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国際協調主義の再登場 [田中宇の国際ニュース解説]
http://www.asyura2.com/0601/war84/msg/926.html
投稿者 white 日時 2006 年 9 月 26 日 10:36:47: QYBiAyr6jr5Ac
 

□国際協調主義の再登場 [田中宇の国際ニュース解説]


田中宇の国際ニュース解説 2006年9月26日 http://tanakanews.com/

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★国際協調主義の再登場
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 アメリカ共和党の中枢において、ディック・チェイニーとジェームズ・ベー
カーは、対照的な戦略を掲げる二つの勢力を代表する存在である。

 現政権で副大統領をつとめるチェイニーは「アメリカは世界最強なのだから
(ヨーロッパやアラブといった国際社会の意見を聞かず)自国の理想に沿って
自由に世界戦略を考え、実行すべきだ」と主張する「単独覇権主義」(タカ派、
強硬派)の代表者だ。

 他方ベーカーは、現政権では公職を持っていないものの、大統領の父親(パ
パブッシュ元大統領)の最重要の側近として、事実上、現大統領の顧問として
機能している。ベーカーは「アメリカは国際社会と協調して世界戦略を進める
のが効率的で良い」と主張する「国際協調主義」(中道派、現実派)の代弁者
である。

 ここ20年間、アメリカの各政権は、この2人が代表する2つの戦略の間を
揺れ続けてきた。1981−88年のレーガン政権は前期が単独覇権派が強か
ったが、ソ連を「悪の帝国」と呼んだ対立扇動や、レバノン侵攻、軍事など予
算支出の急増(レーガノミクス)などの好戦的な強硬策が失敗した後、イラン
・コントラ事件などの暗闘を経て、後期には国際協調派が強くなった。

 協調派は、タカ派による無茶苦茶な行為が引き起こした混乱をおさめて軟着
陸させる戦略をとった(協調派が「現実派」とも呼ばれるのは、政策の逆転で
はなく軟着陸を好む柔軟さを持っているからである)。

 1985年には財務長官だったベーカーが、ドル安と円・マルク高の流れを
作る「プラザ合意」を締結し、ドルの通貨としての覇権の一部を円や欧州通貨
に移転する試みがなされた。その後は、レーガンとゴルバチョフのトップ会談
が挙行されて米ソ対立が解消され、冷戦を終わらせた。もともと大統領のレー
ガンはタカ派の人で、副大統領のパパブッシュは協調派の人だった。

▼湾岸戦争とイラク侵攻のつながり

 次の1989−92年のパパブッシュ政権は、基本的に国際協調主義の政権
で、レーガン政権後期の流れを受け継いだ。ベルリンの壁の崩壊後、ドイツ統
一とEUの創設を推進したのは、パパブッシュ大統領、ベーカー国務長官、ド
イツのコール首相の3人だった。
http://en.wikipedia.org/wiki/James_Baker

 91年の湾岸戦争では、国務長官だったベーカーが「米軍はイラク軍をクウ
ェートから追い出すだけで、イラク領内に進軍してはならない」と主張したの
に対し、国防長官だったチェイニーは、米軍をイラク領内まで入れようとして
対立した。結局、ベーカーの主張が通ったものの、それ以来、チェイニーの派
閥の目標の一つは、米軍をイラクに侵攻させて政権転覆を実現することになっ
た。

 チェイニーとウォルフォウィッツ(当時国防次官)は1992年に「アメリ
カに対抗する国は先制攻撃で潰す」という単独覇権主義の軍事戦略(Defense
Planning Guidance)をまとめたが、パパブッシュに拒否された。これに対抗
するように、協調派のコリン・パウエル統合参謀本部長(のちの国務長官)は、
湾岸戦争の教訓から「戦争はなるべくやらない。やる時は必ず勝てるように大
軍を出して一気に決着をつける」というパウエル・ドクトリンを出した。
http://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/shows/iraq/etc/wolf.html

