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JMM [Japan Mail Media]   「戦争の風景6:ベイルートへ」  安武塔馬 
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投稿者 愚民党 日時 2006 年 8 月 20 日 00:51:31: ogcGl0q1DMbpk
 

                              2006年8月18日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.388 Extra-Edition3
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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■  『レバノン:揺れるモザイク社会』 第28回
   「戦争の風景6:ベイルートへ」


 ■ 安武塔馬 :ジャーナリスト、レバノン在住


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■ 『レバノン:揺れるモザイク社会』                第28回
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「戦争の風景6:ベイルートへ」

停戦続く

 前回のレポートでは、
・当面停戦が発効する
・イスラエル国内で政局になる
と予測したが、8月17日現在まで大体その予測どおりに事が進んでいる。

 国境周辺での散発的な銃撃戦や、レバノン領内に残っているイスラエル軍陣地にミ
サイルが飛んでくる、といった小競り合いは停戦発効後も起きている。しかしヒズボ
ッラーはイスラエル領内へのミサイル攻撃を、イスラエル側はレバノン領内への空爆
やミサイル攻撃をそれぞれ自制しており、停戦は維持されている。

 一方、イスラエル国内では戦争中は政府批判を控えていた左右両方の野党勢力が、
「戦争に勝った」と主張するオルメルト首相と政権に対する批判を強めている。特
に、有力紙マアリブが15日に参謀総長ダン・ハルーツの株売り抜け疑惑をスッパ抜
いたことで、軍の立場は極めて苦しくなった。ヒズボッラーが「確かな約束作戦」を
発動、イスラエル兵2名を拉致した上、追跡する8名を殺害したその僅か数時間後
に、手持ちの株を売却した、というのがその内容だ。

 ヒズボッラーが兵士拉致を企てていると警告を受けていたにも関わらず、みすみす
兵士を奪われたことだけでも軍首脳の大失態だ。そこに加えて、部下が生死をかけて
戦っているときに参謀総長は自らの資産保全に汲々としていたというのだから、開い
た口が塞がらない。打つ手打つ手がことごとく外れ、何ら戦争目的を達成出来ないま
ま終わった今度の戦争は、イスラエル軍の歴史に残る汚点といえるが、この株売り抜
けスキャンダルが事実とすれば、屈辱の戦争の最後を飾るにふさわしいエピソードだ
ろう。

 ともあれ、政府と軍に対する風当たりは強まる一方で、イスラエル政局はしばらく
波乱含みの展開になりそうだ。

 前回の予測で外れた点と言えば、予想外のスピードでイスラエル軍が撤退しつつあ
ること。もっとも、もともと国境地帯からほとんど進撃出来なかったわけだから、撤
退もそんなに難儀な仕事ではないのかもしれない。無駄に長逗留して兵士の生命を危
険にさらすべきではないという判断や、さっさとイスラエル側が決議を履行すれば、
レバノン側の立場は苦しくなるという計算も働いているのかもしれない。

レバノン側の迷走

 実際、レバノン側はこの進展についていくのに精一杯だ。

 問題はヒズボッラーがこの期に及んで、あくまでも武装解除に抵抗していることに
ある。ナスラッラー議長は14日に停戦発効後では初めてテレビ演説を行い、「戦略
的・歴史的勝利」をおさめたと宣言するとともに、リタニ川以南の地域におけるヒズ
ボッラーの武装解除の要求をはっきりと拒否した。せっかくイスラエルの猛攻を持ち
こたえたのだから、みすみす武装解除には応じられないということだ。

 安保理決議第1701号は端的に言って、イスラエルの北部国境を守るために二重三重
にかけられた保険のようなもの。まず、ヒズボッラーが国境地帯で武装解除するか、
リタニ川以北に撤退する。次に、レバノン国軍がヒズボッラーにかわりこの地域を支
配する。決議は明示していないが、その目的はイスラエルからレバノンの国境を守る
ことではなく、ゲリラの不穏な動きを管理することにある。しかし、国軍の能力では
ゲリラには到底かなわないから、三番目の保険として、既存の国連部隊UNIFIL
を数で言えば7倍に拡大、装備も大幅に強化し、強力な部隊として国軍を補佐させる。

