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NHK経営者と放送現場への私たちの提案(放送を語る会)
http://www.asyura2.com/0601/senkyo26/msg/131.html
投稿者 木村愛二 日時 2006 年 8 月 30 日 07:29:49: CjMHiEP28ibKM
 

NHK経営者と放送現場への私たちの提案(放送を語る会)

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http://www.geocities.jp/hoso_katarukai/teian.html

この(案)は26日の「放送を語るつどい」の第2部で提案・討論されたものです。

“可能性としてのNHK”へ向かって(案)

   〜NHK経営者と放送現場への私たちの提案〜

2006年8月26日

放送を語る会「私たちの提案」作業チーム

目次

1、はじめに 〜“可能性としてのNHK”とは〜

2、番組・ニュースにおける表現の自由を確保し、テーマにタブーを設けない多様な放送を実現すること。

  1)国民の知る権利とテーマの多様性の保障

  2)NHKがいう「編集権」概念は認められない

3、放送における表現の自由と多様性を確保するために、取材・制作者の権利を保障する制度を確立すること

  1)「内部的自由」の保障制度をつくるべきである。

  2)「編集協議会」の設置へ向けて

  3)NHK外部のプロダクションと制作者の権利の擁護

  4)BPOに権利救済の窓口を設けることはできないか

4、経営、放送における自主、自立を守り、つらぬくために、具体的な指針を作成し、視聴者市民に公開すること

5、受信料を支払っている市民が権利を行使できる具体的な制度を検討し、実現すること

  1)番組審議会の権限と機能を強化すること

  2)NHKへの市民の声を取り上げる番組の新設、レギュラー化

  3)パブリックアクセス放送ワクの確保、市民メディアへの物的・技術的

援助  

6、経営者も現場制作者ももっと広く市民の中に入り、視聴者市民との

  対話を強化すること

  1)視聴者運動との対話を

  2)労働組合への期待

7、おわりに 〜残された問題〜

1、はじめに 〜“可能性としてのNHK”とは〜

 繰り返し指摘されているように、NHKはいま危機にある、と言われています。

 受信料の使途にかかわる不祥事や、番組への政治介入疑惑によって、視聴者の不信を招いたこと、受信料の不払いの増大と、政府・財界などによるさまざまな制度改変のプラン、などが、NHKを揺るがしていることは事実です。これはたしかに「危機的」な状況です。

 しかし、危機とはいえ、私たちの目の前にあるNHKは、テレビ、ラジオ8波を保有し、多様な放送を出し続けている巨大な放送事業体です。多数の施設、設備と、高い能力を持った職員、NHKの仕事を担っている膨大な外部の事業者、制作者の集団が存在しています。

この、NHKに集まっている技術力、人的財産、そしてなお視聴者の根強い信頼は、これまでNHKで働いてきた人びとの永年にわたる努力によって培われてきましたが、それは同時に、私たちひとりひとりが払ってきた受信料によって形成されたものです。

いわば国民の共有財産ともいえるこの放送局は、幸いにも、放送制度上、建て前としては、政治権力からも企業からも自主、自立が保障されている放送局です。視聴者市民が受信料を負担して維持している放送局、―― 私たち視聴者市民からすれば、これは非常に大きな可能性をもつ存在とみえます。

これまでの実績の上に、真に政治権力から独立し、民主主義の発展に資するような、多様で豊かな放送を、視聴者市民の参加のもとに実現できるようなNHKであれば、いまのNHKに失望し批判的な市民も、NHKを支える受信料制度の重要性について周りに訴え、制度を守る運動に参加する展望が開けるはずです。

私たちはこれまで、現在のNHKについて、不祥事や政治介入疑惑について厳しく批判し、折にふれて申し入れや署名活動などを展開してきました。しかし、いま必要なことは、批判だけにとどまらず、NHKを、真に国民のための放送局へ向かう可能性のある存在、いわば“可能性としてのNHK”として捉え、視聴者市民として発言し、運動を展開していくことだと考えています。

NHKを視聴してもしなくても、また罰則規定がないのに、7割もの世帯が年間2万数千円もの受信料を納めている、という状況は世界に例がなく、限りなく重い意味を持っています。このような制度を維持するということは、経済的利害、市場原理にしたがったものとは根本的にちがう、何か道義的、理念的な運動という性格を持たざるをえません。