(03年のイラク侵攻では、国防副長官だったウォルフォウィッツらが、パウ
エルの方針と全く逆の「少数精鋭でじわじわ攻める」戦略を採ろうとして、パ
ウエルらとの対立した。その結果、折衷的な戦略が採られたが、この中途半端
さが占領軍の兵力不足となり、泥沼化を招いた)

 1993−2000年の民主党のクリントン政権も、基本的には国際協調主
義だったが、政権末期の1998年前後に世界経済の行き詰まりが始まった後
「文明の衝突」の構想に基づくイスラム世界との長い「テロ戦争」が「冷戦」
に代わる欧米中心主義(国際協調主義の別名)の体制として企図され始めた。

 これに呼応して、政権外にいたチェイニーらタカ派は、好戦的なシンクタン
ク「PNAC」を作り、単独覇権主義と、テロ戦争の一環としてのイラク侵攻
を主張し始めた。

▼イラク泥沼化を10年前に予測したスコウクロフト

 ベーカーと並ぶ共和党の協調主義者で、パパプッシュ政権で大統領の安全保
障担当顧問をつとめたブレント・スコウクロフトは当時、PNACの主張に反
対してワシントンポストに「もし米軍がイラクに地上軍を侵攻させてフセイン
政権を転覆したら、アラブ全体に怒りが広がり、中東全体が混乱に陥る。アメ
リカは同盟国の多くを失い、その結果どんな悪いことになるかは、ほとんど見
当がつかない」と主張する論文を載せた。
http://www.venturacountystar.com/vcs/opinion/article/0,1375,VCS_125_5011750,00.html

 今になってみると、スコウクロフトの予測は、見事に当たっていることが分
かる(このことから、タカ派のイラク侵攻策は、もともと失敗すると分かって
いて主張され、協調派は何とかそれを止めようとしてきたのではないかという
推測が出てくる)。

(スコウクロフトは、イラク侵攻には反対なものの「テロ戦争」には賛成で、
01年のアフガン戦争に対しては「テロ戦争の一環として正しい戦争だった」
と言っている。このことから、911をきっかけに「テロ戦争を数10年続け
る」という戦略は「テロ対策」でアメリカ中心の欧米協調を強化できるので、
協調派も賛成だったことがうかがえる。問題は、タカ派が、テロ戦争を「やり
すぎ」の人権侵害などで無茶苦茶にして、結果的に欧米協調を破壊する作用に
変えてしまったことである。協調派のキーワードが「軟着陸」なのに対し、タ
カ派のキーワードは「やりすぎ」によって事態を無茶苦茶にしてしまうことで
ある。修繕派と破壊派である)
http://en.wikipedia.org/wiki/Brent_Scowcroft

 2001年からのブッシュ政権も、パパの人脈を受け継ぎ、当初は中道派が
強いかに見えた。2000年の大統領選挙でフロリダ州の開票をめぐる政争を
おさめ、ブッシュ勝利に導いたのは、選挙参謀だったベーカーだった。だが、
ブッシュ政権はチェイニーの主導で組閣したため、中枢にはPNACのメンバ
ーが多数入り込み、911事件を境にタカ派がクーデター的に強くなった。チ
ェイニーとその傘下のネオコンは、イラク侵攻を主張し、ブッシュに「単独覇
権主義」を公式に宣言させ、中道派による制止もむなしく、イラク侵攻が挙行
された。その後の米政界はタカ派一色となり、2004年末にはパウエルも国
務長官を辞任し、中道派は影を潜めた。

 イラク占領は、2005年には泥沼化がひどくなり、単独覇権主義は失敗が
確定的になったが、ブッシュ政権はチェイニーらタカ派に牛耳られたままだっ
た。外交諜報諮問委員会長をしていた協調派のスコウクロフトが、2005年
にチェイニー批判を行い、タカ派を政権から追い出そうとしたが、米政界内で
呼びかけに応じる勢力は少なかった。スコウクロフトは06年1月、チェイニ
ーの差し金で、静かに諮問委員会から外された。
http://www.aljazeerah.info/Opinion%20editorials/2004%20opinions/December/31%20o/Bush%20Purging%20Republican%20Realism%20From%20Administration%20Sidney%20Blumenthal.htm

