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JMM [Japan Mail Media]  「候補者たちと世相」  冷泉彰彦 
http://www.asyura2.com/07/bd50/msg/616.html
投稿者 愚民党 日時 2007 年 9 月 23 日 08:48:07: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2007年9月22日発行
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JMM [Japan Mail Media]                No.445 SaturdayEdition
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                       http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼

  ■ 『from 911/USAレポート』第321回
    「候補者たちと世相」

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)


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 ■ 『from 911/USAレポート』第321回
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●編集部より
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村上編集長がプロデュースをする動画番組「RVR-Ryu’s Video Report」で、編集長
と親交の深い、元プロサッカー選手・中田英寿氏とのスペシャル対談「RVR x
nakata.net Presents 特別企画 〜村上龍 x 中田英寿 特別対談」の配信を開始し
ました。編集長と中田氏との1997年の出会いから、中田氏の引退後の心境、日々の生
活について、また、サッカー界復帰への考えや思い、そして様々な国々への旅行を通
したサッカーというスポーツに対する中田氏の想いなどをストリーミング配信(無料)
で視聴することができます。この特別対談は、「RVR-Ryu’s Video Report」と中田
氏のオフィシャルサイト「nakata.net」との共同企画として、対談の前半部分をRVR
で、後半部分をnakata.netで同時に配信開始し、11月18日まで提供されます。 
関連URL RVR:http://video.msn.co.jp/rvr/default.htm
     nakata.net:http://nakata.net/jp/
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「候補者たちと世相」

 9月19日の水曜日に、大統領候補を目指して運動中のジュリアーニ候補(共和)
は突然、ロンドンに現れました。選挙中に政治家が外遊するというのは、異例のこと
です。選挙戦に外国の利害が絡んでくるようなイメージを与えるのは、どこの国の政
治家も嫌うところですし、選挙というものは結局は内政が争点になるからです。

 では、ジュリアーニ氏はどうしてロンドンに行ったのでしょう。表向きの目的は、
在ロンドンの「アメリカ人支持者のグループ」から招待を受け、選挙運動の一環とし
て赴いたということになっています。実際にロンドンのマンダリン・オリエンタルホ
テルでは、政治資金集めのランチが催されています。ですが、それだけではないよう
です。ちゃんとブラウン首相との会談がセットされていて「米英はイスラエルの利害
を支持する」などという声明も出しているのです。

 こうしたジュリアーニ氏の行動に関して、共和党系の同氏に好意的な評論家などは
「国際問題に強い政治家だという格好のアピールができた」と言うのですが、意外と
このあたりが本人としても本当の狙いなのかもしれません。この欄で何度も申し上げ
たように、ジュリアーニ氏の共和党内での位置づけは、有力候補であることに揺らぎ
はないのですが、911のヒーローというイメージよりも「銃規制と中絶容認という
共和党らしからぬ主張をしている悪漢」という非難からの防戦に多くのエネルギーを
割かざるを得ないのが実情です。

 実際にIRA(全米ライフル協会)とはある種の「冷戦」が続いており、IRAの
集会でスピーチをしていたジュリアーニ候補は、わざわざスピーチの最中に奥さんか
ら携帯への電話を取って「やあ、僕は今IRAでスピーチしているんだよ。そうそう
IRA」とやっています。少なくとも、本当にその団体を評価しているのなら、スピ
ーチ中に電話を取ったりはしないでしょう。本人としてもIRAとしても、対立は表
には出さない一方で、腹芸の世界ではお互いに相容れないというムードを維持してい
る、そんなところのようです。

 そんな中での今回のジュリアーニ渡英というのは、複雑な党内事情の中、同盟国の
英国へ行って「英雄」としての「正当な評価」を確かめ、それをコアの支持層に訴え
たいというのがホンネだったのではないでしょうか。また、前夫人との離婚の泥仕合
が「家庭的価値観の敵」とされる中、どうしても表舞台には立ちづらいジュディス夫
人も、離婚歴のある皇太子を受け入れている「大人の国」では、何となく伸び伸びと
見えるから不思議です。いずれにしても、国境の向こうから支持層に訴えるパフォー
マンスというのは、珍しい手法を考えたものです。ちなみに、民主党のオバマ、クリ
ントンの両候補も近々英国入りするそうです。

 さて、その民主党の候補達の動向に関しては、ルイジアナ州のジーナという小さな
町におけるある事件に対する姿勢をどうするか、この問題に支持者の視線が注がれて
います。人種を巡る実にイヤな対立エネルギーが、この町に渦巻く中で多くの黒人た
ちが全米からデモのために集まってきたのです。具体的にはジーナ町立高校の白人生
徒に対する黒人生徒6人の暴行をどう裁くかという問題で、当初は「第二級殺人未
遂」とされ、それが公判の中で「第二級暴行傷害およびその共謀」に下げられてはい
るのですが、依然として「厳しすぎる」ということで、大きな問題になっています。

