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ライブドアのビジネスモデルとは何だったのか(3)〜実は古来からあるビジネスの焼き直しにすぎない【Nikkeibp.jp】
http://www.asyura2.com/0601/livedoor1/msg/537.html
投稿者 ダイナモ 日時 2006 年 3 月 07 日 20:49:13: mY9T/8MdR98ug
 

http://nikkeibp.jp/sj2005/contribute/f/03/ より引用
吉田 繁治氏(経営コンサルタント)

ライブドアのビジネスモデルとは何だったのか(3)
〜実は古来からあるビジネスの焼き直しにすぎない〜

 ライブドア事件は、日々「証券詐欺」としての姿をあらわにしつつあります。個々の取引には「一見では」違法とは言えない偽装がある。詳細を調べ、重ねて行くと犯罪になるという性格の事件です。

 古くは、1720年の英国で起こった「南海泡沫事件」に遡ります。近くは、もっと大規模だった、エンロンとワールドコムです。事件の相貌はいつも似ています。

 1711年に南アフリカでの奴隷取引の独占権を政府から与えられた「南海会社(South Sea Company)」が、貿易事業の実体と利益がないのに、1720年、期待だけで株価が半年で10倍に上がります。その後20分の1に急落します。江戸時代中期のことです。

 18世紀は、英国資本主義の興隆期でした。中産階級が、株式市場に参入した時期でした。

 力学のニュートンも、300年前に証券詐欺の原型をつくった南海バブル事件で破産しています。「株は科学では分からない」というのが、残された言葉です。株の力学や法則はわからない。

 経済事象には、自然科学のような「法則(=数式)による再現性」がないからです。理由は、人間の、認識と判断が含まれるからです。

 経済のベースである商品、株価、労働について「高い、安い」と思うのは人間の判断です。あるときは高く思え、別のときは安く思える。時代時代で歪む人の認識が、経済を動かすからです。美人の基準も時代で変わります。ここに普遍的な基準はない。

 ライブドアの方法は、2000年以降の、
(1)金融と株式市場、
(2)証券取引の制度、
(3)法の変化、
(4)そして改革への期待を利用した「現代的」なものです。

 加えて、一般にはなじみが薄い、
(1)投資事業組合(私的ファンド)
(2)プライベートバンク(私的銀行)
(3)マネーロンダリング(海外取引による資金洗浄)
(4)タックヘブン(オフショアの租税回避地)、も絡んでいます。

 8項すべてを使ったワンセットの犯罪です。プライベートジェットが必要な理由でもありました。

 本項の目的は、検察やマスコミのようにライブドアや堀江氏を糾弾することではありません。それは検察の役割であり私の任ではありません。

 なぜライブドアのような、10億株の株券を販売商品とする経営と、マーケットの期待を集めたピークで1兆円の時価総額ができたか、これを考察することです。

(1)プライベートバンク、
(2)投資事業組合、
(3)租税回避地のことも、ほんのわずかな経験を含め、後半で書きます。

 スイスと日本は、租税条約を結んでいません。プライベートバンクに税務署や検察が照会しても、守秘の壁があります。告発的な証言や、相手の協力に頼るしかない。

(注)米国とは租税条約を結んでいます。

 ライブドアはこれらを使っています。おそらくは堀江氏個人の、違法か、違法すれすれの、租税回避を使う資金運用もあります。

(注)悪用する人だけではなく、適法に行っている人も多いことを、申し上げておきます。しかしいつも、税法や金融関連法とはすれすれでしょう。摘発には、検察の任意性もあります。

 前回に続き、以下で、もっとも基本的なところから確認しながら、振り返ります。日常ではなじみがないことが多い金融、会計、法と制度がからむからです。

<ライブドアのビジネスモデルとは何だったのか(3)>

【目次:今回分】
1. 90年代後期の米国風景から
2. わが国の2001年の制度改革
3. 90年代に、世界の株価形成の方法が変わった
4. ライブドアのビジネスモデル

【目次予告:次回分】
5. 株式分割を戦略とする
6. そこで・・・「投資事業組合」を使う
プライベートバンクとタックスヘブンの仕組み
7. たとえばこんな方法が・・・
8. 「60億円の架空取引の純益」が1800億円のマネーに化ける乗数の仕組み
9. 結論:時価総額は、株主からの資本の預託を受ける会社の負債である。


