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JMM [Japan Mail Media] 「日本を見つめるアメリカ」  冷泉彰彦 
http://www.asyura2.com/0610/bd46/msg/538.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 11 月 19 日 01:58:12: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2006年11月18日発行
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JMM [Japan Mail Media]                No.401 Saturday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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  ■ 『from 911/USAレポート』第277回
    「日本を見つめるアメリカ」

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)

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 ■ 『from 911/USAレポート』第277回
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「日本を見つめるアメリカ」

 15日の千島列島での地震では津波災害が懸念されましたが、大きな被害がなく何
よりでした。私は衛星放送でNHKのニュース映像を見ながら、CNNや三大ネット
のニュースを見ていましたが、地震発生から45分、津波警報による北海道沿岸への
影響予想時刻の10分前が、こちらの午前7時に当たったのですが、アメリカの各局
もこのニュースがトップで、根室港や釧路港のライブ映像がどのチャンネルにも中継
されていました。

 勿論、アメリカのメディアの反応、はスマトラ沖地震の際の教訓から津波に対する
関心が高まっているのが理由で、日本という国への関心が主ではないのでしょうが、
それにしても大きな扱いでした。ただ、CNNなどと比較すると、この津波報道に関
しては、私にはNHKの報道姿勢に違和感を持たされたのも事実です。

 NHKでは画面は終始、各港湾の固定カメラによる中継映像でしたし、音声は各市
町村の災害担当者への電話による取材、そしてテロップによる気象庁発表の津波到達
予報、そして実際到達してからは到達の時刻と潮位変化のデータが表示されるだけで
した。その到達データですが、例えば根室の場合では市からの報告では9時29分に
40センチの潮位上昇があり、一旦はそう発表されたのですが、気象庁から9時43
分という「公式発表」があると、以降は29分ではなく43分が根室の到達時刻に書
き換えられ、そのデータで統一されたのです。

 また、気象庁の担当課長が原稿の棒読みをするだけの記者会見が10時過ぎからあ
り、その会見の最中に、TVの放映映像では釧路の固定カメラが明らかに潮位の異常
を絵で見せていたにも関わらず、気象庁の発表でも、番組からも全く触れてはいませ
んでした。また、番組の中で、担当の記者が報告したのですが、担当記者よりも番組
の司会者の方が専門性や常識が高く、記者の報道内容のクオリティが低いことに司会
者が苛立ちながら応対しているように見えました。

 CNNでは、気象予報士のキャスターが情報を的確に処理して説明していました
し、地震発生から一時間もしないうちに、震源を中心とした同心円の分かりやすい図
を示して津波の到達可能性のあるエリアを明確に示していました。勿論、アメリカで
は震源からの距離があるので、他のニュースを入れながらの扱いで、大きな危険が去
った後には扱いは小さくなっていきました。ですが、私の見る限り、震源がどこなの
か、どの範囲でどんな順番で危険があるのか、についてはNHKよりCNNの方が分
かりやすく、情報も早かったのです。

 結果的に今回の地震では大きな津波は起きなかったのですが、万が一40センチで
はなく5メートル、10メートルというような潮位上昇が襲うようなことがあったと
したら、NHKのこのような報道では不安です。もっと臨場感のある、そして正確迅
速で、なおかつフレキシブルな報道ができなくては、万が一の場合には大変な被害に
なるのではないでしょうか。

 まさか、官邸が「リーダーシップ」を発揮して、「最低限の情報公開で、整然とし
た避難という『秩序』を演出するのが危機管理だ」、そんな流れでこのような報道姿
勢になったのだとしたら、これは問題です。そんな秩序志向などというのは「アマチ
ュア」の発想で、大災害の場合には大変な結果となることを肝に銘ずるべきでしょう。
29分に潮位上昇があったという市からの情報を、気象庁の「公式発表」に基づいて
43分に訂正するとは何事でしょう。津波は逃げ遅れたら大変なことになるのです。
公式非公式とかいうことではなく、早いデータに基づいて判断するべきでしょう。

 何でも早ければ良いというのでもありません。今回の津波では、最大の潮位上昇を
観測したのが地震発生後相当に時間が経ってからということで、例えば宮城県の気仙
沼では地震後9時間弱の時点で60センチという潮位上昇があり、漁船が転覆したり
被害が出ています。ですが、このニュースをNHKや朝日新聞(電子版)では「注意
報解除後に最大潮位上昇」という言い方で報道しているのです。

 問題は、気象庁が地震発生から5時間15分後には注意報を解除したことであっ
て、事実としての潮位上昇を重く見て「どうして早く解除してしまったのか?」とい
う問題提起をするのが報道の機能だと思うのです。ですが実際は、注意報解除という
「公式発表」は動かせない以上、「その後に最大の潮位上昇が起きたのはなぜか?」
という表現になるというわけです。まるで気象庁の公式発表に動かしがたい権威があ
るとでもいう雰囲気です。こうしたことが重なって、政府の危機管理体制というのが
「政治的」なものだというような不信感が蔓延すると、最終的には大きな天災の際に
被害を大きくしてしまうのではないでしょうか。

