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JMM [Japan Mail Media] 「会議決裂、全面対決へ」 レバノン:揺れるモザイク社会  安武塔馬 
http://www.asyura2.com/0610/war86/msg/115.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 11 月 14 日 23:57:38: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2006年11月13日発行
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JMM [Japan Mail Media]                  No.401 Extra-Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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■  『レバノン:揺れるモザイク社会』 第46回
   「会議決裂、全面対決へ」


 ■ 安武塔馬 :ジャーナリスト、レバノン在住


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■ 『レバノン:揺れるモザイク社会』                第46回
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「会議決裂、全面対決へ」

○11月11日、午前11時

 1943年11月。

 フランス委任統治政府は、ビシャーラ・フーリー(初代大統領、マロン派)、リヤ
ード・ソルハ(初代首相、スンニ派)らレバノン独立派の政治家を一斉検挙し、南東
部の山岳地帯ラシャイヤにある城砦に監禁した。この事件はそれまでフランス寄りで
あったキリスト教徒社会を一挙に反仏・独立派に変えた。11月11日午前11時に、
独立派のレバノン人はベイルートで街頭行動を開始、レバノンはついに独立を達成し
た。11月11日午前11時は、宗派を超えたレバノン国民団結の時刻として記憶さ
れることになった。

 それから実に63年の歳月を経た2006年11月11日午前11時。

 国会議事堂ビル3階の特別会議室に、主要政治勢力の首脳14名が集まり円卓会議
を開催した。6日の第一回以来、4回目となるセッションである。

 首脳たちはたびたび声を荒げ、切り口上と捨て台詞を連発、会議は何度も中断した。
開会からわずか2時間……何度も中断されているから、実質的な協議時間は1時間に
も満たないだろう……で、会議は完全に行き詰った。司会役のベッリ国会議長(アマ
ル党首)は慣例を破り、記者会見を行わぬまま閉会を宣言、外遊先のテヘランに向
かった。

 ベッリがまだ機上にあった午後7時、ヒズボッラーとアマルは合同で声明を発表し、
両派所属の5閣僚の辞任を発表した。皮肉なことに2006年11月11日午前11
時は63年前とは正反対に、レバノン国民分裂の象徴となってしまった。

○「運命の1週間」の経過

 6日に始まった円卓会議は大方の予想どおり、波乱含みで展開した。

 会議には暗殺のリスクが最も高いヒズボッラーのナスラッラー議長を除く13首脳
全員が参加した。ナスラッラーはヒズボッラー所属国会会派の長老、ムハンマド・ラ
アド議員を代理出席させ、交渉にあたらせている。

 6日の第一セッションでは、反シリア連合とアウン派、それにヒズボッラーの各出
席者が、それぞれ自派の立場と要求を開陳した。いわばジャブの応酬のようなもので、
それほど険悪な雰囲気にはならなかった。

 しかし翌7日の第二セッションで具体的な交渉に入ると、会議はたちまち暗礁に乗
り上げた。ヒズボッラーやアウンの側は、今や自分たちの側こそが国民の多数派だと
確信している。にも関わらず、3分の1ポストしか要求せず、セニオラ首相の続投も
承認しているのだから、これ以上の譲歩は出来ない、と主張する。「3分の1」は最
低限の要求なのだ。

 一見リーズナブルな提案であるが、反シリア連合側にとっては「3分の1」は死活
問題だ。早い話、憲法上、閣僚の3人に1人が辞任してしまえば、政府は潰れるので
ある。つまり今後、国際法廷問題や第3回パリ会議(レバノン経済支援国会議。故ハ
リーリ首相の親友シラク仏大統領のイニシャティブで過去2回開催されている。第3
回目は2006年1月開催の予定)、大統領選挙問題などで、アウンとシーア派は意
に叶わないことが起きると、いつでも政府を潰し内閣改造あるいは総選挙に持ち込め
るわけだ。野党に「3分の1」を与えることはセニオラ内閣にとって自殺行為にも等
しい。

 買い手の最安希望小売価格が、売り手が出せる最高値を上回っていると、商売は成
立しない。「3分の1」問題はどれだけ議論しても打開の道が見えなかった。

 前回予想したように、反シリア連合はアウン派から4閣僚入閣という条件は早々と
認め、アウンとヒズボッラーの切り離しを図った。だが抜本的な改革を求める両者は
しっかりと足並みを揃えており、なかなか各個撃破が出来ない。

 ベッリは7日のセッションの後、協議期間と称して8日を休会にし、9日に第三
セッションを召集する。だがこのセッションでも進展らしい進展はなく、ベッリは再
び48時間会議を延期、11日午前11時に第四セッションを設定した。

 ベッリはこの後、テヘランで開催されるアジア諸国議会連盟の総会に出席するため、
イランに向かうことが決まっていた。このため、少なくともベッリが戻る15日まで、
会議は決裂せず休会状態のまま続く、という見方が支配的になった。ヒズボッラーも
「(当初の期限として設定した)13日からすぐさま街頭行動をやるつもりはない」
と交渉継続の意志をうかがわせるコメントを出した。

 劇的な進展への期待は低かったものの、「反シリア連合の最大の懸念は国際法廷設
置を妨害される恐れなのだから、法廷設置を妨害しないという保証がヒズボッラーと
アウン派から得られるのであれば、3分の1ポストを譲るのでは」という楽観的な見
方がいったん広まった。

