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【森田実の言わねばならぬ】憂国の士・故西村正雄氏(日本興業銀行最後の頭取)の遺言
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投稿者 天木ファン 日時 2006 年 8 月 10 日 12:56:19: 2nLReFHhGZ7P6
 

2006.8.10(その1)
森田実の言わねばならぬ[267]

憂国の士・故西村正雄氏(日本興業銀行最後の頭取)の遺言

「いかに永く生きたかでなく、いかに良く生きたかが問題である」(セネカ)


 私の人生を通じて最も尊敬している先輩のAさんからの手紙に、こう書かれていた。
 「興銀入行同期の西村正雄君が急逝しました。彼は安倍晋三氏の叔父でありましたが、安倍氏の誤った考え(例えば靖国問題など)に苦言を呈す見識をもっていました。本当に惜しい男を失ったと残念でなりません」

 6月2日、西村さんから手紙をいただいた。最後の手紙だった。その中には、次のように書かれていた。
 《5日発行予定の「論座」7月号に「次の総理に何を望むか」というタイトルで寄稿致しましたので拙文をお送り申し上げます。ご一読賜れぱ幸甚です。
 総裁選に関する取材の申し込みは立場上すべて断って参りました。しかし薬師寺克行編集長から、このタイトルで現役の経済人に依頼しても政権への配慮や右翼への恐れから引受け手がないと聞き、かねてより小泉改革を無批判に礼賛してきた奥田・北城ら財界首脳を権力亡者と批判してきた私は、現役の不甲斐なさに改めて憤りを感じて引き受けた次第です。そうはいっても評論家の先生方のように胸のすくような一刀両断に斬り捨てる歯切れの良い表現に欠けている上、内容的にご異論のある部分もあろうかと存じます。
 ただ、先方の要請で「安倍晋太郎氏の弟が直言」という副題を認めましたことと、多分この意見に大筋で賛成されると思われる中曽根、宮沢、森、塩川、亀井、堀内、野中、与謝野、二階、藤井裕久氏ら政界の実力者と渡邁恒雄氏に、私の添え状をつけて同誌を発送させましたので、多少総裁選に影響が出ることを期待しております。
 なお安倍晋三には、予め手紙で「ここに書いてある内容は、君に対する直言であり、故安倍晋太郎が生きていれば恐らく同意見と思うので良く読むように」と伝え、更に総裁選出馬は政界の流れからやむを得ないにしても次期総理は時期尚早、小泉亜流は絶対不可、竹中等市場原理主義者や偏狭なナショナリストと絶縁しもっと経験を積むようにと言い込んでおきました。
 小泉退任後誰が総理になっても、竹中とその同調者並びに政商宮内らを完全追放すべきと思いますので、引き続き彼らに筆誅を加えるよう宜敷くお願い申し上げます。》

 西村さんは本当に尊敬すべき立派な人物だった。何回かお会いしたが、真の国士だった。多くのことを教えられた。西村さんの最後の論文「安倍晋太郎氏の弟が直言 次の総理になにを望むか 経世済民の政治とアジア外交の再生を」(『論座』7月号)を生かすために、全力を尽くすことを、西村正雄さんの御霊に誓います。
 『論座』論文の中から西村さんの遺言の一部を以下に紹介したい。

 《近年、日本は収益至上主義が跋扈している。人を大切にずる日本的経営の良さが変貌し、勤勉、誠実、謙虚、優しさ、和を尊ぶなど日本人の美風が失われつつある。マックス・ウエーバーの説くプロテスタンティズムをベースにした資本主義勃興の時代には、厳しい倫理観に基づく資本主義が存在した。だが、拝金主義が謳歌され順法精神が薄れた今、勤勉で謙虚で礼儀正しい日本人の美風はどこに行ったのであろうか。》
 《民主主義が陥りやすい欠点は、ポピュリズム政治である。特にテレビが発達した小選挙区制度の下では、その傾向が強くなりがちである。テレビに頻繁に出て、若くて恰好良い政治家が人気を博する。また、中国の反日デモなどを機に「強い日本」を煽るナショナリスティックな政治家がもて囃される傾向がある。
 このような偏狭なナショナリズムを抑えるのが政治家に課せられた大きな使命である。》
 《中国・韓国は、戦役者追悼を問題にしているのではなく、A級戦犯を合祀している靖国神社への首相参拝を非難しているのであって、被害にあったアジア諸国も同様である。欧米諸国も、日本がいまだに戦争責任を総括していないとみており、戦後50年の村山談話、60年の小泉談話にもかかわらず、日本の総理が戦争犯罪人を合祀し、しかもかつての戦争を美化し正当北している付属施設「遊就館」を持つ靖国神社に参拝することに、不快感を持っているのは歴然たる事実である。
 東京裁判やA級戦犯について評論家が異を唱えるのは勝手だが、政府関係者にはサンフランシスコ条約を順守する義務がある。敗戦国の日本はこの条約を受け入れることによって独立を回復し、国際社会への復帰を果たして今日の繁栄が可能になったのである。小泉首相が国会答弁で「A級戦犯を戦争犯罪人として認陣している」と答弁したのは当然である。
 したがって、A級戦犯が合祀されている靖国神社への総理の参拝を正当化する理屈は、国内では通用しても国際的にはまったく通用しない。中国・韓国から言われたから参拝を止めるのではなく、自ら過去の戦争責任を自覚して現実的な外交を優先すべきである。》
 《日本の外交の主軸が日米関係にあることはいうまでもないが、台頭してくる中国やインドにいかに対応するかの戦略が極めて重要である。東南アジア諸国も同地域で中国一国に覇権を握られることを危惧しており、日本が中国に対抗してリーダーシップを発揮することを期待している。しかるに現状では、国連常任理事国入りにアジアの主要国が1カ国も賛成しなかったことに象徴されるように、アジアにおいて日本は孤立している。戦略的アジア外交の再構築こそポスト小泉に課せられた最大の課題である。
 日中首脳会談を再開する環境を早急に整え、冷戦終結後の変化の激しい国際情勢に対応した外交戦略を樹立することが求められる。》

[西村正雄さん。ご冥福をお祈り申し上げます。安らかにおやすみください――森田実] 

http://www.pluto.dti.ne.jp/~mor97512/C02818.HTML


森田実の時代を斬る
http://www.pluto.dti.ne.jp/~mor97512/TEST03.HTML


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