市場原理優先、経済的利害で行動する傾向が強まっている日本の社会で、もし将来も受信料制度を維持しようとするなら、NHKが主張し運動するだけでは充分ではありません。NHK外の視聴者市民が、分厚い市民運動、国民的合意を得るための大運動でも展開しなければ維持され得ないほどの困難な課題でしょう。

こうした受信料制度を維持するためには、「国民のためにNHKが必要だ」という国民的合意が必須ですが、現在のNHKを前提にした場合、必ずしもその合意は成立しそうもありません。もしそうであれば、受信料制度に支えられたNHKの崩壊は近いかもしれない、これがNHKの危機の本当のすがたです。

 このような危機を回避するために、どのようなNHKであれば、視聴者市民がNHKを支持し、受信料制度を維持する運動にまで取り組むような新しい状況が開けるのか、これから述べることは、そのための、いくつかの当面の提案です。

それは次の5点に集約されます。

1)番組・ニュースにおける表現の自由を確保し、テーマにタブーを設けない多様な放送を実現すること

 2)放送における表現の自由と多様性を確保するために、取材・制作者の権利を保障する制度を確立すること

 3)経営、放送における自主・自立を守り、つらぬくために、具体的な指針を作成し、視聴者市民に公開すること

 4)受信料を支払っている市民が権利を行使できる具体的な制度を検討し、実現すること

 5)経営者も現場制作者ももっと広く市民の中に入り、視聴者市民との対話を強化すること

 放送を語る会とは

   当会は1989年に発足し、放送労働者・ジャーナリスト、メディア研究者、視聴者市民が参加し、放送の問題について話し合い、学習している団体です。

これまでNHKの動向に注意を向け、繰り返しフォーラムやシンポジウムなどを開催してきました。

   放送関係者では、NHK、民放ともに出身者が会員となっていますが、とくにNHKの退職者が数多く含まれています。NHKの現場を体験した会員は、建て前としての「NHKの改革」が、現場では言葉でいうほど簡単ではない、ということを充分承知しています。同時に、NHKが放送における公共性を実現できる可能性がもっとも大きい放送企業だということも、実際の業務を通じて体感しています。

   以下の文章が、そうした会員の意見を最大限に取り入れた提案であることを最初に記しておきたいと思います。

「取材・制作者」とは

   以下の「提案」で、「取材・制作者」とは、現場でニュースの取材、ニュースの制作、番組制作に従事するすべての人びとを指し、記者・デスク、プロデューサー、ディレクター、キャスター、アナウンサー、リポーター、撮影、録音、照明、音響効果などの技術スタッフ、編集マン、など、放送にかかわる実質的な制作担当者をイメージしています。現場で指揮・管理を行う部課長級の管理職も含みます。

2、番組・ニュース制作における表現の自由を確保し、テーマにタブーを設けない多様な放送を実現すること

1)国民の知る権利とテーマの多様性の保障

 放送法は、第一条で、放送を法で規律するにあたって三つの原則に従うとしています。その中でとりわけ重要なのは、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」という条文です。

 いま、放送事業者はこの法の精神に立ち返ることが強く求められています。放送による表現の自由はほんとうに確保されているのか、あるいは放送が「民主主義の発達に資するもの」になっているのか、視聴者市民もまた厳しく放送の現状を検証すべきでしょう。

 国民主権を根幹とする民主主義制度を実質的にするためには、国民は問われている政治、社会、文化の問題について、自らの判断に必要な多様な情報、事実、意見、見解などをメディアを通じて広く入手することが欠かせません。国民主権の原理は「知る権利」の保障を当然前提とするものです。

その際、メディアの中で最も影響力が大きいとされるテレビの中では、政治権力からも広告主からも独立しているはずのNHKが、最も重要な役割を果たすべきは当然です。NHKの放送では、取材、制作上の倫理を踏まえた上で、多様なテーマをタブーを設けずに取り上げ、国民にとって重要な問題を外さず、常に争点を明らかにする番組・ニュースを放送することが求められます。とくに、意見が対立する問題については、多角的に論点を明らかにする、という放送法の規定を徹底させることが重要です。

 私たちがこのような自明ともいうべき主張を繰り返すのは、NHKの放送になおタブーと偏りがあるのではないかという印象があるからです。

 たとえば、戦争と平和に関する一連の番組は、民放に比べて大いに評価できますが、アジア太平洋戦争時の日本の加害責任についてはほとんど取り上げられてきませんでした。戦争における日本人の被害については多くの優れた番組がありますが、アジアの人びとに与えた被害については充分には伝えない、これはNHKの戦争関連番組の際立った特徴といえるでしょう。