1.90年代後期の米国風景から

▼ニューエコノミー・シンドローム

 米国の95年(Windows95)以降は、IT&インターネット革命のニューエコノミーとも言われます。株価上昇には、上昇シナリオが作られ、人々が協賛する新しいシンボルが必要です。この典型が「ニューエコノミー」でした。

 20世紀の設備産業とは違う。知識産業の時代が始まるとされたのです。

(注)現在は、新興国のBRICs[ブラジル・ロシア・インド・中国]という符牒があります。BRICsは、2004年にゴールドマン・サックスがそのリポートではじめて使い、経済ジャーナリズムで広がった単語です。これに乗って投資も殺到しています。

 ニューエコノミー企業群は、資金の面では、社債や増資新株の発行によって、個人も50%くらいのシェアで参加する金融市場から「直接」に調達するように変わります。

 その際の重要な指標は、物的な資産の量ではなく、株価の高さでした。資産資本主義から、株式資本主義に変わってきたと言っていいでしょう。

 主義とは価値観です。何を重視するかということです。

▼年金ファンドの巨大化

 米国を筆頭として、世界の人口のカタマリ、ベビー・ブーマーの貯蓄である年金は、資金量(ファンド:年金基金)としてもっとも大きなものです。

 基金は運用し、1年で5%以上の利益を上げなければならない。日本の年金、生命保険、損害保険等も同じです。

 年金資金は、80年代までは社債、公債等の利回りが確実な債券で運用されることが多かったのです。

 株は値下がりのリスクが大きく、確実に利益を上げる運用を行わねばならない年金ファンドにとって危険だとされていたからです。

 しかし90年代からは大挙して、株式市場でも運用されるように変わります。Windos95とインターネットの95年以降、米国の株価がどんどん上がったからです。

 グリースパンは、早くも1996年12月年にこれを「根拠なき熱狂」と呼びます。「米国では100年に一度もないことが、今起こっている・・・」

 しかし米国の株はその後も、拍車をかけ上がります。根拠がないことも数年も続けば、「根拠あり」になります。

 90年代は、伝統的な設備産業はブリック&モルタル(レンガとセメントでできた産業)という不名誉な蔑称を与えられ、総じて株価の評価が低くなります。

(注)今、中国の需要増で資源が値上がり、世界的に設備産業の株が見直されています。これは、近い将来の「インフレ」を先取りしています。

 赤字だったアマゾンが、90年代の末には書店の最大手(バーンズ&ノベルズ)の時価総額を超えたことは、ニューエコノミーのシンボルでした。インターネットのシンボルは、アマゾン・ヤフー・そして後にeベイ等でした。

 ナスダックの株価指数は高く、今の2.5倍くらいでした。ITのニューエコノミーが、米国に資金を呼び込んだのです。

 無形資産(intangible asset)、知識産業、e−エコノミーが、インターネット代表的な用語でした。

▼べビーブーマーの貯蓄

 米国の株価は、2000年3月にピークを迎えます。

 日本のバブル経済の頂点だった90年(日経平均で3万9000円:時価総額600兆円)の、ちょうど10年後でした。

 戦後ベビーブーマー世代の中央が、日本は10年早く、米国が10年遅れであることも関係しています。

 世界共通に世帯主が45〜49歳のとき年金、保険、住宅ローン支払いを含む貯蓄率がもっとも高くなるからです。(重要)

 これらは金融機関にとって資金余剰です。運用先を競って探すようになる。

 90年代後期の米国では、物的な設備がなく「知識資本(=人が資源)」の会社が大きく伸びます。

 資金調達方法は、社債の発行か、株券の発行でした。

 ニューエコノミーに、米国内から巨額資金を与えたのは、自分の年金を、個人が運用する401Kです。それに海外マネーが加わります。

 米国のサラリーマン世帯では、投資信託という仲介を使う方法を含め、ほとんどが株を買うように変わります。これがベビーブーマー世代の年金貯蓄です。

 現在の、米国世帯の個人金融資産の50%は、株と社債です。

 個人持ち株は約1700兆円です。米国は株価依存の経済です。住宅資産にも匹敵するのが、個人持ち株です。米国では1億3000万世帯のうち半分(7000万世帯)が株を保有しています。

