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地方の闇〜詐偽師Xと夕張市〜「三位一体改革」が最後のタガ外し、地方大暴走の恐れ【NBonline】
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投稿者 ダイナモ 日時 2007 年 2 月 21 日 23:08:00: mY9T/8MdR98ug
 

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070220/119375/

 以前、親しい友人と食事していた時、「俺の知り合いに、とんでもないやつがいるんだけど……」と、ある男のことを話し始めた。友人の独演会は延々2時間に及んだが、全く退屈しなかった。

生涯一詐欺師が狙いをつけた「村おこし」

 男の名前を仮にX(エックス)としよう。友人によると、「生涯一詐欺師」だそうである。

 高校時代、Xは本、ウォークマン、スキーウエアなどを万引きし、始業前の教室の「朝市」で売りさばいていた(進学校だったので、大学入試の過去問題集である「赤本」がよく売れたという)。また、老人を狙ったひったくりもやった(事件になって新聞に出たが、Xは尻尾をつかませなかった)。

 父親は公務員だったが、Xは「勉強して、一流大学に入って、公務員になるなんて最低だ。俺は親父のようなつまらない人生は送らない。世の中何でも金で買えるんだから、金儲けするのが一番手っ取り早い」と言っていたそうである。このあたりは、ホリエモンの先駆けである。

 東京の大学に進学してからは、金持ちの女子大生を騙して財布を抜き取り、大学の学園祭では模擬店の店番をして売り上げを抜き取り、ヤクザがやっているゲーム賭博の店番をして売り上げを抜き取り、といった生活を送った。相手にばれないように、抜き取る金額やタイミング、被害者へのトークに様々な工夫をこらすので、友人は端で見ていて感心させられたそうである。

 大学を卒業後、サラリーマンを1年ほどで辞め、自分で事業を起こし、観光運輸業などを手がけた。中にはうまくいったものもあり、それを売却して、また別の事業を始めた。結婚は、資産家の娘を騙して結婚し、いったんは妻の実家が経営する会社の幹部に納まったが、従業員の女性に手をつけて、子会社の1 つを手切れ金に放逐されたそうである。

 ひとつ所に3年以上住まず、事業がうまくいくとすぐ売却して別の事業に注ぎ込み、資産を持たず、いつでも逃げられるように生活しているという。趣味は、マリファナを吸いながらクラシック音楽を聴くこと。

 そのXが、数年前に手がけたのが、「村おこし詐欺」である。


【莫大な補助金が「ハコモノ事業」で“食い物”に】

 日本では、地方自治体に様々な金が付く。特に過疎地は「過疎債」という、発行体は元本の3割だけ償還すればよく、残り7割は丸々もらえる債券を発行できる(残りの面倒を見るのは地方交付税である)。そのほか、農林水産省が所管する中山間地域総合整備事業、農山村地域就業機会創出緊急特別対策事業、構造改善事業、国土交通省が所管する都市公園事業など、様々な名目で出る補助金や交付金があり、例えば、北海道の由仁町(人口約6500人)はこうしたカネをフルに活用して、国内最大級のハーブガーデンを作った。総工費40億6000万円のうち、町と地元の農協が出資したのは、わずか5580万円である。

 Xは「村おこしコーディネーター」という肩書きを作り、関係者を接待して「村おこしをやって、町を全国的に有名にしましょう」と、ハコモノ事業を売り込んだ。

 1年余り前、私は、Xが手がけたある農村のハコモノ施設を取材で訪れた。

 総事業費約18億円をかけた、温泉、露天風呂、マッサージ室、レストラン、喫茶店、大小宴会場、売店、農産物直売所などがある一大複合温泉施設であった。資金の大半は、過疎債と地方交付税を積み立てた「ふるさと基金」からで、村の一般会計からの拠出は2億円余りにすぎない。村は人口4000人ほどの過疎の村で、日中は通りにほとんど人影がない。墓と、刈り取ったあとの水田ばかりが目立つ、死者の町のような土地だった。村に不釣り合いな大温泉施設を見た瞬間、この施設は赤字だろうなあ、と思った。案の上、取材を進めると、開業初年度から赤字を垂れ流しているということだった。

 Xは施設運営の幹部に納まって、月給70万円余りを取った。それ以外に施設の内装工事や備品購入に関与した。すなわち、仲介して金を抜いていたと想像される。

 Xは持ち前の人当たりの良さで、村の人々の間に入り込んでいった。私が取材した人たちは、Xの前半生の話を聞くと「本当にそんな人なんですか!? 折り目正しくて、アイデアもある、優秀な人だと思っていましたが……」と当惑した。ただ一人だけ、社民党の年輩の村会議員だけは、Xをひと目見て「あの男は、絶対に駄目だ」と断言したそうだ。その方は、長年保護司(犯罪や非行を犯し、保護観察処分になった者の更生を助けるボランティア的仕事)をやっているそうである。たぶん犯罪者に特有の匂いを、Xから嗅ぎ取ったのだろう。

