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JMM [Japan Mail Media]  「離婚は不可避か?」  『レバノン:揺れるモザイク社会』 安武塔馬 
http://www.asyura2.com/0601/war84/msg/637.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 9 月 16 日 00:36:10: ogcGl0q1DMbpk
 

                            2006年9月13日発行
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JMM [Japan Mail Media]                  No.392 Extra-Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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■  『レバノン:揺れるモザイク社会』 第36回
   「離婚は不可避か?」


 ■ 安武塔馬 :ジャーナリスト、レバノン在住


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■ 『レバノン:揺れるモザイク社会』                第36回
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「離婚は不可避か?」

○ 波乱含みの政略結婚

 かたや、シリア軍のレバノン撤退以降も一貫して親シリアの立場を貫くヒズボッラ
ー。かたや米仏両国やサウジの支持を頼りに、シリアの影響の排除に懸命な反シリア
連合。2005年の国政選挙で、両者はこの根本的な政治姿勢の隔たりにあえて目を
つぶり、選挙協力した。或る種の政略結婚だったと言える。

 順当に選挙に勝ち、国会内で地位を固めた革命政党ヒズボッラーは、野党の立場を
貫くという結党以来の党是を捨て、セニオラ内閣に初めて閣僚を送った。これも、ヒ
ズボッラーが閣外で政府決定をブロックすることを恐れる反シリア連合と、反シリア
連合の独走を抑えるには閣内に居た方が有利というヒズボッラー側の計算がたまたま
一致したからだ。皮肉な話だが、両者は立場が隔たり過ぎているが故に、結婚するし
か選択がなかったと言うべきか。

 この政略結婚はたびたび破綻の危機を迎えた。特に深刻だったのは、2005年1
2月、反シリア連合のトウェイニ議員が暗殺された後である。ヒズボッラーはハリー
リ暗殺事件国際捜査団の捜査権限拡大を決めるなど反シリア連合の独走に反発、同じ
シーア派のアマルとともに、シーア派閣僚5名の閣議参加を凍結する措置をとった。

 ヒズボッラーの政府参加が政略結婚だとすれば、閣議ボイコットはさしずめ家出あ
るいは別居状態か。しかしシーア派閣僚は辞任には踏み切らなかった。離婚届に判子
を押さずに、ベッリ国会議長の和解調停を受け入れたのだ。最終的にセニオラ首相が
国会で「ヒズボッラーの対イスラエル武装闘争は、国民的な反占領闘争であると認識
している」と答弁、ヒズボッラーの面子を立てて事態は収拾された。こうして50日
ぶりに再び同居生活が始まった。

○ 口撃の応酬エスカレート

 別居状態解消の条件が、反シリア連合によるレジスタンスの正当性承認であった以
上、前者がふたたびレジスタンスの正当性に疑義を挟み、声を大にしてヒズボッラー
の武装解除を求め出したら、別れ話が再燃するのも当然だ。

 前回のレポートではブリストル会議がヒズボッラーの武装解除要求を前面に打ち出
した件を報告した。それ以降、両者の口撃の応酬はエスカレートする一方で、もはや
離婚を回避するのは難しくなってきた。別れ話がもつれて刃傷沙汰になる恐れさえ出
ている。

 反シリア連合は、ヒズボッラーがアウン派に同調して内閣改造を求めていることに
ついて、「ハリーリ暗殺事件の国際法廷設置を阻止するつもりだろう(ジュンブラー
トPSP党首)」と、その意図に疑いを投げかける。いま親シリア派の言いなりに
「挙国一致内閣」を結成し、親シリア派の発言力が強まれば、今後ハリーリ暗殺事件
の国際捜査や、大統領選挙(2007年11月)や国政選挙前倒しなど、今後の政局
の様々な局面でイニシアティブを奪われてしまうという反シリア派の恐れがこのジュ
ンブラート発言からみてとれる。

 ヒズボッラー系のアル・マナール・テレビや、反ハリーリを身上とするNTVなど
のメディアは、政府による戦後復興支援事業の策定や資金の支払いが不透明に行われ
ていると追及、アウンなどは「反シリア連合が内閣改造に応じないのは、復興資金を
盗み続けるためだ」と政府を攻撃する。