また、イラク戦争報道では、米日政府の政策や見解の報道が大きな部分を占めたのに比して、戦争批判、反戦の運動の紹介はわずかな分量にとどまっていました。これが民放のニュース番組にくらべても特徴的だったことは、当放送を語る会の詳細な調査でも明らかでした。

(「テレビはイラク戦争をどう伝えたか」放送を語る会 2003年)

アメリカ軍の攻撃によるイラクの市民の被害についても、報道に不満が残りました。イラクに踏みとどまったフリーのジャーナリストの報告を取り上げようとした「クローズアップ現代」が、放送直前に理事の指示で放送中止に追い込まれたのはこの間の象徴的なできごとです。

このほか、企業内で横行する人権無視、市民運動に対する警察の過剰な取り締まり、教育現場における君が代・日の丸強制と処分、等々、ジャーナリズムとして伝え、告発すべきテーマが充分に取り上げられているとはいえません。

同時に、テーマの多様性だけではなく、テーマの重要性に対応する放送時間量も問題です。憲法九条や教育基本法に関する議論、また高齢者福祉の政策に関する議論などは、日本の政治上の大問題ですが、昨年から現在まで、政党討論を別にすれば、NHK独自の取材、調査による番組はけっして多いとは言えません。

国民の重要な政治的判断にかかわる問題については、繰り返し圧倒的な時間量で取り上げ、視聴者市民の討論の広場としての「公共放送」の役割を果たすべきです。

 たしかに、テーマによっては政治家の圧力や、特定の団体の抗議行動などが予想されます。しかし、受信料を支払う市民に直接支えられる放送局という気概をもって、扱いの難しいテーマに果敢に挑戦してほしいと考えます。

2) NHKがいう「編集権」概念は認められない

 以上のような放送の多様性は、まずNHKで働く人々の思想・表現の多様性に基礎をおくべきです。ディレクター、プロデューサー、記者だけでなく、キャスター、アナウンサー、リポーター、技術スタッフその他制作にかかわる人びとも、市民として社会の中で生活し、何が問題か、何を放送で取り上げなければならないかを考える存在です。

 こうした現場の制作者たちは、国民の知る権利の行使を放送人として委託され、その要請に応える任務を持っています。したがって、現場制作者の表現の自由は最大限に尊重されなければなりません。

この考え方の対極にあるのは、戦後日本のメディア企業の歴史の中で、労働組合や現場の意見を封殺する武器として使われてきた「編集権」概念です。よく引用されるNHK法規室の解説は、「編集権は会長の業務執行権の中枢」であり、「編集・放送のすべての段階において、一般職員の業務は、すべて就業規則による業務遂行上の義務」、であるから、「編集に参画する権利が一般職員に与えられているものではない」としています。

私たちは法的な根拠もないこのような編集権概念を到底認めることはできません。編集権を、経営者である会長や放送総局長から番組制作局長に移せばよい、という見解もありますが、これも危険です。

複雑で多岐にわたる現実を取材し、創造的で集団的な作業と表現が要求される多数の番組について、たった一人のトップが適否を判断する、という体制は、番組制作・ニュース取材のように、精神的な作業を中心とする職場ではもともと不自然です。

放送局の構成員ひとりひとりが、国民の多様な知る権利の付託をうけ、それを実現する任務を負っている、と考えるならば、企画の採否や、番組内容の適否については、できるだけ現場の民主的な合議によって決するのが健康な状態です。組織である以上、セクションのトップが決定するということは避けられませんが、その際も現場に対して説明責任が果たされ、判断の理由が局内で公開される必要があります。

働く立場から言えば、NHKがいうような編集権概念はまったく認められないし、不要です。戦後のメディアの歴史の中で、編集権は社外からの不当な干渉や圧力に対抗するもの、とされていました。しかし、NHKにあっては、この概念を使う必要はなく、放送法第3条「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、または規律されることがない」という条文を武器にすれば充分です。

3、放送における表現の自由と多様性を確保するために、

取材・制作者の権利を保障する制度を確立すること

 1)「内部的自由」の保障制度をつくるべきである

2005年1月、4年前に放送した「ETV2001"問われる戦時性暴力"」に政治家の圧力、介入があったという内部告発があり、その後裁判を通じてさまざまな事実が明らかになりました。

