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東大生にも蔓延!履修漏れ問題  ゆとり教育が国を滅ぼす(立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」 )
http://www.asyura2.com/0601/social3/msg/623.html
投稿者 gataro 日時 2006 年 11 月 04 日 12:38:24: KbIx4LOvH6Ccw
 

http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/061101_yutori/ から転載。

2006年11月1日

高校の必修科目の履修漏れ問題は、ついに茨城県の高校校長から自殺者まで出してしまい、問題は広がり深まるばかりだ。

しかし、文部省は、既卒者については不問に付し、今年の卒業生については、補習による救済策を取る予定という。

だが、そのようなドロ縄の対策だけでよいのか。

世間が考える以上に深刻な実態

私は1年前から、東大教養学部で学生たちを教えてきた経験から、この問題が世間の人が考える以上に深刻である実態をよく知っている。

昨日も、私のゼミの学生で、とてもよくできる工学部生が、私の事務所に遊びにきて、

「いやあ、あれはうちの高校でもやっていたことです」

という。聞けば、高校で受けた授業は地理だけという。世界史は全高校生が必修のはずだが、実際には受けていない。

「教科書は買わされましたが、なぜか1回もそれを使う機会がなく、この教科書は何のために買わされたのかと不思議に思っていたんですが、こういうことだったんですね」

国立大学の入試でも、理科の学生は社会は1科目だけとればよいから、たいてい点数がとりやすい地理か日本史を選択する。

必修だけど覚えることが多すぎる世界史は入試科目としては敬遠するのが普通である。それで必修世界史の時間は、やったことにして、他の受験勉強に役立つ学習に流用してしまうのだという。

自分の学校が特殊なことをやっていたのかとひけ目を感じていたら、今回の事件で、同じことが日本中の高校で広く行われていたということがわかって、安心したという。

しかし、ここで問題なのは、世界史を学ぶ学生がそれだけ少ないという事実のほうである。

世界の歴史を何も知らない非常識人を量産

いまや世界全体がスモールワールドになりつつあり、政治にしろ、経済にしろ、カルチャーにしろ、スポーツや芸術にしろ、すべての活動がグローバル化を前提として動いている。すべての現代人が、生活人としても、職業人としても、国際人としての常識を持たないとやっていけないのが現代のリアル・ワールドである。

世界地理と世界史のベーシックな知識は、現代人にとって必須の常識である。

なぜ世界史が高校社会の科目で必修になっているのかというと、かつて世界史を、日本史や地理とならべて選択必修の科目としておいたところ、世界史を忌避する学生があまりに多かったからなのである。

このままにしておくと、日本は今後あらゆる意味で国際社会の中で生きていかなければならないのに、日本人全体が国際社会の常識を欠いた国民になってしまうことを危惧した当時の政治家、学者、官僚などなど有力者が声を大にして、世界史を必修にすべきだと声をあげたからなのである。

だが、この事件が明らかにしたことは、世界史を必修にしても、多くの高校生が、世界史の基礎知識を欠如させたまま、大学生になり、そのまま大学を卒業して社会に出てきてしまうという事実なのだ。

日本の平均的大学卒業生は、今後とも、グローバル・スタンダードからいって、世界の歴史を何も知らないレベルの非常識人だということなのだ。

問題は、それが世界史の領域だけで起きているのではないということである。

「公明党って与党なんですか?」

最近、原田武夫「タイゾー化する子供たち」(光文社)という本を読んでいたら、こんな驚くべきエピソードが紹介されていた。

著者の原田氏は、東大法学部卒業後外務官僚になり、在ドイツ日本大使館、外務省西欧第一課、北東アジア課などを経て、独立系シンクタンクを設立したという人物で、今年の4月から東大教養学部で非常勤講師として、「実践的現代日本政治経済論」を講じている。教養学部での実地の体験談として、こんなことを書いている。

ある日、原田氏は今年4月23日に行われた千葉7区の衆院選補欠選挙(自民党候補が民主党候補に敗れた)を例にとって、そのときその選挙区で、どのような政治意識の変動があったのかを分析してみせた。

