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JMM [Japan Mail Media]  「泥沼化する戦争」  安武塔馬 
http://www.asyura2.com/0601/war82/msg/1061.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 7 月 29 日 17:49:51: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2006年7月28日発行
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JMM [Japan Mail Media]                  No.385 Extra-Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼


■  『レバノン:揺れるモザイク社会』 第22回
   「泥沼化する戦争」


 ■ 安武塔馬 :ジャーナリスト、レバノン在住


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■ 『レバノン:揺れるモザイク社会』                第22回
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「泥沼化する戦争」

民間人に大きな被害

 7月12日に始まったイスラエルとヒズボッラーの戦争は、勃発以来2週間を経過
した。戦局が激しさを増す一方で、早期停戦に向けた関係諸国の外交努力は米国の妨
害でことごとく行き詰まり、泥沼化する恐れが日に日に強まっている。

 7月27日現在まで、イスラエル軍の空爆・砲撃によってレバノン側では既に40
0人を超える犠牲者が出た。一方、イスラエル北部の都市に対するヒズボッラーの無
差別ミサイル攻撃と、地上の戦闘でイスラエル側にも40名程度の犠牲が出ている。
猛烈な空爆を受けながらも、ヒズボッラーは2週間経過した現在も連日100発超の
ミサイルをイスラエル領内に撃ち込んでいる。またマロン・ラアス村やビント・ジュ
ベイル市における交戦ではイスラエル軍は20名近い兵員を失った。イスラエルの軍
首脳は開戦後ほどなく「ヒズボッラーの戦闘能力の50%は破壊した」と誇って見せ
たが、これは大本営発表であったようだ。

 家を失い、あるいは危険を避けてレバノン国内で避難民となった人、そして隣国シ
リアへ命からがら逃れた難民はあわせて60万人にも上る。レバノン国民のざっと5
〜6分の1程度が難民化した計算だから、破壊の規模の凄まじさがうかがわれる。

 米国や英国は戦艦を派遣して数万人単位の自国民の救出作戦を行った。在留邦人の
多くもキプロス島やシリア経由で戦火を逃れた。

 かく言う筆者自身の場合は逆で、たまたま日本に出張中に戦争が始まったため、レ
バノンに戻る術を失い、家族と生き別れになってしまった。インターネットで情勢を
追いながら落ち着かぬ日々を過ごしている。

イスラエルを庇うアメリカ

 この間、国連や仏露両国、アラブ諸国などは一貫してイスラエルの過剰な武力行使
を批判、即時停戦を強く求めてきた。しかし27日現在までに停戦は実現していない
し、実現の目途も立っていない。

 その理由はいたってシンプルで、ひとつは妥協点が見出せないことだ。前回指摘し
たとおり、ヒズボッラーは捕虜交換を成し遂げない限り絶対に拉致したイスラエル兵
士を解放出来ない。一方イスラエルの側も、兵士拉致が戦争の口実なのだから、兵士
が帰ってこない限りは攻撃を止めるわけにはいかない。どちらにとってもこの問題で
の妥協は全面降伏を意味するわけで、双方の面目が立つかたちで戦争を収拾するのは
不可能に近い。

 もうひとつの理由はアメリカだ。1983年の海兵隊基地と大使館爆破事件、それ
に80年代後半の米国人連続誘拐事件以来、ヒズボッラーはアメリカの不倶戴天の仇
敵だ。2006年現在の地政学でもヒズボッラーはイラン・シリア陣営の尖兵であり、
ハマースの盟友だ。米国は2004年の安保理決議第1559号や、その後はハリーリ派
やジュンブラート派などレバノンの反シリア勢力に露骨に梃入れして、何とかヒズ
ボッラーの武装解除を実現しようと腐心したが果たせなかった。

 この難題を今イスラエルが肩代わりして遂行してくれているのだから、アメリカに
はそれを止めさせる気はまったくない。即時停戦を求める国際世論に対して、アメリ
カがほとんど一国だけで身をはってイスラエルを庇い、イスラエルのために時間稼ぎ
をしている……端的に言って、これがレバノン戦争をめぐる今の構図だ。

ローマ会議の失敗

 フランスやドイツの外相が次々と戦火のベイルートを訪問、停戦を求めるのに比べ、
ライス米国国務長官の腰は重かった。国際圧力に尻を叩かれるようにライスは26日
にローマでレバノン支援国の外相級会議の開催を呼びかけ、それに先立つ24、25
の両日にレバノンとイスラエルを歴訪している。