○国際法廷合意文書

 しかし、10日に国連がハリーリ暗殺事件の国際法廷設置に関する合意文書を公式
にレバノン政府に手渡したことで、状況は一転する(なお、レバノン法やレバノン人
判事も関わることから、正式には「国際法廷」ではなく「国際的性格を帯びた法廷」
という用語が使われている。しかし煩雑になるので「国際法廷」と略式表示する)。
合意文書をレバノン政府と国会が承認すれば、いよいよ国際法廷が設置され、今後
ブランメルツ捜査団が起訴する容疑者たちが裁かれることになる。

 この文書の原案は、すでにラフード大統領から事実上、拒絶されている。反シリア
連合はハリーリ暗殺事件をシリアとラフードによる犯行と確信しているから、ラフー
ドの反対を「シリアと己を守るための妨害工作」と見て、強行突破する構えだ。セニ
オラ首相は13日に緊急閣議を開催して、合意文書を審議することを決めた。ラフー
ドは大統領の反対を無視して緊急閣議を開催するのは違憲行為と主張、政府と正面か
ら対立する。

 11日の円卓会議第四セッションでは、この問題に「3分の1ポスト」問題が交錯
した。サアド・ハリーリ議員(ハリーリ元首相の遺児)は、ヒズボッラーのラアド議
員に「(過去の円卓会議で)あなた方は国際法廷設置の原則に同意したはずなのに、
今になって『詳細の議論が必要だ』と言う。それにこれまでに会議が決定した事項も
何ひとつ履行されていない。3分の1ポストを与えたら、あなたたちが政府を内側か
ら潰してしまわないという保証がどこにあるのか?」と詰め寄った。

 ラアドの側も「あなたが『レジスタンス(ヒズボッラー・ゲリラ)を支持する』と
今後2ヶ月間言い続けたところで信用するわけにはいかない」、とハリーリへの不信
をむき出しにする。ヒズボッラーは、第五次レバノン戦争勃発当初にハリーリが「無
責任な冒険主義」とヒズボッラーのイスラエル兵士拉致作戦を批判したことを決して
忘れていないし、許しもしない。それどころか、裏ではハリーリは米仏両国とつるん
で、イスラエルがヒズボッラーを殲滅するのを勧めていた、とさえ疑っている。だか
らこそヒズボッラーは拒否権を発動出来る3分の1ポストを確保したいのだ。ハリー
リ派とヒズボッラーの間を隔てる深い相互不信は、1週間の会議を経てもまったく埋
まらなかった。

 こうして第四セッションも結論が出ないまま時間切れとなった。ハリーリは国会議
事堂から至近の距離にある亡父の廟所に詣で、国際法廷設置合意文書を捧げた。亡父
ラフィークを殺した犯人は必ず突き止め、裁きを受けさせる。国際法廷問題を決して
政治的取引の材料にしたりはしない、というゼスチュアだったのかもしれない。

○シーア派閣僚辞任

 ベッリの方はいったん国会議長公邸に戻り、アマル幹部やヒズボッラー首脳と協議。
イランに向かう前に、両党所属の閣僚を辞任させることを決定する。

 反シリア派の大物議員、ジュブラーン・トウェイニが昨年12月12日に暗殺され
た時、セニオラ内閣は緊急閣議を招集、国連に対し国際法廷設置を要請することを決
議した。ヒズボッラーとアマルは「その問題は数日後の定例閣議で審議する筈ではな
かったか?」と、反シリア連合が両党に諮問せず一方的にこの問題を決めたことに反
発、その後7週間にわたり閣議をボイコットした。

 今回も、ベッリはセニオラが自分の意向を無視し、緊急閣議で性急に国際法廷設置
を決めようとしたことにいたく立腹し、閣僚辞任に踏み切った。いきなり街頭行動に
訴えるよりは、治安状況への悪影響も少ないという判断もあろう。

 しかし反シリア連合は、ヒズボッラーとベッリはやはりラフードと組んで、国際法
廷設置を妨害するつもりなのだと判断した。12日夜、ハリーリの私邸「クレイトム
宮殿」に集まった反シリア連合政治家たちは、「12月12日と、11月11日、2
度までも国際法廷問題をめぐってヒズボッラーとアマルが閣僚を引き上げた。もはや
その意図はシリアとイランのために国際法廷設置を妨害することにあるのは明らかだ」
と、激越な両党弾劾の声明を発表。両党の閣僚辞任を「クーデター」と位置づけ、体
制維持のための戦いの開始を宣言した。

 ヒズボッラーやラフードだけでなく、反シリア連合はこれでベッリをも敵に回した
ことになる。もし「戦い」に敗れても、もはや退路は絶たれてしまった。

 同じ12日に、ラフード大統領はセニオラに書簡を送り、シーア派閣僚を欠いたセ
ニオラ内閣はもはや憲法上の正統性を失った、今後の閣議も閣議決定も無効であると
通知している。しかしセニオラは全面対決を選んだ反シリア連合の路線に沿って、1
3日の緊急閣議開催を強行する構えだ。

 いよいよ待ったなしの状況になった。

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安武塔馬(やすたけとうま)
レバノン在住。日本NGOのパレスチナ現地駐在員、テルアビブとベイルートで日本
大使館専門調査員を歴任。現在は中東情報ウェブサイト「ベイルート通信」編集人と
してレバノン、パレスチナ情勢を中心に日本語で情報を発信。
<http://www.geocities.jp/beirutreport/> 著作に『間近で見たオスロ合意』『アラ
ファトのパレスチナ』(上記ウェブサイトで公開中)がある。
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【編集】  村上龍
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【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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