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安倍訪中と北朝鮮の核実験 [田中宇の国際ニュース解説]
http://www.asyura2.com/0610/war85/msg/771.html
投稿者 white 日時 2006 年 10 月 17 日 09:32:11: QYBiAyr6jr5Ac
 

□安倍訪中と北朝鮮の核実験 [田中宇の国際ニュース解説]


田中宇の国際ニュース解説 2006年10月17日 http://tanakanews.com/

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★安倍訪中と北朝鮮の核実験
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 10月9日に北朝鮮が実施した(と発表した)核実験には、謎が多い。本当
に核実験が行われたのかどうか、はっきりした確認がとれていないことが謎の
一つである。8月中旬の段階で、すでに「北朝鮮が通常爆弾を爆発させ、それ
を核実験だと発表しても、世界はそれがウソか本当か判別できないだろう」と
指摘されていた。核実験が小規模なら、放射線を浴びたちりの発生が少なく、
それが外国勢力によって検出されない可能性が十分にある上、地震波の測定だ
けでは核爆発であると断定するのは難しい。
http://www.antiwar.com/prather/?articleid=9562

 核実験から5日後、アメリカ政府は、北朝鮮周辺の大気中で、核実験によっ
て発生したと思われる放射線を浴びたちりを採取したので、北朝鮮が核実験を
行った可能性は80%となったと発表した。しかし米政府は、採取されたちり
から、爆発がウラニウム爆弾とプルトニウム爆弾のどちらと判断されるか、と
いった具体的なことは何も発表していない。また、韓国政府は、核実験による
放射線の痕跡が見つかったとは発表していない。
http://news.yahoo.com/s/ap/20061014/ap_on_go_ca_st_pe/us_nkorea

 実験は実施されたが、失敗だったのかもしれない。起爆装置の作動が微妙に
ずれただけで、核分裂は部分的にしか起こらないか、全く起こらない。
http://www.atimes.com/atimes/Korea/HJ14Dg01.html

 これらの件はあるものの、私から見て最も大きな意味を持った謎は、核実験
そのものに関することではなく、「なぜ核実験が、安倍首相が訪中を終えた翌
日に行われたのか」ということである。「それは偶然の一致だ」と思う人が多
いかもしれないが、事態の流れを詳細に分析していくと、偶然ではないかもし
れないと思えてくる。

▼中国は核実験を事前に知らされていた

 まず指摘すべきは「中国政府の中枢は、北朝鮮が核実験を実施することを事
前に知っていたようだ」ということである。北朝鮮が核実験しそうだと頻繁に
報じられるようになったのは今年8月後半からのことで、その流れの中で8月
31日から9月10日ごろまで、北朝鮮の金正日総書記が中国を訪問したので
はないかと報じられ続けた。

 8月31日、韓国の偵察衛星が、金正日の特別列車が中国国境に向かってい
ることを確認したことから、金正日の中国訪問が取り沙汰され始め、金正日が
核実験の計画について説明するため、中国の胡錦涛国家主席に会いに行ったの
ではないかとする憶測が流れた。
http://www.guardian.co.uk/korea/article/0,,1861296,00.html

 その後、9月7日には、特別列車が新義州から平壌方面に戻るのが、韓国の
偵察衛星によって確認されている。中国政府は、金正日の中国訪問を否定して
いるが、9月10日には「最近、金正日が、中国とロシアの外交官に、地下核
実験を実施することを決定したと伝えた」というロシア政府筋の話が報じられ
ている。
http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml;jsessionid=S0NFQ4OVPSVHJQFIQMFSFFOAVCBQ0IV0?xml=/news/2006/09/10/wkorea10.xml
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200609/200609050022.html

 金正日が北京に行ったかどうかは確定できないものの、少なくとも金正日が
9月上旬に、核実験を実施するつもりだと中国とロシアに通知した可能性は非
常に高い。このことから、北朝鮮の国家運営に不可欠な経済支援を行っている
中国に対しては直接金正日が北京に行って核実験を行うことを説明し、ロシア
に対しては、駐平壌のロシア大使に核実験実施を伝えたのではないかと推測で
きる。