 スコウクロフトと違ってベーカーは声高なブッシュ政権批判を避けたので、
何とか政治生命を保ったが、発言力は弱くなった。ライス国務長官は、以前に
スコウクロフトの弟子だったので協調派と目されているが、チェイニーに反対
された政策は実行できなかった。タカ派は、協調派を潰し切ったかに見えた。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/11/29/AR2005112901502_pf.html

▼中東の大和平を構想するベーカー

 ところが最近になって、ベーカーの反撃が始まった。ベーカーは、ブッシュ
大統領から「イラク占領の泥沼化を解決するための私的な諮問機関を作ってほ
しい」と要請され、米議会下院の後押しも受けて、5人の共和党関係者と、元
議員のリー・ハミルトンら5人の民主党関係者によって超党派の「イラク研究
会」(Iraq Study Group)を作った。

 この会が作られたのは今年3月で、会の結成は報道されたものの、具体的に
何をするかは明らかにされておらず、あまり注目されなかった。
http://www.nytimes.com/2006/04/24/world/middleeast/24baker.html?ex=1303531200&en=05fe5f850a5c14d5&ei=5088&partner=rssnyt&emc=rss

 ベーカーらの動きが米マスコミの注目を集めるようになったのは、9月1日、
ベーカーがバグダッドを訪問し、イラクの外相や、スンニ派とクルド人の指導
者らと会談してからのことだ。
http://www.noticias.info/asp/aspComunicados.asp?nid=215369&src=0

 イラク研究会は、単にイラクの米軍統治の問題を考えるだけでなく、パレス
チナ和平を中心とするイスラエルとアラブ諸国との和解の大構想や、イランと
アメリカの戦争を回避するための外交策など、中東のすべての問題を一気に解
決しようとしていることが、おぼろげながら米マスコミに把握され始めたため、
ベーカーらの動きに対する注目度が一気に高まった。

 米軍を成功裏にイラクから撤退させるには、イラク情勢の安定化が不可欠で、
そのためには、イラクで日に日に強くなる反米ゲリラの強さの源泉であるイラ
ク国民の反米感情を緩和する必要があり、それにはブッシュ政権が中東におけ
る好戦的な姿勢をやめて協調主義的な態度に転換する必要がある、というのが
ベーカーの考え方である。

 中東の人々の反米感情を緩和するには、パレスチナ問題を解決し、イランと
の戦争を避けねばならないので、米軍がイラクから成功裏に撤退できるように
するには、イラクの安定と同時に、パレスチナ問題とイラン問題の平和的な解
決が必要となる。加えて、イラクと国境を接するシリアとアメリカが和解する
ことも必要だ。イラク研究会は、すべてを一括して解決しようとするものだと
考えられている。

▼イスラエルにもベーカー支持の動き

 ベーカーの研究会の動きは、イスラエルにとっても重要な意味を持っている。
以前の記事( http://tanakanews.com/g0906mideast.htm )に書いたように、
イスラエルの中枢では、好戦的でチェイニーと親しいネタニヤフ元首相ら「右
派」(レバノン南部に停戦直前、大量のクラスター爆弾をばらまくなどの無茶
苦茶をやった)と、右派に無茶苦茶にされてはまずいと考えるオルメルト首相
ら「現実派」が対立している。右派はイランとの戦争を企図する一方、現実派
はイランとの戦争は避けがたいと考えつつも、今夏のレバノン戦争の失敗以後、
パレスチナやシリアとは和解したいと考えている。
http://www.haaretz.com/hasen/pages/ShArt.jhtml?itemNo=764430

 またベーカーの動きは、サウジアラビアやエジプト、ヨルダンといった親米
のスンニ派諸国にとっても、国内の反米イスラム主義者を抑制することにつな
がるので望ましい。パレスチナでは、反米イスラム主義のハマスに圧されて国
民の支持を減らしていたアバス議長らのファタハが、ベーカーの味方である。

