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新型インフルエンザの "リアル" を語ろう = 日経BP
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投稿者 ダイナモ 日時 2008 年 3 月 29 日 09:31:20: mY9T/8MdR98ug
 

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/90/index.html



 鳥インフルエンザの危険性について、SAFETY JAPANではこれまで書評を通じて警鐘を鳴らしてきた。新型インフルエンザの脅威は、ようやく知られるようになったが、まだまだ正しい情報が一般に届いているとは言えない状況だ。特にこの問題を専門としている研究者の生の声はなかなか表に出てこない。

 田代眞人氏は、日本を代表するインフルエンザの研究者であるとともに、世界保健機構(WHO)で新型インフルエンザ対策を担当するインフルエンザ協力センターのセンター長を務めている。今回のインタビューはWHOに勤務する田代氏が帰国するタイミングで、貴重な時間を割いていただき行ったものだ。

 田代氏は、新型インフルエンザが、全身感染を起こす、これまでにない高い病原性を示すものになるであろうと指摘する。このままでは被害は第二次世界大戦以上になる可能性もある。「不作為は、犯罪ですらある」と、国を挙げての対策推進を訴える。

聞き手・文/松浦 晋也、写真/北山 宏一
2008年3月28日



――高病原性鳥インフルエンザについては、今年1月に放映されたNHKの番組(NHKスペシャル「シリーズ最強ウイルス」1月12、13日放映)などでやっと一般にも認知されるようになってきましたが、その実態についてはまだまだ情報の周知が徹底していないようです。まず、「そもそも鳥インフルエンザとはなにか」から説明をお願いできますか。

田代:わたしは約20年前から鳥インフルエンザの研究をしてきました。鳥インフルエンザウイルスは、トリを宿主とするウイルスで、基本的にトリの腸管で増殖します。ウイルスに感染したトリにはあまり激しい症状は出ません。わたしが研究を始めたころは、鳥インフルエンザは鳥に特有の病気で、ヒトに感染することはないと思われていました。

 ところが1997年に香港で18人が鳥インフルエンザに感染し、うち6人が死亡するという事件が起きました。この時は香港の防疫担当者だったマーガレット・チャン現世界保健機構(WHO)事務局長が、香港で飼育されていた鶏130万匹を殺処分するという大英断を下して、感染拡大を食い止めました。

 この時のウイルスが、現在問題になっている強毒型のH5N1ウイルスでした。強毒型ウイルスによる世界的大流行、すなわちパンデミックが現実味を帯びてきたのです。

――強毒型の高病原性鳥インフルエンザウイルスというのは、自然界には存在しなかったのでしょうか。

田代:過去、自然界に存在した鳥インフルエンザウイルスはすべて弱毒型で野鳥を殺しませんでした。今回の強毒型ウイルスは野鳥も殺します。それだけではなく、ほとんどのほ乳類に感染して死に至らしめます。当然、ヒトも例外ではありません。

――その強毒型、弱毒型というのは具体的にどういうことなのでしょう。

田代:従来のインフルエンザウイルスはトリ型もヒト型も弱毒型です。トリの場合は感染してもほとんど症状が出ませんし、ヒトでは気道の粘膜細胞など一部の細胞でしか増殖しません。ウイルスは細胞に入り込んで増殖し、最後に細胞を破壊して出てきます。ですからウイルスに冒された部位では細胞が破壊されて炎症が起きます。弱毒型の場合は、気管しか炎症を起こさないわけです。

 一方強毒型は、全身の細胞で増殖する能力を持ちます。ですからさまざまな臓器で炎症が起きて多臓器不全を起こしますし、血流にウイルスが入り全身に回るウイルス血症という症状も出ます。特に重症の肺炎を起こすため、治療には人工呼吸器が欠かせません。

 これとは別にH5N1ウイルスはサイトカインストームという症状も起こします。免疫は通常、ウイルスから身体を防御するのですが、その免疫が暴走して、自分の体を攻撃してしまうのです。免疫活性が低い老人よりも、活性の高い若者のほうが危険なのです。

――全身に感染する強い毒性と、サイトカインストームを起こす性質が、高い死亡率につながるわけですね。

田代:人に感染した場合の症状は、既に我々が過去の経験で知っているインフルエンザではありません。いままで人類が経験したことがない強力な感染症です。

 普通のインフルエンザは上気道にしか感染しませんし、健康な若い人が死亡することはほとんどありません。65歳以上の高齢者や、妊婦、糖尿病や腎臓病などの慢性疾患の患者といったハイリスク群が合併症を起こして死ぬ危険性がある程度です。

