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JMM [Japan Mail Media]  村上ファンド、実刑判決の金融市場への影響
http://www.asyura2.com/07/hasan51/msg/415.html
投稿者 愚民党 日時 2007 年 7 月 30 日 16:46:46: ogcGl0q1DMbpk
 

                              2007年7月30日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.438 Monday Edition
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▼INDEX▼

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第438回】

   □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
   □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
   □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
   □金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
   □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
   □津田栄   :経済評論家

 ■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』

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 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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 Q:820への回答ありがとうございました。発生から1週間が経った新潟県中越
沖地震では、「リケン」という自動車部品会社が注目を集めました。エンジンのピス
トンリングを作っている会社で地震の影響で操業が停止し、それがおもな原因で国内
自動車メーカー12社の国内工場で生産ラインが止まりました。22日の昼のNHK
ーBS1のニュースで、そのリケンの水道が復旧したと報じられました。工場に水を
提供する水道管を新しくしたそうです。気になったのは、リケンが他より優先された
のかどうか、ということです。ニュースではそのことは報じられませんでした。

 誤解して欲しくないのですが、リケンを他より優先したのだったら問題だというこ
とではありません。ただ、もしリケンの水道復旧を報道するのだったら、それが「優
先」されたのかどうか、そしてその理由を明らかにすべきだと思いました。国家の基
幹産業である自動車の生産が止まるのは大問題ですが、被災者救済はフェアであるべ
きです。危機に際して国や自治体が何を優先するのか、わたしたちは知る権利があり
ます。

 先週、村上ファンドの村上被告に実刑が言い渡されました。村上被告は控訴しまし
たが、大手既成メディアは保釈金の金額を明らかにしていました。大手既成メディア
はこういった金が絡んだ事件の保釈金だけではなく、もっと他のさまざまな事件や出
来事に関わる「金額」と「財源」をできるだけ明らかにして欲しいと思います。年金
データの不備を修正するために必要な金額とその財源、新潟県中越地震の救済に必要
な金額とその財源、ありとあらゆることに金がかかります。その財源を知ることは大
事ですし、金の流れを見て理解できることが多くあります。

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 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第438回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:821
 村上被告への実刑判決は、金融市場にどのような種類の影響を与えるのでしょうか。
良い影響と、もし悪い影響があれば、併せてお願いします。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 7月19日、村上ファンドの村上氏に対して、東京地裁が下した判断はかなり重い
という印象です。判決内容の懲役2年、罰金300万円、追徴金11億4900万円
は、懲役の期間を除いて検察の求刑とほぼ同じでした。また、事実認定でも、ライブ
ドアのニッポン放送株買い集めの計画は、事実上、村上氏に伝えられていたと明確に
述べています。地裁は、全面的に検察の言い分を認めたといえるでしょう。

 今回の判決について、私個人は違和感を持ちません。今回の裁判の最大の争点は、
村上氏が、ライブドアの株式買い集めの事実を知っていたか否かだと思います。その
点について、当初、村上氏は事実を認めていました。テレビのインタビューでも、
「それを聞いちゃったんです」と明確に言っていました。

 ところが、裁判が始まると、同氏は一転して、そうした事実を否定していたようで
す。同氏は、前言を翻すことが裁判に有利に働くと考えたか、あるいは、その点を認
めてしまうことが、今回の係争にとってきわめて不利な状況を作り出すと判断したの
でしょう。そうした行動自体、私を含めた多くの人々に、「村上氏は信用できない人
材」という印象を与えたと思います。同氏に対する、その印象は、おそらく消えるこ
とは無いでしょう。

 元々、同氏ファンドを設立するときの理念は、わが国のキャピタルマーケットの機
能を欧米並みにすることによって、わが国経済を活性化することを謳っていたはずで
す。ところが、実際には、ライブドアの情報=インサイダー情報を利用して、自分の
ファンドに収益をもたらすことしか考えていなかったということでしょう。それは明
らかにルール違反です。同氏には弁解の余地はありません。