【詐欺師の上をいくゴロだった“地元の名士”】

 Xにとって計算外だったのは、「地方の闇」の深さであった。

 X以上に温泉施設を食い物にした連中がいたのである。土建屋の社長である村長と、その娘婿である別の土建屋だ。2人は、地域一帯の土木・建設工事の談合を仕切っており、村長は、村の公共工事の入札指名業者の名前を自筆で書き加え、地元のゴロである娘婿の方は、工事に群がってくる暴力団などを抑える役割をしていた。Xの手がけた温泉施設も、総工費のうち、5割強は大手ゼネコンが受注したが、それ以外のかなりの工事や備品の納入を村長の娘婿の会社が受注した。また、施設の警備・清掃は、警備・清掃業の実績がない村長の娘の会社が受注している。さらに、ゼネコンから村長に金が流れているとも言われる。

 欧米では、こういう公私混同をしただけで、村長はクビである。東京でも問題になるだろう。ところが、地方では、共産党の村議や一部の人々を除いて、こうしたことをほとんど問題視しないのである。

 やがて、施設の赤字補填のため、村が追加財政支出を余儀なくされる事態になり、経営にメスを入れる調査特別委員会が村議会で設置された。委員会は 14回開かれ、延べ13人(村長は2回、Xは1回)が参考人として呼ばれた。5カ月間にわたる調査の末に出された結論は、内装工事、備品購入、商品の仕入れ、警備・清掃、屋外のテント施設(売店)の建設と撤去などに問題があり、経営は放漫で、施設を運営する第3セクターの社長である村長は責任放棄をしているというものだった。私も報告書を読んだが、なかなか厳しい内容だった。

 ところが、問題の追及はこれきりになってしまったのである。共産党や社民党の村議が中心になって、調査を継続するための決議案を村議会で2度提出したが、反対多数で否決された。反対派は「過去のことをほじくり返すより、今後どうするかが重要」とうそぶいたという。また、第3セクターの帳簿は、村の監査委員以外見ることはできず、監査委員は調査の継続に反対した。


【自浄能力なき地方の闇、なお色濃く残る金権体質】

 こうした状況の中、警察が動いた。村の自浄能力のなさに、業を煮やしたようだ。備品購入に関する不正入札(公文書偽造)の疑いで、役場の企画財政課長と家具を納入した業者の社員を逮捕したのである。役場にも捜査が入り、小さな村に激震が走った。役場の課長は、高卒の苦労人で、真面目に仕事をしていた人だったが、村長らに命じられるまま、書類を作っていたようだ。

 その直後、Xも逮捕され、約3週間拘留されて検察の取り調べを受けたが、従属的犯行で関与の度合いが低いとして、不起訴処分になった。私の友人いわく「すべてを役場の課長がやったかのように、Xが書類を作っていたに違いない」。なお、役場の課長が逮捕された日、村長は悠々と温泉に入っていたそうである。

 まもなく、村長も偽造有印公文書作成・同行使容疑で書類送検された。村では村長辞任を求める声が上がったが、「信頼回復に努力していく」として居座り、村議会の追及に対しては「判を押したのは事実だが、入札が偽装だったとは全く知らなかった」「たくさんの書類を決裁しているので記憶にない」と、のらりくらり逃げた。村議会では、村長の辞職勧告決議案が出されたが、これもまた反対多数で否決された。

 さらに村長は、役場の課長を救うため、刑事事件で有罪になった職員でも、執行猶予付きなら失職を免れることができるとする村の分限条例(職員の身分に関する条例)の改正案を議会に提出した。これに対して、大学教授などの識者は「言語道断であり、当該職員と共謀したとされる村長が提案するのは、二重にふざけている」とし、新聞などマスコミも一斉に糾弾した。しかし、村長派の議員が「熱心に職務に取り組む職員ほど、法令違反に近づく」という、訳の分からぬ賛成論をぶち、村議会はこの条例改正案を可決してしまった。

 村長は、自分の役割は、公共事業を仕組んで、それを(賄賂で掠め取った金を含め)村の人々に分配することだと信じており、悪いことをしたとは全く考えていなかったそうである。村議会は一貫して「臭い物には蓋」の態度を取り続けた。東京などの大都市やその周辺では、ガバナンスということが言われ、もはや田中角栄的金権政治は通用しない。しかし、地方では、行政も住民の意識も、まだ昭和30〜40年代なのである。1つの表れが、自治体の首長に、建設業出身者が選ばれることだ。私も北海道の片田舎の人口約3000人の町の出身だが、やはり建設会社の社長は町の名士で、町長を務めていた。


【逮捕された村長宅から「1億円」以上の現ナマ】

 さて、Xが関与した温泉施設の話だが、村長や村議会の態度に警察がカチンときた。そんな反省のない態度なら今度は徹底的にやってやる、とばかりに、2県をまたぐ捜査本部を設置し、別件の汚水処理施設建設工事にからむ受託収賄の疑いで、村長と娘婿を逮捕してしまった。村長はそれでも職に居座ろうとしたが、さすがに村議会でも批判が強まり、辞職勧告決議案が可決される見通しになった。村長はついに観念して辞職した。警察関係者によると、村長の自宅の 2階には大きな金庫があり、1億円以上の現ナマが入っていたそうである。いったん改正された分限条例は、元に戻された。