 他方、日本は株を持っているのは名寄せ後推計で700万世帯(12%)と言われます。1400兆円の個人の総金融資産(預金・保険・年金・債券・株)のうち9%(125兆円)です。

【株価上昇説の根拠】
 日本の株が長期で(08年ころまで)は、日経平均で3万円〜5万円に上昇すると言っているグループが挙げる根拠のうちもっとも大きなものは、
・ゼロ金利の預金(銀行・郵貯)として眠る700兆円が、今後、株を買う資金にまわる。
・90年代の米国に似ているということです。

米国の株価のピーク2000年3月を、日本は08年に迎えるというのが根拠でしょう。

 年10兆円〜20兆円くらいの真水の資金(買い越し)が株式市場に流入すれば、株価は、さしたる根拠がなくても上がります。そして、理由付けは後からいくらでも成されます。

▼担保主義だった銀行の融資

 90年代のわが国は、不良債権問題と自己資本規制(BISの8%)で、銀行が融資を拡大できる機能が麻痺していました。

 加えて銀行の融資は「不動産担保」を要求するものでした。いわゆる「間接金融」です。

 90年代は、この2つの要因があったため、ベンチャーを含む新しい会社には銀行資金が回らなかった。貸し剥がしが、常態でした。

 独立系のIT関連企業群は、企業からの受託開発を行い、営業利益で[細々と]経営していました。

 ところが、90年代中期から米国経済を再興させた新しいソフトウエアやインターネット関連の会社には、不動産がありません。

 物的な資産は、担保としては無価値な机や、コンピュータシステムしかない。

 日本の銀行の仕組みでは、物的資産がないベンチャーやIT関連企業、そして赤字のインターネット関連企業に大きな資金供給はできません。

 当時はジャスダック、ヘラクレス、マザーズ(ライブドアが所属)はなく上場の壁も厚かったのです。

 銀行による、担保が必要な間接金融(仲介金融)から、株式市場でで人々が、預金を崩し株を買う直接金融に変える。これは小泉内閣の意図でした。そのための制度改革と法の改正を行います。

2.わが国の2001年の制度改革

5万円という額面の問題

 戦後ずっと50円の額面だった株は、1981年の商法改正で、会社を新しく設立するときは5万円と定められます。

 50円額面の株が2000円(額面の40倍)とすれば、5万円額面の株が40倍の評価を受けると200万円です。1株が200万円では少数の人しか買えません。

 額面の5万円への引き上げと、たとえば50円額面の株での100株や1000株等の売買単位の設定(=「単位株」の制度)は、総会屋等が1株株主となって企業を恐喝することを防ぐためでした。

 日本政府も、2001年に、個人が株を買いやすいような制度改革を行っています。

 普通の人が広く株を買うときの障害は、新設会社での、株券の額面5万円でした。

▼IPO

 IPO(Initial Public Offering:株式市場での新規公開)が行われると、マーケットが寄せる成長期待から、1株に50万円や100万円の価格がつくことはザラです。単位株という制度もあり、売買の単位が1株だけではなく、100株、1000株とされることもあります。

 仮に1株50万円のものが100株を単位株とすると、買うのに5000万円が必要です。

 そこで政府は、小額の個人投資家が気軽に買えるように「株式分割」を奨励するように制度を変えます。これが、2001年の商法改正です。

(注)IPOでの、株売却で得られる巨額マネーを目的に、会社を運営する「株主&経営者」も多い。IPOは、「会社の将来利益への期待を担保」に、株主に株を売ることと等しいことです。

▼インターネットのBtoC取引

 01年ころからは、松井証券をさきがけとして、インターネットでの株取引が始まり、株の売買手数料が劇的に低下します。

 それとともにインターネット・トレーダーが誕生します。彼らのうちの多くは、80年代後半のバブル株価と崩壊を知りません。見たのは90年代後半の、米国のIT株バブルです。