ここでは詳述しませんが、番組制作の最終段階で、政治家の意向をうけた国会担当役員が、番組担当部の部長とプロデューサーが最終的に作成した番組内容に直接介入し、大きく改変した、という事実は疑いようがありません。

番組内容の改変は放送直前まで続き、部長とプロデューサーが激しく抗議したにもかかわらず、放送数時間前に、日本軍「慰安婦」だった証言者の重要な証言などの削除が放送総局長の「業務命令」という形で強行されました。

当時のプロデューサーは、今年3月、この改変事件が争われている東京高裁での証言で、この削除について、「・・・非常に恥ずかしい、歴史的なつらい体験をおとしめるような、そういう振る舞いをしたことの無残さということが。・・・やっぱり間違っていたんじゃないでしょうか」と、涙を交えた痛切な調子で述べています。

この番組に対する介入は番組制作時だけでは終わりませんでした。

プロデューサーの証言のあと、国会で自民党議員がこの裁判を取り上げ、NHK会長に対し、証言したプロデューサーと内部告発をした当時のデスクへの処分を迫りました。

この経過のあと、6月に行われた管理職の人事異動では、自民議員が言及した二人の職員に対し、番組制作現場から外し、事務、研究部門へ配転する異動を行いました。現場では明らかな報復人事と受け止められています。

「ETV2001」をめぐって起こったことは、「公共放送」を標榜するNHKの自主自立にたいする重大な疑惑を生み、その根幹を揺るがすものでした。

 同時に、メディア内部で働く人びとの権利に関しても深刻な問題を改めて提起しました。自らの思想、信条に基づいて行おうとした表現行為と、上司の業務命令が重大な対立を生じたとき、またそのことを外部に向かって公表、証言したことを理由に人事上不利益な扱いを受けたとき、日本のメディア内部では異議申し立てや救済をはかる手段がないことが、切実な問題として浮き彫りになったと私たちは考えています。

メディアにおける「内部的自由」の保障の制度については、ドイツの放送機関の例が70年代から日本でも紹介され、民放、NHKの労働組合もその必要性を主張してきましたが、30年を経た現在に至っても、日本では実現していません。

2)「編集協議会」の設置へ向けて

 日放労(NHK労組)は、このような救済機関として、早くから「編集協議会」の設置を主張しています。私たちも、この提案が実ることを視聴者市民として大いに期待するものです。

 その提案の内容は、1991年に、当時の日放労奥田良胤委員長らが執筆、発行した「新公共放送論」で次のように紹介されています。

  「『編集協議会』とは、制作・取材に携わる者が自由な雰囲気のなかで自己の良心のみにしたがって制作活動に専念できるようにすることを目的としたものです。具体的には、管理者から自己の良心に反する業務を命じられたとき、または、みずから制作に携わった番組の放送が中止されたり、内容が改変されたときに、事実関係を調査のうえ『裁定』をおこなう機能と権限をもった、NHKの内部機関とします。経営者側と制作・取材の現場代表がそれぞれ推薦する同数の委員で構成するようにしたらどうでしょうか」(134ページ)

この「編集協議会」の主張は、日放労が刊行した「公共放送ルネッサンス99」(1999年・235ページ)にも引き継がれています。

こうした経営者と現場が作る組織は、放送制作者の権利を守ることで、視聴者市民の知る権利に応えようとするものです。

また、放送制作者に本来保障されるべき権利については、民放労連(民放各社の労働組合の連合組織)が提案している「視聴者のための放送をめざす民放労連の提案」(1991年)の「制作者の権利」の項が参考になります。その内容はつぎの通りです。

「番組づくりに携わる制作者の言論・表現の自由を最大限に保障することによって放送の多様性を実現すること

1、直接的に言論・表現に携わる放送関係者は、本人の同意なしに異業種への配置転換あるいは契約解除を受けない

2、直接的に言論・表現に携わる放送関係者は、自らが関与する番組、または取材担務から正当な理由なく排除されない

3、企画・制作過程、放送結果などについて会社側の措置に異論や批判がある場合、それについて自分の意見を内外に公表する権利があり、それを理由にいかなる不利益待遇も受けない

