期的な値動きの方向性にかけるもので、馬
・銘柄の良さを研究するような余地はなく、賭けの性質は予測の不可能なルーレット
に非常に近いものとなります。デイトレードを何回も繰り返すと、結局、ルーレット
のような公平だが確実に胴元の取り分が存在するゲームに近づいていきます。そこで
行動指針としては、ポーカーや麻雀でのように、他の人のカモとなって利益を振り込
むような行動を避けることが重要なこととなります。

 デイトレードの最大効用は、ギャンブルが娯楽であるようにゲーム自体を楽しむこ
とにあるように思います。デイトレードで一財産築く人は、確率的にはごくわずかで
すので、金銭的な目標は報われることはめったにないはずです。ゲーム感覚で楽しん
でおけば、あとは相場全体が上昇するとき、人並み程度には設けることが可能となる
でしょう。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 山崎元  :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 「インターネットにつながったPCがあれば、あなたの書斎がパチンコ屋になりま
す!」 ネット証券に勤めながら、こんなことを言うのも何ですが、デイ・トレード
というゲームの構造を広告風に言ってみると、ほぼこんな感じです。

 パチンコ屋のお客さんは、勝つ人もいれば、負ける人もいて、顧客全体の損益は、
パチンコ屋さんを通じて、大まかに言えば、ゼロサム・ゲームになっていて、厳密に
言うと、パチンコ屋さんの粗利益の分だけ負けている、という構造になっています。

 ある銘柄の株式を、株価aで買って、Aで売った、デイ・トレーダーの儲け(損)
は、その銘柄をaで売って、Aで買った人の損(儲け)とゼロサム(=合計がゼロの
意)になっています。aで売る人と、Aで買う人は、同じではないかも知れませんが、
市場全体では同じ事です。

 生産活動への資本の提供としての株式投資は、リスクがあるものの、時間を経ると、
プラスのリターンが期待できる分、ゼロサム・ゲーム(から通常は手数料を引かれる)
であるギャンブルとは異なり、「有利な賭け」(参加する株価が正しければですが)
であると考えられる面がありますが、純粋なデイトレードの場合、株式を持っている
といっても、日中だけなので、投資先の会社に、利益を積み上げてくれる時間を与え
ていません。デイトレードの儲けは、他の市場参加者との、お互いの見通しの違いに
対して賭けた「賭け」に勝ったことに起因すると考えていいでしょう。

 デイトレードの必勝法は、その性質として、「他人に勝つ方法」ということになり
ますから、参加者全員が知ってもなお有効であるという意味で、一般的な形で存在す
ることはあり得ません。どんな方法も、「時と、場合による戦略」ということになり
ます。個人的には、思いつく、あるいは試してみたいと思っている戦略が幾つかあり
ますが(私は証券会社に勤務しているので、デイトレードは出来ません)、所詮、
「場合の戦略」なので、ここには書きません。

 デイトレーダーで、成功して大儲けをしている人も存在しますが、これは、パチン
コでも儲けている人がいるというのと同じで、一部の成功者を見て、デイトレードが、
努力すると儲かる世界であって、広く職業になり得るものだと思うのは不適切でしょ
う。株式売買の世界では、パチンコよりも格段に大きなお金が動くので、たまたまそ
の時点で戦略が適合していたり、運の良いケースに巡り会った参加者が手にする金額
はそれなりに巨額です。負ける人も必ず居るかわりに、勝つ人もいるはずなので、大
儲けした人を見て、彼らを真似ると、自分も勝てるだろう、と考えるのは、あまり利
口でないように思います。

 一方、資産形成のための株式の運用を考えると、かつてよりも手数料が劇的に下
がっているので、より柔軟なポートフォリオ調節がしやすくなっているのも事実です。
それに見合うだけの判断材料を得るには、それなりの努力が必要ですが、一般論とし
て、ポートフォリオの最適回転率(戦略やリスク拒否度によって異なりますが)は、
売買コストが下がると、より大きくなるので、旧来の、手数料だけで片道1%近く掛
かった時代とは、異なる運用のあり方も存在する筈です。

 もっとも、ポートフォリオの調整(運用資産内での売買)が必ずしもプラスに働く
とは限りませんから、「分散投資と、低い回転率」というオーソドックスな運用が、
悪いわけではありませんので、株式で運用をしている人が、「もっと、せっせと売買
しないのは、もったいない」と焦る必要はありません。

 さて、デイトレードのリスクというご質問ですが、最大のリスクは、「依存症」で
す。これも、パチンコと同様です。相場が気になって仕方がない、トレードをやらず
にはいられない、苦しいけれども損を取り返すまでは止められない、気がついたら借
金をしている、信用取引の追証が怖い……、といった精神状態にいくつか該当しいて
いるとすれば、ギャンブル依存症などと同様のデイトレード依存症にかかっている可
能性が大いにあります。

 依存症は、立派な病気であり、通常、自分の力だけでは抜けられないことを、本人
も、周囲も知っておく必要があります。依存症の患者さんは、「デイトレードは、い
つでも自分で止められる」と思っていますが、もし、借金をしてまで株式トレードを
している状況であれば、これは「自分では、止められない状況に陥っている」と自覚
すべきでしょう。できれば、家族と一緒に、専門医(精神科など)を受診すべきです。

