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JMM [Japan Mail Media]   「オバマという世代」  冷泉彰彦 
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投稿者 愚民党 日時 2007 年 2 月 18 日 02:19:44: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2007年2月17日発行
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JMM [Japan Mail Media]                No.414 Saturday Edition
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  ■ 『from 911/USAレポート』第290回
    「オバマという世代」

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)

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 ■ 『from 911/USAレポート』第290回
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「オバマという世代」

 2008年11月の大統領選挙へ向けて、候補者レースは本格化しています。中で
も民主党はヒラリー・クリントン、バラク・オバマ、ジョン・エドワーズの三人を軸
に、既にメディアの関心は全開といっても構わないでしょう。現時点では支持率と運
動資金ではクリントンがリードしていますが、注目度ということではオバマ上院議員
も負けていません。では、そのオバマという人はどんな思想の持ち主なのでしょうか。

 まずオバマ候補のパフォーマンスに込められたメッセージを解読してみることにし
ましょう。例えば、先週2月10日の土曜日、正式な大統領選への出馬宣言を行うに
当たって、オバマ候補はイリノイ州のスプリングフィールドという土地を選んでいま
す。最高気温が零下4度という厳寒の中、手袋もしないで行ったスピーチはどうして
話題になったのかというと、この場所には特別な意味があるからです。

 このスプリングフィールドというのは、その昔はイリノイ州の州都でした。そし
て、若き日のエイブラハム・リンカーンが居を構え、国政選挙への挑戦を行った土地
としても知られています。特に、この場所での演説は「分裂した国家」を取り上げた
スピーチとして今でも知られています。

 それは1858年のことで、大農園を経済の中心として奴隷制度の維持と自由貿易
を主張する南部と、奴隷制の廃止を訴えつつ商工業の利害から保護貿易を主張する北
部の間に妥協が難しくなりつつある時期でした。リンカーンは、北部を代表する共和
党(この頃は現在と違って人権と保護貿易を支持する政党でした)に属しつつ「激し
い反戦活動家」として国家の分裂を回避しようとしていたのです。

 この「分裂したハウス(家、国家、議会などの意味)は倒れてしまう」という演説
はその中で行われています。この1858年の選挙では結果的にリンカーンは落選し
てしまうのですが、後に大統領となって南北戦争を戦って国を再統一に導いたことで
「史上最高の大統領」という名誉を歴史に刻まれた後には、「リンカーンの代表的な
名演説」とされているのです。

 オバマ候補が、このスプリングフィールドを出馬宣言の地に選んだのは様々な意味
を込めたものだと言えるでしょう。まずイリノイ州は自分の上院議員としての地盤で
あり、また何よりもリンカーンの演説にある「分裂を避けよ」というメッセージを自
分の立場に重ねようという意図もあるのだと思います。

 では、この「分裂を避けよ」というメッセージの意味は何なのでしょう。確かに上
院議員に就任以来、オバマの政治活動は「是々非々」主義であり、時に宗教的な演説
も行って保守派に歓迎されたり、超党派的な姿勢を買われて共和党の上院議員団に可
愛がられたりしています。こうした姿勢は、リンカーンの「分裂を避けよ」そのもの
です。では、ありとあらゆる政治課題について、中道のポジションを取りながら超党
派的な妥協を目指すのかというと、必ずしもそうではないようです。

 例えば、現在のアメリカはイラク戦争への賛否をめぐり、あるいはイラン敵視政策
の強度をどうするかをめぐって深刻な分裂状態にあります。こうした問題については、
オバマ候補は毅然とした姿勢にシフトしつつあります。出馬宣言の前までは、イラク
戦争に関しては、当面は増派に反対しつつ予算カットという荒療治は支持しないとい
う「兵士への人情+現実策」を模索していたのですが、ここへ来て米軍の撤退開始
を2008年3月に設定しようという踏み込んだ発言に転じています。