 だからヒズボッラーの武装解除・河北への撤退は、決議履行の大前提だ。ヒズボッ
ラーとの軍事衝突の危険があるのではレバノン国軍も、UNIFIL部隊もこの地域
には入りにくい。

 ヒズボッラーと政府の交渉は行き詰まり、閣議は二回流れた。そうこうするうちに
もイスラエル軍はどんどん撤退し、避難民も数十万人単位で続々と南部に戻っている。

 結局、政府は16日の閣議で南部への国軍展開を決定、17日早朝から部隊はリタ
ニ川を越えて南部に展開しはじめた。ヒズボッラーは当面兵器を「隠し」、国軍側は
あえてヒズボッラーの武器を捜索しないという前提だ。こんな子供騙しの策で、果た
して国際社会が納得して、UNIFIL軍に各国が部隊を派遣してくれるものかどう
か。ベイルートと国連で集中的に行われている国際部隊編成交渉もまだまだ難航しそ
うだ。

アサドの勝利宣言

 8月15日、戦争中は沈黙を守っていたシリアのアサド大統領はダマスカスのジャ
ーナリスト連盟の集会で演説。ヒズボッラーの勝利を「アラブ民族の勝利」「米国の
中東政策の破綻」と褒め称えた。そしてイスラエルに対しても「未来のアラブ世代
は、あなた方を打ち破る術を手に入れる。平和交渉に応じるか、さもなければ今の傲
慢な政策を続けて破滅するか」と、ゴラン高原をめぐる交渉を再開するよう呼びかけ
た。

 1993年や1996年のイスラエル軍のレバノン攻撃の時は、仲介者の米国がシ
リアに働きかけて停戦が成立したが、今回は米国もイスラエルも徹底してシリアを無
視、とうとう最後までシリアの出番はなかった。

 とは言え、ヒズボッラーは今度の戦争でも一貫してシリアから兵站補給を受けてい
たし、ヒズボッラーがレバノン国内における親シリア勢力の大黒柱である事実も変わ
らない。だからヒズボッラーの「勝利」はシリアの勝利に違いない。アサドは果たし
てこの演説の中でも、レバノンの反シリア勢力のことを「イスラエルによる被造物」、
「裏切り者」とさんざんに貶している。ヒズボッラーの「勝利」によって、いよいよ
シリアが本格的にレバノンへの影響力回復に乗り出すのではないか、と反シリア勢力
は警戒を強めている。

ベイルートへの道

 ところで、私(筆者)は8月3日にレバノンに戻って以来、ブシャッレから一歩も
動かなかった。ベイルートからは戦争中にも妻の親戚や日本のメディア関係者の来訪
があり、その気になればベイルートへのアクセスがそんなに困難ではないとはわかっ
ていたのだが、また家族と離れ離れになったらどうしよう、という強迫観念があっ
て、なかなか動けなかったのだ。

 戦争が終わったので、15日にようやく重い腰をあげてベイルートに単身出てみる
ことにした。1ヶ月半も放ったらかしにしてあるアパートが気になるし、滞納してい
る家賃も払わねばならない。

 ブシャッレからトリポリまでは普段どおり町のマイクロバスで簡単に到達出来た。
しかしトリポリからベイルートへのバスの便数が極端に減っており、かなり待たされ
る。

 バスは当初高速道路を快調に走り始めたが、空爆で潰された最初の橋の迂回にかか
ったところでもたつき始めた。迂回路は海岸の狭い道路で、しかもそれを両側車線に
区切って使っているから、渋滞するのも当然だ。周りを見渡すと、屋根の上にマット
レスなどの寝具を縛り付けた車両が目立つ。私と同じように、戦争が終わったから家
に戻る人たちの車だろう。数は少ないがヒズボッラーの黄色い党旗を掲げた車もある。