 尚、最近、相場が一頃よりもやや低調になっていますが(出来高、売買代金面で)、
証券会社は儲かっています。ご質問の「デイトレーダーとしての成功」ではありませ
んが、博打の世界では、参加者ではなく、「胴元」、あるいは賭場の「金貸し」(信
用取引も金貸しの一種です)こそが確実に儲かるのだ、というセオリーは、デイトレ
ードに限らず株式トレードの世界でも生きているようです。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 <http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/>

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 デイトレーディングのリスクとリターンについて考えてみたいと思いますが、ここ
での「デイトレーディング」を同日中の反対売買による決済を前提にした狭義の短期
売買(証券業界では「日計り商い」という呼び方をします。)であり、主に日中の取
引時間帯における価格形成に影響するようなマイクロな情報を利用する投資手法と定
義することにします。

 こうした短期の回転売買を前提にした投資手法のリターンについては、継続的な銘
柄保有を前提とした通常の投資と比較して、株式市場の上昇局面での株価上昇による
恩恵のかなりの部分を放棄することになると言われています。実際に、昨年2005
年7月末から今年2006年7月末までの過去1年間を見ても、この期間に日経平均
は約30%上昇しているのに対して、同じ期間の日経平均の寄値と終値の間における
日中の騰落率を日々累積してもおよそ6%程度の上昇に留まっています。

 リスクについては、デイトレーディングを支持する立場からは、回転売買による超
短期間の投資を前提とするためリスクの限定が可能であるとの意見もありますが、こ
れは頻繁な取引を行う場合には、結果としてポジションを保有している時間を累積す
れば必ずしもリスクの限定という説明は成り立たなくなる可能性があります。

 さらに、デイトレーディングによるポジションを継続して保有し続けた場合でも、
中長期的に株価変動に最も大きく寄与する前日終値から当日寄値までのオーバーナイ
トの投資リスクを除外することから、デイトレーディングのリスクは通常の投資と比
較しても高くない、との説明もありますが、これも実際は必ずしもそうではないよう
です。

 先述の期間における日経平均の1日当たりのボラティリティーは、標準偏差で1.
3%程度(年率で約20%)となっていますが、一方で寄値と終値の間における日中
のボラティリティーは1.0%程度に相当するなど、リスクは多少低下しますが必ず
しも期待するほど大幅なものではありません。

 また、ここでの数値例はあくまでも日経平均という分散されたポートフォリオ(市
場ポートフォリオからの偏りも大きく、問題も多いですが)を前提にしたものです。
一般にデイトレーディングで対象とする個別銘柄のボラティリティーを標準偏差で年
率約40〜50%程度と仮定すれば、頻繁なデイトレーディングによる潜在的な投資
リスクは、通常の投資による分散されたポートフォリオの継続的な保有と比較して、
むしろかなり高いと考えるべきでしょう。

 このように、長期的な株式市場の成長を前提とする立場としては、デイトレーディ
ングはリスクとリターンの観点から見て、投資のフレームワーク上はかなり不利な投
資手法であると言えます。一方で、これに対して、デイトレーダーの立場からは全く
異なる見解が出されるでしょう。すなわち、日中の取引時間帯における十分なボラ
ティリティーの存在と、市場全体の動向の影響が比較的限定された中では、マイクロ
な情報を利用した超過収益を純粋に追及する余地があることを示唆しているとの主張
になります。

 いずれにせよ、リスクとリターンの観点から見たデイトレーディングの評価は、マ
イクロな情報を利用した超過収益の余地と確度に依存したものであることは事実です。

 ここで、日中の取引時間帯における価格形成に影響するようなマイクロな情報とし
て想定されるのは、短期的な市場需給(いわゆる「板読み」を含む)、市場参加者間
で流通する非公式情報や憶測情報(チャットを通じた噂話)、テクニカル分析などで
す。インサイダー情報を含めた企業の重大情報の利用については、デイトレーディン
グのフレームワークの議論の範囲を明らかに超えていると思われますので除外します。

 私自身が具体的なデイトレーディングの手法については詳しくないので、非常に大
雑把な議論であることをお断りいたしますが、上記のマイクロな情報の有効性につい
ては投資リスクに対する超過収益の期待値の見返りと言う観点からはかなり低いもの
が想定されます。

 投資リスクに対する超過収益の期待値のレベルを情報係数(インフォメーション・
レシオ)と呼びますが、この数値を向上させるためにはベット(Bet=賭けの対象)
を分散させることで、投資リスクを低減させることが有効とされます。ここで注意す
ることは、ベットの分散によって超過収益の期待値そのものが向上するわけではない
ことと、それぞれのベットの投資リスクの独立性が高く(相関が低く)分散によるリ
スク低減が機能することが前提であることです。