4、自らが関与する放送番組が議題となる社内の会議に出席し発言する権利があり、そのことによっていかなる不利益待遇も受けない

5、憲法上の規定に反する問題、あるいは自らの思想・信条・宗教に反する仕事を強要されない権利があり、拒否したことを理由にいかなる不利益待遇も受けない

6、会社は、労働組合が団体交渉の席上で、放送番組について、あるいは記者、制作者の権利について議題とした場合、誠意を持って応じなければならない」

 以上のような「内部的自由」の保障制度や、制作者の権利の主張は、経営者がまったく応じることがなかったため、永らく“絵に描いた餅”でした。

しかし、「ETV2001事件」のような深刻な事態を経た今、放送メディア内部で、制作者の権利を明確にするとともに、「内的自由」の保障のシステムをぜひ作るべきです。

とくにNHKについては、上記のような民主的なシステムがなく、政治家の圧力に屈して「自主規制」するとか、政権党の要求を入れて報復人事を行う、などの疑惑を生じるようでは、視聴者としては到底“私たちの放送局”というふうに思えないでしょう。もし「公共放送」というなら、内部においても民主的な組織であってほしい、という視聴者市民の声に真摯に応える必要があります。

この要求に関しては、私たち視聴者団体は、メディアの労働組合と連帯して運動する用意があります。

3)NHK外部のプロダクションと制作者の権利の擁護

 現在、NHKで放送している番組は、すべてNHKの職員が制作しているわけではありません。NHKは関連会社に番組の制作委託を行い、関連会社は実際の制作を外部プロダクションに委ねています。NHKの外注比率は平成16年度実績で39.9パーセントに達しました。

このような状況の中で、NHK――関連会社――制作プロダクションという多重構造に批判が生まれていました。NHKは今年度の組織改正で編成局に新たにソフト開発センター設置、外部からの提案募集から内容管理まで、関連団体を通さずに実施できる体制を作ったとしています。

私たちは、この直接委託がどのような状況を生むか注意深くみてゆきたいと思いますが、NHKの外部の事業者、制作者が番組制作に多く参加している実態を踏まえ、NHK本体の制作者と同じように外部プロダクションの制作者の権利保障をはかることはどうしても必要だと考えます。

外部プロダクションは、NHKとの契約関係の中で、ともすれば弱い立場に置かれる場合があるために、番組内容の判断についても、著作者としての権利の面でも不利な立場におかれてきた実態がありますし、外部プロダクションの番組制作の現場では、技術スタッフなど多くの労働者が低賃金、不安定雇用の状態で働いています。

今後、こうした契約関係での苦情や、フリー契約者・外部プロダクション社員などの権利保護・労働相談のための苦情処理機構を設けることが検討されるべきです。

先に述べた「編集協議会」も、プロダクション制作者から苦情や、救済の申し立てができるような、開かれた機関である必要があります。

4)BPOに権利救済の窓口を設けることはできないか

 しかし、NHK労組が主張するような「編集協議会」など、新たな苦情処理機構を設置することは、簡単なことではありません。

 そこで一つの選択肢として、NHKと民放連(日本民間放送連盟)が設立した第三者機関であるBPO(放送倫理・番組向上機構)にあるBRC(放送と人権等に関する委員会)に、放送メディア内部の人権侵害、放送法違反の事案について、訴えを受け付ける窓口を設けることはできないでしょうか。

 いうまでもなく、BRCは、視聴者の立場に立って、放送による人権侵害を救済することを活動内容としている委員会です。放送メディア内部に起こった人権侵害は救済の対象ではありません。しかし、BPOは、放送局に対し厳正な判断をすることで、権力の介入を防ぎ、ひいては報道の自由を守り、より良い番組を作り続けることができる環境を守っていくことで、放送の自律を確保しようとしている機関です。(BPOホームページから)

 放送局内部の人権侵害や、表現の自由の侵害は、放送メディアの自律と発展にとって重大な障害になるものです。放送局の自律を図る第三者機関が、こうした問題にも窓口を広げることは検討されてもよいと考えます。

放送局内部の人権侵害や、表現の自由の侵害について、まったく救済機構がない、というのは、わが国のメディアの後進的状況です。これを変えるために、第三者機関の役割を拡充することは、選択肢の一つではないでしょうか。

4、経営、放送における自主、自立を守り、つらぬくために、具体的な指針を作成し、視聴者市民に公開すること

 先述の「新公共放送論」は、1981年のロッキード報道カット事件と、カットに抵抗した記者たちへの報復人事にふれて次のように書いています。

「政権交代がないという日本の特殊な政治状況のなかで、免許やさまざまな公共的規制のもとにある放送事業の経営者は、守りの意識が優先するあまり、番組に対する政府筋からのクレームを避け、その意を迎えるため「自主規制」したり番組を歪めることがままあると聞きます。・・・」(129ページ)

