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JMM [Japan Mail Media]  「戦争の風景8:不透明な先行き」  安武塔馬 
http://www.asyura2.com/0601/war83/msg/1074.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 8 月 25 日 08:04:08: ogcGl0q1DMbpk
 

                           2006年8月24日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.389 Extra-Edition3
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■  『レバノン:揺れるモザイク社会』 第31回
   「戦争の風景8:不透明な先行き」


 ■ 安武塔馬 :ジャーナリスト、レバノン在住


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■ 『レバノン:揺れるモザイク社会』                第31回
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「戦争の風景9:不透明な先行き」

封鎖の継続

 停戦の雲行きがますます怪しくなってきた。

 8月23日現在のレバノンの状況を記すと、陸海空におけるイスラエル軍の封鎖は
依然継続している。停戦発効後、素早く撤退を開始したイスラエル軍だが、ヒズボッ
ラーが武装解除しそうにないのを見て撤退を中断。国境地帯の9箇所に分散して占領
を続けている。23日未明には国境付近の村に侵入し住民二人を拉致した。越境攻撃
も、占領も続いているのである。なお23日には越境攻撃から戻る途中のイスラエル
軍戦車が自軍の埋めた地雷に触れて大破、乗員1名が死んだ他、地雷除去作業に従事
していたレバノン国軍兵士3名も爆死している。

 開戦直後に滑走路を破壊されたベイルート国際空港では、今週になって商業便の運
航が再開された。しかしヒズボッラーへの武器密輸を警戒するイスラエルの要求で、
ベイルート行きの便も、ベイルート発の便も、すべてヨルダンのアンマン空港で1時
間程度の着陸を強いられるという変則的な運航体制になっている。レバノンの政治家
の中からは「アンマンでイスラエルのセキュリティ・チェックを受けるくらいなら空
港が閉鎖されたままの方がましだ(ホッス元首相)」と言った反発も起きている(た
だしセニオラ首相と国営中東航空は、アンマンでイスラエル当局がセキュリティ・
チェックをしている事実を否定している)。

 海路も閉ざされている。燃料を積んだタンカーの接岸が認められないため、依然と
してガソリンなどの燃料不足は深刻で、停電問題も解消していない。こんな状況だか
ら、我が国はじめ各国も渡航禁止や自粛勧告を取り下げるわけにも行かない。空爆と
ミサイル攻撃の応酬こそ止んだものの、日常が戻ってきたという実感はなかなか得ら
れない。

空白状態継続か?

 イスラエル側は、封鎖解除は安保理決議第1701号が定めるように、拡大UNI
FIL部隊が南部に展開し、南部国境地帯の非武装化が実現してから、という立場。
しかし前回報告したとおり、フランスが派兵を躊躇する中、増派部隊派遣の目途はま
だ立たない。フランスに替わり拡大UNIFIL部隊の指揮をとると期待されるイタ
リアは23日、特使をレバノンに派遣しセニオラ首相らと会談させた。しかしその前
日にダレーマ外相は「イスラエルが砲撃をやめない限り、派兵は出来ない」と語って
おり、23日の協議後にも派兵を確約しなかった。

 つまり、
・ヒズボッラーはイスラエル軍による占領継続を口実に武装解除を拒む、
・フランスはヒズボッラーの武装継続を理由に派兵を拒む、
・イタリアはイスラエルの攻撃継続を理由に派兵をためらう、
・イスラエルはUNIFIL部隊が展開しないことを理由にレバノンの海陸空封鎖を
続ける。
 と、四者四様に決議第1701号の履行を拒んでいるのである。四者を同時に満足
させ、決議を速やかに履行させるのは不可能に近い。

 この状況を踏まえて、練達の国際外交官ロード・ラーセン国連事務総長特使(ヒズ
ボッラーの武装解除を求める決議第1559号の履行状況監視を担当する)は22
日、「これまでの状況を見るに、今後2〜3ヶ月は現在の(軍事力の)空白状況が続
くかもしれない。非常に危ない状況だ。意図しない行動が大規模な軍事衝突を誘発
し、収拾のつかない事態に陥るかもしれない」と、停戦崩壊・戦闘再発への懸念を表
明している。

 確かに、現状ではリタニ川以南の狭い地域に、ヒズボッラー・ゲリラ、イスラエル
軍、レバノン国軍、UNIFIL部隊と四つの軍隊がひしめきあう。このうち強力な
イスラエル軍はアクティブに活動を続けており、ヒズボッラーは当面息を潜めている
が、いつ反撃に出るかわからない。レバノン国軍とUNIFIL部隊は弱体で、イス
ラエル軍もヒズボッラーも制止出来る軍事力を持たない。

 こんな状態が何ヶ月も続けば、爆発しない方が不思議というものだ。

シリアの強硬姿勢

 このように、それでなくとも複雑を極めるレバノン情勢をシリアが一層混迷させつ
つある。

 23日のドバイ・テレビのインタビューで、アサド大統領は「UNIFIL部隊が
シリア・レバノン国境に展開するのはレバノンの主権侵害、シリアとレバノンを引き
離そうとする行為である。シリアはこれを敵対行為と見なす」と発言、決議第170
1号に真っ向から挑戦する態度を打ち出したのである。

