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JMM [Japan Mail Media]  「リビー有罪判決の意味するもの」  冷泉彰彦 
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投稿者 愚民党 日時 2007 年 3 月 11 日 19:14:18: ogcGl0q1DMbpk
 

                              2007年3月10日発行
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JMM [Japan Mail Media]                No.417 Saturday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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  ■ 『from 911/USAレポート』第293回
    「リビー有罪判決の意味するもの」

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)

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 ■ 『from 911/USAレポート』第293回
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「リビー有罪判決の意味するもの」

 3月6日の火曜日。正午にワシントン連邦地裁ではチェイニー副大統領の元首席補
佐官ルイス(スクーター)リビー被告の偽証罪等の容疑に対する判決の言い渡しがあ
るとして、CNNをはじめニュース専門の各局は、直前から特別番組の編成になりま
した。TV中継の禁じられた法廷から判決が伝わり、五件の起訴事実に対して四件が
有罪という結果が判明したのは正午少し過ぎで、以降は深夜に至るまで各局ともほと
んど「ぶっ通し」での大きな扱いとなりました。

 勿論、テロや戦争といった事件と比較すれば、この判決は政治的事件に過ぎません。
ですから、一般のドラマやバラエティなどを含む三大ネットワーク各局は特に編成を
変えることはなく、定時のニュースで大きく扱っただけです。ですが、ニュース好き、
政治好きを対象としたケーブル配信のニュース専門局(CNN、MSNBCなど)は
以降終日、この事件を中心の「ぶち抜き」報道をしていましたから、そのインパクト
はお分かりいただけると思います。

 さて、この偽証等の事件ですが、その核心となるのは国務省叩き上げの外交官OB
で元ガボン大使のジョセフ・ウィルソンの妻、ヴァレリー・ウィルソン(旧姓はプラ
イム)という女性が「CIAの秘密工作員(NOC=身分を伏せて活動する要員)」
であるということを、チェイニー副大統領の周辺が意図的に漏洩したのではないか、
という疑惑です。

 ではどうして、この事件が大きなスキャンダルになるのかというと、CIAの秘密
工作員の身元を暴露するというのは重大な犯罪とされているからです。秘密工作員は
あくまで偽装した「堅気(かたぎ)の身元=この場合は外交官夫人」として活動して
おり、その身元を明かすということは工作員の活動を不可能にするばかりか、現地の
協力者を危険に陥れるなどCIAにとって一連の工作そのものを破壊することになる、
こうした理由からこの種の機密漏洩は重大な犯罪とされるのです。その犯罪を隠すた
めに偽証を繰り返したとすれば、これも重罪扱いされるというわけです。

 この日の判決を受けて、パトリック・フィッツジェラルド検事は「チェイニー副大
統領の疑惑についてはどうか」という記者団の質問に対して「暗雲("cloud")が
漂っている」という表現で、疑惑の存在を否定しませんでした。この「暗雲」という
語は一瞬のうちに流行語と化して、今週末に発行される雑誌『タイム』では「チェイ
ニーへの審判」という特集を組み、タイトルの "TIME" という文字の半分に雲がか
かっている表紙をすでに発表しています(本誌は本稿の時点ではまだ入手していませ
んが)。また同じく会見に応じた陪審員の1人も「リビー」はチェイニーを庇(かば)
うために偽証しているという心証で議論が進んだことを否定しませんでした。

 この日は、夜に入ってもTVの扱いは大きく、MSNBCなどは保守系、リベラル
系、中間系などそれぞれに「色合い」の違うキャスターが1時間ずつ担当するトーク
ショーが続くのですが、100%この判決に関する報道で、他のニュース(例えばイ
ンドネシアでの航空機事故)は全くカットされていました。

 さて、もう一度おさらいをしておいた方が良いと思うのですが、仮に疑惑が本当だ
としたら。チェイニーもしくはその周辺は一体何のために違法な身分の漏洩を行った
のでしょうか。一般的に信じられているストーリーはこうです。2003年3月のイ
ラク侵攻を避けられないものにしたのは、この欄でも当時詳しくお伝えした同年1月
のパウエル国務長官(当時)の国連演説です。ここでは、様々な「証拠」が挙げられ
て「イラクは大量破壊兵器(WMD)」を保有しているという主張が繰り広げられま
した。