 ヒズボッラーは武装解除要求にはあえて反論せず、対話の必要だけを説く従来の方
針を転換、ブリストル会議を正面から批判する声明を発出し、「もはやセニオラ内閣
が改造なしに存続することは許されない」という立場を前面に打ち出した。

○ ブレア首相来訪

 過熱する一方の国内の緊張に油を注いだのは、中東歴訪中のブレア英国首相が11
日に行ったレバノン電撃訪問である。

 第五次レバノン戦争を通じて、英国はアフガン戦争やイラク戦争の時と同様、まっ
たく米国と歩調を合わせ行動した。つまり停戦決議成立を遅らせる方向に協力したの
である。

 ヒズボッラー支持者や戦争被災者が英国に抱く感情は推して知るべしだが、それだ
けではない。戦争中、米国はイスラエルへのスマート爆弾供与を英国経由で行ったと
レバノンでは報じられている。だから、ヒズボッラーの支持者にとっては、ブレア首
相は「人殺しへの加担者」に他ならない。

 ブレアはベイルート空港に到着すると、例によってラフード大統領をボイコット、
大統領府には赴かず首相府でセニオラ首相と会談した。セニオラとの合同記者会見で、
ブレアはレバノンの戦後復興支援や、国軍のトレーニングや装備強化などに協力する
立場を表明している。しかし親シリア勢力にとっては、米国や英国がヒズボッラーへ
のカウンターバランスとしてレバノン国軍の強化に取り組むこと自体が内政干渉であ
り、座視出来ないことだ。だから支援表明をやってもレバノン人の反発を和らげるこ
とは出来なかった。

 ブレアとセニオラ政府閣僚との会談にはサッルーフ外相を除き、シーア派閣僚は全
員欠席。ベッリ国会議長自身もブレア来訪の前々日にそそくさと「私用で」渡欧し、
体よくブレアとの会談から身を交わした。対照的にサアド・ハリーリ議員、ジュンブ
ラートPSP党首ら反シリア連合の政治家は、セニオラとともにブレアを囲む昼食会
に参加している。

 ブレアが首相府で会談中、ヒズボッラー支持者をはじめ、戦争中の英国の立場を非
難する数千人規模の群集が、厳戒態勢のダウンタウン近くで集会を行い、口々にブレ
アと、そのブレアを賓客として受け入れたセニオラ首相を批判した。

 ブレアのレバノン滞在は正味4時間程度であったが、レバノン国内世論の分裂を深
めるには十分だった。

○ 一線を超えた口撃

 ブレアがベイルートを去った後、11日夜には戦災被害がまだまだ生々しいダーヒ
ヤ(ベイルート南郊外)で、ヒズボッラーが戦後初めての集会を開催。アリ・アンマ
ール議員が反シリア連合政治家のことを「イスラエルや米国と組んで、ヒズボッラー
の抹殺を謀っている」と激越に非難した。

 続いて12日放映されたアル・ジャジーラ・テレビのインタビューで、ナスラッラ
ー議長は、「反シリア連合は戦争開始直後から停戦するまで、『ヒズボッラーはイラ
ンの核問題から世界の目を逸らすため戦っている』『シリアのためにハリーリ暗殺事
件の国際捜査から世界の目を逸らそうと対イスラエル戦争を仕掛けた』などとヒズ
ボッラーを貶めるキャンペーンを展開、幾度となくヒズボッラーの背後を刺した。こ
れは単に背後を刺したと言うよりも、もはや敵の側について戦争に参加していたに等
しい」と発言。

 かつて日本の左翼の内ゲバや、パレスチナのインティファーダの裏で、イスラエル
への内通者……あるいは単にその嫌疑を受けた者……が、裁判もなく同胞に処刑され
ていった例を見るまでも無い。

 同胞を敵への内通者呼ばわりするところまで来れば、殺し合いが始まるまではあと
一歩だ。ヒズボッラーはその危険をわきまえているから、第五次レバノン戦争が終わ
るまで、いくら政治的立場が対立する相手であっても、レバノンの他の国内勢力を通
敵行為で非難することは避けてきた。

 しかし戦争と、それがもたらした破壊と流血が流れを変えた。

 今回、ヒズボッラー首脳から相次いで反シリア連合を敵への協力者扱いする発言が
出て来たことで、レバノン国内の緊張は一層激化しそうだ。この緊張が政治テロや宗
派紛争へと発展しないことを願うばかりである。