 被害者は大ケガをしており、それだけ見れば凶悪犯罪なのですが、この事件には背
後関係があるのです。このジーナという町は、白人が約80%、黒人が15%という
ような人種構成の小さな町なのですが、その町立高校には醜悪な伝統がありました。
校庭にある大きな木のことが「ホワイトツリー」と呼ばれていて、その木の下に集う
のは白人生徒に限られるという暗黙の「了解」があったというのです。

 事の発端は2006年の8月末に、黒人の新入生が校長に対して「ホワイトツリー
の下に自分も座っても良いんですか?」と尋ねたところ、校長は「君たちは誰でも好
きなところに座って良いんだよ」と答えたそうです。このやりとりを聞いて、質問し
た生徒を含む何人かの黒人生徒が「ホワイトツリー」の下に座るという行動に出てい
ます。ところが、その翌朝、その「ホワイトツリー」には「首をくくるためのロープ
の輪」が吊されているのが見つかりました。

 程なく3人の白人生徒の仕業であることが判明、校長はこの3名の放校処分を決め
ました。ところが、教育委員会が介入し「青春期には良くあるイタズラで、誰かを脅
すような性格の行為ではない」として校長の決めた放校処分を破棄し「停学処分」に
減刑をしたのです。一説によると、この教委決定の際のコメントが人種対立を燃え上
がらせる要因になったと言われています。

 ルイジアナを含む南部では、木に「首くくりのロープ」をぶら下げるというのは象
徴的な意味があるのです。それは長い間存続した奴隷制度において、見せしめのため
に奴隷を殺害するために「木に吊す」ということがされたこと、そして奴隷解放後も
「白人の優越」を実践しようと黒人に対する迫害を続けたKKK団のような団体が、
黒人に対するリンチとして同様の行為を行ってきたという記憶が濃厚だからです。

 まして「ホワイツリー」の下に黒人生徒が座った翌朝に、その木にロープが吊され
ていたのです。これは、黒人の観点からしたら「殺してやるという脅迫」と受け取る
のは自然でしょう。その犯人たちが「停学」で済み、その際に教育長が「誰かを脅す
ような意図はない」と断じたとなれば、怒りのエネルギーは一気に蓄積されてもおか
しくはありません。ちなみに問題の木は切り倒されて「薪」にされたそうです。

 この事件以降、このジーナの町では高校生同士、人種の対立が激しくなりました。
小競り合いやケンカが絶えなくなり、中には白人グループが黒人を銃で威嚇するとい
うようなトラブルも起きています。そんな中で起きたのが、問題の傷害事件なのです
が、当初の殺人未遂が傷害へと起訴内容が変わってはいるものの、有罪の場合は禁
固20年という厳罰が待っていることから激しい反発が続いています。

 ルイジアナ法によれば「第二級暴行傷害」を立件するには「生命を脅かすような凶
器の使用」という条件があるのですが、今回の公判では「黒人高校生たちが履いてい
たテニスシューズ」が「凶器」であるとされている点も問題になっています。白人た
ちが銃で威嚇したのは「お咎めなし」なのに、黒人はテニスシューズを履いていただ
けで「第二級傷害」というのは差別だというのです。さて、この黒人生徒の六人は
「ジーナ・シックス」と命名されて人種差別の犠牲者だという扱いとなり、全国から
バスを連ねてデモ隊が集結することになりました。

 こうした事件に際して、必ず先頭に立ってきたジェシー・ジャクソン師やアル・
シャープトン師も、ジーナに入って陣頭指揮を執っています。「『南部的な司法』か
ら『ジーナ・シックス』を救出するために連邦議会が行動すべきだ」というスローガ
ンを叫びながら、デモ隊はジーナの裁判所を取り囲んだのです。

 当然ですが、民主党の大統領候補たちはそれぞれにコメントを出しています。ヒラ
リー・クリントンは「司法システムの機能不全だ」という言い方で、ジョン・エドワ
ーズは「人種隔離という環境で育った我々南部人には皆、こうした人種問題には責任
がある」という言い方で、「ジーナ・シックス」への減刑運動への支持を表明してい
ます。勿論、そこには二人の信念もあるでしょうが、南部黒人票と北部リベラル票を
意識しての発言という意味合いも否定できません。

 勿論、6人への同情を口にすれば南部の白人保守票は取れないでしょうが、ヒラリ
ーにしてもエドワーズにしても、元来がそうした層は支持基盤とは考えてないのです
から、痛くはないのです。そして、アメリカ全体としては、そうした二人の言動を別
段驚きもせずに見つめていると言って良いでしょう。支持基盤あっての選挙というの
は、どこの国でも同じだからです。

 ただ、オバマの場合は一味違うのです。オバマは従来から主張している「人種間の
和解」ということを、この問題に関しても真剣に訴えています。私はこの姿勢は非常
に立派だと思います。表面的に考えれば、今回の事件に関する教委や検察の判断はバ
ランスを欠くと思います。ですから、禁固20年というのではなく、何らかの減刑が
必要でしょう。完全な不起訴かケンカ両成敗はムリとしてもです。