 今回の判決は、キャピタルマーケットの中で、市場のルールを破って利益を得よう
とする人たちに明確なメッセージになったと思います。その意味では、執行猶予の付
かない実刑判決の意味は重いといえます。市場のルールに対する認識を新たにするイ
ンセンティブも湧きます。また、今回の判決では、インサイダー情報に関する解釈や
事実認定が明確にされていますから、今後、こうしたケースが発生したときに、相応
のインプリケーションを持つことでしょう。

 7月19日の判決と、もう一つ注目に値する判断が司法によって示されていると思
います。それは、7月9日に東京高裁が、米系投資ファンドであるスティール・パー
トナーズに対して示した“濫用的買収者”の判断です。このケースは、同ファンドが
ブルドックソースの買収防止策に対して行った提訴に対する判断です。高裁の判断で
は、ブルドックソースの買収防衛策は適法で、同社に対してTOBをかけたスティー
ル・パートナーズを、株主権を濫用して、企業から収益を簒奪することを目的とする
“濫用的買収者”と決めつけています。

 この判断自体には、専門家の間でも様々な見解があるようです。今後、そうした議
論が活発化すると予想されます。ただ、7月9日と19日の司法の見解は、いずれも
投資ファンドサイドには厳しい判断といえます。それによって、わが国のキャピタル
マーケットが正常化することは大いにプラスなのですが、一方で、そうした司法の厳
しい判断によって、キャピタルマーケット本来の機能までシュリンクすることは、わ
が国経済全体にとってマイナスになると思います。

 わが国のキャピタルマーケットは、従来から“仲好し倶楽部”と称されるほど、コ
ーポレートガバナンスが働き難い面がありました。株式の持ち合い等を背景にして、
多額のキャッシュポジションの上に胡坐をかき、十分に経営責任を果たさない経営者
も存在したと思います。また、「企業は売買の対象ではない」との伝統的な考え方が
支配的だったこともあり、わが国では、一般的に業界の再編が遅れています。

 そうしたわが国経済が持っている瑕疵を市場のメカニズムによって解消すること
が、本来のキャピタルマーケットの機能です。そのために、欧米流の考え方に基づい
た投資ファンドが果たすべき役割もあるはずです。今回の一連の判決によって、そう
した本来の機能まで果たせなくなるとすれば、それなりのデメリットが生じる懸念も
あると考えます。

  信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 今後への影響という意味で、今回の判決には、三つの注目点がありました。(1)
インサイダー取引の定義を広く取ったこと、(2)アクティビストと活動と投資活動
の分離の必要性を主張したこと、(3)「利益至上主義」を批判したこと、の三点で
す。

 金融市場にとって最も影響が大きいのはインサイダー取引に該当する重要事実の定
義を、実現性が全くない訳でなければ、実現の可能性があることで足りて、可能性の
高低は問題にならないと、かなり広く取ったことでしょう。投資の考え方からする
と、「確実」ではなくても、実現可能性がある事実の情報なら、投資の期待収益率に
変化をもたらすので、この考え方は妥当です。

 但し、実現性がごく僅かの情報であっても重要事実に該当するなら、企業の内部者
(経営者、重要事実に関わる社員、大株主、大株主になる可能性のある投資家)と接
触すると、その後に、その企業の株式を売買することが、法的にはかなり危険になり
ます。金融機関では、組織やビジネスのやり方の見直しが必要な会社があるかも知れ
ません。

 この点に関しては、経営者にヒアリングをすることがある機関投資家(投信、投資
顧問、信託銀行、保険会社などに加えて、投資ファンドを含みます)、M&Aの仲介
と株式自己売買を両方手掛ける証券会社・金融機関などが、法的リスクの大きさか
ら、活動を萎縮させるという批判の意見がありそうです。