 ライスのレバノン訪問は、しかしどうやら停戦のために重い腰を上げたと言うより
は、来るローマ会議で即時停戦に反対するためのアリバイつくりだったようだ。

 ライスはレバノンでまずセニオラ首相と会談し、緊急人道援助を申し出ている。そ
の後、国会議長のナビーヒ・ベッリと会った。シーア派でアマルの党首であるベッリ
は、地下壕に姿を隠すナスラッラー・ヒズボッラー議長の唯一の代理人だ。だからラ
イスとベッリの会談は、イスラエルとヒズボッラーの間の代理交渉であったとみてよ
い。

 この会談で、ライスは停戦と同時にレバノン国軍と多国籍軍が緩衝地帯に展開する
こと、ヒズボッラーの兵器は国境から30キロメートル以遠の地点まで撤去すること
などを盛り込んだパッケージ案を提示した。

 ベッリはこれに対し、即時停戦と捕虜交換交渉開始を要求、ヒズボッラーの武装解
除を含め他の問題については後にレバノン国民対話で解決するという代案を提示。会
談は完全に平行線をたどった。

 ベッリ案は、「開戦」前の現状復帰そのものだ。イスラエルとしては何のために世
界の轟々たる非難を浴び自国民も犠牲にして戦争に踏み切ったのかわからない。これ
ではイスラエルが呑める筈はない。

 しかしこの会談のお陰で、「イスラエルが攻撃を続け新たな軍事バランスが現出し
ない限り、現状では停戦も多国籍軍派遣も不可能だ」という言い訳をライスは手にい
れた。そしてそのままローマに乗り込み、「停戦は永続的かつ包括的なものでなけれ
ばならない」、と押し切り、ほとんど一国で即時停戦要請の発出をくいとめたのだ。

 また、シリア、イラン両国を含めた地域諸国に停戦実現に向けて協力を求めるアナ
ン事務総長の意見も、ライスは「シリアと何を話すと言うのですか? シリアが行動
する(ヒズボッラーに圧力をかける)用意があるか、それが問題なのです」と一蹴し
た。国連と米国の力関係がはっきりとした一幕であった。

 なお、ローマ会議の数時間前にはイスラエル軍がレバノン南部ヒヤームにあった国
連レバノン暫定部隊(UNIFIL)施設を「誤爆」し、停戦監視員4名を殺害して
いる。基地はヒズボッラー施設から離れている上、爆弾の直撃を受ける前に何度もU
NIFIL側から、危険だからこの地域への爆撃をやめるようイスラエル軍に要請し
ていたことも判明している。このためアナン事務総長は「意図的な攻撃だ」と異例の
イスラエル非難を行った。中国など殺害された兵員を派遣していた諸国の怒りも激し
く、イスラエルの国際孤立は一層加速されそうだ。

ナスラッラー暗殺狙いか?

 開戦当初のインフラを狙った大規模空爆は一段落し、イスラエル軍の作戦の焦点は、
国境から数キロメートルレバノン側に入り込んだところにある村落の制圧に移ってい
る。一村ずつ、いや、一軒ずつ民家を調べ、山や谷を捜索し、ゲリラや武器庫、ミサ
イル発射装置などを虱潰しにしていくわけだ。当然ながらゲリラは随所に隠れて敵の
到来を待ち構えている。しかもそのゲリラはそこに生まれ育ち地形を熟知しており、
郷里防衛の士気も高い。イランやシリアから優れた装備も供給されている。これまで
の戦いを見る限り、イスラエル軍が国境付近のヒズボッラー兵を掃討するという目標
を達成するのにはかなりの困難が伴いそうだ。拉致兵士は安全なところに移送されて
いるだろうから、その解放はさらに一層難しい。

 イスラエルが本来の目標を達し得ないとすれば、どんなケースであればイスラエル
軍の面子が立つか?