 金正日が北京から平壌に向けて戻ったのと入れ替わりに、9月5日には、米
政府の北朝鮮担当であるクリストファー・ヒル国務次官補が北京を訪れた。ヒ
ルは、金正日と胡錦涛の話し合いがどんなものだったか聞くために北京にやっ
てきたとも思える。
http://today.reuters.com/news/articlenews.aspx?type=worldNews&storyID=2006-09-05T235337Z_01_PEK81383_RTRUKOC_0_US-CHINA-USA-NORTHKOREA.xml&archived=False

 ヒルは、その北京訪問時に「中国は、北朝鮮に失望している」と述べている。
ここからうかがえることは、中国は北朝鮮に「核実験をするな」と言ったが、
北朝鮮の意志はかたく、翻意させることはできなかったということである。

▼中国は核実験のタイミングを制御しえた

 中国側は、核実験停止要求を金正日から拒否されたが「核実験をやったら北
朝鮮に対する石油供給などの経済支援を止める」とは言わなかった。核実験が
実施されたあとの現在も、中国から北朝鮮への援助は止められていない。中国
は、北朝鮮の核実験を容認する態度をとったことになる。中朝国境の町では、
国連の制裁決議などどこ吹く風で、従前どおりのビジネスが展開しているとい
う。
http://www.atimes.com/atimes/China_Business/HJ17Cb03.html

 中国が北朝鮮への経済援助を停止すると、北朝鮮では物不足がひどくなって
社会が不安定になり、金正日政権が崩壊するかもしれない懸念がある。中国は、
自国の周辺地域の安定を重視しており、北朝鮮が不安定化したり、崩壊したり
することを望んでいない。中国は、北朝鮮への経済援助を止められない状況に
ある。
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-china13oct13,0,3010364.story

 胡錦涛は、金正日の核実験をやめさせることはできなかったとしても「どう
してもやるというのなら、実験をするタイミングは、こちらが良いといってか
らにしてくれ」と、注文をつけることができたはずである。つまり中国は、北
朝鮮がいつ核実験をやるかということを制御できる立場にいた。

 ここで私が推測するのは「胡錦涛は、日本の安倍新首相を中国に来させて日
中関係を好転させるために、北朝鮮の核実験を使ったのではないか」というこ
とである。

▼日中接近は対米従属の終わり

 中国政府は以前から、日本との関係を改善させることを求めてきた。日本で
は「中国が日本との関係を改善したければ、首相の靖国神社参拝を認めるべき
だ。中国が首相の靖国参拝を認めないのは、日本との関係を改善したくない証
拠だ」と考える人が多いが、間違いである。中国共産党は、抗日戦争に勝った
ことが政権を支える正統性として存在している。首相の靖国参拝を容認するこ
とは、譲れない一線を越えており、中国にとって非常に難しい。小泉前首相は、
中国がどうしても容認できないことであると十分知った上で、あえて靖国参拝
を繰り返していたと考える方が自然である。
http://tanakanews.com/f1124japan.htm

 中国が、日本との関係改善を望むのは、アメリカが中国に「国際社会での責
任をもっと果たしてくれ」「アメリカに頼らず、中国が中心になってアジアの
問題を解決してくれ」と求め続けているからである。ブッシュ政権は昨年夏か
ら、中国を世界運営に責任を持つ勢力のひとつ(responsible stakeholder)
にすることを、対中政策の中心に掲げてきた。
http://www.atimes.com/atimes/China/HE25Ad01.html

 中国政府は、アメリカが自国に、国際社会における責任と覇権の一部を割譲
したがっていることを、自国が大国になるチャンスと見て、ある程度は受け入
れつつも、外交に力を割きすぎると、なかなか安定しない内政や経済の問題が
ないがしろになるので、躊躇し続けている。このため、胡錦涛政権は「アジア
の大国としての責任は、中国だけでなく、日本というもう一つの大国にも果た
してもらいたい」と考えて、日中関係を改善して「戦略的関係」にまで高め、
日中が協調してアジアを主導していきたいと考えてきた。
http://tanakanews.com/f0524japan.htm