 ベーカーらは、イスラエルの現実派、親米スンニ派諸国、アバスらと連携し、
まずパレスチナでファタハとハマスを連立させて統一新政権を作り、この新政
権とイスラエルとの交渉を開始させることで、頓挫していたパレスチナの国家
建設と和平を実現しようとしている。パレスチナ和平は、パパブッシュ政権時
代にアラファトをチュニスからガザに連れ戻して開始されたが、1996年以
降、ネタニヤフ首相らのイスラエル右派が和平反対の態度を強め「パレスチナ
和平より、アメリカのタカ派と連携したアラブ敵視策の方が良い」という傾向
が強まって、頓挫していた。

 イラク研究会は9月19日、初めての記者会見を行ったが、その席上でベー
カーは、近いうちにイラン政府の代表者と会う予定があることを明らかにして
いる。
http://www.atimes.com/atimes/Front_Page/HI21Aa02.html

 シリアとの交渉も、裏で始まっている可能性がある。ベーカーは、自分のシ
ンクタンク(Baker Institute)の理事長に、自分が国務長官だったときに駐
シリア大使をしていた人物(Edward Djerejian)を据えており、この人物がシ
リアとの橋渡しを行っている可能性がある。チェイニーらタカ派は、これらの
ベーカーの動きに反対しているものの、強く抑止はしていない。
http://www.boston.com/news/world/middleeast/articles/2006/08/26/for_golans_divided_families_dreams_of_reunion/

 ベーカーの動きが注目されだしたのと呼応するように、協調派とおぼしきパ
ウエル前国務長官が、テロ容疑者に対する拷問を容認するブッシュ政権の政策
を非難する発言をし始めた。パウエルはこれまで、明確にブッシュ政権を批判
していなかった。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/09/18/AR2006091801414_pf.html

▼イランとは戦争しない?

 ブッシュ大統領自身が、タカ派戦略を捨てて協調戦略に転換したのではない
かと思えるふしもある。その兆候の一つは、ブッシュ政権が最近、イランのア
ハマディネジャド大統領に対して訪米ビザを発給し、ニューヨークに来て国連
で演説できるようにしたことである。これと前後してブッシュ政権は、イラン
との問題を、戦争ではなく外交交渉によって解決する姿勢を示し始めた。
http://rss.csmonitor.com/~r/feeds/usa/~3/24682282/p01s01-usfp.html

 アハマディネジャドの訪米は、9月19日に国連総会で演説することが主目
的だったが、9月21日には、アメリカの外交政策決定の「奥の院」といわれ
るシンクタンク「外交問題評議会」(CFR)のメンバー約20人が、アハマ
ディネジャドと懇談した。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/09/21/AR2006092100202.html

 911以後、米政権と同様にCFRでも、タカ派やイスラエル系が幅を利か
せており、彼らは「アハマディネジャドと懇談することは、第二次大戦直前に
ヒットラーと懇談するようなものだ」と反対し、集団でCFRを脱会する素振
りまで見せたが、結局、タカ派のメンバーも懇談会に参加してアハマディネジ
ャドの「ホロコースト懐疑論」などに反駁することで決着し、2時間の懇談会
のうち40分がホロコースト談義に費やされた。CFRの会長のリチャード・
ハースは、スコウクロフトの弟子である。懇談会は、協調派的な現実策の結果、
実施された。
http://www.frontpagemag.com/Articles/ReadArticle.asp?ID=24529

 03年のイラク侵攻前、イラクのフセイン大統領をニューヨークの国連や
CFRに招いて抗弁する機会を与えるといったことは行われず、協調派も提案
すらしなかった。その違いを考えると、アメリカは、イラク侵攻をしたように
イランも軍事攻撃するのではなく、むしろCFRは、アハマディネジャドを交
渉相手として品定めをするために懇談したとも感じられる。
http://www.iranmania.com/News/ArticleView/Default.asp?NewsCode=45843&NewsKind=Current%20Affairs