 ところが今回のH5N1ウイルスは、致死率が非常に高いのが特徴です。気道のみならず、肺の深いところに感染し、ウイルスによる肺炎を引き起こします。細菌による合併症の肺炎ではなく、ウイルスが肺炎を起こすのです。妊婦が感染した場合には、ウイルスが胎盤を通過して胎児に感染した例も報告されています。このようなことは通常のインフルエンザではありえません。

鳥の世界は既にパンデミック状態

――H5N1ウイルスについては、現在どの程度のことが分かっているのでしょうか。

田代:香港の事件の後、研究が進んでヒトでパンデミックを起こしたインフルエンザのウイルスは、すべてトリ由来だということが判明しました。まずトリの間でパンデミックが発生します。その中からヒトにも感染する突然変異が起きて、ヒトのパンデミックを起こすというのが、パンデミックの発生機序だったのです。

 弱毒型のウイルスではトリは死にませんから、野鳥の世界でパンデミックが起きていても分かりません。H5N1の場合、トリも死にますから、野鳥でパンデミックが起きていることが分かるわけです。

――トリの世界では、強毒型の高病原性鳥インフルエンザが既にパンデミック状態になっているということですか。

田代:そうです。鳥の世界では、今現在パンデミックが現実に進行しているのです。

 1997年の香港では、鳥の間でパンデミックになるのを食い止めたと思われました。しかし、2003年春に日本と韓国で、中国から輸入した冷凍鴨肉からウイルスが検出されました。

 中国当局は「そんな事実は確認されていない」としていますが、おそらくは中国のどこかでオリジナルのウイルスが流行を起こしていたのではないかと推定されます。鴨は、強毒型のH5N1ウイルスに感染しても症状が出ませんから。

 2004年に入ると山口県と京都府で、鶏舎の鶏が大量死したことでウイルスの侵入が確認されました。同時期に韓国でも鶏の大量死が起きています。これらのウイルスは2003年に中国産鴨肉から検出されたものと同じでした。

 その後ベトナム、カンボジア、タイでも流行が起こりました。これらのウイルスは、韓国で流行したものと少し違う。現在インドネシアで流行しているウイルスも、これらとはちょっと違います。

――違うというのはどういうことでしょう。H5N1ウイルスにも種類があるということでしょうか。

田代:そういうことです。鳥の世界での流行は2003年後半から始まっています。インフルエンザウイルスは非常に突然変異を起こしやすいので、H5N1ウイルスは現在までに10系統の少しずつ異なる亜種に分化しています。

 ウイルスの亜種のことを専門用語で“クレード”といいます。今、一番広がっているのは「クレード2-2」という亜種です。2005年に中国・青海省で野鳥の大量死を起こしたウイルスで、既に欧州やアフリカにまで広がっています。2003年後半からインドシナ半島で流行したウイルスは「クレード1」というものでした。一時期流行は下火になっていたのですが、今年に入ってから再燃の気配が出てきています。

 1997年に香港でヒトヘの感染を引き起こしたのは「クレード3」でした。2006年には中国・安徽省で新しい亜種の「クレード2-3」が確認されています。これは既に香港や北部ベトナム、ミャンマーなどに広がっています。

 今や、色々な亜種のH5N1の鳥インフルエンザウイルスが世界のあちこちで複雑に流行しているのです。

――それらの亜種はすべて強毒型なのでしょうか。

田代:どの亜種も、ウイルスの毒性はウルトラ病原性と言い得るものです。過去知られた野鳥のウイルスの中で最も強い毒性を示しています。

トリ型からヒト型への変異は時間の問題

――非常に強い毒性を示すにもかかわらず、累計の全世界での死者は360人ほどと非常に少ないです。これはなぜなのでしょう。

田代:現在のH5N1が、まだヒトからヒトへと感染する特性を獲得していないからです。

 にもかかわらず、現実に患者が出ているわけですが、実のところ現状ではどういう人がかかるのかよく分かっていません。鳥との濃厚な接触で、大量のウイルスを体内に取り込んでしまったという可能性はあるのですが、それだけではないのです。インドネシアの場合、患者の25%は鳥との接触がありませんでした。中国の患者も鳥との接触がありません。しかも、鳥の世界で流行が起きていない地域でも、人への感染が起きています。これが何を意味するのかは、まだ分かっていません。

 ウイルスの遺伝子の、どの部分がどう変わるとトリ型からヒト型へと変化するのか、本当のところはまだよく分かっていません。ウイルスが細胞に侵入する時に使うレセプターという部位は、トリ型とヒト型ではアミノ酸が1、2カ所違うだけです。既に2カ所のアミノ酸がヒト型と同じに変異したH5N1ウイルスが見つかっていますが、それでもまだパンデミックには至っていません。

