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JMM [Japan Mail Media]  「戦争の風景2:背後を刺されたセニオラ政権」 安武塔馬 
http://www.asyura2.com/0601/war83/msg/503.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 8 月 09 日 03:50:10: ogcGl0q1DMbpk
 

                              2006年8月8日発行
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JMM [Japan Mail Media]                  No.387 Extra-Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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■  『レバノン:揺れるモザイク社会』 第24回
   「戦争の風景2:背後を刺されたセニオラ政権」


 ■ 安武塔馬 :ジャーナリスト、レバノン在住


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■ 『レバノン:揺れるモザイク社会』                第24回
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「戦争の風景2:背後を刺されたセニオラ政権」

映像の力

 私が現在家族と暮らすブシャッレは海抜1500メートルの高地にある。「預言者」
で知られる世界的な大詩人ジュブラーン・ハリール・ジュブラーンの出身地で、聖書
に名高いレバノン杉の保全地区としても名高いこの村は、冬は雪に覆われ寒さは厳し
いが、夏は最高の保養地になる。

 崖の随所からこんこんと湧き出る雪融け水。とろけるように甘いサクランボや桃、
洋梨などの果実がふんだんに採れる。眼前には数百メートルの高度差で切れ落ちるカ
ディーシャ(古シリア語で聖人を意味する)渓谷の断崖絶壁と、3000メートル級
のレバノン山脈の壮大なパノラマが広がる。空と乾いた山肌を、はじめは金色に、や
がてピンク、そして最後に赤く染めながら渓谷に沈んでいく夕日。朝と夕方に毎日必
ず二回ずつ、草を食みに来る羊と山羊の群れ。

 おそらくは数千年前から何も変わっていないであろうその光景を眺めていると、山
の裏側のベカー高原では、休みなくイスラエル軍の爆撃が続き、毎日何十人もの人々
が、わけもなく死んでいるのが信じられない気持ちになる。 

 働き盛りの若者はみんな町や外国に移民して、村に残っているのは老人がほとんど。
車も一日に数えるほどしか通らないから、空気は澄み切ってからっと乾いている。お
まけに蚊の一匹も居ないので、寝汗をかく事もなく、深く眠れる。夏のブシャッレの
快適さは筆舌に尽くしがたい。

 しかし朝目覚めてテレビをつけると、爆撃で倒壊した建物や、その瓦礫の下から不
気味に伸び出る、埃にまみれて白くなった人間の手や足の映像が目に飛び込んでくる。
来る日も来る日も、だ。レバノンではニュース番組でも遺体の映像をそのまま流す。
特にヒズボッラーのプロパガンダ・チャンネルであるアル・マナールはこれでもか、
これでもかと凄惨な遺体の映像を突きつける。

 例えば今日、8月7日朝は、サイダ近郊とナバティア近郊の村で、合わせて12名
の民間人が瓦礫の下敷きになって死んだというのがトップ・ニュースだった。昼過ぎ
には南部のフーラ村で40人が倒壊した建物の下敷きになって死んだというニュース
が流れたが、しばらくして下敷きになっていた人々ほとんどが無事救出された。ほっ
としたのも束の間で、夜にはベイルートの一角シヤーハ地区と、ベカー高原のブリタ
ール村で、それぞれ15人、10人が死んだというニュースが飛び込んできた。現場
に入ったテレビ・カメラが瓦礫と、瓦礫の間からのぞく遺体を映し出す。編集されて
いない生のビデオだから、映像の動きもぎごちない。それが見る者に一層リアルな感
触を与える。

 前日、6日はイスラエルにとって悪夢の日だった。国境付近のキブツに集結してい
た予備役兵12名と、ハイファの市民3人がヒズボッラーのミサイルの直撃を受けて
殺された。イスラエル側で一日に15名もが命を落したのは開戦以来初めてのことで
ある。なお皮肉なことにハイファで死んだ3名はアラブ系イスラエル人、つまりイス
ラエル国籍のパレスチナ人だった。民間人を狙った無差別攻撃では、誰が犠牲になっ
てもおかしくない。

のたうつ巨象

 今のイスラエルは、まるでアリの大群に囲まれた巨象だ。一踏みか二踏みで潰すつ
もりでアリの巣に踏み込んだら、踏んでも踏んでもアリは出て来て襲いかかってくる。
アリに噛まれて血まみれになった足を振り回し、巨象は憤怒にかられて周りの花や草
木を見境なく踏み潰すが、肝心のアリの巣は一向に潰せず、いくらでもアリは出て来
て向かってくる……このままでは、怒り狂った象はそのうち核兵器でも使いかねない、
と危惧するのは私だけではないだろう。

 狂った巨象を唯一止める力を持つアメリカは、しかし相変わらずイスラエルのため
に時間稼ぎをし、イスラエルの要求どおりの安保理決議を採択しようと奔走している。
ブシャッレはヒズボッラーの政敵ジャアジャア・レバノン軍団(LF)の出身地であ
り、LF支持者が多い場所だが、そのブシャッレでさえ「米国はレバノンに緊急人道
支援をしているけれど、そもそもイスラエルがレバノンを破壊するのに使っている兵
器はほとんど米国が供与しているじゃないか」、そんな意見を聞いた。

 イスラエルはヒズボッラーの武装解除を軍事力で達成しようとしたが、開戦以来4
週間になると言うのに、一向にその目標は達成出来ない。そこでアメリカは今度は外
交的にイスラエルに助け舟を出した。それが5日に公表された米仏共同の安保理決議
案である。