 一連のイラク政策に関する発言の中では、米兵の死を「無駄な犠牲」と言ってしま
って後で謝罪に追い込まれる場面もあったぐらいで、とにかく反ブッシュの姿勢を強
めてきているのです。こうした動きについては、選挙戦術上から言えば、「イラク開
戦決議」を支持した投票行動に対して謝罪していないヒラリー・クリントンへの政治
的な対抗姿勢を打ち出す効果も計算に入れているでしょう。ですが、「分裂の回避」
を訴えながら「毅然とした姿勢」というのは矛盾していると言われても仕方がありま
せん。

 どうやら、オバマ候補の思想にはある種の「複雑さ」が隠されているようなのです。
この点についての興味深い解説記事が、今週号の『ローリングストーン』誌に掲載さ
れています。これは、ベン・ワレス=ウェルスという記者の長文の署名記事で、「オ
バマの出自はラジカル」というセンセーショナルな見出しをつけてはいますが、一般
雑誌ではなく音楽評論誌ならではの自由な視点からの記事はなかなか読み応えがあり
ました。その中で、ワレス=ウェルス記者は、オバマ候補の持つ「複雑な」メッセー
ジの背景について興味深い説明を試みています。

 ワレス=ウェルス記者によれば、オバマ候補の思想は完全に二つに引き裂かれてい
るのだと言います。それは「世界中でアメリカだけが自分の希望を託せる場所だ」と
いう思いと「アメリカは今根本的に間違っていて、それを直さないと大変なことにな
る」という思いの二重性にあるのだと言います。その結果として「オバマには本当の
意味ではイデオロギーはない。イデオロギーなんて彼は信じていない。イデオロギー
の代わりにあるものとして、有権者にはオバマという存在を訴えていくしかないの
だ」という見方に至っています。つまり固定したイデオロギーではなく、政治的な行
動者としてのオバマという人物そのものがセールスポイントなのだ、という言い方で
す。

 では、そのオバマという「行動者」の評価ですが、ワレス=ウォレス記者の解説で
は、ここでも「分裂」が見られるというのです。オバマは個別の政策課題について
は、双方の当事者の意見を実に慎重に聞くのだといいます。「他人の意見を聴取する
際にはオバマは信じられないほど寡黙」だそうで、とにかく人の話を良く聞き、実に
謙虚な姿勢なのだそうです。そして異なる意見の双方を十分に理解した上で、落とし
どころを提案してくる、その手法がはるかに年長の共和党議員団からも信頼されてい
る秘密なのだそうです。

 その一方で、オバマ自身は「細かな政策課題を解決していくだけでは、どうしても
欲求不満が残るんです。この国の根本が間違っているとして、それは個々の政策を直
しただけでは良くならないんです」という言い方で「調整役」だけでは我慢ができな
いとも言っているそうです。そして友人達の証言として「オバマは一旦熱くなると人
には言えないような激しい言葉を使ってくる」という一面を紹介しています。

 このワレス=ウォレス記者の結論を整理すると、どうやらオバマという人は「自分
という異端を受け入れてくれるアメリカへの無限の信頼と、その中で対立を中和する
ための誠実な調整役であろうという姿勢」と「異端者の視点からの、アメリカへの厳
しい批判と激しいまでの改革への意志」という二つの面に見事に引き裂かれている、
そんな風な解説ができるようです。

 もしかすると、スプリングフィールドにおけるリンカーン演説についても「戦争回
避への中道的努力」を行ったリンカーンと、一旦南北が決裂した後は北を勝利に導い
た果断な指導者リンカーンという「引き裂かれたイメージ」の双方に共感を寄せてい
るのかもしれません。だとすれば、このバラク・オバマという人は、これは今までの
アメリカにはなかったタイプの政治家と言えるかもしれません。

 ただ、その新しさはなかなか理解されないようで、特に国境を越えた他国の政治家
からは一部警戒の声も上がっています。今週話題になったのはオーストラリア首相の
ジョン・ハワードでした。オバマ候補の2008年からイラクでの撤兵開始というコ
メントに猛反発したハワード首相は、「私がアルカイダの幹部だったら来年の3月に
は大喜びだ。オバマ氏にもっと頑張ってもらいたいと思うだろう」とまるで、オバマ
候補がテロリストに通じていると言わんばかりの中傷を繰り広げました。