――それは、「そう簡単にトリ型からヒト型になることはない」という安心材料と考えてよいのでしょうか。

田代:そうではありません。ウイルスは増殖の過程において、ある一定の確率でランダムな突然変異を起こします。そしてH5N1ウイルスは、既に鳥の世界ではパンデミックを起こしています。パンデミックということは、鳥の体内でウイルスが非常に多数回の増殖を行っているということです。確率的に、ヒト型ウイルスが出現する可能性はぐっと上昇しているのです。

 例えばサイコロを1回振ると1の目が出る確率は、1/6です。しかし2回振って少なくともどちらかで1の目が出る確率は11/36で、1/6より大きくなります。サイコロを振る回数が増えれば増えるほど、少なくともどこかで1が出る確率は1に近づいていきます。

 鳥の世界でパンデミックを起こしているということは、サイコロを振る回数が増えているのと同じです。ヒトに感染しやすいH5N1ウイルスが出現する確率はどんどん大きくなっていると考えなくてはなりません。

 ひとたび、ヒトに感染しやすい形質を獲得したウイルスが出現すれば、一気に広がるのは間違いありません。なぜなら、新たに出現したウイルスに対して免疫を持っている人はほぼ皆無だからです。感染したヒトからさらに別のヒトヘと広がる過程で、免疫によって拡大が阻止されるということがありません。

 どうやら、ウイルスがヒト型に近づきつつあるという傍証も存在します。トリ型のウイルスは、鳥の体温である42℃付近で増殖しやすく、それ以下の温度では増殖が鈍ります。一方ヒト型のインフルエンザウイルスはヒトの体温である35〜36℃付近で活発に増殖します。同じインフルエンザウイルスでも増殖に適した温度が違うのです。

 ところが、先ほど説明した「クレード2-2」の亜種のH5N1ウイルスでは、既にヒトの体温で活発に増殖するように突然変異を起こしたウイルスが見つかっています。これは、ウイルスが着実にヒトに感染する形質を備えつつあることを示しています。

――いつごろヒト型に変異したウイルスが出現するか予測できないのでしょうか。

田代:突然変異が確率で起きる以上、予測は不可能です。ヒトに感染するために必要な特性にしても、まだ我々の知らない要素があるのでしょう。

 ただし、鳥の世界でパンデミックを起こし、活発にウイルスが増殖していること、そして徐々にヒト型の特性を一部備えたウイルスが出現してきつつあることを考え合わせると、そう遠くない将来にヒト型ウイルスが出現する可能性は高いと考えねばなりません。

 実際問題として、ヒト型とトリ型のウイルスの遺伝子は共通点が多いのです。比較すると、はっきりと異なる遺伝子は10個です。そのうちの5〜6個については、既にヒト型に変異したウイルスが確認されています。10個の遺伝子の差異のうち、どれがヒト型へと変化する決定的な要素なのかは分かっていません。ひょっとすると10個全部そろわないとヒト型には変異しないのかも知れませんし、逆にあと一つでも変異したらヒト型になるのかも知れません。研究が進んでいるとはいえ、分かっていないこともたくさんあるのです。

毒性が弱くなり致死率が下がったほうが危険は増す

―― 一部では、あまりに毒性の強いウイルスは、感染が拡大する前にかかった個体を殺してしまうので、あまり広がらない。だから、感染が拡大するのは毒性の弱いウイルスへと突然変異したときであり、あまり心配するには及ばないとする議論もあります。この考え方は正しいのでしょうか。

田代:確かにエボラ出血熱のように致死率の高いウイルスは、あまり感染拡大を起こしません。それは事実です。ウイルスの繁殖戦略としては、感染した宿主が生き続けて、別の個体に感染させるほうが好都合なので、突然変異は弱毒化の方向に淘汰されるというのも正しい議論です。

 しかし、今問題となっているH5N1ウイルスは、全身感染を起こす強毒型です。強毒型の性質を示す部分の遺伝子は特定されており、それはヒト型ウイルスの特質である10個の遺伝子とは別の部位にあることが分かっています。

 つまり、ウイルスがヒト型に変異することに連動して、強毒型から弱毒型になる可能性はありません。ほぼ間違いなく、強毒型のままヒト型に変異すると考えられます。ウイルスが弱毒型になると主張しているのは、最新の研究成果を知らない人たちです。