 決議第1701号は、シリアやイランによるヒズボッラーへの武器供与を食い止め
るため、レバノン政府にシリアとの国境地帯を監視するよう求めている。また拡大U
NIFIL部隊には、レバノン政府の要請に応じて密輸監視の任務を支援することも
求められる。アサドはそれを「シリアへの敵対行為」と言うのだ。

 同日、ヘルシンキでフィンランド(EUの現在の議長国。EUによるUNIFIL
派兵問題のまとめ役になっている)外相と会談したシリアのムアッリム外相も、「U
NIFIL部隊がシリア・レバノン国境地帯に展開するならばシリアは国境封鎖も辞
さない」と恫喝した。イスラエルによる封鎖にあえぐレバノンにとって、シリアは外
界への唯一の出入り口だ。いまシリアに国境を封鎖されたらレバノンは完全な陸の孤
島と化し、その経済はとどめを刺されることになる。

 シリアの意図はこれで明らかになった。

 レバノンにおけるシリアの特殊な役割と立場を一切認めず、あくまでもシリアを排
除したままヒズボッラー問題を解決しようとする米国、イスラエル、それにレバノン
国内の反シリア勢力に対して、「そうはさせない。シリアを無視しては何も動かな
い」とアピールしているのだ。

 停戦発効直後から、オルメルト政権内部ではペレツ国防相、リブニ外相、ディヒテ
ル公安相など有力閣僚が相次いで「シリアと和平交渉を再開するべき」と言う意見を
表明し始めた。アサドはその動きを見落とさず、「ここでもう一押しすれば、イスラ
エルはシリアとの対話を求めてくる」と判断、あえてここで決議第1701号の履行
を妨害する立場に出たのではなかろうか。

イラン核問題の影

 アサドの読みは正しいかもしれない。

 22日、イランは軽水炉の技術支援と引き換えに、ウラン濃縮実験の停止を求める
EU提案を婉曲に蹴り、前提条件無しの交渉を逆に提示した。これで米欧側は、イラ
ンの条件に沿って対話を継続するか、さもなくば経済制裁に踏み切るか、難しい選択
を強いられることになった。しかし、イランがIAEAの管理下に入ることを良しと
せず、独自の核開発を断念するつもりが毛頭無いことも、もはや明らか。米欧イスラ
エルはいずれイランの核の脅威と向き合わざるを得ない。

 米国の先制攻撃を警戒するイランはいくつかの「保険」をかけている。核関連施設
を広大な国土の各地に分散させ、同時集中攻撃で壊滅するリスクを低くしていること
もそのひとつだ。

 他にも、世界のエネルギー供給体制をひっくり返すホルムズ海峡封鎖というカード
もある。イランのミサイルの射程内にすっぽりおさまるイラク駐留米軍も、いざ開戦
となればそっくりそのままイランの人質だ。イラク国内のシーア派勢力、特にサドル
派は、開戦の折にはイランの側について戦うかもしれない。

 そしてレバノンではヒズボッラーが、イスラエルに対して十分な脅威として機能す
ることが今度の戦争で立証された。原油価格の空前の高騰で、イランは資金的にも
潤っているはず。かつてヨルダンのアブダッラー国王が「シーア派三ヶ月地帯」と呼
んで警戒したイランの影響力増大は、今や誰の目にも明らかだ。

 イランの脅威を少しでも軽減するためには、イスラエルはヒズボッラーの動きを抑
えねばならない。ヒズボッラーを抑えるためには、ゴラン高原と引き換えにシリアと
和を結び、シリアをイランから切り離すしかない。

 第五次レバノン戦争で、軍事的にヒズボッラーの脅威の除去を果たせなかったイス
ラエルでは、そう考えるグループが声を上げつつある。しかしまだ主流にはなり得て
いない。アサドはそこを揺さぶろうとしているのである。

 シリアの揺さぶりは果たして功を奏し、イスラエルと米国は対シリア政策を大転
換、シリアをイランから切り離そうとするのであろうか? それとも、従来どおりシ
リアを諸悪の根源として非交渉の立場を貫き、イラン=シリア=ヒズボッラーはます
ます一致団結して米国と対決することになるのであろうか?

 UNIFIL増派交渉の難航に、さらにシリアの強硬姿勢やイランの核問題が複雑
に絡まり、レバノン停戦の行方はますます読みにくくなってきた。

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安武塔馬(やすたけとうま)
レバノン在住。日本NGOのパレスチナ現地駐在員、テルアビブとベイルートで日本
大使館専門調査員を歴任。現在は中東情報ウェブサイト「ベイルート通信」編集人と
してレバノン、パレスチナ情勢を中心に日本語で情報を発信。
<http://www.geocities.jp/beirutreport/> 著作に『間近で見たオスロ合意』『アラ
ファトのパレスチナ』(上記ウェブサイトで公開中)がある。
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JMM [Japan Mail Media]                 No.389 Extra-Edition3
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部(2005年8月1日現在)
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>

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