 日本も含めて、ブッシュのイラク政策に同調した各国は、イラク情勢の混迷を受け
てそれぞれに悩み抜いています。日本の場合は、久間防衛大臣が「個人的発言」など
の観測気球を上げる程度で「大人しい」対応ですが、英国ではブレア政権が風前の灯
火という劣勢であり、オーストラリアでもハワード政権の人気は芳しくありません。
そんな中で飛び出したのが、このハワード発言です。

 では、ハワード首相はブッシュのイラク政策と「心中」しようと、ブッシュの政敵
に対して挑発的な発言に至ったのでしょうか。それだけではないと思います。まず、
オーストラリアにはかつて「白豪主義」と呼ばれた時代がありました。オーストラリ
アの白人至上主義というと、アボリジニと呼ばれる先住民への差別や、華僑移民への
偏見などが有名ですが、アメリカの黒人に対する冷淡な姿勢も持っていた時代がある
のです。

 ただ、そんなメンタリティを前面に出して「黒人候補」オバマを中傷するというこ
とは、流石にブッシュに忠実なハワード首相でも出来ない相談です。もう一つの要素
があるのです。それはオバマ候補が6歳から10歳までの少年期にインドネシアに居
住していたという事実です。オバマ候補の父親はケニア人ですが、彼が2歳の時にハ
ワイ州の家族のもとを去っています。その後に母親と結婚した男性がインドネシア人
で、その母国に生活の基盤を求めて一家は移住したのでした。

 インドネシアという国は、日本との関係の濃い国です。またオーストラリアも同様
に日本とはたいへんに近い関係があります。では、この両国はというと、実は犬猿の
仲と言っていい関係があると言わざるを得ません。まず地政学の上で、巨大なインド
ネシア列島はオーストラリア大陸にかぶさるように存在しています。オーストラリア
から経済的関係の深い日本や韓国への「シーレーン」はインドネシア領海と重なる部
分がありますし、俗に言う「海賊」の問題もあります。

 それよりも何よりも、インドネシアが国家自体は無宗教であっても、二億人以上の
イスラム教徒を抱える国であることがオーストラリアの警戒心を招いています。バリ
島での爆弾テロ事件など例えば、インドネシアのイスラム過激派の動向に対してオー
ストラリアは極めて敏感ですし、有名なところでは東チモールの問題があります。

 東チモールの独立運動に関しては、どうして社会主義的な傾向があったグループを
含む独立運動が西側世界の広範な支持を得たのかという背景には、旧ポルトガル領で
あった同地域ではキリスト教の人口が圧倒的に多く、そのためにオーストラリアが独
立を後押ししたという事情もあるのです。

 更に言えば、オバマ候補の父親はイスラム教徒であって、オバマ候補自身のミドル
ネームは「フセイン」であるところに、その名残があります。もっとも候補自身はそ
の点に関してアメリカの保守から攻撃されることは百も承知で、自伝の中で今は亡き
実父への思いを語りながら、そうした「出自」に関しては逃げも隠れもしない姿勢を
見せているのですが、オーストラリアの保守的な白人人口からは、黒人の血を引き、
父親はムスリム、本人もインドネシアに縁がある、そんな要素が足し算された人物が
合衆国大統領になっては「大変」という感覚があるのでしょう。

 そうした「感覚的な違和感」を背景にして、オバマという人の「複雑さ」に距離感
を抱いて何とも不規則な発言が飛び出したということではないでしょうか。国境を越
えると、どうしても議論というものは単純化されてしまうということもあります。

 ただ、このハワード発言に関しては、アメリカの反応は冷静です。まずオバマ候補
自身は「そんなことを言いながら、オーストラリアは現在1400人しか派兵してい
ないじゃないですか。仮にオーストラリアが今回二万人増派するというのならともか
く、そうでないのなら、これは空疎なレトリック以外の何物でもないでしょう」と一
蹴しています。また、議会共和党の中からもジョン・コーニン議員(テキサス州選
出、上院)などは「我々の内政問題に関してハワード首相からとやかく言われるのは
不愉快だ」と「内政干渉」への非難を語っています。

