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JMM [Japan Mail Media]  「戦争の風景3:地上戦拡大へ」  安武塔馬 
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投稿者 愚民党 日時 2006 年 8 月 10 日 23:48:13: ogcGl0q1DMbpk
 

                              2006年8月10日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.387 Extra-Edition2
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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■  『レバノン:揺れるモザイク社会』 第25回
   「戦争の風景3:地上戦拡大へ」


 ■ 安武塔馬 :ジャーナリスト、レバノン在住


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■ 『レバノン:揺れるモザイク社会』                第25回
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「戦争の風景3:地上戦拡大へ」

アマルの拠点でも虐殺

 今日、8月9日。普段にも増してイスラエル軍機の飛行音が近く、しかも頻繁に聞
こえてくる。

 今度の戦争が始まる前には、ここブシャッレの上空で、領空侵犯するイスラエル軍
機を見かけない日はなかった。空気が澄み切って、雲以外には視界を遮るものが何一
つないブシャッレ上空は、イスラエル空軍のパイロットにとっては格好の飛行訓練ス
ペースなのであろう。大抵一機だけで悠々とやってきて、大空にまるで線を引くかの
ようにまっすぐに長い雲を残しながら、悠然と東のベカー方向へと去っていく。「レ
バノンの領空を侵犯をするのはヒズボッラーの不審な動きを監視するためだ」と言う
のがイスラエルの言い分だが、それにしてはヒズボッラーがまったく居ないブシャッ
レ上空まではるばるやってくるのは一体何故か、と腑に落ちなかった。

 しかし、今になってよく分かった。イスラエル空軍機はバアルベックなどベカー高
原のヒズボッラー拠点を空爆する予行練習をしていたのである。

 今朝もテレビをつけるとまず目に飛び込んできたのは7日に空爆被害にあったダー
ヒヤ(ベイルート南郊外のシーア派居住区)の一角、シヤーハ地区の瓦礫である。生
存者の救出と遺体の発掘作業は2日経過した今日も続いていて、犠牲者数は当初報じ
られた10名から既に32名に増えている。さらに20名が瓦礫の下に残っている模
様だ。ベイルートの近郊では今度の戦争中、最悪の虐殺事件になるのは確実だ。

 シヤーハ地区は元来、ヒズボッラーではなくライバル政党アマルの拠点だ。しかも
今回の犠牲者のほとんどは、爆撃を逃れて南部から避難してきた人だったらしい。

 このあたりからも、今回のイスラエルの戦争方針の杜撰さがうかがえる。

 2005年2月のハリーリ首相(当時)暗殺事件以降、ふたつのシーア派政党、ヒ
ズボッラーとアマルは親シリアの立場で団結し、あらゆる政策で歩調を揃え、ほぼ一
体化して行動するようになった。しかし、イラン革命の申し子であるヒズボッラーと、
世俗的な政党アマルは、本来激しいライバル関係にある。ヒズボッラーをレバノン社
会から孤立させたいのであれば、まずは他の宗派から切り離し、次いでシーア派社会
から切り離す……つまり、シーア派のライバル政党、アマルを何とかヒズボッラーか
ら切り離せば良い。普通の政治センスがあれば、誰でも考えつくことだ。

 しかしイスラエルは逆にアマルの根拠地を情け容赦なく爆撃し、何十人もの無辜の
人々を殺した。アマル支持者はこれでますますヒズボッラーに共感し、イスラエルと
の闘争に身を投じていくだろう。

川の上で援助物資を手渡し

 もうひとつ、今日見た映像で印象的なシーンは救援物資の手渡しリレーだ。

 南部のどこかの小川に架かっていた橋が潰され、橋がわりに川岸に倒木が架かって
いる。その倒木の上に、赤十字社や「国境なき医師団」のスタッフが1、2メートル
の間隔で何人も横一列に並ぶ。そして、川の片岸から反対の岸まで、バケツリレーよ
ろしくダンボール箱に詰まった救援物資を手渡ししていくのである。作業中にバラン
スを崩して勢いよく流れる川の中に転落する人が出てくるし、貴重な物資そのものが
川に流れてしまうことも起きる。