 この米仏案は、「即時停戦」の用語を避け、「敵対的行為の全面的停止」を呼びか
けている。そしてその敵対的行為の筆頭たる「ヒズボッラーによるミサイル攻撃」の
即時停止をまず求め、合わせてイスラエルの「攻撃的作戦」も停止するよう求めてい
る。つまり、「悪いのはヒズボッラーで、イスラエルのやっていることは、行き過ぎ
の部分があるにせよ、基本的には自衛権の行使である」、というわけだ。

 米仏案はこの他にも、リタニ川以南に兵力引き離し地帯を設置する、ヒズボッラー
の武装解除を求める、シェバア農地からのイスラエル軍撤退は求めない、レバノン人
政治犯の釈放は求めないが拉致されたイスラエル兵士の無条件解放を求めるなど、ほ
ぼ全面的にイスラエルの要求を認めている。

背後を刺されたセニオラ政権

 レバノンのセニオラ首相は米仏案がメディアに流れる直前、5日にテキサス州クロ
フォード農場に居たライス米国務長官と40分以上にわたって電話で協議し、「貴国
はレバノンとイスラエル両国間の問題を解決しようとしているのではなかったのか?
(イスラエルの要求をそのまま聞き入れた)この米仏案では、両国間の問題解決にな
らないどころか、レバノンで内戦を招きかねない」と詰め寄ったらしい。5日ベイル
ートを訪問したライスの右腕ウェルシュ国務次官補にも同じように文言の修正を迫っ
たと言うが、結局米国はセニオラの意見には耳を貸さず、フランスも土壇場で米国に
譲歩した。

 果たして6日には事実上ヒズボッラーの代理として交渉の窓口になっているベッリ
国会議長が米仏案拒否を公表。イスラエル軍のシェバア農地撤退や、捕虜交換など7
項目からなるセニオラ政府案に固執する態度を示した。

 ことここに至ると、米国はヒズボッラーとレバノン政府が絶対に呑めない停戦案を
提示して、レバノン側に拒否させ、レバノン側に戦争継続の責任を負わせた上で、イ
スラエルに思う存分攻撃を続けさせようとしているのでは、とさえ勘繰りたくなって
くる。

 それにしても、シリア軍のレバノン撤退を推し進め、反シリアのハリーリ派を後押
しし、セニオラ内閣成立を全面的に支援したのは米国ではなかったのか? 親シリア
のラフード大統領をボイコットする反面、これ見よがしにセニオラをホワイトハウス
に招待して、レバノンへの支援を約束したのはブッシュ大統領ではなかったのか?

 ブッシュ政権はレバノンからシリアを追い出すために、ハリーリ派と、ハリーリ派
が主導するセニオラ政府を支援した。そしてセニオラ政府がヒズボッラーの武装解除
を達成するよう、様々に働きかけた。しかしレバノン国内の微妙な宗派政治バランス
の故に、セニオラは米国の期待に応えることが出来なかった。米国はセニオラ政権発
足から丸一年、待ったが、国民対話円卓会議でもヒズボッラーの武装解除問題にケリ
がつかないのを見て、イスラエルに実力でこの目的を達成させる方針に変更したので
あろう。核問題をめぐるイランとの緊張が高まる中、ヒズボッラーをこのまま放って
おくわけにはいかない、もはやセニオラ政権に遠慮している余裕はない、ということ
だったのではなかろうか。

 7日ベイルートで開かれたアラブ連盟緊急外相会議で、セニオラは涙にむせびなが
ら、レバノンの窮状を訴え、アラブ諸国の協力を求めた。アメリカと、頼みの綱のフ
ランスにまで背中を刺されたセニオラに今出来ることと言えば、泣くことと祈ること
くらいであろう。アラブ連盟はムーサ事務局長とカタル、アラブ首長国連邦の外相を
急遽ニューヨークに派遣、米仏案の文言修正のため最後の交渉にあたらせる決定を下
した。

忍び寄るシリアの影

 このアラブ外相会議には、シリアからムアッリム外相が参加した。シリア軍のレバ
ノン撤退以来、両国関係は冷え切っており、シリアの外相がレバノンを訪問するのも
撤退後では初めてのことである。

 レバノンの反シリア勢力は、この戦争をきっかけにシリアが再びレバノンへの影響
力を回復しようとしているのではないか、との懸念を隠せない。小規模ながらムアッ
リムのレバノン訪問に抗議するデモもベイルートなど数箇所で起きている。

 ムアッリムはレバノンで「自分(ムアッリム)もナスラッラー師(ヒズボッラー議
長)の指揮下でヒズボッラーの戦列に加わりたいくらいだ」と最大級のリップサービ
スでヒズボッラーとレバノンへの連帯をアピールしている。レバノン内外で反イスラ
エル・反米感情が沸騰する中、時宜にかなったパフォーマンスと言えよう。

「中東民主化」や「テロとの戦い」を掲げてアフガニスタンへ、そしてイラクへと乗
り込んでいったアメリカは、いずれの国でも民衆の心を掴むことが出来ず、治安維持
にも失敗した。中東民主化の見本と称えたレバノンでも、アメリカは今セニオラ政府
を見捨て、イスラエルがレバノンを思いのままに破壊するのを許している。このまま
ではレバノンが再びシリアの影響下に逆戻りしていっても不思議ではない。

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安武塔馬(やすたけとうま)
レバノン在住。日本NGOのパレスチナ現地駐在員、テルアビブとベイルートで日本
大使館専門調査員を歴任。現在は中東情報ウェブサイト「ベイルート通信」編集人と
してレバノン、パレスチナ情勢を中心に日本語で情報を発信。
<http://www.geocities.jp/beirutreport/> 著作に『間近で見たオスロ合意』『アラ
ファトのパレスチナ』(上記ウェブサイトで公開中)がある。
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JMM [Japan Mail Media]                  No.387 Extra-Edition
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部(2005年8月1日現在)
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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