 おそらく日本政府は、すでにアメリカや中国の思惑を把握し、それに乗りた
くないので、首相の靖国参拝が繰り返されてきた。日本にとって最良の体制は
「対米従属」であり、アメリカが中国に「アジアの盟主になれ」と圧力をかけ、
中国が「一国で盟主になるのは大変だから、日本と一緒にやりたい」と言って
接近してくるのに日本が応じたら、アメリカは「これでアジアの問題に煩わさ
れずにすむ」と言って、日米関係を含むアジアとの関係を希薄化させていきか
ねない。それは、日本にとって対米従属の終わりを意味する。
http://tanakanews.com/f0615empire.htm

 小泉前政権は「そんなシナリオ展開は許さない」とばかり、靖国参拝や、東
シナ海油田問題、尖閣諸島、教科書問題など、日中間のあらゆる問題を再燃さ
せ、マスコミを動員して国民を中国嫌いにさせて、日中関係が改善しないよう
に努力してきた。
http://tanakanews.com/f1124japan.htm

 アメリカは昨年秋ぐらいから、小泉の靖国参拝を問題にし始めた。昨年11
月に訪日したブッシュ大統領が、改善しない日中関係を懸念すると、小泉は
「誰に止められても参拝は続けます」という主旨の発言をして、アメリカの思
惑どおりには動かない姿勢を見せた。(日米間のやり取りは当初秘密にされ、
かなり後になってから報じられた。日米関係は安定しているので、アメリカの
マスコミの関心は薄い)

 その後、今年に入って、アメリカから日本に対し、中国との関係改善を求め
る動きが強まった。今年6月には、米国務省の元日本担当者が「次の日本の首
相が誰になったとしても、次期首相は靖国参拝はしないだろう」と東京での記
者会見で述べていた。

▼アメリカが安倍を訪中させた?

 このような経緯を踏まえると、10月8日の安倍の訪中は、中国にとって、
かねてからの希望がかなった出来事だったことが分かる。安倍は1泊のあわた
だしい北京訪問で、胡錦涛国家主席、温家宝首相、呉邦国全人代常務委員長
(国会議長)という、中国のトップ3の指導者全員に会った。胡錦涛は、昨年
4月に小泉前首相とのジャカルタ会談で実現しようとして果たせなかった「日
中を戦略的関係にまで強化する」という目標を、安倍との会談で果たし、日中
関係を「戦略的互恵関係」にするという共同声明を出した。

 安倍は本来、小泉以上の日米同盟重視派とされていたから、小泉の路線を継
承し、できる限り対米従属を続け、中国と一緒にアメリカ抜きのアジアを切り
盛りすることなどまっぴらだったと推測される。そんな安倍に対して「首相に
なったらすぐに中国に行きなさい」と命じることができるのは、アメリカだけ
である。公明党や財界など、日本国内にも、日中関係を改善したい勢力はある
が、それらの勢力からの要請なら、安倍は、首相になったばかりの時に急いで
訪中する必要はない。

 ブッシュ政権の対中戦略は、議会などの反中国派に配慮して、表向きは「中
国包囲網」などで中国を敵視するそぶりを見せつつ、実際には中国を少しずつ
覇権国の方向に押し出していく「隠れ多極化戦略」である。こうした「戦略的
な曖昧さ」重視のため、ブッシュ政権はこれまで、日本政府に対中関係の改善
を強くはっきりと求めることはできなかった。

 だが、北朝鮮が核実験するとなれば、話は別である。核保有国になった北朝
鮮に対峙するためには、周辺諸国は団結せねばならない。「日本と中国が仲違
いしているのは非常にまずい」とアメリカは日本にはっきりと言うことができ
る。

「安倍が首相に就任したら2週間以内に訪中する」という話が、安倍周辺から
マスコミに流れ始めたのは、8月末か9月始めのことである。これはちょうど、
米韓の諜報機関が「北朝鮮が核実験しそうだ」と言い出し、金正日が中国やロ
シアに核実験すると報告した時期である。