 ビーチや海浜リゾートにはかなりの人が繰り出しており、駐車場はどこも満員だ。
15日は聖母マリア被昇天祭で、レバノンの公休日。祝日と戦争のストレスから解放
されたことで、海にどっと人が繰り出しているのだろう。ベイルート以南では空爆さ
れた備蓄庫からの流出原油で、海洋汚染が深刻だが、このあたりでは海の汚れはそれ
ほど目立たない。

 じりじりと強い夏の日差しが照りつけるなか、約2時間半。普段の2倍以上の時間
をかけてバスは三本の橋を迂回し、ベイルートに近づく。道路脇の広告が目立ち始め
るが、その中に「1975、1982、1993、1996…再建するぞ、復興する
ぞ…レバノンは戻ってくる…」こんな広告が。マワーリド銀行の広告だ。冒頭の数字
は、いずれもレバノンが大きな戦争被害を蒙った年を示す。作っては壊され、作って
は壊され…この国の人たちの営みの虚しさに、胸が締め付けられる思いをする。

 ようやくベイルートへ。瀟洒なダウンタウンをしばらく歩くが、カフェテリアやレ
ストランはほとんど閉まっており、人の気配が少ない。戦場に近いベイルートでは、
やはり家族揃って外食に出かけるような雰囲気ではないということか。

 そこからセルビス(乗り合いタクシー)を拾ってアパートのあるハムラへ。途中、
何度もエンストを起こす。運転手は「悪いな。ガソリンが粗悪品なんだ」と釈明す
る。燃料不足は依然として深刻だ。

 ハムラに着いたらもうあたりは薄暗くなっていたが、街頭はまったく点いていない。
ゴミ集積所にはゴミの山が出来ており、あちこちにゴミが散乱している。住み慣れた
町が、何倍も暗く、薄汚なくなってしまった印象だ。これも悲しい。

 アパートに入ると、爆風で開いてしまったのだろうか、閉めて言ったはずの扉がほ
とんど開いてしまっており、部屋の中は埃と煤だらけで、こちらも薄汚れてしまった。
絨毯の上にまでアリが這っている。

 まずは電話回線や電気をチェック。全部OK。これで仕事が出来る、大丈夫と思っ
たら、ものの10分もしないうちに停電。七階の階段を歩いて下りて、管理人に聞く
と「計画停電ですよ。夜6時から12時まで、電気はこないはずです」とのこと。レ
バノンのテレビ各局の主要ニュース番組がまったく見れない。これでは仕事にならな
い。

 夜、中央銀行で働くスンニ派の友人の家に招かれた。家は西ベイルートの真ん中に
あり、ダーヒヤ(ベイルートの南郊外)からはちょっと離れているため直接の爆撃は
受けていない。しかし普段は夜でも煌々と明かりが点いているこの地区でも、街燈は
消えたまま、開いている店もまばらで、やはり薄暗い雰囲気に包まれていた。

 友人は戦争中も一日も休まず銀行に出勤していたが、家族はキリスト教徒地区の高
原リゾート地区に疎開させていて、今朝、一ヶ月ぶりに家族を連れ帰ったところだっ
た。

「もう沢山だ。ヒズボッラーにはいい加減にして欲しい。どうしてもイスラエルと戦
争したいのならいっそのこと、ヒズボッラー・イスラーム共和国でもつくってシーア
派地区だけ独立させればいい」

 この友人の言葉は、反シリアの立場の国民の本音かもしれない。

 なお、この後のダーヒヤ訪問については次号に掲載します。その時撮った写真は拙
HPに掲載済みですのでご覧下さい。

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安武塔馬(やすたけとうま)
レバノン在住。日本NGOのパレスチナ現地駐在員、テルアビブとベイルートで日本
大使館専門調査員を歴任。現在は中東情報ウェブサイト「ベイルート通信」編集人と
してレバノン、パレスチナ情勢を中心に日本語で情報を発信。
<http://www.geocities.jp/beirutreport/> 著作に『間近で見たオスロ合意』『アラ
ファトのパレスチナ』(上記ウェブサイトで公開中)がある。
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JMM [Japan Mail Media]                 No.388 Extra-Edition3
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部(2005年8月1日現在)
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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