 しかし、この点に関しては、今までの情報の扱いと株式売買にあって、彼らが、有
利な立場を濫用する気味があり過ぎたのでしょう。今後、全ての企業情報に関して、
公知の事実であるか否かを確認してから、株式を売買する慎重さが求められるのは当
然のことであり、インサイダー情報を広く解釈出来ることは、一般投資家の安心感に
もつながり、市場の公平性を保つ上では良いことだと考えます。私は、プラスに評価
します。

 今回の判決に、幾らか疑問を覚えたのは、村上ファンドが、アクティビスト(株主
としての提案を通じて利益を追求する投資家)としての活動とファンド運用の活動を
実質的に分離せずに、村上被告が一体的に管理していたことに対して、組織上の「構
造的欠陥」と称し、本件の犯罪に至ったことを「必然」だと、批判した部分でした。

 私は、悪いのは、インサイダー取引であり、アクティビストと投資判断を兼ねるこ
と自体が犯罪的なのではないと考えます。

 アクティビスト的活動を通じて得たインサイダー情報を使って投資を行えば犯罪で
すが、公明正大にアクティビスト活動を行い、公知の情報に基づいて投資を行う限
り、一人の投資家が、株主にとっての利益と投資判断を併せて考えるのは、むしろ自
然であり、当然のことであるように思います。会社ではなく、一人の投資家が大株主
である場合もありますし、会社の場合に、このために、組織を分離しなければならな
いというのは誤解でしょう。

 株式投資は、対象企業が「このように経営されれば、こうした収益が上がる」とい
う前提の下に行われるものです。また、多数の株主の意思で「どのように経営する
か」を決めることが株式会社という仕組みの基本です。

 今回の判決で、株主としての要求を経営者に突きつける行為そのものが「村上ファ
ンド的な悪である」というような、間違った理解が拡がらないように望みたいと思い
ますが、新聞報道を複数紙読み比べると、無神経な書き方をしている新聞もあり、
少々心配な感じはあります。

 また、今回の判決は、村上被告が単に情報を「聞いちゃった」にとどまらず、持ち
株を有利に売却するためにライブドアを積極的に勧誘した、いわば被告が主体的に働
きかけた事件であったことを良く見抜いた、納得的な小気味よいものだ、という印象
を持ちましたが(控訴中であり、まだ有罪が確定していないことに注意は必要です
が)、判決文中には村上被告の「利益至上主義に慄然とする」という語句が含まれて
おり、報道の中にも、「拝金主義」あるいは「利益至上主義」を「断罪した」、とい
うニュアンスのものがありました。

 利益を追求する行為自体が社会的に悪いことだとは思えません(個人の価値判断と
して、「利益ばかり追求することの、格好が悪い」とは思いますが、社会的に悪いと
判断すべきではないと思います)。村上被告が悪かったとすれば、今回の判決の罪状
認定に関する限り、インサイダー取引のルールを犯したことであって、利益の追求と
いうそれ自体は普通の思想を痛罵した今回の判決には、些か情緒過多で、冷静でない
印象を持ちました。

 儲けばかり追うと失敗しやすい、言葉を翻す嘘つきは嫌われる、といったことを、
今回の事件から、世俗的教訓として受け止めるのは悪くないことだと思いますが、利
益追求自体を、社会悪のように理解して喧伝することは、行き過ぎだろうと思いまし
た。

 尚、全く別の感想ですが、今回の判決は、主に証人の証言と、被告の供述調書が判
断のもとになっているわけで、たとえば、被告を一時的でも精神的追い込んで検察側
に有利な調書を取り、被告に不利な証言をしてくれる証人を何人か仕立てることが出
来れば、有力な物証が無くても、人を有罪にすることは、割合簡単にできそうだな、
と思いました。今回の村上被告に対する有罪と実刑に関しては違和感がありません
が、ある種の怖さを感じたのも事実です。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 <http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/>

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

最近、証券関係の判決で注目されるものが二つありました。一つは、質問にある
ニッポン放送株をめぐるインサイダー事件における、村上被告に対する実刑判決。も
う一つは、ブルドックソースが、スティールパートナーによるTOBを阻止するため
に、株主総会で買収防衛策を決議し、スティール側は防衛策の差し止めを求めました
が、東京地裁は差し止めを認めなかった件です。