――しかし、強毒型の性質を示す部分が、毒性を弱める方向に突然変異していくことは期待できるのではないでしょうか。

田代:やや専門的な話に踏み込みますが、強毒型と弱毒型の違いは、ウイルス表面に並んでいるHAという糖タンパク質にあります。HA はごくかいつまんで説明すると、ウイルスが細胞に取り付き、中に潜り込むにあたって重要な役割を果たします。大ざっぱな理解では、細胞膜を切り裂く“はさみ”だと思っていただいて構いません。

 HAはタンパク質ですからさまざまなアミノ酸が多数結合して出来ています。ウイルスが細胞に取り付くにあたってはHAのアミノ酸の並びの中でも、「開裂部位」と呼ばれる特定の部分の並びが重要な役割を果たします。

 弱毒型では、HAの開裂部位はアルギニンというアミノ酸が一つだけ付いています。一方、強毒型ではアルギニンとリジンというアミノ酸が6個から8個、並んで付いているのです。この違いが、ウイルスの細胞に入り込む能力の差となっています、生物のどの部位の細胞に取り付くことができるかは、HAの特定部位におけるアミノ酸の並び方が決めているのです。

 お分かりでしょうか。強毒型ウイルスが、弱毒型に変異するということは、HAの中の特定部位のアミノ酸が6〜8個連続して脱落することを意味します。つまり遺伝子としては連続した6〜8個の塩基の連なりが一斉に突然変異が起こすということです。

 このような突然変異は、全く起こりえないわけではないですが、非常に起きる確率が低いです。そのような非常に起こりにくい突然変異を「どうせ弱毒型に変異するだろう」とあてにしてはいけません。

――つまり、トリ型からヒト型への突然変異の過程で、強毒型が弱毒型に変化する可能性は非常に低いということでしょうか。

田代:そうです。ですから、最悪のシナリオは、強い全身感染とサイトカインストームを起こす性質を持ったまま、H5N1ウイルスがヒト型になるというものです。

 しかも、パンデミックの発生を考えると、むしろ突然変異により毒性が弱くなり致死率が下がったほうが危険であると考えねばなりません。感染者が死なずに移動すれば、それだけウイルスが広がるチャンスが増えますから。現在の致死率60%が、例えば20%に下がるとかえってパンデミックとしては危ないのです。

 膨大な被害を出した1918年のスペインインフルエンザの致死率が2%だったことを考えれば、致死率がたとえ20%程度にまで下がったとしても、過去に類を見ない大災害になる危険性があると言わねばなりません。

強毒型ウイルスが毎年流行する可能性も

――未来のいつか、それも遠くない将来に強毒型のH5N1ウイルスがヒトへの感染性を獲得するのは、もう間違いないことなのでしょうか。

田代:専門家の間では、ヒトに感染する新型ウイルスの出現は、「Ifの問題ではなくWhenの問題」、つまり「ほんとうに起きるかどうか」は既に問題ではなく「いつ起きるのか」が問題だということで認識が一致しています。

 インフルエンザウイルスは、ある時新型ウイルスが出てパンデミックを起こすと、それ以前に流行していたウイルスが消えていってしまうという奇妙な性質を持っています。どうしてそんなことが起きるのかはまだ分かっていません。

 1918年のスペインインフルエンザはH1N1型でした。H1N1ウイルスはその後ずっと小流行を引き起こしていましたが、1957年にH2N2 のアジアインフルエンザが出現すると、H1N1のウイルスはどこかに消えてしまいました。1968年にH3N2の香港インフルエンザが出現すると、 H2N2のウイルスが消えました。

 ところが1977年にH1N1のソ連インフルエンザが出現します。ソ連インフルエンザのウイルスは、さまざまな証拠からどこかの研究機関で保管されていたウイルスが漏れ出したと考えられています。このときはH3N2のウイルスは消えませんでした。その理由も分かってはいません。現在はH3N2と H1N1のウイルスが共存しています。この状況が次のパンデミックの後にどのような影響を与えるかも不明です。

 これまでと同じことが起きると仮定しましょう。すると次のパンデミックが来ると、これまでのウイルスは消えていきます。

 次にパンデミックを起こすウイルス候補は、強毒型のH5N1ウイルスのほかに、H9N2というウイルスがあります。こちらも鳥の世界では広範囲に広がっていますが、弱毒型です。ヒト型に変異するとしても、大きな健康被害は出さないでしょう。