 その中でも重要な点は、イラクのフセイン政権がアフリカのニジェールからウラン
を不法に輸入していたという疑惑です。ですが、この疑惑を公表するまでには紆余曲
折がありました。アメリカは実際にニジェールに特使を派遣して、ウラン密輸の事実
を調査したのです。その特使が、当時ガボン大使であったウィルソンでした。ウィル
ソンが国務省に対して提出した調査結果は「ニジェールは国連制裁決議に従っており、
イラクへのウラン密輸を行った事実はない」というものでした。これでは「疑惑はシ
ロ」したがって「戦争の口実もなし」ということになります。

 そこでホワイトハウスは、この「ウィルソン報告書」を握りつぶし、最終的には
「イラクにはWMDがある」として開戦に踏み切りました。と同時に、戦争の口実を
否定したウィルソンに対しては「政治的報復」を行う、そのために妻が「CIAのN
OC」だということを暴露したのだというのです。その結果、身分が明らかになって
しまったヴァレリーはCIAを辞めざるを得なくなったとされています。

 この事件は、当初は大統領補佐官のカール・ローブが疑惑の張本人とされましたが、
散々大騒ぎになった揚げ句、ローブは「ウィルソン夫人がCIA」というのは元国務
副長官で対日政策にも関与していたことのあるリチャード・アーミテージから「聞い
た」として、シロとなりました。では、そのアーミテージはというと、ワシントン・
ポスト紙の記者ボブ・ウッドワードが彼から聞いたというのです。

 ですが、そのウッドワードとアーミテージの会話の記録によれば、ウッドワードが
「ちょっと待って下さいよ、それ(CIAのNOCの身元を明かすこと)は違法じゃ
ないですか」と驚くと、アーミテージは「(違法だっていうことは)誰でも知ってま
すよ。でも彼女(ヴァレリー)がそう(CIA)だってことも誰だって知ってるんで
すよ」と答えています。つまり、この会話の時点ではワシントンでは多くの人間が
知っていたということで、アーミテージも「お咎めなし」ということになっています。

 という状況の中、今回の有罪判決に辿り着いたというのは、フィッツジェラルド検
事の周到な戦略のためと言っていいでしょう。黙秘や、場合によっては恩赦の可能性
などホワイトハウスが様々に揺さぶりをかけてくる中で、「本丸」をチェイニー副大
統領に絞りつつ、その側近のリビーにターゲットを定めて偽証罪を中心に責め立てる
というのは、恐らくこの疑惑を立件して有罪に持ち込むために考え抜かれた戦略なの
だと思います。

 ところで、ホワイトハウスがウィルソンを「許しがたい」と思ったとしても、そも
そもウィルソンの妻であるヴァレリーの身分を明かすことが、どうして政治的報復に
なるのでしょうか。一般的な解説はこうです。ウィルソンとヴァレリーは再婚で、
ウィルソンの離婚した前妻はフランス人でした。またウィルソンは第一次湾岸戦争直
前のイラクで臨時大使を務めておりフセインによる「人間の盾」というスケールの大
きな人質事件の解決で「男気たっぷり」の手腕を見せている人物です。ということか
ら、フセイン政権やフランス当局との何らかのコネクションがあり、国務省の中でも
戦争遂行反対派と思われていたのでしょう。

 また妻のヴァレリーも、NOCとしてCIAの工作に関わる中で、「表の顔」とし
てはエネルギー問題のアナリスト(まるで映画『シリアナ』でマット・デイモンの演
じた役のような話ですが)を務めており、実際にウラニウムを含むエネルギーやWM
Dのプロだったというのです。ですから、この夫婦というのは「極めて国際的」な活
動を行い「現場に潜入したり、敵陣営の内部にも人脈を持っていたり」という「古典
的なCIA+国務省」的な仕事のスタイルのカップルだったと言えます(ただ、アー
ミテージなどによればヴァレリーは夫のニジェールでの調査には同行していないらし
いのですが)。