 余談になりますが、このオバマ=ハワードの「対決」に関しては、日本ではあまり
報道されていないのが気がかりです。同盟国アメリカの軍事外交政策にどの程度同伴
するのか、アメリカが方針変更をしそうな際には、自国の世論との間でどのような議
論が必要なのかということを考えるに当たって、大変に興味深い例だからです。先ほ
ど例に挙げた久間発言についても「久間大臣のような見解がアメリカでも大勢を占め
つつあるが、内閣の見解は変えないのか?」という追求はなく、メディアまで「久間
発言は閣内不一致」だと非難する、そんな何とも奇妙な状態が続いていますが、いつ
までもイラク情勢の悪化とアメリカ世論の変化に対して「知らんぷり」はできないと
思います。

 その日本という国とオバマ候補の「相性」はどうでしょう。仮にオバマ大統領が誕
生したとして日米関係はどうなるでしょうか。日本の軍事外交政策には大変に複雑な
背景があります。敗戦国の国体を批判しながら維持することが軽武装を続ける政治的
根拠になるという立場が一方にあり、それに反対する勢力は表面が親米でも内心では
第二次大戦の枢軸国の名誉回復という野心と共に自主防衛を志向している・・・そん
な、平均的なアメリカ人には絶対理解されないような「複雑な事情」もイデオロギー
にとらわれないオバマなら分かってくれるでしょうか?

 恐らくオバマという人は、そんな日本の「複雑な事情」にも真剣に耳を傾けてく
れ、正確に事態を把握してくれるでしょう。ただそれだけでは友人にはなれないよう
に思います。「複雑な事情があって大変なんです。理解してください」という甘えた
姿勢ではなくて「複雑な事情があって、それは丁寧に調整をしてゆくしかない。だが
同時に、社会全体が根本的に間違っているかもしれないという激しい改革の意志も持
っている」という二重性を示してゆけば、お互い心を通わせることができるのではな
いでしょうか。

 1961年生まれのオバマは、団塊の世代がベトナム反戦を戦い、ライフスタイル
の相対化を進め、得意の弁舌で社会を「引きずり回して」来たのを見て育ちました。
その典型がクリントン夫妻に他なりません。団塊の世代の持つ単純すぎるイデオロギ
ーと、実行の際の乱暴なまでのマキャベリズム、その二面性に対して冷ややかな目を
持っている、そのような世代だという解説が可能です。

 というのは、日本でもオバマ世代の心情は実によく似たものがある、そんな見方も
可能だからです。団塊の世代のような単純な善悪のイデオロギーでは社会は割り切れ
ないとして、情報の収集や問題の構造的な分析に努力し、明らかに高い次元から善悪
ではない現実的な解決を引き出そうとする、その背景には「この社会には根本的に問
題がある」という情念のような改革の意志もある、これは1960年前後に生まれた
日本の世代に共通する心情に他なりません。

 オバマという現象は黒人のリベラル候補の登場でも何でもなく、60年代生まれと
いうポスト団塊の世代の登場なのです。非常に単純化して言えば、オバマの思想とい
うのは「複雑な現実世界には善悪二元論ではなく現実的な調整を行うポストモダン的
アプローチ」を行いつつ、「アメリカという国に残る前近代的な問題(例えば人種問
題)には近代の立場から本質的な戦いを挑む」という姿勢とでも言いましょうか。

 近代の問題点にはポストモダニズムで戦い、今なお残る前近代にはモダニズムで戦
う、いわば二段構えの思想と言えます。それは実は矛盾でも分裂でもないのです。そ
の意味で、これからの選挙戦の荒波にもまれる中で、オバマという人が、オバマとい
う思想が、どのような成長を遂げていくかは、大変に興味深いと思うのです。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『メジャーリーグの愛され方』。訳書に『チャター』がある。
最新刊『「関係の空気」「場の空気」』(講談社現代新書)
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061498444/jmm05-22>
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【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
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