――H5N1とH9N2とでは、どちらがヒト型に変異する可能性が高いのでしょうか。

田代:可能性としては同じぐらいです。ですから次はH9N2が来るから大したことにならないという人もいます。

 しかし、もしも強毒型のH5N1ウイルスがヒト型に変異した場合、健康被害はH9N2と比べると比較にならないほどひどいものになるでしょう。社会活動の崩壊が起こり得ると考えなくてはなりません。

 最悪の事態に備えるのが危機管理の定石です。パンデミックが起きてからでは遅いのです。起きる前に、最悪のシナリオに基づいて対策を立て、可能な限りの準備を進めておくべきなのです。

 「まず、強毒型のH5N1ウイルスへの対策が最優先事項」。これは世界的なコンセンサスです。

――今、ウイルスがパンデミック毎に代替わりするというお話でしたが、ということはもしもH5N1ウイルスがヒト型に変異してパンデミックを起こした場合、その後毎年H5N1ウイルスの亜種が冬になるたびに流行を起こすようになるということでしょうか。つまり、高い致死率を示す強毒型のインフルエンザが毎年流行するようになってしまうのでしょうか。

田代:その可能性は否定できません。ですからパンデミック対策では、いったんパンデミックが起きてしまった後の世界において、どのような防疫を恒久的に進めるかということも視野に入れておかなくてはなりません。それは社会の仕組みを組み替えるような一大事業になるでしょう。

 強毒型のH5N1ウイルスがヒト型に変異するということは、人類史に大きな影響を与える一大事なのです。

発生から1週間で世界中に広がる

――強毒型のH5N1ウイルスへの対策が問題になっているにもかかわらず、日本の厚生労働省は、弱毒型のスペインインフルエンザをモデルケースにした対策を立てています。これは取り組みが甘いのではないでしょうか。

田代:厚生労働省は、感染率25%、致死率2%で対策を立てています。(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/13.html) 全人口の25%が感染し、感染者のうち2%が死亡するという意味です。

 スペインインフルエンザの感染率は48%でしたから、対策の前提となる被害見積もりはスペインインフルエンザよりも甘いです。

 この数字は米国のCDC(疾病予防管理センター)が、1968年の香港インフルエンザの時のデータに基づいて作成した数式で算出されています。この数字を算出した時は「仮に」というモデルケースとして出したのですが、報告書では「仮に」が取れて数字が一人歩きしてしまいました。

 ちなみに、この数式はソフトウエア化されているのですが、米国では既にそのソフトウエアは使われていません。

 米国では新型インフルエンザが起きた場合の対策を2006年に改訂しているのですが、その中で台風と同じ1から5までの「カテゴリー」というスケールで被害規模を表しています。香港インフルエンザがカテゴリー2、スペインインフルエンザはカテゴリー5の一番下に分類しています。つまりスペインインフルエンザを最悪のケースとは考えていないということです。

――NHKの番組では米国の取り組みが進んでいるとして紹介されていましたが、米国ではどの程度の被害を想定して対策を立てているのでしょうか。

田代:米国の保健省が昨年大手メディア向けに行ったカンファレンスでは、感染率20〜40%、致死率20%ということでした。

 オーストラリアのシンクタンクであるロウイー研究所が出した推定では米国では死者200万人が出るとしています。日本は人口密度が高くて米国よりも条件が悪いので死者210万人です。しかし、ロウイーの推計はスペインインフルエンザのような弱毒型ウイルスに対してのものです。

 H5N1のような強毒型ウイルスがパンデミックを起こした場合、どの程度の被害が発生するのかについて、きちんとした推計はまだ出ていません。

 実際にはどの程度の被害を想定すべきなのか。そこで米国が想定している致死率20%を採用し、感染率を中間の30%として、日本の人口1億 2800万人を掛けてみてください。米国の見積もりを採用すると、なんの対策もなしにパンデミックが起きると日本では768万人が死亡するという数字が出てきます。感染率を25%としても、600万人以上の死者が出るということになります。

――第二次世界大戦の2倍以上の死者が出るということになりますね。

田代:スペインインフルエンザの時と同じく、全く無防備のままで強毒型のH5N1ウイルスによるパンデミックを迎えると、こういう事態が起きるということです。これは社会崩壊を意味すると考えていいでしょう。

 しかも現在は交通機関が発達しています。米国のカンサス州で最初の流行を起こしたスペインインフルエンザがオーストラリアに上陸するのに1年かかりました。現在はこんな時間的猶予はないでしょう。ひとたびパンデミックが発生したら1週間程度で全世界に広がると考えておかなくてはなりません。