 ウィルソンは「自分は超党派で、ブッシュ(父)政権にも仕えたし、民主党の党略
で動くような人間ではない」と言っていますが、確かにここで言う「政治」というの
は、「共和党対民主党」という図式の対立ではないでしょう。対立というのは軍事外
交とスパイ活動に関する路線闘争です。ウィルソン夫妻の象徴する「古典的な人間の
諜報(ヒューミント)を重視するCIA+国務省」方式というのは、「NSAの電子
盗聴(シギント)+軍の衛星監視システム+ハイテク兵器」方式という「ブッシュ=
ラムズフェルド」戦術に取っては煙たい存在だったのだと言えるのでしょう。

 煙たいというのはどういうことかと言えば、「ヒューミント要員」は潜入先で敵と
通じているとか、売国とまではいわなくとも、自分が情報を得るためには「こちら側
の情報」を小出しにして前線兵士を危機に陥れている、というような印象論から来る
憎悪を募らせていたのかもしれません。また、当時噂されていた国務省とホワイトハ
ウスの「暗闘」を最終的に潰すために「我々はお前たちが何をやっているか(例えば
妻が後ろ暗いスパイだとか)を知っているぞ」という「見せしめ」とされたという可
能性も高いのでしょう。

 これに加えて、ウィルソンという人物はサダム・フセインとも丁々発止やり合った
という「侠客」めいたムードのある個性派ですし、20才以上年齢の離れた奥さんの
ヴァレリーはモデルにしても良いような美人ということで、ある意味では敵に回った
側からは、憎悪の対象になりやすいカップルだったとも言えます。アーミテージの言
う「誰だって知ってるんですよ」というウラには、目立つ夫婦が「堂々とブッシュ=
チェイニーに反旗を翻している」しかも「奥さんは美貌のCIA」というような
「やっかみ」とも言えるようなドロドロした感情が、政権の周囲にはあったのかもし
れません。

 ちなみに、ハリウッドはこの夫妻の話を映画化するそうで、現時点で噂になってい
るキャスティングは、リチャード・ギアとシャロン・ストーンだそうです。ただ、実
物のジョセフ・ウィルソンはギア以上に豪快な男前ですし、奥さんのヴァレリーは
シャロン・ストーンよりも更に華やかな容姿をしているので、仮にこの二人が演ずる
場合は相当大柄な演技で臨むことが必要だと思います。またそれとは別にヴァレリー
の回顧録(機密だらけのCIAの元NOCとして果たして何が書けるのかは不明です
が)の出版も計画されています。

 この判決に関しては、当日6日の晩に保守系のキャスター、チャック・スカボロー
(元共和党の下院議員)が司会をしたMSNBCの番組で、コメンテーターのパット
・ブキャナン(元大統領候補、レーガン政権のスピーチライター)が「とにかくこの
事件の本質には、虚偽の理由で兵士をイラクに送ったという問題があり、アメリカを
揺るがす大事件です」と激しい剣幕で怒っていました。同時に返す刀で「私は民主党
もケシカランと思っていますよ。ブッシュに対するイラク侵攻白紙委任決議を行って、
ほとんどの議員が賛成票を入れていますからね。そこが後ろめたいから、この問題を
追及できないんですよ」と言いたい放題でした。

 では、今後の展開はどうなるのでしょう。まずリビー被告がこのまま量刑の言い渡
しを待ち、その上で控訴を断念して刑に服するという可能性です。これは恐らくない
でしょう。長期の禁固刑となるだけではなく、それでは、自分の偽証が「悪」だと認
め、ひいては「漏洩したのはチェイニー副大統領」ということを認めることになるか
らです。では控訴するのでしょうか。実はこれが怪しいというのです。控訴審へ行け
ば審理は長期化します。恐らく2008年までかかるでしょう。そうなると、主要な
証言や票決のたびにメディアが大きく取り上げることになるわけで、共和党のイメー
ジは傷ついたまま、大統領選挙にも大きなダメージが予想されるというのです。

 では、どうなるかというと、そこに恩赦の可能性という問題が浮かび上がってきて
います。合衆国憲法では、連邦法に基づいた犯罪に対しては大統領による無条件の恩
赦を認めています。有名な例では、つい最近亡くなったフォード大統領がニクソン前
大統領に対して、一連のウォーターゲート疑惑に関する一切の訴追を取り下げる恩赦
を行ったことが有名です。この欄でお話したように、フォード大統領はこれによって
政治的には大きな対価を払うことになりました。