 数万円の取引でも、手数料はほとんどかからなくなったからです。今、インターネット・トレーダーは300万人〜400万人と言われます。

 そのうち証拠金をおいて、その数倍以上の信用取引を行っているのは約10%(30万人〜40万人)の人たちです。平均で月間12回の売買をしています。

 04年ころからは、仕事を辞め1日に数十回の回転売買を行う人も増えています。

 大きな成功者はわずかでしょうが、05年は40%の株価上昇があり、数億円を1年で作る人もいました。

 株価は、上昇期ではラスベガスで儲ける確率よりもはるかに多くの成功者を生みます。ランダムに買っても上がるからです。

 儲けの味を覚えた人は、利益確定売りをしません。株を担保に、信用売買に向かいます。

 現在、個人の売買総額(1日1兆円くらい)のうち5000億円は、証券会社に担保となる株を差し入れ、その数倍の金額を借りて行う信用取引です。

 2000億円から1000億円分の株を担保にし、預託していることになるでしょう。数千億円の資金を貸すのは、証券会社です。担保となる証拠金か株を預託すれば、誰でも始めることができます。

3.90年代に、世界の株価形成の方法が変わった

▼要因(1)旧来の貸借対照表の無意味化があった

 インターネット取引とともに誕生した回転売買(1日で何回も売買)を行うデイトレーダーの多くは、貸借対照表や、損益計算書、または有価証券報告書を読みません。

 貸借対照表や損益計算書は、会社ファンダメンタルズ(基礎要件)にあたるものです。

 株を買うとき、それらが載った有価証券報告書を読むのは当然とされていました。

(注)公開会社の有価証券報告書は、全部を、金融庁のサービスサイトで読むことができます。
 http://info.edinet.go.jp/EdiHtml/main.htm

 個人で数百の銘柄を売買していれば、多くの会社の、ビジネスモデルや将来利益の分析ができるわけもない。

 彼らの信念は、あとでのべる「根拠がない株価完全情報説」です。

 しかもベンチャーやIT関連企業の特性は、物的な資産を多く持つ設備産業ではない。

 ライブドアの株を買った22万人の人のほとんどは、有価証券報告書を読んだことはないでしょう。

 勘定科目と簿記会計の基礎知識が普及していないことも、有価証券報告書が読まれない原因でもあります。「さおだけ屋がなぜつぶれないか」がベストセラーになる理由でもあります。

▼要因(2)無形資産をもつ産業

 新しい産業は、無形の資産(Intangible Asset)、つまり人的資本、知識、コンピュータシステム、ネットワーク、そして顧客との関係の維持(CRM)による産業です。

 ところが会計の方法は古く、会社の「貸借対照表」には物的な資産や負債金額しか記載されていません。せいぜいで、買収時に「のれん代(ブランド価値)」が計上されるだけです。

 およそ80年代までは、土地や設備を大量にもつ会社が、大会社でした。貸借対照表を見れば、資産と負債の内容が分かったのです。日本は、とりわけ土地が資本になる国でした。

 IT&ベンチャーでは、現金と若干の資産そして有価証券しかない貸借対照表を読んでも、企業内容は分かりません。

 ライブドアも「なぜ時価総額が7500億円だったのか?」は分からない。

 有価証券報告書の記載内容も、時代に遅れているのです。

 会計制度が、保守的でありすぎるためです。そのため証券アナリスト達が、いろんなことを言う。

 わが国における無形資産のトップ企業であるソフトバンクも、なぜ時価総額(=会社価値とされます)が4兆円(06年2月)なのか?

 ソフトバンクの資産・負債を示す貸借対照表と、当年度の600億円(05年3月期)という大きな赤字の損益計算書をみても分かりません。

▼要因(3)株価完全情報説

 「多くの人が参加する市場で、株価はすべての情報を反映し、決まっている。会社の財務分析等は、今日の株価を決めるのには、古い情報である。その情報は、すでに株価に織り込まれているからである。有価証券報告書を継続して読んでも、今日の株価の動きには、なんら役に立たない。だから、見ない。」

会社のファンダメンタル=貸借対照表+損益計算書+次期利益予想、
    ↓
証券アナリストのリポート=将来成長への情報を織り込む
    ↓
これらの情報で過去の株価が形成されている
    ↓
パソコン画面
    ↓
新しい今日の値動きが見える
他の投資家は遅れる
    ↓
だから売買する