村上氏に対する判決は、ヒルズ族の儲けの手口の実態をインサイダー取引として断
罪するものでした。村上氏は、ライブドアのニッポン放送株大量保有の意思を知っ
て、自らもニッポン放送株を買ったと認定されました。村上氏としてはニッポン放送
株を長く手がけてきたことから、インサイダーの自覚がなかったという、故意を否定
する村上氏の言い分にも理がないわけではありません。しかし、証券の世界ではそう
いう外形を作った時点で、有罪というのが常識です。村上氏は、自ら認めるように証
券関係者として不注意でした。一罰百戒の意味でも、証券投資の世界を公正なものに
する、良い判決だと思います。

 検察の立証の過程では、ライブドアの宮内氏が完落ちで、「村上氏に大量保有の意
思を伝えた」という証言をした時点で、検察の勝ちは決まりました。この件に関し
て、宮内氏、堀江氏と村上氏は、それぞれに証言内容が違っているので、真相は藪の
中です。検察に身柄を拘束された状態での証言がかなりコントロールされている印象
がありますが、容疑がインサイダー取引であり、村上氏にインサイダーを疑われても
仕方がない外形があるところで、宮内証言がでてきた訳ですから、仕方がない判決だ
と思います。

 実刑判決で執行猶予がつかなかったことに関しては、パートナーをけしかけ、利用
して儲け、あとで背信行為をするというセコイ手口からは、あまり同情はわきませ
ん。

 もう一つの件で、東京地裁がブルドックソースの買収防衛策を是認した判決は、公
正の観点からいただけません。スティールパートナーがあまり行儀の良くない投資家
であるのは確かですが、株式市場のルールに基づいて行動している以上、濫用的投資
家と決め付けて、新株予約権をスティール以外の投資家に認めるという明らかに差別
的な取り扱いを認めるのは間違いだと思います。だれにでも適用される公明正大なル
ールを旨とする証券市場に、株主総会で既存株主の2/3以上の了解を取れば、なん
でもできるという悪しき前例を作ったことになります。

 ライブドアのニッポン放送買収時は、東京地裁がニッポン放送に買収防衛策を認め
ない決定をだしたのとは、反対の結果になりました。

  これは、スティールパートナーがソース会社の経営に興味がない悪しき買収者で
あるという価値判断を、既存株主だけで決定するところに問題があります。

 善玉と悪玉を取り替えたケースを考えてみると分かります。例えば、環境汚染をた
れながす悪玉公害企業を、善玉市民ファンドが買収して、株主提案で汚染防止策を導
入させようとする場合だと、既存株主の2/3の特別決議があれば、いくらでも善玉
の行動を阻止できることになります。

 裁判所は、この差別的な新株予約権付与は認めるべきではなかったと思います。T
OBによる買い付けが続いていたとしても、それほどまでにスティールが嫌われてい
たのなら、TOBは成立しなかった可能性が高いですし、証券市場の透明性と公平性
も保つことができたはずです。

 敵対的なTOBをめぐる争いに、今回はスティールを悪玉にして簡単に決着を付け
てしましたが、今後の善悪の判断のしにくいケース(例えば現在進行している、TB
Svs楽天)で、既存経営陣に有利な手段を、安易に与えてしまった懸念がありま
す。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 村上被告への判決を待たずして、いわゆる村上ファンドの問題は金融市場に既に大
きな影響を与えています。特に重要なものとしては、昨年6月に「証券取引法等の一
部を改正する法律」が成立した際に、集団投資スキームが広く金融商品取引法の対象
とされたことです。これによって、従来は証券や商品などの投資対象によって縦割り
の規制の下に置かれていたものが、横断的な規制と監督を受ける適切な枠組みが整う
ことに加え、集団投資スキームの設立根拠によらない整合的な規制の運営が行われる
ようになります。このような金融商品取引法の施行は今年の9月中を予定しています
が、このような規制の整備は金融市場にとって長期的には良い影響を与えるものと考
えます。