 北朝鮮の核実験が不可避になった時点で、中国側は金正日に「中国が良いと
言ってから実験を実施せよ」と命じる一方で、アメリカに「核実験後の北朝鮮
との交渉に中国が責任を持つから、その代わり、日本の安倍に、首相になった
らすぐ中国に来いと言ってほしい」と求め、かねがね中国に責任を持たせたい
と思っていたアメリカは中国の提案に応じ、安倍に「もうすぐ北朝鮮が核実験
するから、早く中国との関係を改善しなきゃダメだ」と強く言って訪中を実現
させ、中国は北朝鮮に「安倍が中国を離れたら核実験しても良い」とゴーサイ
ンを出し、核実験は安倍が北京から離れた半日後に実施された、というのが私
の仮説である。

▼訪中の奇妙さを隠す強硬姿勢の芝居

 北朝鮮の核実験が行われた後、日本は国連決議を待たずに独自の対北朝鮮制
裁に踏み切り、北朝鮮の船が日本の港から追い出される光景がテレビで延々と
報じられた。日本は、国連では、北朝鮮に寛容な中国やロシアと対立する厳し
い制裁決議を求めた。こうした動きを見ると「日中の対立は解けない」という
感じを受けるが、私は、これはむしろ安倍政権が自分たちを「強硬派」に見せ
るための国内向けの芝居であると感じる。

 右派のはずの安倍が、首相就任早々に異例の中国訪問をせざるを得なかった
のは、どう見ても奇妙である。だから訪中に対する疑問を吹き飛ばすように、
強硬姿勢をとって見せたのではないか。北朝鮮と日本の間の貿易はここ数年で
すでに激減し、制裁をどんなに厳しくしても、大した効果はない。国連決議は、
どんなに日本が強く言っても、拒否権のある中国が考えたとおりの内容になる
ことは、最初から分かっている。

 米政府は、国連で北朝鮮制裁を議論している真っ最中に、中国の代表をホワ
イトハウスに呼び、ブッシュ大統領自らが会談に出てきている。アメリカの態
度は「北朝鮮問題は、中国中心の外交交渉ということで、よろしくお願いしま
すよ。アドバイスはしますから」という感じである。アメリカのボルトン国連
代表は安保理での演説で北朝鮮を罵倒したが、ネオコンらしい見事な演技だ。
http://news.yahoo.com/s/afp/20061012/pl_afp/nkoreanuclearweapons_061012183450

▼日本の核武装は対米従属の終わり

 日本の政界では「北の核に対抗して日本も核武装するかどうか考えよう」と
いう主張が出てきたが、これはまさに、日本が対米従属を続けられなくなって
きたことを示している。日本は、対米従属が続けられる限り、アメリカの核の
傘から出て自前の核兵器を持つことはあり得ない。以前の記事
http://tanakanews.com/g0912japan.htm に書いたように、日本は中国やロシア
と異なり、戦略的な国土の厚みがないので、独自の核兵器が抑止力にならない。

 日本が対米従属を保ったまま、アメリカの許しを得た上で独自の核兵器を持
つという選択肢がある、と言う人もいるかもしれないが、ブッシュ政権が「ア
ジアのことはアジアに任せる」という姿勢を強めていることを考えると、この
考えは幻想にすぎない。日本が独自の核兵器を持ったら、アメリカは「もうア
メリカは日本の防衛に協力しなくても大丈夫ですね」と言って出ていく傾向を
強めてしまう。

 911以降「もはや同盟国も要らない」と主張する「単独覇権主義」を掲げ
るアメリカに対し、日本政府、特に外務省は、何とかしてアメリカの忠実で便
利な同盟国であることを示そうと努力してきた。対米従属を1日でも長く続け
たい外務省は、独自の核武装については、検討することさえごめんだと思って
いるはずである。

 以前の記事( http://tanakanews.com/g0919japan.htm )に書いた日露関係
と同様、政治家の中から、そろそろ独自の核武装(つまり対米従属が終わった
後の日本のあり方)について検討した方がよい、という意見が出てくることは
自然な動きである。

 北朝鮮の核実験は、米中関係、日中関係、日米関係のすべてを、新しい局面
に引っぱり出したといえる。北朝鮮がどうなるかということ自体より、北朝鮮
問題をきっかけにして日米中の三角関係が今後どうなっていくかということの
方が重要である。


この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/g1017japan.htm

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