 この文章は、その10年後、政治介入の疑惑を生んだ「ETV2001事件」について正確に予測したかのようにみえます。

 「ETV2001事件」は、番組制作過程で、「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」に所属する国会議員の圧力があり、その意を受けた国会対策のNHK役員が、番組の編集に介入し、現場の意に反して異様な改変を行った事件だと私たちは捉えています。

それにとどまらず、当時、政治的圧力があると感じたと裁判で証言した職員に対し、政権政党議員の要求に応じるかのように報復的人事が行われました。

NHKの経営者は、現在も政治的圧力があったことを否定し、人事も「適材適所」だと説明しています。しかしこれら一連のできごとの真実は将来必ず明らかになるはずです。できれば早い段階で、見識のある経営者の手で、正確な事実が明らかにされることを強く要請したいと思います。

ただ、NHKは、視聴者の批判に応える形で、2006年3月31日発表の「新放送ガイドライン」の「自主自律の堅持」の項で次のように書きました。

「・・ニュースや番組が、外からの圧力や働きかけによって左右されてはならない。NHKは放送の自主自律を堅持する。全役職員は、放送の自主自律の堅持が信頼される公共放送の生命線であるとの認識に基づき、すべての業務にあたる。

日々の取材活動や番組制作はもとより、放送とは直接かかわりのないNHKの予算、事業計画の国会承認を得るなどの業務にあたっても、この基本的な立場は揺るがない。」

 わざわざ「国会承認を得る業務にあたっても」という語句を入れているのは、「ETV2001事件」での政治家への事前説明が批判されたからだと思われます。

 全体としてこの姿勢は当然であり、従来のガイドラインより前進だと評価できます。しかし、私たちは、この精神を確実に保証するために、さらに具体的な取決めが必要だと考えます。それは、つぎの二つのルールです。

(1)個別の番組について、政治家に事前説明は行ってはならない

(2)国会対策、政治家対策の業務に従事する役職員は、番組制作過程に参加、介入してはならない

 この二つのルールが、上記ガイドラインのような文書で明文化さ

れれば、NHKの「自主自律」はもっと分りやすく明確なものになります。

「ETV2001事件」を契機に現在受信料の支払いを停止している視聴者も、支払いを再開する可能性が生まれるのではないでしょうか。

5、受信料を支払っている市民が権利を行使できる具体的

な制度を検討し、実現すること

放送法では、受信機を設置した者はNHKと受信料支払いの契約をしなければならない、として視聴者市民側の義務を定めていますが、奇妙なことに、この義務に見合う受信料支払い者の権利は何も規定していません。

 実際にも、視聴者がNHKの経営に参加し、その意思決定に影響を与える制度は何ひとつないのです。今ある視聴者の権利としては、抽選で当たれば公開番組を参観できるくらいでしょう。

これは実に奇妙なことです。受信料を支払った市民はNHKの主権者であるのに、権利はない、という状態です。これは何とか改革しなければなりません。

根本的には、経営者を公選で選ぶとか、視聴者の代表が参加する議決機関を設けるなどの制度が考えられますが、これには放送法の改正が必要です。

NHKの役職員は、現行法のもとで受信料支払い者が権利を行使できる具体的な制度を検討し、発案すべきです。

私たちはとりあえずつぎのような改善案を提案します。

1)番組審議会の権限と機能を強化すること。

放送法では、放送事業者の諮問に応じて、番組の適正を図るために必要な事項を審議し、意見を述べることができる「放送番組審議機関」の設置を定めています。NHKの地方と中央におかれている放送番組審議会、国際放送にかかわる国際放送番組審議会は、この条項によって設置されている常設の審議機関です。

放送事業者は、番組基準や放送番組の基本計画をこの審議機関に諮問することを義務づけられており、この審議機関の答申や意見を尊重し、必要な措置を講なければならない、とされています。また、審議機関の答申や意見、議事の概要、事業者が講じた措置の内容は公表しなければならない、と定めています。(放送法第三条の四)

このように、NHKの地方と中央におかれている放送番組審議会は、放送法で重要な地位が与えられています。しかし、実質的には、NHKが選定したメンバーが、個々の番組に意見や感想を言う「番組モニター会議」にとどまっている、という批判が以前からありました。