 集団投資スキームに関連した規制の見直しについては、個人的には組合等による短
期売買に対する規制に注目しています。証券取引法では、上場企業の株式を議決権ベ
ースで10%以上取得した大株主を「主要株主」と呼び、上場企業の役員またはこの
ような主要株主が短期取引(6か月以内の売買)により利益を得た場合、企業あるい
はその他の株主が売却益を企業に返還するよう請求することができると規定していま
す。しかしながら、現行では、ファンドが組合の形態をとっている場合には、ファン
ドが保有する株式について議決権などをファンドの意思で行使するにもかかわらず、
ファンドは法人格がないため株主名簿上株主となっていないことから、ファンドとし
ての保有株式の割合が10パーセント以上になっても直ちに主要株主には該当しない
とされてきました。(個々の組合員の持分に応じた議決権が10%以上になる場合に
は、当該組合員は主要株主と見なされます。)

 この規制は役員又は主要株主が職務や地位により取得した秘密を不当に利用するこ
とを防止するための規定ですが、今回の村上被告への実刑判決の対象となった日本放
送株の取引(2004年11月以降に取得し、2005年2月に売却した分)につい
て、村上ファンドが取引当時に同社株を10パーセント以上保有していたことが明ら
かであるにも関わらず、この取引で得た利益に対して企業あるいは他の株主からの
不当利益返還の請求は見送られています。

 なお、金融庁は2002年9月に、主要株主に対する短期取引規制のルールが組合
の形態をとるファンドには原則として適用されない、との見解を村上ファンドに対し
てノーアクション・レターとして示しています。この金融庁による法令解釈が、その
後の村上ファンドの投資行動の根拠となったことは想像に難くありません。

 金融商品取引法では組合等に関する特例規定が設けられ、ファンドが組合の形態を
とっている場合でも、ファンドが保有する株式に係る議決権の割合が10%以上の場
合、短期売買規制の対象とされることになりました。従来から、投資信託などの形態
をとるファンドの場合は、ファンド毎、さらに指図を行う運用会社のレベルでの保有
割合が10%以上の場合には直ちに短期売買規制の対象となっていましたので、よう
やく制度の不整合が解消されたと言えます。

 投資事業組合などの形態を利用する投資家の立場では規制の強化に対して不満はあ
るでしょうが、少数株主の利益を保護する規制は市場の発展のため有益である一方、
大口投資家について同一の競争条件を担保することは市場の効率性の維持のためにも
必要であると考えます。

                外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 私は、2000年に村上世彰氏が昭栄に対してTOBを行って以来、日本企業のコ
ーポレートガバナンス(企業統治)の改善のためには、村上氏のような株主アクティ
ヴィスト活動が必要と考えてきました。私が2000年に東洋経済から出版した「T
OB・会社分割によるM&A戦略」では、村上氏の昭栄に対するTOBに関して詳述
しました。村上氏は昭栄のTOBが失敗した際に、日本社会のTOBに対する反応を
見るために実験的に行ったと述べましたが、その後の相次ぐTOBにより、言葉にう
そはなかったことがわかりました。

 村上氏は高級官僚出身であるうえ、副社長に警察庁や野村證券出身者を配置し、日
本のベスト弁護士を使い、日本の証券取引法を熟知し、違法行為はしないと豪語して
きただけに、2006年6月にインサイダー取引で逮捕されたことには大きな失望を
感じました。投資資金が大きくなるにつれて、村上氏の当初の日本を変えたいという
高い志が、金儲け目的だけに変わってしまったのかもしれません。

 村上氏は逮捕されましたが、株主重視の経営を日本企業に知らしめた功績は評価す
べきだと思います。昭栄は、村上氏が問題視したキヤノン株など有価証券を大量に保
有していますが、不動産の有効利用をはじめバランスシート管理をしっかり行うよう
になり、利益や配当を大きく増やしました。東京スタイルとの議決権闘争では、28
年にわたって社長を務める高野社長が会社に対して有価証券の独断投資で1億円の賠
償を支払う和解を勝ち取りました。阪急と阪神電鉄の経営統合、松坂屋と大丸の経営
統合なども村上氏の置き土産といえます。

