★阿修羅♪ > Ψ空耳の丘Ψ49 > 594.html
 ★阿修羅♪
近代日本のナショナリズムとグローバリゼーション【SFC研究セミナー】
http://www.asyura2.com/07/bd49/msg/594.html
投稿者 そのまんま西 日時 2007 年 7 月 01 日 00:55:53: sypgvaaYz82Hc
 

近代日本のナショナリズムとグローバリゼーション【SFC研究セミナー】
小熊英二  慶應義塾大学総合政策学部助教授

 現代日本では、グローバリゼーションの進展と、新たなナショナリズムの台頭が問題になっている。しかし、この両者の関係は、相対するものではない。明治時代に形成されたナショナリズムに焦点を当てながら、現代日本で支持を拡大しているナショナリズムの背景を見ていく。

伝播し真似されたナショナリズム

 今回述べる「ナショナリズム」は、日本人としての意識、あるいは自分はある国の人間だというアイデンティティの持ち方などの広い意味だととらえてほしい。
 まず、日本人が日本人という自覚を持つのは、「日本」という国名が表れる7世紀よりも前には遡れない。その自覚の最終的な定着は明治以降である。江戸時代の「国」は藩や村を指し、また、身分制度があったため、日本人という集団単位で考える発想はなかった。
 明治時代になって、国内の言語や文化の統一がなされ、政治機構や教育制度、メディアや交通などの近代化が進んだ。そうして、日本人意識や日本文化と呼ばれるものが統一形態としてできてきたのである。
 ナショナリズムは、国内の地域差、身分差が消えて国際的な差異が開く現象で、グローバリゼーションは、国境を越えた均質化が起き国内の差が開く現象である。メディアや交通の発達などから均質化が起きてくるところは共通していて、違いは、それが国境内で起きるのか国際的に起きるのかである。グローバリゼーションが進んでいかないと、反発としてのナショナリズムは形成されないのだ。
 そして、このナショナリズムのつくり方は伝播する。19世紀末にヨーロッパ諸国が始めたつくり方が世界中に伝播し、日本も全くそれを真似たのだ。つまりナショナリズムのつくり方や独自性の形成の仕方は、グローバルに伝播していったのである。

伝統文化形成のために行われた作業

 伝統文化とは、近代化の中でつくられてくるもので、客観的には新しいが主観的には古く見える現象である。現在、社会学では「創られた伝統」という言葉がよく知られていて、英語では「Inventionoftradition(伝統の発明)」という言い方をしている。
日本の伝統文化、あるいはネイションの文化と呼ばれるものは、近代技術の応用やヨーロッパの影響を大きく受けている。その典型が、天皇を全国津々浦々に知らしめるという「天皇の地方巡行」である。巡行時には鉄道を利用し、また電信を使用、そしてご真影には写真を用いた。大量複製技術を使わなければ、全国にその姿を知らしめることなど不可能だったのだ。しかも写真そのままではなく、イタリア人の画家に描かせた写実的な肖像画を、写真に撮ったのである。当時はヨーロッパ式の肖像画を描ける日本人の画家がいなかったからだ。この近代テクノロジーは「教育勅語」印刷にも利用されている。
 ほかに、マスメディアの発達によって全国に波及していった文化に、神前結婚式がある。1900年に行われた当時の皇太子、後の大正天皇の結婚式での様式が変型したものだといわれている。初詣も明治以前には遡れない儀式であることが、歴史研究でわかっている。江戸の一部にその原型があった「七五三」だが、これが全国に広まっていったのは、大正期以降だ。こうしたものが、100年もたつと伝統文化と呼ばれるものになってしまうのである。
 また、明治政府はナショナリズムをつくるために、廃寺同然だった法隆寺、興福寺、そして東大寺の大仏などの手入れを行い、「能」や「歌舞伎」にも手を入れ直した。さらに、地方神社の統廃合も行ったのである。
日本美術史や日本文学史などの編纂作業も行われ、これらは全てヨーロッパを模倣として始められた。国を単位として文学史や美術史を書くというのは実は新たな発想であったのだ。国旗・国歌をつくるのも同様であった。


現在のネガとしての戦前日本の理想化

 現在のナショナリズムの問題を考えると、冷戦の終結が大きく響いている。冷戦下で抑えられていた日本の反米意識が、ストレートに出やすくなったゆえだ。
その上、現在のナショナリズムの背景には、グローバリゼーション下の社会不安がはっきりと大きな影響を与えている。中層から下層の人たちを不安にさせているのは、経済成長を前提とした社会制度や従来型の企業経営、終身雇用制度が限界に達していることである。
 学校教育問題でも、一番重要な「経済成長が止まったこと」が見過ごされている。これまでは、「よい学校に行けばよい会社に入れて、終身雇用してもらえる」というのが前提で、学ぶ内容それ自体に意味がなくとも、みな我慢して学校に通っていた。高度経済成長期につくられたこうしたシステムは、もう既に限界に到達しているのである。
そうした社会に対しての不安が広がる中で、「新しい歴史教科書をつくる会」などが主張する「反官僚」「モラル回復」「公共心」「反グローバリゼーション」のスローガンが、支持を受けている。
 この現在のナショナリズムは、歴史、特に戦前というものを、夢のように理想化してつくっている。歴史をつくる作業は、ゼロから捏造したらはっきりわかるが、戦前の中から良いと思った要素だけを取り出せば、意図的な理想像をつくり上げることができるのだ。
 こうした戦前賛美は、「公共心が高かった」、「お父さんの権威が高かった」などというのは取り上げるが、戦前の日本では女性に参政権がなかったといった部分はさっぱり取り上げない。現在に対して不安を覚えていて、戦前の日本を現在のネガとしてだけ理想化していることがはっきりうかがえる。現状に対する不満が、統一した像もないナショナリズムの支持を拡大していると言えよう。
私はそうした現在のナショナリズムが、国際問題に発展するとか、歴史観として正しくないからというだけでなく、現状からの逃避という意味で、人々の間に広がったら大変だと、憂慮している。これが国政を動かす段階にまで達したらいったいどうなるのかということに、非常に不安を覚えているのである。

小熊英二 おぐま・えいじ
慶應義塾大学総合政策学部助教授。東京大学農学部卒、同大教養学部修士課程修了、同総合文化研究科国際社会学専攻博士課程修了、学術博士。著書に「単一文化神話の紀元」(サントリー学術賞受賞)「<日本人>の境界」「インド日記牛とコンピュータの国から」などがある。

http://sfc-forum.sfc.keio.ac.jp/forumnews/news51/forumnews51-2.html

 次へ  前へ


  拍手はせず、拍手一覧を見る

▲このページのTOPへ      HOME > Ψ空耳の丘Ψ49掲示板

フォローアップ:

このページに返信するときは、このボタンを押してください。投稿フォームが開きます。

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。