▼タカ派と協調派の役割分担

 もし今後、ブッシュ政権がタカ派を捨てて協調派に転換するのだとしたら、
それはレーガン政権が1985年前後に行った転換と似ている。政権の前半で
はタカ派による好戦的で破滅的な戦略が実施されたが、その後協調派が主導権
を握り、協調戦略の方向に軟着陸させるパターンである。

 レーガン政権は、米ソ対立を終わらせたことで、冷戦で分断されていた欧州
を再統合し、欧州大陸の最強国となる潜在力を持っているドイツを統一させて
再台頭を許し、EU統合によって欧州が世界の覇権の一つになることを誘発し
た。同様に、ブッシュ政権が今後、協調主義に軟着陸するとしたら、それは中
東諸国の結束や強化につながる可能性があり、中東イスラム諸国が一つの覇権
勢力になっていくことが誘発されるのかもしれない。

 今回の国連総会では、ブッシュとアハマディネジャドが演説したが、世界の
多くの国々の人々は、日米など少しの例外を除き、ブッシュよりアハマディネ
ジャドの方がまっとうなことを言っていると考え始めている。アハマディネジ
ャドに訪米ビザを出したブッシュ政権は、すでに中東の強化を誘発しているこ
とになる。(そもそもアハマディネジャドが大統領になれたのは、ブッシュ政
権がイランの有権者を反米の方向に扇動した結果である)
http://tanakanews.com/g0214iran.htm

 そう考えると、実はタカ派と協調派は1980年代以来、対立しているよう
に見せかけて実はそうではなく、タカ派が強硬策をやりすぎて自国の力を減退
させた後、協調派が軟着陸させて部分的に元に戻す、というジグザグなやり方
で、世界をアメリカの単独覇権体制から多極的な体制に移行させようとしてい
るのかもしれない。チェイニーとベーカーとパパブッシュは、いずれもテキサ
ス州の石油業界の出身で、昔からの友人どうしである。

(以前の記事 http://tanakanews.com/g0502IMF.htm に書いたように、多極化
が行われるのは、おそらく資本の理論に基づいている)

 なぜそんな、漫才の「ぼけとつっこみ」のような役割分担の演技体系が必要
になるのかを考えてみると、それは、アメリカ人は自国の覇権衰退を望まない
だろうから、もし米政府が「覇権を手放して世界を多極化します」と明言した
ら、反対する世論が勃興して撤回させるだろうからだ。米中枢に強い影響力を
持ち、アメリカの覇権にぶら下がって国益を維持しているイスラエルとイギリ
スも、多極化が明言されて実施されたら、阻止に動くはずである。単独覇権主
義を叫ぶタカ派勢力が、実は単独覇権を壊しているという逆説的な展開になる
のも、こうした背景があるからだろう。

▼協調派の軟着陸は成功しそうにない

 さて、それでは今後、本当にブッシュ政権は協調主義に戻るのかといえば、
そうならない可能性も大きい。現状では、ベーカーの画策は成功しそうもない。
パレスチナ問題では、イスラエルが「パレスチナ側に新連立政権ができても、
イスラエルを国家承認しない限り、交渉相手とは見なさない」と主張している
のに対し、ハマスは、イスラエルの実態を容認することには賛同しているが、
明確な国家承認は拒否しており、早くも話が頓挫している。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/5374896.stm

 イスラエル国内では、現実派のオルメルト首相への支持率が落ち続け、代わ
りに右派のネタニヤフの支持が上昇している。ネタニヤフはイランやシリアと
の戦争を目指しており、最近、チェイニーと何度も会っている。ネタニヤフが
首相になったら、パレスチナ和平はあり得ず、ヒズボラとの再戦争や、シリア
への攻撃からイランとの戦争に発展する動きが画策される可能性が大きい。
http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,1878460,00.html