NHKが中央、各地の番組審議会に諮問し、それに対する答申があり、さらにNHKが措置を講じて、その経過が公表される、という例を、私たちはあまり見ていません。

受信料を納めている視聴者の、NHKに対する権利の貴重な行使の場のである番組審議会を、放送法の規定にしたがって、より強化し、実質的なものにすることは現実的な課題です。

審議会の委員は、中央審議会と国際審議会にあっては、経営委員会の同意を得ることが必要ですが、すべて会長が委嘱することになっており、委員の委嘱はNHKの自主的判断でできるわけです。

まず審議会の委員のなかに公募ワクを設け、公募した市民の中から抽選で委員を選び、必要な手続きを経て委嘱するようにしてはどうでしょうか。こうすればNHKに対して発言したい視聴者が審議会に参加できる道が開けます。また、視聴者市民側に委員の推薦を広く要請する、という方策も検討されるべきでしょう。要は、NHKに対し積極的に主張、発言したい、という視聴者市民の参加を可能なかぎり実現すべきだということです。

審議会には、諮問に対する答申にとどまらず、一定期間の審議の内容を集約し、文書の形でNHKの放送、経営内容についての意見を作成、公表し、NHKの回答も公開する、などの活動を望みたいものです。このことで、市民の要請にNHKがどう答えているかが明らかになり、市民の側からNHKを変えていくひとつの手がかりを提供できるのではないでしょうか。

2)NHKへの市民の声を取り上げる番組の新設、レギュラー化

これはかなり以前から市民から提案されていたものです。NHKから方針を説明する番組ではなく、長時間、生のディスカッション番組を定時化し、視聴者市民が批判も支持もNHK役職員にぶつけます。その結果が日常のNHKの放送に生かされるかどうかが衆人環視のなかで検証できるようにします。

3)パブリックアクセス放送のワク確保、市民メディアへの物的・技術的援助

市民が番組を自主制作し、発信する市民メディアの運動は、市民社会の成熟の表現であり、少数の送り手と多数の受け手、という固定したメディア関係を市民が主体的に打破していく運動の意味を持ちます。

これはこれまでにない放送の公共性の領域の拡大であり、「公共放送」NHKは市民メディアへの援助をその任務のひとつとして考える必要があります。

市民メディアの担い手からは、市民メディアの作品を放送する時間ワクをNHKの保有するチャンネルの中に設けることと、市民メディアへの物的・技術的援助を求める声が上がっています。これに応ずることは、市民の情報発信を支援することによって、民主主義の発展に資することになり、同時に、受信料の一定額をこうした市民の運動の支援に当てることで、受信料制度にたいする国民の支持を拡大することにもつながるでしょう。

6、経営者も現場制作者ももっと広く市民の中に入り、視聴者市民との対話を強化すること

1)視聴者運動との対話を

この「提案」の“はじめに”で、受信料制度の維持はすぐれて理念的な運動であって、経済的利害によるのではない負担、という制度は、一種の巨大な市民運動を必要とするほどのものである、と指摘しました。もしそうであれば、NHKは「あるべきNHK」への改革を、もっと視聴者市民とともに進めることが求められますし、そのために視聴者市民との対話をいっそう重視してほしいと考えます。

「ふれあいミーティング」と名づけたイベントを各地で数多く開催して、きめ細かく視聴者の声を聴く活動が展開されていることは評価できますが、残念ながら、NHKに対して批判的な市民団体、市民運動に対しては対話が閉ざされているという印象がぬぐえません。

NHKが主催するイベントだけではなく、市民が自主的に開催する集会などにも、経営者、労組は、積極的に出席して、ヒザ突合せて議論する努力をもっとしてほしいものです。なぜなら、今NHKに批判的な市民運動の担い手の中にこそ、公共放送について意識的に考え、それが重要であることを主張する人びとが多いからです。

 また、NHKの現場の制作者は、自ら制作した番組を持って市民の中で上映運動をするような活動を試みてほしいものです。そこで番組批判や、番組への要請を直接聴くことはNHKと市民との関係を深め、市民の要求を放送内容に反映することを大きく助けるでしょう。