 一刻を争うはずの緊急救援事業で、何でこんな原始的で非効率なことが起きている
かと言えば、ひとつはイスラエル軍が橋を破壊したからである。そしてもうひとつは、
イスラエル軍がリタニ川以南イスラエル国境までの広大な地域で、一切の車両の通行
を禁止する司令を出したからだ。救急車も報道機関の車両も例外ではない。なお、イ
スラエル軍はこれにとどまらず、住民が夜10時以降に家から外出することも禁止、
違反すれば安全は保障出来ないと警告している。

 イスラエル軍は空中からビラを散布してこの司令を出した。

 9日にはイスラエル軍はティールで別のビラも撒いている。ヒズボッラーの指導者、
ハサン・ナスラッラー師を攻撃し、民心をヒズボッラーから叛かせるためのプロパガ
ンダ・ビラだ。「ハサンは一体何のためにイスラエルを攻撃するのか? ハサンはレ
バノン一国を人質にし冒険に走った。そのツケを払わされているのはあなた方だ」
ざっとこんな中身である。支持者が神のように畏敬するナスラッラー師を「ハサン」
と呼び捨てにするあたりなど、どう考えても逆効果に思えるのだが。

安保理内外の駆け引き

 国連安保理では8日から米仏提案の停戦案の審議が始まった。8日の公開セッショ
ンではヒズボッラーをシリア、イラン、ハマースとともに「テロのカルテット」とこ
き下ろし、安保理決議第1559号(ヒズボッラーの武装解除を求めている)の履行を求
めるイスラエル代表と、イスラエル軍のレバノン領からの撤退を求めるレバノン代表
およびカタル(アラブ連盟を代表して安保理に出席)代表が火花を散らした後、非公
開協議に入った。

 争点はほぼ完全にイスラエルの言い分を認めた米仏案に、どこまでレバノン政府の
求める修正を行うかである。特に、係争地シェバア農地の問題は難しい。レバノン政
府にとってはこれこそが問題の根源だから、イスラエル軍のシェバア撤退を何とか決
議に盛り込んで欲しい。一方のイスラエルにしてみれば今シェバアから撤退しては
「テロに報酬を与える」ことになるから、絶対に譲れない。

 レバノンのセニオラ内閣は、安保理協議が始まる直前の7日にレバノン国軍1万5
千人を南部国境地帯に展開させることを決めている。ヒズボッラー所属の閣僚もこの
決定を支持した。レバノン政府は自国の責任で国境地帯の安全を保障するという態度
を……出来るかどうかはともかくとして……打ち出し、これをカードにして安保理決
議の文案を有利に修正しようとしているわけだ。

 しかし9日にツーロンで記者会見を行ったシラク仏大統領は、「米国は決議案の修
正に乗り気でない」と語り、米国が依然としてイスラエルの要求通りの文案に固執し
ていることを示唆した。逆に拒否権を持つロシアは、レバノン政府が合意しない決議
なら支持しないという立場を打ち出している。停戦決議が実際に採択されるにはまだ
まだ曲折がありそうだ。

イスラエル、侵攻拡大を決定

 停戦決議が採択されないとなると、いや、採択されても実施に移せる目途が立たな
いとなれば、これまでにも増して現場の戦況が重要になってくる。

 この面では、すこぶるイスラエル側の旗色が悪い。

 イスラエル軍は8日の戦闘で5名、9日にも15名を失っている。その戦闘の場所
とは驚くなかれ、何とアイータ・シャアブ、ビント・ジュベール、クファル・キッラ、
アイタルーンなど、国境沿いの村々なのである。イスラエル軍が開戦直後に制圧を発
表した筈の地域で、1ヶ月を経過した今もいまだにゲリラの攻撃に悩まされているの
だ。