 ということで、理論的には可能な恩赦ですが、ニクソン恩赦の場合は「前大統領の
公判を続けては、国内が分裂状態になる。今は傷ついた国を建て直す団結の時だ」と
いう大義名分がありました。歴史の審判はフォードの棺を覆いながら、この判断を受
け入れつつあります。これに比べると、リビーの場合は大きな問題が残ります。それ
は「上司であるチェイニーの疑惑をかばって偽証をした罪」をそのチェイニーと一蓮
托生であるブッシュが恩赦で「罪がなかったことにする」というのは、全くスッキリ
しない話だからです。

 というよりも、これでは権力の濫用と言われても弁解はできないでしょう。6日の
CNNの「ポーラ・ゼーン・ナウ」では、この問題について議論がされていましたが、
結論としては「恩赦の瞬間にチェイニーは死に体になる」というのです。8日のNY
タイムスもこの問題を詳しく扱っていますが、政権の周囲からは「たとえチェイニー
が死に体になっても、今なら大統領選への影響は少ない」という計算があるのだと言
います。

 実際に判決から数日を経て、この「恩赦」の可能性は日増しに高まっており、実際
に共和党の議員などからは「即時に恩赦を」という声明が出されています。勿論そこ
には彼等なりの大義名分があり「不幸な政争に巻き込まれた一公務員は人道上救済す
べきだ」というのです。もっと言えば「これはチェイニーもイラク戦争も関係ない。
リビーに対して検事がムリな追及をした結果、リビーが答えられず、不幸にもそれが
罪になった、『それだけ』」というのが共和党系の政治評論家などの「解説」として
出てきています。「不幸なリビー」の訴訟費用に充当するための募金運動も結構なカ
ネを集めているそうです。

 さて、この「リビーへの早期恩赦」というのは、政権運営の全体として見れば、あ
る種の「ソフトランディング」を図ろうという動きになるのでしょう。同時にチェイ
ニーの疑惑もウヤムヤにする、チェイニーは以降は影響力は低下、その代わり、ライ
ス国務長官がブッシュ(父)の人脈を使って国際協調にシフトした戦略で、イラクや
アフガンの問題に対処してゆく、そんな方法でブッシュの残りの2年は少なくとも歴
史に汚点が残らないようにする、そんな流れです。

 ここ数日の間でも、ニューヨークでは米朝の作業部会という、これまでは考えられ
なかったような「直接交渉」が実現していますし、ゲイツ国防長官は「中国は脅威で
はない」という発言を行っています。またイラクでは、アメリカ軍の前線司令部が
「イラク市民の人命を防衛するのが最大の責務」という(今更ではありますが)実に
正当な声明を発表しています。こうした一連の動きは、チェイニー=ラムズフェルド
路線の中にはなかった姿勢の現れだと言って良いでしょう。

 9日の金曜日には、FBIのロバート・ミュラー長官が会見して、911以降テロ
リストの取り締まりのために制定された「愛国法」を拡大解釈した結果、違法なプラ
イバシー侵害などの誤った捜査活動が行われていたと声明を出しました。司法省の監
査により指摘があったことを受けての声明で「責任は私にある」というのですから真
剣です。テロ防止のためには無制限の電子盗聴が超法規的に許される、これまでの
ブッシュ政権の一貫していた姿勢を考えると、大きな変化です。特に司法省などは、
これまで自分たちがやってきた「超法規」が違法として摘発を受けては大変ですから
猛スピードで「ソフト路線」に舵を切っているのでしょう。ゴンザレス長官にはそん
な行動力もあるようです。

 では、このまま「ソフトランディング」となるのでしょうか。その可能性は高いと
思います。例えば、民主党サイドでは、8日の木曜日には「2008年中のイラク撤
兵開始、逆にアフガン情勢に対しては増派してテコ入れ」という法案を提出していま
す。これは一見すると「撤兵日程」を具体化しているなど「強硬な反ブッシュ」に見
えるのですが、実は大きな流れの中ではペンタゴンとホワイトハウスの「ソフト路線」
に距離を置きつつ歩調を合わせていると見ることもできるでしょう。そうした動きの
中心には、アフガンをはじめとする軍事問題に熱心なヒラリー・クリントンの存在が
あります。