 6月末の株主総会における株主提案の全否決と買収防衛策の全可決に続いて、7月
11日にブルドックソースの新株予約権が効力を発生し、7月19日にはニッポン放
送株式のインサイダー取引事件で村上世彰氏に懲役2年の実刑判決が下されて、不動
産業界で敵対的TOBも失敗しました。最近、株主アクティビズムの後退と見えるよ
うなイベントが相次いでいます。株式持合増加の報道も増えており、日本企業の経営
が内向きになりつつあることを示します。

 投資ファンド全体に対する否定的な見方が出る中で、スティールパートナーズのリ
ヒテンシュタイン氏の日本的慣習を無視した言動は、日本社会の反発を買いました。
スティールパートナーズの、日本企業は現預金を持ち過ぎており、もっと株主還元す
べきという主張に私も賛同しますが、リヒテンシュタイン代表が日本で初めて行った
会見で「日本企業を啓蒙したい」「経営者を助けにきた」と高飛車な発言を行ったこ
とや、投資対象企業の質問に真摯に答えなかった点は、アクティビストファンド全体
の集票活動に悪影響を与えました。

 一方、いちごアセットマネジメントのキャロン社長は日本を理解したアクティビズ
ムを行い、個人投資家の賛成票を集めて、東京鋼鉄と大阪製鐵の経営統合阻止に成功
しました。キャロン社長は、日本では投資ファンドはお金儲けするだけではだめで、
きちんとした社会的使命を果たすべきと述べています。日本をよく理解したやり方を
行えば、株主アクティビズムにはまだ成功のチャンスがあり、日本のコーポレートガ
バナンスも改善可能と考えたいところです。

 株主提案を積極的に行ったアクティビストファンドのほとんどは外国人が運営する
ファンドでした。村上ファンド解散後、日本のエスタブリッシュメント層に食い込ん
で、日本の企業文化や経営者マインドをよく理解した和製アクティビストファンドの
出現が待たれます。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 津田栄   :経済評論家

 村上被告に対して、裁判所は、ほぼ検察の求刑に近い、執行猶予の付かない懲役2
年の実刑判決、11.5億円近くの追徴金、罰金300万円という厳しい判決を下し
ました。裁判所は、市場の公正性と公平性を重視したといえましょう。

 当初、村上被告は、市場を通じて経営の効率化を促し、日本をよくしていきたいと
いう考えから「モノ言う株主」として社会から一定の評価を得ていました。それは、
バブル崩壊の要因として過剰な債務、設備投資、雇用という企業サイドの問題があっ
て、それが企業経営陣の非効率な経営と株主軽視の姿勢にあったと見ていたからでは
ないかと思います。個人的には、村上被告の登場は、昭栄や東京スタイルなどの増配
に見られたように、日本企業の経営の効率化につながり、ある程度株主重視の流れを
作り、株式価値の向上に寄与したと思います。

 ところが、資金が大量に集まり、運用が難しくなったころから、村上ファンドの動
きは、利益追求に傾いていったといえます。それが、村上被告が逮捕される直前に放
った「金儲けが悪いことですか?」という言葉に表されています。もちろん、お金儲
けは悪いことではありません。しかし、それは市場ルールに従うなかでのことです。
そして、これまでの、企業に経営の効率化を要求し、増配を求めるモノ言う株主の顔
を変えないなかで行なうのであれば、国民の支持は失わなかったでしょう。

 しかしながら、運用において資金が大きくなると、過去に米国のヘッジファンドや
日本の投信で巨額の資金を集めて運用できなくなって運用結果を悪化させ潰れていっ
た例もあるように、自分の投資行動が市場をかく乱します。つまり、好運用成績を維
持しようとしても、資金が大きくなると、運用対象株式が限られているなかでは、買
うと株式を急騰させ、売ろうとすると急落するような動きとなって、思うように運用
できず、自分で自分の首を絞めることなります。これは運用金額が急増すると必然的
な結果といえましょう。