 なお、同じインタビューでナスラッラーは、ブレアのレバノン訪問についてこう
言っている。「ブレアは殺人の加担者だ。そのブレアを賓客として受け入れるとは、
セニオラ首相や反シリア連合の政治家には、戦争で殺された者、負傷した者、家を壊
され難民となった者たちの感情への配慮はまったく無いのか?」

 確かにそのとおり。セニオラは無神経過ぎたかもしれない。しかしこれに対し、反
シリア連合はこう応えるであろう。「勝手に戦争を始め、何の罪も無い多くの国民の
生活を破壊して、『イスラエルに勝利した』と誇るとは、ヒズボッラーには国民の感
情に対する配慮というものが無いのか?」。

 ヒズボッラーと反シリア連合の対立には、従来の政治路線上の対立にとどまらぬ感
情的な要素が加わっている。どこかで落としどころを見つけないことにはいつ暴発し
てもおかしくない。

○ ダマスカス米国大使館襲撃事件

 さて、ハリーリ暗殺事件の国際捜査や、拡大UNIFIL部隊の国境展開問題をめ
ぐって、米仏両国とシリアが対立を深める最中の12日、ダマスカスの米国大使館が
武装グループに襲われるという事件が起きた。

 シリア国営通信や内相の発表によれば、武装グループはスンニ派原理主義組織(名
称には言及なし)の4名で、自動車爆弾を爆発させた上、RPGミサイル砲などを用
いて大使館の襲撃を図ったが、シリア側警備要員との銃撃戦の末、3名が死亡、1名
は負傷して攻撃は失敗に終わった。米国大使館のスタッフには被害はなかった。

 数年前から、ダマスカスはじめシリアの各地で結構頻繁にスンニ派原理主義組織に
よるテロ事件、あるいはテロ未遂事件が起きている……とシリア国営通信は報じてき
た。何しろメディアの報道には厳しく目を光らせる警察国家体制であるから、自由で
中立的なメディアが事件の真偽を確認して報じることは出来ない。

 しかも、これらの事件はアサド政権にとっては「シリアも原理主義の脅威と戦って
いるのだ」「アラウィ派(イスラーム教の異端とみなされる)主導の世俗的なバアス
党政権が倒れると、過激なスンニ派原理主義者が政権をとってしまう、それでもいい
のか?」と、政権を擁護するメッセージを送るチャンスにもなる。

 だから、この手の事件が起きた時、外国メディアの報道姿勢はかなり懐疑的だ。

 12日の米国大使館襲撃事件についても、アル・ジャジーラやBBC、CNNなど
はいずれも事件を事実として断定することは避け、「『米国大使館襲撃事件をシリア
治安当局が未然に防いだ』とシリア当局は言っている」と、かなり懐疑的な調子で報
じている。

 12日は米国同時多発テロ事件発生5周年記念日の翌日。しかも11日にはアル・
カーイダのナンバー2、アイマン・ザワヒリが新たなテロ攻撃を予告するビデオ声明
を出している。そんな状況であるから、実際にシリアの治安当局の監視の目をくぐっ
て決行されたテロ事件であった可能性は否定出来ない。米国もとりあえずライス国務
長官らが「テロ攻撃へのシリア当局の対応」への謝意を表明している。

 果たして、シリアのスンニ派原理主義組織は首都の、それも大統領宮殿のすぐ近く
で白昼にテロ事件を起こすだけの能力を本当に持っているのであろうか? もし持っ
ているのであれば、シリアやレバノンでもいずれイラクやサウジのように、原理主義
のテロが猛威を振るう脅威は現実ということになる。

 もし持っていないとすれば、それは体制側が原理主義組織のテロリズムを猛獣使い
のように使いこなして、政治的プロパガンダに利用しているということになる。それ
もそれで恐ろしい話だ。

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安武塔馬(やすたけとうま)
レバノン在住。日本NGOのパレスチナ現地駐在員、テルアビブとベイルートで日本
大使館専門調査員を歴任。現在は中東情報ウェブサイト「ベイルート通信」編集人と
してレバノン、パレスチナ情勢を中心に日本語で情報を発信。
<http://www.geocities.jp/beirutreport/> 著作に『間近で見たオスロ合意』『アラ
ファトのパレスチナ』(上記ウェブサイトで公開中)がある。
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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