その日の授業が終わったところで、1人の女子学生が教壇に寄ってきて、こんな質問をした。

「さっき、先生は今の与党が自民党と公明党で、連立政権だって言いましたよね。今日聞くまで、そのことを知らなかったのですが、政治のキソを勉強するために適当な本ってありますか?」

いうまでもなく、現在の政権が、自民党と公明党の連立政権であることなど、日本人なら誰でも知っている社会常識に属すると思っていた原田氏は唖然とする。

しかし、彼女はもぐりでも何でもなく、正真正銘の東大生なのである。事情を聞いてみると、彼女は高校で理系の進学組に属していた。社会は1科目ですむため、受験科目は必死で勉強したが、社会科の常識部分をほとんど欠如させたまま大学生になってしまった。そういうことが現実にありうるのだと知って原田氏はショックを受ける。そして、

「この子が何も知らないまま『東大卒』として社会に出ていってしまったら大変なことになる」と身震いしたという。

タイゾー化現象に喝采する若者たち

全くその通りで、受験競争の勝ち組の東大生の中には、社会常識の点では、何もかも欠けている学生が珍しくない。だいたい、いまの東大生で、毎日、新聞を読んでいる学生は半分以下だから、自分の社会常識の欠如にすら気がついていない。

そして、そういった東大生たちが、どの程度の学生かというと、05年衆院選で本人も予想外の当選を果たして、当選早々、「パシリのサラリーマンが国会議員ですよ」と大喜びしてみせたり、「料亭に早く行ってみたいです」とはしゃぐだのして、世のもの笑いのタネになった杉村太蔵議員を、バカにするどころか、

「メディアが描くそんな『タイゾー化現象』を『カッコイイ』『イケテル』ととらえ、やがて頭の中で(自分たちが)目指すべきモデルにまでしてしまう」というような倒錯現象すら起こしていることを知った原田氏は、こう断じている。

「東大生たちはこのままではもはや『国家エリート』候補でも何でもない。『突然の成功』『段取りなき成功』を声高に語れる日を夢見る彼らは、すっかりタイゾー化してしまっているに過ぎないのである」

ここに書かれていることは誇張ではない。これに類した話は私も沢山知っている。

遠ざかる「科学技術創造立国」

私は、9年前にも、東大教養学部で教えたことがあるが、そのときも東大生の知的水準の低下に驚いて、「東大生はバカになったか」(2001、文藝春秋)という本を書いた。

その時紹介したエピソードとして、東大の理科1類(理学部と工学部に進学する予定)の学生に簡単なテストをした結果がある。

簡単なテストとは、「東京札幌間の直線距離」、「1円貨の直径」「1枚の紙の厚さ」といったリアルな日常世界の常識的な数値を与えられた1群の答えの中から選択するというものだった。

その結果は、正解に近い数値を選択した学生がいちばん多いことは多かったが、

「答えの最小値、最大値あたりを見ていくと、頭がおかしい、頭がこわれているとしかいいようがない答えがならんでいる。東京と札幌の間が30キロメートル以下とか、10万キロメートルとか、1円玉の直径が0.1センチとか、5センチとか、紙1枚の厚さが1000ミクロン(1ミリ)以上といった、根本的常識、日常感覚に欠けている答えを見ると、お前ホントに、東大の理1に受かったのかといいたくなるだろう。こういう学生を合格させてしまう(スクリーニングできない)東大の入試試験のやり方はまちがっている。こういう資料を見ると、ナルホド東大生はバカになったなと思われるだろう」

その本で主として論じてたことは、学生(中学生高校生)の理科離れの問題とか、高等学校理科の履修制度を変更してしまったため、どれほど多くの大学生の頭から理科の常識が吹き飛んでしまったか、といったことだった。

その頃から、日本は国家の将来構想として、「科学技術創造立国」なるスローガンをかかげていたが、日本の大学生が文科も理科も、サイエンスの基本的常識を欠いたままでいる現状を見ると、そういう大プランは到底実現不可と論じた。

知識水準がガクゼンとするほど低下した

その後もっぱら理科教育の問題を論じてきたが、実は、ここ数年、いまの大学生が理科の常識を欠いていることも事実だが、実は社会の常識の欠如がもっともっとひどいという話を聞いていた。