「公式発表」といえば、松坂大輔投手の移籍交渉先については発表がずいぶんと遅く
なりました。遅くなった経緯はここでは詮索しませんが、それにしても60億円とい
うのは大変な金額です。まず、ポスティング制度における交渉権料の主旨ですが、こ
れは支配権を持っている選手を失うことへの補償という性格が主だと思います。西武
ライオンズは明らかに戦力が低下するのですから、その補償として金銭が払われると
いうわけです。

 一方で、今回の交渉権料高騰は、アメリカ球界における松坂選手の「価値」を反映
したものだということが言えます。勿論、日本側への「補償」もアメリカ側の「価
値」も単年度のものではありません。長期にわたってライバル球団に松坂を渡さない
ことのメリットなども含まれています。また、球団として支配権を持つ「価値」は直
接的には本人の年俸とはリンクはしません。本来であれば、労働の価値は全て労働者
に行くべきなのですが、プロのチームスポーツの場合は、球団があっての本人であ
り、リーグ全体の戦力が揃っていて初めて球団の価値も出てくるので、こうした形で
支配権(につながる交渉権)が何らかの金銭的価値を持つのは仕方がないのです。

 問題はそこに日米格差が生じるということです。今回のようにバカバカしい金が動
くということは選手の価値に日米格差があるために起きたことに違いありません。と
いうことは、このカネというのは、長期的に見て日本の野球の水準が大リーグと比肩
するようになるために使われなくてはいけないと考えるのが常識でしょう。ポストシ
ーズンだけでなく、レギュラーシーズンの公式戦でも対等の交流ができるようにな
る、中期的にそんな展望を持たなくては日本野球は衰退してしまいます。野球は短期
決戦よりも記録を含めた長丁場に醍醐味があるので、WBCの時だけ対等に戦うので
は不十分だと思うのです。

 このニュースはアメリカでも大変な扱いです。発表のあった15日は、スポーツ専
門のESPNは一日中このニュースを繰り返し報道していましたし、経済ニュースの
CNBCも「マツザカ獲得の巨費はどうしてモトが取れるのか」という観点で報道を
していました。もっともキャスターは「チケットは既に来年まで売り切れているし、
TVの国際放映権料は連盟に入るので球団のメリットはないし・・・」と首をかしげ
ていましたが。

 いずれにしても、アメリカ、そしてボストンは「すごいピッチャーがやって来る」
ということで、大変な熱狂をしているようです。では、松坂投手が入団する(であろ
う)レッドソックスのファンというのは、どんな人々なのでしょうか。非常に熱狂的
なのは有名で、実際その通りなのですが、ボストンが大学町だからインテリ的な人が
ファンの中心かというと、決してそれだけではありません。レッドソックスの「お膝
元」はニューイングランド全域、つまりボストンを州都とするマサチューセッツ州だ
けでなく、メイン州、バーモント州、ニューハンプシャー州、ロードアイランド州、
そしてコネチカットの半分(ここの半分はヤンキースのマーケットです)をカバーし
ています。

 このニューイングランドの「ハート・アンド・ソウル(心の原点)」は決して学者
などのインテリ階層ではありません。港湾労働者であり、寒冷地で農業や酪農に従事
する農場の人々であり、また何よりも過酷な北の海に生活をかけている漁師たちなの
です。この人々の汗くさく、泥臭い人なつっこさが、この地域の「原点」であり、そ
の団結の象徴としてボストン・レッドソックスという球団の「ヒゲもじゃ集団」があ
るのです。

 では、ハーバードやMITの、あるいはブラウンやタフツなどのインテリたちは、
野球をバカにしているのかというとそうではありません。基本的に熱心なリベラルで
ある彼等は、自分たちのハートが庶民のものと変わらないことを信じているのです。
リベラリズムと、アカデミズムと、生活臭あふれる庶民感覚の間に、ある種の連帯意
識がある、そういっても良いのでしょう。何よりも、マサチューセッツという州は、
ジョン・ケリーとテッド・ケネディという筋金入りの、そして州外から見るとやや古
風になったリベラルの上院議員を圧倒的な票でワシントンに送り込んでいる場所なの
ですが、その背景にはそうした文化があるというわけです。