 ただ、仮に黒人層が渋々納得するような「裁定」が出たとして、白人側には怨念が
残るのは間違いありません。「自分たちは奴隷差別をしたのではないのに、奴らは被
害者ずらをして大きな顔をしてくる」とか「黒人6人に囲まれたら身の危険を感じる
のは当然だろう」という感情的な反応は屈折した形でどうしても残るからです。オバ
マの発言に関しては、具体性があるのではないのです。ですが、そうした怨念の応酬
を「止めさせたい」という姿勢の取り方は、これまでの政治家にはなかったものです。

 ジェシー・ジャクソン師はこうしたオバマの態度に対して「黒人とも思えない」と
いう発言をしていたのですが、オバマもこの「ジーナ・シックス」への減刑嘆願の声
明を出したことで態度を変え「オレはそんなこと(オバマ批判)は言っていない」と
シラを切っています。ちなみに、オバマの選対にはジャクソン師の息子さん(ジェシ
ー・ジャクソン・ジュニア)がメンバーとして名を連ねているのも面白いところです。

 いずれにしても、20日のジーナには人口3千人の小さな町に、2万人というデモ
隊が押し寄せ、裁判所を囲んだばかりか、一部のデモ隊は問題の「ホワイトツリー」
の跡地に座り込むという行動に出ました。裁判所は72時間以内にこの問題に関して
は公聴会を開く命令をして、とりあえずこの場は収めた格好になりましたが、一方で
ただ一人高額な保釈金を吹っかけられて拘留中の「主犯格」の少年は、今週の時点で
は釈放されていません。更に、デモ隊であふれたジーナの近くでは、トラックに「首
くくりのロープ」をぶら下げて走っていた白人少年のグループが検挙されるなど、人
種間の和解とはほど遠いムードも依然としてあり、来週の公聴会をめぐっては更に緊
張が高まることも予想されます。

 その一方で、ワシントンではここ数ヶ月続いていた「イラク撤兵で戦時体制の終了
へ」というムードにやや暗雲が漂い始めました。一つには、民主党系のNGOがNY
タイムスに寄せた意見広告で、イラク駐留多国籍軍のペトレイエス司令官を「バカに
した」ものがあるということに、共和党が難癖をつけ、余りにもそのキャンペーンが
激しいために、世論が微妙に右に動かされたという問題があります。

 その意見広告は「イラクでの戦況について、軍の発表は事実を伝えていない」とい
うどうということはない中身で、最近では民主共和両党共に議会指導者が言っている
内容と大して変わりません。ですが、「ジェネラル・ペトレイエス」という司令官の
階級称号(ペトレイエス将軍)と「ジェネラル・ベトレイド・アス(将軍は我々を欺
いた)」という見出しを引っかけた表現は「命を賭けて戦っている軍人をバカにした
もの」だとして、まるで非国民呼ばわりの大変なキャンペーンになっています。

 このキャンペーンの効果で、世論の空気がやや右傾化したのと丁度同じタイミング
で、イランのアフメデネジャド大統領の問題が起きています。大統領は国連総会(安
倍首相は欠席)のためにNY入りする際に「グラウンド・ゼロ」で献花したいという
意向を漏らしていたのですが、これを市当局が拒否するという事件が起きています。
尚、同大統領はコロンビア大学で講演が予定されていて、こちらは予定通り実施され
る見込みなのですが「911のテロを密かに支持し、イスラエルの滅亡を願っている
ような人間をNYの大学が賓客扱いするのは怪しからん」という声も出ていて、この
講演もどうなるかは分かりません。

 そんなタイミングで、突如非常に心配なニュースが入ってきました。ちょっと複雑
なので箇条書きにしますと、(1)シリアが核施設を稼働させるらしいという情報
を、アメリカが入手してイスラエルに渡したらしい、(2)その情報に基づいてイス
ラエルはシリアの施設を空爆したらしい、(3)その核施設には北朝鮮が技術供与し
ているらしい、というニュースです。

 20日の木曜日には、ブッシュ大統領の記者会見で、この問題に関してNBCのデ
ビッド・グレゴリーが食い下がっていましたが、ブッシュ大統領自身が(1)から
(3)の全てについて「全てノーコメント」と非常にガードが堅く様々な憶測を呼ん
でいます。私も軽々しいことは申し上げられませんが、政府や共和党、あるいは軍の
一部に真剣に「イラン」もしくは「シリア」と事を構えることでアメリカ社会に「戦
時」のムードを再現させたいという勢力があり、それが今週あたりをターニングポイ
ントにして動き出しているのかもしれません。勿論、実際には何もなく単なる舌戦や
神経戦だけなのかもしれませんが、もしかすると、対北朝鮮外交などにも変化がある
かもしれません。

 そんなわけで、緊張緩和の動きと、逆に緊張を高めようという動き、そして国内世
論の微妙な右傾化、その一方でジーナでは人種対立と、アメリカは再び落ち着かなく
なってきました。サブ・プライム問題に端を発した景気の軟化傾向や対ユーロのドル
安なども、イヤな雰囲気を漂わせています。こうした動きが、更に勢いづくのかどう
か、来週以降慎重に見てゆく必要がありそうです。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『メジャーリーグの愛され方』。訳書に『チャター』がある。
最新刊『「関係の空気」「場の空気」』(講談社現代新書)
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061498444/jmm05-22>
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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