 後者の前提については、個別銘柄を対象にした投資では、投資対象を選択する投資
手法が共通であってもある程度の分散によるリスク低減効果は期待できるものと思わ
れます。なお、ベットの分散、すなわちベットの数を増やすために取引頻度を上げる
ことは、リスクの低減には直接つながりませんので注意が必要です。例えば、デイト
レーディングで、ある特定の銘柄へ日中を通じて投資を行うのと、回転売買によって
10銘柄を入れ替えながら投資を行うのとでは、それぞれの銘柄のボラティリティー
が同程度であればリスクは同じです。

 もっとも、一般的にデイトレーディングで利用されるマイクロな情報の有効期間は
短く、時間の経過に従って他の要因による影響度が相対的に大きくなってきますので、
ポジションの長期化を避けることは投資効率維持のためには有効と考えることもでき
ます。その場合に、インターネット取引での取引手数料の低下が売買コストによる投
資効率の劣化を抑えている面もありますが、市場での執行コストにはアスク・ビッド
の差などの売買インパクトも含まれるため、やはり相応の投資効率の劣化を前提とす
る必要があります。

 一方、同時にポジションを持つ投資対象の数を増やす形でベットの分散を計った場
合には、投資リスクの低減効果が得られます。デイトレーダーがどこまでリスクの低
減に熱心かという問題はありますが、単純にリスクが2分の1になれば、理論上は同
じ元手で2倍のポジションを取ることが可能になりますので、それだけ積極的に収益
の追求が可能になるというメリットは存在します。

 この場合に注意する点は、投資対象の分散によって全体の投資リスクは低減します
が、投資リスクにおける市場リスクあるいは特定セクター固有のリスクなどの割合が
増加することで、市場動向に依存しない純粋な超過収益の獲得が難しくなることです。
従って、デイトレーディングといえども、ある程度は株式市場全体の動向を意識せざ
るを得なくなる側面があると言えます。

 もちろん、デイトレーディングの場合には売り買い両建てでの取引が可能ですので、
ロングとショートの併用や先物の利用により市場リスクをヘッジしながらの投資も可
能ですが、収益機会を追求する上では大きな制約条件を課せられることになります。
証券会社の自己売買部門などはそうしたリスク管理を前提としたトレーディング体制
となっているものと思われますが、そこでの収益率は投下資本ベースで見ても一般の
デイトレーダーが求めるリターンよりは大幅に低いものになるのではないでしょうか。

 以上、一般的な投資の観点からは、デイトレーディングの投資フレームワークは取
引コストの問題を除外しても、必ずしも有利なものとは言えないように思われます。
ただし、先に述べたことの繰り返しになりますが、リスクとリターンの観点から見た
デイトレーディングの評価は、マイクロな情報を利用した超過収益の余地と確度に依
存しますので、ここで明確な結論を出すことは差し控えたいと思います。

 最後に、市場の効率性との関連で言えば、市場の効率性の理論上のモデル自体がア
ービトラージャーやデイトレーダーを含めたノイズトレーダーの存在を前提としたも
のです。また、市場の効率性が一律に個々のデイトレーダーによる超過収益獲得の余
地を否定するものではありませんし、あくまでもデイトレーダー総体としての議論で
ある以上、それぞれのデイトレーダーにとっては興味のある議論にはなりえないで
しょう。

                外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:722への回答ありがとうございました。ソウルで、韓国の映画人との対談を
してきました。今回は、『チング・友へ』『タイフーン』他のカク・キョンテク監督、
『大統領の理髪師』のイム・チャンサン監督、『マラソン』のチョン・ユンチョル監
督の3人と対談しました。対談はこの9月からマイクロソフトビデオでストリーミン
グ映像配信しますが、JMMでもテキスト配信する予定です。今後他の監督、俳優と
も対談するつもりですが、基本的にわたしが心を動かされた映画人に限定しようと
思っています。人気だけが先行する韓国映画人には興味がないということです。

 イム・チャンサン監督とチョン・ユンチョル監督は30代半ばと若く、わたしの小
説の読者だったといういうことでした。カク・キョンテク監督は現在『半島を出よ』
の準備に取り組んでいます。チョン・ユンチョル監督は新作の撮影中だったにもかか
わらず、村上龍に会いたいということで一睡もしないで駆けつけてくれました。『マ
ラソン』は好きな映画だったので話が弾みいい時間を過ごせました。自閉症児がマラ
ソンを走る、というストーリーですが、実はわたしは障害を持った主人公が努力をし
て何かを克服するというような「感動物語」が苦手です。でも『マラソン』は、演出
やキャメラが抑制されていて非常に好感を持ち、感動しました。韓国の映画人との対
談はとても刺激で、9月の配信を楽しみにしていただきたいと思います。

============================================================================

Q:723
 小泉首相の任期が終了するのと同時に、現在の経済財政諮問会議の民間メンバーも
退任するようです。経済財政諮問会議が果たした役割と、ポスト小泉における同会議
のあり方について、ご意見をいただければと思います。

============================================================================

                                   村上龍

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JMM [Japan Mail Media]                 No.387 Monday Edition
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部(2005年8月1日現在)
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
----------------------------------------------------------------------------

 次へ  前へ

  拍手はせず、拍手一覧を見る

▲このページのTOPへ HOME > 国家破産47掲示板


  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。