 これは最近の日本の若い人にはなかなか理解されない面があり、特に「偽善」とい
う疑いの目で見てしまう危険もあるのですが、ここに住む人々は大まじめなのですか
ら、松坂投手も奥さんも真剣に理解してあげて欲しいのです。確かにこのカルチャー
には偽善的なところがあり、ボストンの試合のチケットは平均46ドルと、全米で最
も高額で、結果的に球場に来る人たちは中産階級以上と言わねばなりません。です
が、彼等の心には「庶民の仲間」という意識があり、それが「金持ちのニューヨーカ
ーの象徴であるヤンキース」への敵愾心になっているという妙な心理があるのです。

 ですから、松坂夫妻の場合も「ニューイングランドの庶民のハート」をガッチリつ
かむことが大切です。間違っても「ハーバードとMITのボストンに来た」と言って
はいけません。そういう「権威志向」を彼等は一番嫌うのです。この辺りのカルチャ
ーを理解しようと思ったら、映画『グッドウィル・ハンティング』が一番でしょう。
マット・デイモンが演じた主人公の、優秀な人間なのに大学の権威を完全にバカにし
ているという気骨、そこにボストンの下町の気概が出ているからです。

 ただ、この地域は、その独特の文化を気に入って同化した人だけが住み着いてお
り、どうしてもその他の異文化受容という面では保守的なところがあります。野球の
場合ですと、韓国の金炳賢投手が正にその点で大失敗しています。ですから、最初は
「郷に入っては郷に従う」ストラテジーで行って、圧倒的な人気を掴んだところでジ
ワジワと日本のカルチャーや価値観を広めてゆくようにするのが良いのでしょう。

 大失敗といえば、ニューヨーク・メッツ在籍当時にファンの心をつかめなかった、
松井稼頭央選手のことが思い起こされます。(それにしても、誰かが「現地のファン
世論対策のマネジメント」をどうしてサポートしてあげなかったのでしょう。本人だ
けの責任にはできないように思うのですが)ヤンキース人気に激しい対抗心を燃や
し、浮沈の激しいチーム事情を抱えたメッツファンの心理は二重三重に屈折したとこ
ろがあります。こちらと比較すると、ボストンのファンはもっと純情で、誠意を込め
れば真っ直ぐに受け止める人々だとも言えるでしょう。

 さて、日本のカルチャーといえば、今週はソニーの『プレイステーション3』(P
S3)が17日の金曜日に発売になるということで、アメリカでもちょっとした騒動
になっています。私の近所の「ターゲット」という量販店でも十人ぐらいがテントを
張って行列をしており、先頭の若者に聞いたところ13日の火曜日から泊まり込んで
いるというのです。この騒動、どうやら火をつけたのは「ユーチューブ」のようで、
日本での発売の際の新宿での狂騒ぶりや、徹夜組の映像がアメリカの若者に「これは
スゴイ」と思わせたという効果があったようです。

 そんな中、カリフォルニア州のパームデール(LAの北約60キロの都市)では、
警察の出動するトラブルにまで発展するケースも出ています。ここの「ウォールマー
ト」でも同じように泊まり込みが出ていたのですが、当初は店内に座り込んでいたの
が、その列を移動する際に店と客がトラブルになったというのです。

 客に言わせると「自分たちは何日も待っていたのに、出ていかないと警察を呼ぶぞ
と脅されてビックリしたんです。店の対応はクレージーですよ」というのですが、何
でも早く出て店外に並んだ人間を「改めて行列の一番と認めるから」という店側の発
言に対して客は我慢ができずにトラブルになったようです。結果的には警察が間に入
って「最初の順番」を「店外の列で再現」してその場を収めたのだそうですが、トラ
ブルの間は一時的に店を閉めなくてはならなかったそうです。

 日本に津波が来そうだと聞けば心配し、日本から来る松坂投手の移籍に熱狂し、P
S3を欲しがりるだけでなく、日本の徹夜組のマネまでする、それが今週のアメリカ
です。同じ今週、デトロイトの「ビッグ・スリー」の首脳が大統領に「日本車の猛威
を防ぐために、為替を円高にシフトして、日本でアメ車が売れるようにして欲しい」
と懇願したそうですが、大統領は何の言質も与えませんでした。アメ車が日本で大々
的に売れる「わけがない」ことなど、アメリカではもはや常識だとも言えるのでしょ
う。

 もしかしたらウォルマートが「秩序」のために警察を導入したというようなエピソ
ードも、アメリカの文化が日本に似てきている例なのかもしれません。この問題は別
としても、日本とアメリカの間で、モノだけでなく文化も情報も「日本の輸出超過」
になっている、今週の様々な事件は、それを物語っているようです。アメリカにはそ
れだけの理由があると私は思うのですが、日本の側にはこうした「出超」状態という
のはどんな影響を与えているのでしょう。そのことを少し考えてみたいと思います。
 
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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『メジャーリーグの愛され方』。訳書に『チャター』がある。
最新刊『「関係の空気」「場の空気」』(講談社現代新書)
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061498444/jmm05-22>
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【編集】  村上龍
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