 ただ、この「ソフトランディング」とはならない可能性もあります。というのは
ブッシュ=チェイニー路線が、もっと劇的に破綻するという可能性です。例えば、こ
のリビー判決に際して「戦争の動機がそんなにいい加減なものだったのか」という落
胆あるいは怒りを募らせているのは、いわゆる都市型リベラルではないようなのです。
軍のOB、それも傷病帰還兵などの間に「我慢ならない」という感情が少しづつ広
がっているのです。

 最近気づいたのですが、私の住むニュージャージー州などでは911以来増えてい
た星条旗がすっかり姿を消しました。今では学校や官庁の掲揚台のものが目立つぐら
いで、高い橋や人の集まる場所、あるいは各個人の家や車などからは星条旗はきれい
に消えています。その一方で、たまにみかける星条旗は(公立学校のものを除くと)
かなりの確率で「POW−MIA」という「捕虜と傷病帰還兵」への支持を表す黒い
旗を伴っているのです。

 実際にイラクからの傷病帰還兵の問題は大きな問題になりつつあります。そんな中、
今週はそうした傷病兵を収容している陸軍病院の環境が劣悪であるというスキャンダ
ルが噴出、議会の公聴会に呼ばれた陸軍医務長官は傷病兵の家族に対して「心からお
詫びを申し上げる」という最大限の表現で謝罪をするに至りました。今回の戦争にお
ける傷病兵の中では、メンタルヘルスの問題も非常に深刻で、ケアの不十分な中で家
庭内の殺人など悲劇も起きています。また、そうした問題が報道されるようにもなっ
てきています。

 こうした形で戦争への不満、不信が広がっていく中で、2003年のイラク開戦と
いうブッシュの判断が、場合によっては大きく否定されるような可能性もゼロではあ
りません。その場合は、例えば議会がチェイニー罷免へ動き出し、チェイニーは健康
問題を理由に辞任、ブッシュはチェイニーに(ヴァレリー・ウィルソンの事件だけで
なく、軍事サービス会社ハリバートンとの癒着疑惑なども含めて)恩赦を与える代わ
りに自分も政治的にはほぼ無力化する、そんな流れになるかもしれません。

 その場合は、右寄り過ぎるヒラリーもオバマも吹っ飛んでしまうでしょう。大統領
制が大きく揺れて、アメリカが「国家アイデンティティの危機」となると、女性や黒
人の大統領というような「初」にチャレンジする余裕はなくなるからです。その場合
は、白人で「イラク戦争に終始反対」していたジョン・エドワーズあたりが浮上して
くる可能性があります(ゴア待望論は根強くありますが、家族の事情から出馬はない
と私は見ています)。エドワーズは、南部出身の民主党リベラルということで、良く
も悪くもウォーターゲート後遺症の中でフォードを破って当選したカーターの再来と
いうことになります。

 そんな中、この2月にチェイニー外遊を受け入れた日本政府の判断は首をかしげざ
るを得ません。リビーの法廷に証人として出廷するのがイヤで外遊したというのは少
々憶測が過ぎます。ですが、判決後の外遊では影の薄さは否定できないわけで、判決
前のまだ権威のあるうちに日本での穏やかな時間を過ごそうと日程調整をしてきたと
いう可能性は否定できません。

 勿論、チェイニー自身は日豪訪問の後に、隠密でパキスタンやアフガンを訪れて爆
弾で脅されたり、帰国後に体調を崩したりという苦労をしており、本人なりに影響力
のあるうちに何か功績を残そうとしているのでしょう。ですが、そうであっても腹心
の公判を抱えて政治力の低下が見込まれる高官に対して、準国賓的な接遇をするのは
ダメです。困難な時に人情をかければ「見返り」がある、というセオリーもあるのか
もしれませんが、相手が数週間後に影響力が低下するのでは元も子もありません。そ
れ以前に、日米関係の「次」の変化に全く備えていないことを暴露しているようで、
何とも心もとない限りだからです。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『メジャーリーグの愛され方』。訳書に『チャター』がある。
最新刊『「関係の空気」「場の空気」』(講談社現代新書)
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061498444/jmm05-22>
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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