そして、テレビの番組作りや雑誌の記事作りをするときなど、一緒に仕事をするスタッフの中に、ときどき信じ難いほど常識に欠けている(社会的常識、、文科的常識、理科的常識ともに)連中がいるということをときどき身をもって味わわされた。

そのときは、それは特定少数の個人的頭の中の事情によるものだろうと思っていたのだが、後で、放送局や雑誌社の上のほうの人に話を聞くと、そうではなかった。

それは特定少数の社員の問題ではないという。ある時点から、若い新入社員の知的水準というか、知識水準が、ガクゼンとするほど低下したのだと聞かされた。
そして、そのよってきたるところを調べてみると、中学、高校における、教育水準の切り下げにあるということがわかった。

いわゆる「ゆとり教育」の弊害問題である。

学校で教えられる知識の総量が半分以下に

一般に「ゆとり教育」による学力低下問題が大きく指摘されるようになったのは、2002年からはじまった新学習指導要領による全教科の3割削減」問題からだが、実は教育水準の切り下げは、1977年から徐々に一貫して進行してきた。

76年をピークとすると、いまの子供たちは、全教科において、小中高校を通して、学校で教えられる知識の総量が半分以下になっている。

その水準切り下げは、はじめゆっくり進行したが、「ゆとり教育」で加速度がつき、一挙に進行した。

あまりに急激な学習内容水準の切り下げに、高校のカリキュラム編成が追いつけなかったというのが、今回の「高校必修科目の履修漏れ問題」の根本原因である。

いわゆる「ゆとり教育」の問題が大声で叫ばれる以前から進行していた、中等教育における履修内容の切り下げ問題が大学側の入試水準ないし、大学での教育水準とのインターフェース不整合を起こしてしまっていたということである。

その不整合を、高校での補習教育と予備校教育、大学での補習教育(大学新入生の知的水準が低下してしまったので、いま多くの大学で、新入生に補習教育が必要になっている)などによって塗抹してきたが、それがそういった手段では塗抹しきれないほどの矛盾をきたしてしまったということである。

破綻をきたした「ゆとり教育」

はっきりいって、「ゆとり教育」は完全に破綻ををきたしている。小学校から大学にいたるまで、あらゆるレベルでその弊害が生まれている。小中学校では、学力低下問題として、高校では、「必修科目履修漏れ問題」としてである。

そして大学では、まだ一般社会にあまり知られていないことだが、新入生の学習意欲の著しい低下問題がある。

今年の大学新入生は、ゆとり教育のピークとなった「3割削減カリキュラム」で、育ってきた最初の世代の子供たちである。

さぞや「ゆとり教育」によって、心身ともにゆとりをもって、自発的学習能力が高い創造性豊かな子供たちが育ってきたのかと思ったら、全くさにあらず、その正反対なのである。

教師にいわれたことは、一所懸命、いわれた通りやろうとするが、教師がインストラクションをあまり与えず、学生に自由に自発的学習行動をさせようと思うと、全くだめという学生が多いのである。

自分で目標を設定して、その目標達成のためのプログラムを自ら作って頑張るということができない。「やる気」というものがさっぱり見られない。こういう学生たちが、4年後、いっせいに社会人として世の中に出ていくとき、日本はいったいどういうことになるのか。「ゆとり教育」は日本という国を滅ぼしつつある。

「ゆとり教育」がどれほど素晴らしいもので、それが実現したら、日本の教育がどれほど改善されるか、大宣伝をしてきたのは文部科学省(文科省)である。

その最大の旗振り役で、テレビにはほとんど出ずっぱりで宣伝役を買って出ていたのが、文科省・大臣官房広報調整官の寺脇研氏である。

ゆとり教育が評判が悪くなるに従って、この人の姿がさっぱり見えないと思っていたら、この人はさきごろ文科省を勇退させられていた。

この人の姿が消えるとともに、文科省は、自分たちが「ゆとり教育」を推進してきたことなど頬かむりである。これほど無責任なことがあろうか。

「ゆとり教育」を推進してきた文科省幹部は、今からでも遅くないから、「全員頭を丸めろ」といいたい。

立花 隆

評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。2005年10月-2006年9月東大大学院総合文化研究科科学技術インタープリター養成プログラム特任教授。

著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌—香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。近著に「滅びゆく国家」がある。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。

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