 以上が、デイトレーダーにほぼ共通する発言です。見るのは、パソコン画面の、刻々と変わる今日の値動きのグラフです。

 「カン」で下げすぎと思えば買う。今日はこれくらいがせいぜいと思えば、売る。これを、何回も繰り返します。このとき判定基準はないに等しい。全くの賭けです。

 1日で、10%や15%も株価が動く会社も多いからです。うまく高値で売る抜けることを続ければ、1年で100万円が1億円にもなります。賭けと同じです。

 10万人くらいが行っていると思われる回転売買では、ルーレットで13に張り続けるような、カンしか方法はない。

 05年のような株価の上昇期には、この方法も功を奏します。確率的には中立の「ランダム・ウォーク」をする株価も、右肩上がりの太いトレンド線で上昇するからです。

 株価は、その企業と金融市場の現在と将来をめぐるすべての情報を反映して決まっている。つまりあらゆる情報を、株価として織り込んでいる。 これが株価完全情報説。

 株価が完全情報なら、今日の株価の動きを見ておけばいい。

 例えば1000円という株価がある。これは、過去の情報をすべて織り込んだ株価である。

 本質を言えば、株価は完全情報ではありません。

 むしろ、情報の歪み、重んじる情報の、その時々の変化(時流変化)によって株価が形成されています。株価は不完全情報です。

【4点セット】
(1)株価完全情報説
(2)手数料の安いインターネット売買の開始
(3)ベンチャー企業における、有形資産の無意味化
(4)そして、根底での、世界の過剰流動性

 これが現在の株価を形成しています。米国の90年代後期以降、80年代までの株価形成と、様変わりが起こっているのです。

4.ライブドアのビジネスモデル

 ビジネスモデルは、会社収益を上げる仕組み(ワークフローと経営方法=戦略)のことを言います。

▼ライブドアのビジネスモデル

 以上で申し上げたような、背景の中で、ライブドアが誕生します。

・犯罪とされる偽計取引と粉飾決算もいとわず、
・10億株に株を分割し、1株単位の数百円売買できるようにして、
・一般株主への株券の販売業を行うというビジネスモデルを作っていたのがライブドアです。

 「ライブドアのもっとも重要な商品は、分割し個人が気軽に小額で買える株券だった」と言えば、作られた、あるいはそうなったビジネスモデルの本質が分かります。

 株券を個人投資家に売るというビジネスモデルに、是が非でも必要だったのが「企業ブランド」です。

 近鉄の買収、ニッポン放送のM&A、衆院選挙への立候補は、いずれも果たせませんでしたが、約2年余で、ライブドアを有名な会社にしました。「ホリエモン」は株価を作るブランド価値になっていたのです。

 CEOがビジネス誌やマスコミでのスターになって株価を上げるというのも、広くは、90年代の米国に始まったことです。

 ビル・ゲーツ、ジェフ・ベソス、孫正義氏、三木谷氏も同じです。堀江氏は彼らを追いかけます。雄弁ではなくても、乱暴で率直でした。

 有価証券報告書は、「ライブドアのブランド価値を作ること」をもっとも大切なこととしてあげてます。そのための活動を仕事として行ったのが堀江氏です。そしてM&A、株価を上げる仕組み、株式分割、投資事業組合を起案したのが宮内氏です。

 両氏はいずれも「エリート」ではなかった。エリート臭もなかった。日本的と見られていた慣習や制度に、風穴を開けると期待されました。

▼22万人による小額取引

 単位株で、1000万円レベルでライブドアの株を買う人が多ければ、彼らは企業の損益計算書や貸借対象表を読むだろう。配当要求や経営者への要求も高くなる。

 100株を買って7万円の投資なら、株価が半分の350円に下がっても会社に文句は言わないだろう。

 「インターネットで広く浅くマネーを集める方法を作ること」、これが、ライブドアが目指したことです。ここが、新しかったのです。

 問題の発生は、株式分割で株を上げる途中で、株が、偽装も可能な商品に思えたことです。この商品なら、いくらでも印刷し売ることができる。日銀の輪転機と同じです。

 株価は乱高下してもいい。値動きが激しければ、逆に、人気が高まる。

堀江氏と宮内氏は、
(1)政府主導の個人株主を増やすための「制度変更」と、
(2)インターネットトレーディングによる「マーケット変化」を、利用します。その意味で、才があったのです。

 買収する会社は、何でもいい。わずかに形上の利益を作ればいい。ライブドアブランドがM&Aをし、株式分割をすれば、今の市場では株価が上がる。時価総額は急に増える。それでまた買収ができる。