 裁判では、村長、娘婿、役場の課長ともに有罪になった。村長は村民に「お詫びの手紙」を出し、今は小さくなって暮らしている。娘婿は別の事業をやり、失職した元課長は、気の毒に思って世話をしてくれた人の紹介で、地元の会社に職を得たそうである。温泉施設はダーティーイメージが付き、客足は相変わらず伸び悩んでいる。

 Xは、司直の手からは逃れたが、「地方には懲りた。俺は地方にはもう手を出さない」と言っているそうである。最近は、別のビジネスをある大手企業と手がけるため、ちょくちょく上京しているそうなので、もしかすると、あなたのそばにいる男かもしれない。なお、Xの物語は、このほど上梓した『カラ売り屋』(講談社)の中の1編、「村おこし屋」に詳しく書いた。


【夕張破綻も同根、負債膨張招いた地方自治体の「安全神話」】

 Xが複合温泉施設を手がけた村に比べると、今、話題になっている夕張市は、多少事情が違う。

 かつて石炭の町として栄えた夕張市は、1970年代から次々と炭鉱が閉鎖され、最盛期に11万7000人いた人口は、今では1万3000人弱になった。炭鉱の町として開発され、大規模農業にも向かない土地で、石炭産業以外に見るべき産業もない。

 そこで、1979年から2003年まで6期24年にわたって市長を務めた中田鉄治氏が、「炭鉱から観光へ」を合言葉に、石炭博物館、遊園地、メロン城、ロボット大科学館、マウントレースイスキー場といった、1件当たり10億〜30億円のハコモノ事業を次々と起こし、町を再生しようとした。1990 年には市長の発案で「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」が始まり、過去17回で約34万人を集めた。ちなみに「幸福の黄色いハンカチ」(高倉健・倍賞千恵子主演、1977年)は、夕張が舞台である。

 夕張の町おこしは、バブル期には国から豊富な交付金を受け、一時的に成功した事業もあった。しかし、バブル崩壊とともに交付金や観光客が減り、旧産炭地への支援を定めた産炭地域振興臨時措置法(1961年)も2001年に失効した。資金繰りに窮した市は、ヤミ起債(「空知産炭地域総合発展基金」からの不正融資)や粉飾まがいの財政(年度末の出納整理期間を利用しての普通会計と各会計間の債務の付け替え)でやりくりしていたが、ついに支えきれなくなって、2007年度から国の指導の下に財政再建を目指す「財政再建団体」となることを総務省に申請した。

 夕張が今後、本当に財政再建できるかどうかは、全く覚束ない状況である。福岡県の赤池町(現・福智町)は1992年度に財政再建団体になり、 2001年度に再建が完了したが、同町は人口約1万人で、負債額は32億円だった。これに対して夕張市は、人口1万3000人弱で、負債額は630億円超である。

 負債膨張に拍車をかけたのは、地方自治体はデフォルト(債務不履行)しないという「安全神話」だった。その根拠は、地方債を発行する場合、元利償還に要する財源の確保がされていることが条件で(実質公債比率や赤字比率が一定以上になると起債が制限される)、起債が許可制度(2006年からは起債協議制度に移行)であることだった。BIS規制(銀行の自己資本比率規制)上も、地方自治体に対するリスクウエートは0%とされ、銀行も安易に与信した。しかし、前述のチェック機能はきちんと制度化されておらず、実は絵に描いた餅だった。

 ひたすら進軍ラッパを吹き、勝ち目のない博打を打ち続けた中田前市長は、市長を退いて間もない2003年9月に、肝細胞癌で死去した。


【地方の権限を強化する前に、暴走を止める仕組みを作れ】

 夕張市もXが複合温泉施設を手がけた村も、地方特有の問題点を浮き彫りにしている。

 すなわち、

(1)公共事業に依存する体質。中田前市長は、元々市職員であり、土建屋ではない。しかし、ハコモノ事業の恩恵を受けた人々が周辺にたくさんいた。

(2)両者とも、採算性のない事業を無責任に推し進めた。村長も中田前市長も、自分の金だったら、果たしてああいう事業をやっただろうか?

(3)そうした事業を助長する「もらい得」の交付金や補助金が存在した。

(4)ガバナンスが欠如し、「臭い物には蓋」をして問題を直視しない行政や住民の体質が存在した。

 両自治体とも、過疎に悩む気の毒な地域ではあるが、それが無責任なハコモノ事業を推進する理由にはならない。そうした自治体に、安易に金を付けてきた政府の姿勢も問題である。

 Xの村や夕張市に限らず、当事者能力のない自治体は少なくない。Xの村の事件でこれでもかというほど見せつけられた地方のメンタリティーからいって、自律・自浄作用は期待できない。現在進められている「三位一体改革」では、政府の財政負担を減らす魂胆で、地方の権限を強化する流れになっているが、その前に、当事者能力のない地方自治体の暴走に歯止めをかける仕組みを作るべきではないか。

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