 ひとつの可能性はヒズボッラーのカリスマ指導者、ナスラッラーを殺害した場合だ。
思えばイスラエルにとっての悪夢は、1992年に前任のアッバース・ムーサウィを
殺害した後に始まった。1993年、1996年の掃討作戦の失敗。2000年の一
方的撤退。1998年と2004年の捕虜交換。いずれも、イスラエルに煮え湯を飲
ませたのはナスラッラーだった。

 預言者ムハンマドに連なるという(真偽のほどは定かではないが)血統の良さ。穏
やかで説得力のある語り口。しかしいったん演説を始めると、炎のような情熱的な言
葉で大衆の魂をとらえる。そして言ったことは必ず実行する、実行出来ないことは言
わないことから来る信頼感……1992年以降のヒズボッラーにとって、このカリス
マ指導者の存在は決定的に大きい。イスラエル軍と政府の幹部は開戦以来、いや開戦
以前でさえ、ナスラッラー抹殺の意志を隠そうとしていない。

 ただ実際にそんな事態が起きた場合、状況が果たして鎮静化するのか、それとも反
イスラエル感情が今以上に燃え盛って収拾のつかないことになるのかは予測出来ない。

 最悪のシナリオは、イスラエルのシリア攻撃だ。かつて大日本帝国は広大な中国大
陸での泥沼の戦争にのめり込み、挙句の果て中国の背後に居た米英両国を相手に破滅
的な戦争を始めた。イスラエルで「シリアに一撃を加えない限り、ヒズボッラー相手
の勝利もあり得ない」という世論が盛り上がると、第五次中東戦争勃発は避けられな
くなる。

絶え間ない戦争

 あの激しい内戦中でさえ、日本のメディアがレバノンに注目することは稀だった。
最近では2005年2月にハリーリ首相が暗殺され、反シリア・デモが燃え盛った時
にだけ、一時的に日本のメディアもレバノンに注目したが、その後レバノン情勢が袋
小路に落ち込んでいくと、メディアの関心も冷め切ってしまった。

 今回、この戦争のおかげで日本のメディアも流石にレバノンに焦点をあてて、「ヒ
ズボッラーとは何か」などと、連日さかんに報道している。

 それはそれで結構ではあるが、ひとつだけ苦言を呈するなら、7月12日の「確か
な約束作戦」に至る経緯がほとんど報じられていないことだ。だから、「平和なとき
に一方的にヒズボッラーがイスラエルに挑発を仕掛けた」と言ったイメージが出来上
がっている。

 この連載の読者は既にご存知のとおり、ことはそんなに単純ではない。ヒズボッラ
ーが平和を破った、戦争を仕掛けた、と言うが、そもそもイスラエルとヒズボッラー
は相互承認もしていないし、当然両者の間には平和条約もない。両者は不断の戦争状
態にあった。

 イスラエル軍は南部を撤退した後も、一日何十回という頻度でレバノン領空を侵犯
し、漁船を拿捕し、羊飼いを殺害してきた。このイスラエルの脅威が現実に存在して
いたからこそ、シーア派国民はヒズボッラーの武装継続を支持し、反シリア勢力はヒ
ズボッラーを武装解除出来なかったのだ。ヒズボッラー活動家の暗殺を専門に行って
きたモサドのスパイ網が摘発されたことも、先日報告した。

 もちろん、私がこう書くのは決してヒズボッラーを擁護するわけではない。ヒズ
ボッラーもイスラエル国内にスパイ網を築き、秘密工作を行ってきたし、パレスチナ
人のインティファーダの影にも頻繁にヒズボッラーの姿が見え隠れする。つまり、両
者はずっと影の戦争を戦ってきたのであって、決して7月12日に「突然平和が破ら
れた」わけではないのだ。

 今回の戦争が過去10年間の衝突と違っているのは、「4月合意」の枠が崩れた点
である。1996年のイスラエル軍による南部大空襲と、ヒズボッラーのミサイル攻
撃が双方の民間人に甚大な被害を与えたので、今後は民間人やインフラ攻撃は控え、
双方の戦闘員・軍事施設の攻撃に限定しようと生まれた合意が「4月合意」である。
過去10年間、曲折はあったがこの合意は守られてきた。今回のヒズボッラーの捕虜
獲得作戦も、この枠内で行われた。

 それに対していきなり空港や港、道路や通信施設などを破壊しつくして、何十万人
もの民間人をホームレスにしたのはイスラエルだ。ルールを先に破ったのはイスラエ
ルなのである。だから、国際社会のイスラエル批判と即時停戦呼びかけを私は全うな
意見だと思う。

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安武塔馬(やすたけとうま)
レバノン在住。日本NGOのパレスチナ現地駐在員、テルアビブとベイルートで日本
大使館専門調査員を歴任。現在は中東情報ウェブサイト「ベイルート通信」編集人と
してレバノン、パレスチナ情勢を中心に日本語で情報を発信。
<http://www.geocities.jp/beirutreport/> 著作に『間近で見たオスロ合意』『アラ
ファトのパレスチナ』(上記ウェブサイトで公開中)がある。
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【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部(2005年8月1日現在)
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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