封じ込め、健康被害の最小化、社会機能の維持 ―― が対策の三つの柱

――米国が想定している致死率の20%は、これよりも下がる見込みはないのでしょうか。

田代:現在までのところ、鳥インフルエンザは致死率63%ほどですが、これらの患者はそれぞれの国で最高水準の医療を受けているということを忘れてはなりません。肺炎になれば人工呼吸器を付けますし、タミフルの大量投与も受けています。それでもなおかつ、この致死率なのです。

 パンデミックが起きると、まず人工呼吸器が足りなくなります。患者は重い肺炎を発症しますから、人工呼吸器なしては呼吸困難に陥ります。

 現状ではタミフルも不足するでしょう。日本はタミフルを2800万人分備蓄しているとしていますが、現在鳥インフルエンザ患者には、通常のインフルエンザの2倍の量を2倍の期間投与しています。つまり日本の備蓄量は実質700万人分でしかないのです。これでは全く足りません。過去の経験によれば、パンデミックでは第一波、第二波というように爆発的感染拡大が波状攻撃をかけてきます。現在の備蓄量では第一波をしのいだとしても、第二波以降はタミフルが尽きてしまいます。

 しかもパンデミックは、全世界同時に起こりますからその時になっても海外からタミフルを緊急輸入することはできないでしょう。タミフルを持っている国から「お気の毒ですが日本は日本で対応してください」と言われて終わりです。

 このように考えていくと、たとえ今後、ウイルスの突然変異で致死率が下がっていったとしても、パンデミック時の死亡率は高くなると言わざるを得ません。

 日本には危機に直面しているという意識がありません。パンデミック時に医療サービスをどうやって維持するのか。患者が病院に殺到すると、医療体制が崩壊します。崩壊を防ぐためには、感染の拡大を防いで、感染者が一気に集中する“流行の山”を低くすることが必要ですが、そのために具体的にどうすればいいのかは、まだ話し合われていません。

 そのほか、生活必需品の輸送やライフラインをどうやって維持するか。感染を避けるためには家庭への籠城が推奨されますが、では籠城を可能にするにはどのような環境を整備するのか。世界経済が一蓮托生になっている今、ビジネスをどうやって継続していくのかも大切な課題です。要するに準備が全然足りていないのです。

――パンデミックに対する備えはどのような方針で行うべきものなのでしょうか。

田代:パンデミック対策には、大きな柱が三つあります。まず封じ込めによって新型ウイルスの出現を回避することです。しかし現在、既に鳥の世界ではパンデミック状態になってしまい、封じ込めに失敗してしまいました。ヒト型ウイルスが出現した場合の封じ込めも、よほど運が良ければ可能、という程度しか期待できないと考えています。

 次の柱が健康被害を最小にとどめることです。限られたリソースの中でどうやって最大の効果を得て、感染者や死者を最小限にとどめるかです。この段階では、誰にワクチンを接種するか、誰にタミフルを投与するかという、厳しい選択を迫られます。事前に議論を尽くして誰もが納得する行動計画を策定しないと、社会的なパニックが起きる恐れがあります。

 最後が社会機能の維持です。先ほども言ったようにパンデミックは世界全体で同時に起きます。その時になれば海外からの援助は期待できず、日本は日本だけで難局を切り抜けねばなりません。社会秩序を維持し、経済を回し、電気・ガス・水道のライフラインに各種物流にゴミの回収といった事業の継続、さらには自給率が40%を切っている食料をどうやって確保し、国民に届けるか、すべて事前に議論し、行動計画を策定して、訓練を行っておかなければ、社会が崩壊し、悲惨なことになるでしょう。

パンデミック対策は防疫というよりも“戦争”

田代:日本人はリスクコミュニケーションが下手です。新型インフルエンザにはどのようなリスクがあり、どのような社会的な影響が出るのか、被害を最小限にとどめるには我々一人一人がどのように振る舞うべきなのか、といったことが国民に対して説明ができていません。

 パンデミックは生命の危機ですから、パニックになった人々が勝手に振る舞うと悲惨なことになります。パニックを防ぐには事前の説明と議論を徹底するしかありません。説明が不十分だと根拠のない風評が広がり、被害を一層拡大することになるでしょう。

 現状では、ワクチンもタミフルも万能ではありません。もちろん備蓄量も不十分です。パンデミックが起きれば必ず「国はなにをしているんだ」という声が上がるでしょうが、国が何でもできるわけではないのです。

 リスクのある現状で、被害を最小限にとどめるには一人一人がリスクを理解し、理性的に行動しなくてはなりません。理性的な行動のためには、なによりも正しい知識の徹底と、開かれた場での議論が必要です。