 ライブドアの発行株数は、10億株にまで増えていました。1万円の株価では、広く浅く買われないと思ったからです。

 しかし1株に750円の値段がつけば、7500億円の時価総額です。堀江氏は個人資産として、株の17%、1300億円をもち成功の極にありました。

 10億株という膨大な株数は、ソフトバンク(3800円×10億5千万株=約4兆円の時価総額)と同じです。

▼将来の利益を、今、先取りする時価総額

 90年代米国発の、会社価値のイデオロギーによれば「時価総額こそ会社価値」だ。これに異を唱える人は少ない。違法でなければ、適法であるとする。世界の金融の先端ではこのことは当然とされる。

 そして時価総額こそが、経営者の経営能力を示す。時価総額が小さいことは、人材と資産を活用できない経営能力のなさを示す。

 時価総額で、相手会社の数倍なら、株式交換で相手を買収もできる。

 ライブドアが時価総額で上回れば、それ以下の時価総額の会社は「格下」と見ていい。経営能力が劣る球団もTV局も、買収できる。買収すれば相手の株価も上がるから、そこからもマネーを生める。

 事業を作るのに、時間と労力をかけ、商品を開発し、顧客を獲得する必要はない。

 ボロ会社でも、実体は債務超過でも、すでに上場していて事業の体裁があれば、ライブドアが買うという情報で株価が上がる。

 相手会社の、または増資したライブドアの、上がった株券を売れば、市場から巨額の現金が手に入る。

 事業の純利益で貯めるキャッシュフローの10年分、20年分、時には100年分にもなる。これが予想PER(株価÷1株あたり予想純益)の乗数思想だ。

 100億円の将来純益の期待を振りまくことができれば、PERが100倍なら、それが実現する前に、たった今時価総額で1兆円に化ける。これがPERの乗数効果である。

 株価を上げるためなら「何でもあり」で実行する。

▼何でもありということの発祥

 堀江氏は、自分は会計の詳細な知識はないと言っています。これは、おそらく事実でしょう。

 会計、会社法、商法に、その精神をまでを含め、造詣が深ければ、限りなくグレーの違法性に怖くなり、ライブドアのようなことはできません。

【法】
 法は条文だけではない。文言はなくても「立法の精神(行間の含意)」が含まれます。これを行為の証拠や証言に照らし、違法かどうかを判断するのが裁判官です。

 裁判官も、法の解釈を誤ります。しかし判例も一種の法です。

 ライブドアにも顧問弁護士がいます。ひとつひとつの取引は違法かどうか相談しています。

 禁止する条文はないという回答があったことが、ライブドアが誤った原因です。こうした回答は米国に多い弁護士のタイプでもあります。陪審員制度の米国の裁判には、演技性があります。(わが国もこれを取り入れました。)

 法の条文にないことも、組みわせれば違法性があるととられる可能性も濃いという回答なら、堀江氏は行わなかったかもしれません。

【想定外】
 堀江氏と宮内氏の計算外は「内部告発」と、「取引関係者の証言」です。地検には05年の春くらいから、いろんな情報が寄せられていました。

 地検が犯罪の立件に確信をもった理由は、
(1)幹部が交わした電子メールの存在
(2)そして内部告発情報です。

(注)地検:地方裁判所に対応し設置される検察庁。特に特捜は、大事件や政治家が絡むときに発動する。ライブドアには検察は、相当な反感をもっていたようです。

 コンピュータのファイルは、消しても普通は、鏡のように輝くハードディスクのディレクトリ(一種のラベル)が消えるだけで、内容の復活ができるケースも多い。

 特捜がサーバーを押さえたことでも、証拠が残る電子メールが鍵になっていることが分かります。

 堀江氏は「電子メールの仕事術」という本を書いています。

 株価は結果ですが、その結果を、会社を大きくする原因にしようとしたのがライブドアです。

以下次回では、
5.株式分割を、株価を上げる戦略とする
6.そこで・・・「投資事業組合」を使う
プライベートバンクとタックスヘブンの仕組み
7.たとえばこんな方法が・・・
8.「60億円の架空取引の純益」が1800億円のマネーに化ける乗数の仕組み
9.結論:時価総額は、株主からの資本の預託を受ける会社の負債であることについて書きます。

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