 今後、オルメルト政権が持ちこたえたとしても、展望は暗い。ブッシュ政権
がイランに対する強硬姿勢を崩したため、イランは中東の人々から「勝者」と
して見なされる傾向が強くなった。これは、伝統的にイランのライバルだった
エジプトやサウジアラビアといった親米政権には迷惑な話で、エジプトのムバ
ラク政権は失地挽回を目指して「うちも平和的な核開発を始めたい」と言い出
した。中東では、アメリカに楯突いてみせるのが、政治家の「強さ」や「正義」
の象徴になっている。
http://fairuse.100webcustomers.com/sf/nyt9_20_06_2.htm

 同時にアラブ連盟は「イスラエルは核兵器を廃絶すべきだ」という主張を強
め、この問題を国連安保理に上程しようとしている。欧米の多くはアラブ連盟
の提案に反対したが、世界の世論の態勢としては「何でイランの核は厳しく取
り締まるのに、イスラエルの核は容認されるのか」という欧米批判が強まって
いる。
http://today.reuters.com/news/articlenews.aspx?type=worldnews&storyID=2006-09-22T225328Z_01_L22821576_RTRUKOC_0_US-NUCLEAR-MIDEAST-IAEA.xml

 ベーカーが目指す軟着陸的な中東の大和平が実現する可能性は、どんどん低
くなっている。イスラエルと和解するより、イスラエルを潰した方が早いとい
う世論が、中東イスラム世界で強くなっている。和平が不可能になり、窮した
イスラエルでは、イランとの戦争に勝って、イスラム世界に対して力を見せつ
けることで自国の生存を維持するしかないと考える傾向が強まりそうである。

 今夏のイスラエルとヒズボラの戦争は、チェイニーらアメリカのタカ派が誘
発した疑いが強いが、タカ派はその後、ブッシュ大統領をその気にさせて姿勢
を外交の方向に少し転換させ、ベーカーらの再登場を容認することで、イラン
のアハマディネジャドをさらに強化して、イスラエルのオルメルト政権を窮地
に追い込み、イランとの自滅的な戦争に追い込もうとしているのかもしれない。
http://tanakanews.com/g0801israel.htm

▼進む多極化

 ブッシュ政権の中からは、イランと和解するという姿勢と、イランと戦争す
るという姿勢の両方が、同時に発信される状況になっている。「ブッシュはひ
そかに方針を軟化させたのだ」「いや、戦争する前に外交をやったふりをして
見せているだけだ」「いやいや、政権内に暗闘があって、2つの矛盾する政策
が勝手に進められているのだ」などと、アメリカの論者の見方も分かれている。
http://www.antiwar.com/lobe/?articleid=9725

 米マスコミでは、ブッシュ政権が米軍にイランとの戦争準備と解釈できる指
令を出したという報道も出てきたが、この問題に関係した上院議員はホワイト
ハウスから連絡を受けておらず、話が誇張されている疑いもある。
http://www.rawstory.com/news/2006/Pentagon_moves_to_secondstage_planning_for_0921.html

 イランとアメリカもしくはイスラエルが戦争になるかどうか、確たる予測が
できない状態だ。だが戦争になっても外交で解決されても、アメリカの覇権が
衰退し、中東諸国はアメリカの支配下から出て独自の覇権を希求するようにな
り、世界は多極化する、と予測される点では変わりがない。

 アメリカもしくはイスラエルがイランと戦争すれば、世界は多極化に向けて
ハードランディングになるが、戦争が回避されれば、ソフトランディング(軟
着陸)になる。

 以前の記事( http://tanakanews.com/g0912japan.htm )に書いたが、世界
は通貨体制という経済面でも、アメリカの不況がドルの暴落を誘発してハード
ランディングになるか、IMFなどの提案で通貨の多極化が進んでソフトラン
ディングできるか、という分岐点に立っている。

 アメリカの中枢で過去四半世紀続いてきた協調派とタカ派の暗闘(の演技)
は、クライマックス(もしくは一幕の終わり)に近づいているのかもしれない。


この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/g0926mideast.htm

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