 パンデミック対策は防疫というよりも、戦争と考えるべきものです。トップダウンによる素早い意志決定と思い切った行動が、被害拡大をくい止めます。緊急時の素早い意志決定と行動は、平時に十分な準備と訓練を行っておかなければできません。

 その意味では、第二次世界大戦に負けてトップダウン的な社会組織が解体された日本とドイツは、不利な状況にあります。また、日本は2002年の SARS(新型肺炎)の被害を受けなかったので、パンデミックの恐怖を実感できていないことも問題です。SARSの時、世界の医療関係者は、病院での院内感染を防げなかったことに大きな衝撃を受けました。SARSの被害を受けたカナダなどの国は、いち早く新型インフルエンザに対する対策へと動き出すことができました。

 だからといって、日本が手をこまねいているわけにはいきません。これだけ全世界がパンデミック対策を実行している時に不作為というのは犯罪ですらあります。

 日本も首都直下型地震については、かなりの準備を行っています。首都直下型地震は、今後30年間に60%の確率で起きるとされています。一方、新型インフルエンザによるパンデミックは、平均して27年の間隔で1回、確実に起きています。発生確率は、首都直下型地震よりも、新型インフルエンザのほうが高いのです。

安全保障の一環として対策を進める米国

――米国はどこまで準備を進めているのでしょうか。

田代:米国は、はっきりと強毒型のH5N1ウイルスによるパンデミックを安全保障の問題だと認識しています。テロや核戦争と同じ、国家の危機という位置づけで、どうやって国民を守り国力を維持するかの対策に予算を注ぎ込んでいます。

 CDCは、日本では保健所の大きいものというイメージで見られているでしょうが、実態は軍とともに、衛生保健面で米国という国の安全保障を司る組織です。日本の保健所とは全く組織の性格が異なる、疾病に対して攻撃的な姿勢を持つ軍隊に似た組織なのです。

――スペインインフルエンザでは軍隊が流行の発信地となりましたが、米国は国防総省も含めてパンデミック対策を組んでいるということでしょうか。

田代:米国防総省がなにをやっているかは外からは分かりません。しかし、当然のことながら相当の予算を注ぎ込んで対策を行っているはずです。現在米国は毎年約9000億円をパンデミック対策に注ぎ込んでいますが、表に出てこない国防費からの支出を考えるとこれだけでは済まないでしょう。表から見えるのがすべてだと思ってはいけません。

 在日米軍を含む在外派遣軍を、パンデミック時にどのようにして米本土に撤収するかという行動計画も、当然のことながら策定済みのはずです。

 米国は、国民に対して、新型インフルエンザに関する知識の周知徹底や籠城のための家庭備蓄の呼びかけを行う一方、事前に用意できるプレパンデミックワクチンの備蓄、全国民分のワクチンを半年で製造し、定めた優先順位で順次接種していく体制の整備を着実に進めています。

 もちろん医療分野のみならず、例えば学校を休校にした場合、子どもにどうやって教育を届けるかというような生活面での対策も行っています。ありとあらゆる手段を使って社会機能を維持することを目指しています。

 それだけではなく、パンデミックが起きてしまった後に、どのようなプランで社会や経済を回復させていくかという行動計画の策定すら行っています。「何があっても米国は生き残る」というのが彼らの意志です。それに従って着々と手を打っているのです。

プレパンデミックワクチンのリスクとベネフィット

――基本的にワクチンは、対象のウイルスがなければ製造できません。新型インフルエンザはまだ出現していないので、ワクチンの事前製造は不可能です。しかし、現在プレパンデミックワクチンというものが製造可能になっているそうですね。

田代:プレパンデミックワクチンは、今現在のH5N1インフルエンザウイルスで製造するワクチンです。

 過去の弱毒型ウイルスは、鳥が死なないので鳥の世界でどんなウイルスがパンデミックを起こしているかを調べるのが困難でした。幸か不幸か強毒型のH5N1ウイルスは感染した鳥を死なせてしまうので、どんなウイルスが広がっているかを調べることができます。

 プレパンデミックワクチンは、新たに出現するであろうヒト型のウイルスにぴったり適合するものではないのですが、同じH5N1のウイルスに対して一定程度効くであろうと予想されています。同じH5N1ならば、ある程度共通の免疫をつけることができるのです。これを交差免疫といいます。

 初期のころは、ワクチンを作っても大量に接種しないと免疫をつけることができないとか、クレード1の亜種で作ったワクチンは別のクレードに対する免疫をつけてくれないとか、さまざまな問題があったのですが、最近になってアジュパント(免疫増強剤)という物質を同時接種することで、かなりの効果が得られることが分かってきました。