2)労働組合への期待

 これまで述べてきたような改革の提案は、NHK経営者の自覚的判断ではなかなか実現しないことが予想されます。

 そこには、メディア労組がはたす役割が大きくあるはずです。とくに取材・制作者の権利保障の機構の創設などは、経営側が自主的に設置するとは考えにくく、メディア労組、NHKにあっては日放労が、実力を背景に迫らないと実現は難しい課題でしょう。また、一つの放送局だけでの実現も困難が予想されます。全国のメディア労組の固い結束と共闘が望まれるところです。

人事権をもった上司に、職場で異議申し立てをすることは勇気のいることで、現在の職場の上下関係の中では極めて困難なはずです。こういうときに、職場の上下関係からは相対的に自由であるはずの労働組合の存在は決定的に重要です。その意味で、2004年、数々の不祥事が明らかになったときに、日放労が当時の海老沢会長の辞任を組織として要求したことは、そうした闘いの一例であり、労働組合としての存在意義を示した勇気ある行動でした。

真に国民のためのNHKを目指す運動において、労働組合の闘いの意義は大きく、視聴者市民との連携、メディア労組との共闘、連帯を強めながら、奮闘することを期待したいものです。

かつて日放労は、事あるごとに市民に訴え、外に出て世論活動を展開してきました。私たち視聴者市民の団体は、労働組合の主張の内容によっては、支持と支援を惜しまず共闘する用意があることを表明します。

7、おわりに 〜残された問題〜

 以上述べたことは、制作者の権利保障を中心とした限定的な提案です。このほか、NHKのあり方をめぐっては、周知の通り重要な問題が数多く横たわっています。政財界から声が上がっている保有チャンネル削減、受信料支払い義務化、といった問題、また地域放送局のあり方、「放送と通信の融合」の時代におけるNHKのあり方、国会でNHKの予算・決算の審議が行われる際、事前に政権政党の審議を経ている、という国会審議のシステムの問題、等々、検討すべ重要テーマは多く、放送を語る会の今後の研究課題にしたいと考えます。

 そのうち、保有チャンネルの削減要求については、今年6月に発表された「デジタル時代のNHK懇談会報告」の主張に共感できるものがあります。同報告は、人びとの意識の多様化に対応して、NHKも公共放送にふさわしい多種、多様な番組構成を行なうべきとして、チャンネル数の検討は冷静に行なうべきである、と主張しました。

 私たちはこの視点に加え、現在NHKが保有しているチャンネルは、放送の公共性を実現できる場として、今、まがりなりにも確保されているのだ、という捉え方が必要だと考えます。

「NHKが保有するチャンネル」というより、わが国で視聴率やスポンサーの意向を顧慮せず放送できる波を、視聴者市民が可能性として持っているのだ、と考えてはどうでしょうか。

 もし削減すれば、空いたチャンネルは市場原理、経済原理に委ねられる可能性があり、放送における公共性を実現する領域が狭められるおそれがあります。

チャンネルの削減ではなく、NHKが保有するチャンネルをどのように生かし、市民に開放し、利用できるようにするのかを先に検討すべきです。

また、受信料支払いを現在の「契約義務」制から「支払い義務」制に変え、支払わない場合には罰則を科すという案も浮上しています。

「デジタル懇談会報告」は、この制度が実現すれば、NHKが公権力の強制力によって維持・運営されることになる、とし、強く反対しました。

 私たちの見解もこれに近いものですが、もし罰則つきの受信料支払い義務制になれば、極端に言えばNHKは視聴者の意見を聞く必要はなくなるわけです。政権政党がNHKを支持して、その経営方針、予算等を承認してくれれば安泰、ということになります。

 現在の受信料制度では、本提案の5、で指摘したように、受信料支払い者はNHKに対し事実上無権利状態に置かれています。受信料の支払いを停止、あるいは留保することが、わずかに受信者主権の行使であるという状態です。

「支払い義務制」になれば、その重要な権利をも行使できなくなります。現在のような視聴者の無権利の状態をそのままにして、「受信料義務化」は論外というべきでしょう。

 この提案をいったん閉じるにあたって、NHKのあり方に関心を持つ多くの市民に呼びかけます。ぜひ、団体、個人を問わず、NHKにたいする提言や要求を議論し、取りまとめ、NHKにぶつける活動を展開して下さい。

いま、政財界と視聴者市民の間で、NHKを獲りあう「綱引き」のような状態が生まれているのではないでしょうか。

NHKを市民の側に取り戻し、ひきつける活動が必要です。その運動に、このささやかな提案が一つの刺激となれば幸いです。
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