 まだある。開戦以来70名を超えたイスラエル軍の死者のほとんどは、イスラエル
が世界に誇るメルカバ戦車の搭乗員である。ヒズボッラー・ゲリラの持つ対戦車砲の
餌食になっているのだ。つまり場所は違えど同じ手段で、同じ武器によって同じ戦車
を破壊されているのだ。

 ヒズボッラーのミサイル攻撃も一向に止まない。8日には開戦以来最多の350発
がイスラエル領内に着弾した。

 イスラエル軍の苦戦ぶりは8日にはっきりした形をとって現れた。ハルーツ参謀総
長が、腹心で長年のレバノンにおける戦歴から「ミスター・レバノン」とあだ名され
る副官のカプリンスキー准将を北方方面軍に「出向」させ、前線司令官であるアダム
司令官から指揮権を奪ったのだ。日露戦争の際に、乃木元帥が旅順要塞を攻めあぐね
ているのを見て、参謀本部が児玉源太郎を派遣したのを思い出していただければ良い。

 戦争中に前線司令官が事実上更迭されるというのは長いイスラエル軍の歴史の中で
も異例の出来事で、1973年の第四次中東戦争以来だと言う。

 安全保障問題を協議するイスラエルの縮小閣議は9日、地上戦は国境沿いの村への
限定的な侵攻に限定するという従来の方針を転換、国境から20〜30キロメートル
離れたリタニ川まで侵攻地域を拡大することを決定した。ちょうど同じころ、米国の
ウェルシュ国務次官補は予告もなしに突然レバノンを訪問、セニオラ首相と協議して
いる。協議の中身はわからないが、9日夜にテレビ演説を行ったナスラッラー議長は
「米国が米仏案を呑むようセニオラ首相に圧力をかけているのだ」と解釈している。
つまり、米仏案を拒んだ場合、イスラエルはリタニ川まで侵攻するぞ、それでもいい
のか、という恫喝だと言うのだ。この見方はおそらく当たっているだろう。

 ナスラッラーはこれまでのテレビ演説よりも一層リラックスした表情で、「リタニ
川まで来たければ来るがよい。ただし、我々は侵入者は必ず追い出す」と、イスラエ
ルの侵攻拡大を受けて立つ態度を示した。

 古来、装備や練度の点で、質量ともに圧倒的にまさる正規軍が、ゲリラ戦の泥沼に
はまり、敗退していくには一定のパターンがある。

 まず一貫した戦略がないこと。つまり、外交交渉や政治的手段による終戦への道標
がないまま、力に恃んで戦争に突っ走る。

 次に、「あと一歩で敵を殲滅出来る」と信じて、深入りし戦線を拡大していくこと。

 スペインやロシアにおけるナポレオン軍がそうだった。ユーゴのパルチザンと戦っ
たナチスもそうだったし、日中戦争の泥沼にはまっていった日本軍もそうだった。か
つてのベトナム、そして現在のイラクにおける米軍しかりである。

 今のイスラエルもその泥沼に陥りつつあるように見えてならない。果たしてイスラ
エル軍は力でヒズボッラーをねじ伏せ、そのミサイル攻撃能力を壊滅させることが出
来るのであろうか?

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安武塔馬(やすたけとうま)
レバノン在住。日本NGOのパレスチナ現地駐在員、テルアビブとベイルートで日本
大使館専門調査員を歴任。現在は中東情報ウェブサイト「ベイルート通信」編集人と
してレバノン、パレスチナ情勢を中心に日本語で情報を発信。
<http://www.geocities.jp/beirutreport/> 著作に『間近で見たオスロ合意』『アラ
ファトのパレスチナ』(上記ウェブサイトで公開中)がある。
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JMM [Japan Mail Media]                 No.387 Extra-Edition2
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部(2005年8月1日現在)
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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