 プレパンデミックワクチンは重要な対策手段です。国民の60〜70%に事前に接種しておくと、パンデミックが起きないという数理モデルを使った研究が発表されています。事前に全国民に接種しておくと、パンデミックによって発生する人的経済的被害を考えれば圧倒的な低コストでパンデミックを乗り越えることができるのです。

 スイスは国民全員にプレパンデミックワクチンを接種するとしています。フィンランドもスイスに続いて、国民全員への接種に動いています。

――米国はプレパンデミックワクチンをどう考えているのでしょうか。ご著書の「新型インフルエンザH5N1」(岩波科学ライブラリー)によれば、米国はプレパンデミックワクチンよりもパンデミック発生後のワクチン製造に力点をおいているということでしたが。

田代:米国は、初期の大量に接種しないと効かないタイプのプレパンデミックワクチンを、それでも頑張って2800万人分備蓄しました。そこへアジュパントの効果が判明し、1/10程度の少量接種でも免疫を発現させることが可能なことが明らかになりました。つまり米国は、対外的には公表していませんが、既に全国民分のプレパンデミックワクチンの備蓄が終わったのと同じ状況にあります。

 おそらく現在は、どのようなアジュパントを使えばより効果的に免疫を発現させることができるかを研究していると思います。

――では日本はどのような状況なのでしょうか。

田代:1000万人分の備蓄があり、2007年度予算でさらに1000万人分を積み増しすることになっています。それでも全人口、1億2800万人には全然足りません。

 しかもパンデミック発生時の接種体制がまったく出来ていません。備蓄ワクチンは7万人分ずつボトルに入れて保管しています。実際の接種のためにはこれらを小分けしてアンプルに詰め、接種する医師のところまで届ける必要があります。これに要する時間は、1カ月から1カ月半という見積もりです。これではせっかく備蓄していても、1週間で全世界に広がるであろうパンデミックを抑止する力になりません。

 さらには、具体的にどのような人々に優先的に接種するかの行動計画もまだ出来ていません。国民全員分を備蓄できないのなら誰に接種するかについて国は方針を明らかにして、事前に徹底した議論を行って国民的な合意を得なくてはなりません。でなければいざパンデミックとなれば、ワクチンを求める人々でパニックが起きてしまいます。

 ワクチンの保管期限は製造から3年です。3年が過ぎたら使えなくなります。ですからわたしは希望者には先行してプレパンデミックワクチンを接種すべきだと考えています。

 とはいえ、今のプレパンデミックワクチンは色々とギャンブルの要素があります。本当に新型インフルエンザに対する免疫をつけてくれるのかは本番にならなければ分かりません。多くの人に接種すれば、中には副作用が出る人もあるでしょう。そういうことを含めてリスクとベネフィットをきちんと説明しなくてはならないのです。その上で、ワクチンを希望者に接種していかなくてはならないだろうと考えています。

 接種を受ける人が増えれば、副作用などの事故は必ず起きます。そのリスクをどう評価するか。科学的なデータを提示して、きちんと説明し、国民の納得を得なくてはならないでしょう。

文明が強毒型ウイルスを招き寄せた

――しかし、なぜ今、この時代に、これまで自然界には存在しなかった強毒型のウイルスが出現したのでしょうか。

田代:人間が大規模な養鶏を始めたことが大きく影響しているのでしょう。自然界には同種の鳥類が何万羽も集まるところなどめったにありません。自然界では強毒型の突然変異が起きても、感染したトリがすぐに死んでしまうので、ウイルスは感染拡大を起こせず、消滅してしまうのです。

 養鶏場のような、トリが密集している場所があって初めて、強毒型のウイルスは増殖し、さらなる突然変異を起こして鳥類の間に広がることができたのです。

 その意味では、強毒型のウイルスの出現は、人が起こしたことと言えなくもありません。便利さや快適さを求める文明が強毒型ウイルスを招き寄せたのです。

 しかし、文明は同時に科学技術をも進歩させました。過去のパンデミックは常に起きてみなければ分からない、予測不可能の災厄でした。それは20世紀に起きたスペインインフルエンザでも同じでした。

 しかし今、H5N1インフルエンザウイルスは、何年も前からその脅威がはっきりと分かっています。21世紀の我々は科学技術を使い、やがてやってくるであろうパンデミックに対して事前に対策を立てることが可能なのです。

 対策を立て、パンデミックに対する準備を可能な限りしなくてはなりません。パンデミックが来てから対応策に追われるのが20世紀の防疫ならば、事前の十分な準備こそが21世紀の新しい防疫なのです。
 

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