 そして、今回の村上ファンドも、モノ言う株主として株式価値を引き上げ、増配を
勝ち取ったことで高い運用利回りを獲得したことから、その高い利回りを求めて国内
外の資金が群がるように集まりました。そのなかには、大手企業の資金や日銀総裁の
個人資金などもありました。もちろん、当初は、モノ言う株主としての活動を通じ
て、企業経営の改革、日本経済への発展につながると信じて資金を提供してきたかも
しれませんが、その後も変わらずに資金を提供したことは、資金提供者も高い運用利
回りを求めたのであって、村上被告同様金儲けの追求に変質したともいえ、実質的な
共犯者といえましょう。

 さて、今回、村上被告に厳しい実刑判決となったのは、モノ言う株主の顔を見せな
がら、金儲けのために公正、公平であるべき市場ルールを逸脱したからです。村上被
告は、ライブドアにニッポン放送株の大量取得を仕向けて株価吊り上げを工作し、そ
の情報を流しながら一般の投資家を巻き込んで、株価の上がりきった段階で売り逃げ
て大きな利益を取得しました。今回の裁判では、そのライブドアがニッポン放送株を
大量取得する可能性があるという情報を事前に知って売買したことがインサイダー取
引に当たるとしました。(実際は、証券取引法157条の「不正の手段、計画、技
巧」による不正取引行為に当たっているのかもしれません。)

 どちらにしても、今回の判決は、不正行為により市場ルールを逸脱し、金儲けをす
るのは許さないという厳しい態度からでたもので、事実が確かなものであれば、当然
だと思います。そして、市場の適正化を進め、市場の公正、公平を担保するのであれ
ば、厳しい対処は今後も必要でしょう。その意味では、一般投資家の保護を重視しな
がら、市場の健全な拡大を図ることは、今後の市場経済の発展においても欠かせない
ことであり、今後こうした不公正な取引をしようとする者に対しての警告として、よ
かったと思います。それが良い影響といえましょう。

 しかし、一方で、この判決では、危惧する点があります。一つは、「徹底した利益
至上主義」を悪のような捉えかたをしていることです。先にも述べたように、金儲け
は市場ルールを守る限り悪いことではないと思います。そして、ルールを守っても金
儲けだけに執着すれば、尊敬はされませんが、海外では、金儲けをしてもそれを寄付
等などで社会に還元しますので、非難されることはあまりないのではないかと思いま
す。しかし、この判決は、最近の政治的流れを反映しているのか、どこか前近代的道
徳的な意味を含んでいて、金儲けを悪だと見下しているようで、市場経済の発展に必
要な健全で適正な利益追求をしぼませるのではないかと恐れています。

 二つ目は、大株主となって企業に増配や資産売却などさまざまな要求をするモノ言
う株主(アクティビスト)と投資家を区別して行動するように、この判決は求めてい
ますが、その区別は相当難しいことであると感じます。そもそも、厚生年金や金融機
関などの機関投資家は、運用すると同時に自己の運用成績を上げるために投資先の企
業に向かってモノ言う株主でもあります。そこで、機関投資家は、企業に要求するこ
とで重要な情報が必然的に耳に入り、それはインサイダー情報となってしまいます。

 つまり、機関投資家は、投資家とモノ言う株主の両面を切り離すことができず、常
にインサイダー取引として処罰される恐れが出てきます。それでは、機関投資家は、
投資できなくなります。しかも、投資活動そのものが萎縮することは、資金を集めて
株式運用することで資金を株式市場を通じて効率的に社会に供給するという循環が成
り立たなくなり、経済が低迷するのではないかと危惧します。

 もう一つは、モノ言う株主の存在をどう扱うのか見えないことです。大株主となっ
て、投資先の企業との接触は確実に増えるはずです。その際には、投資成果を上げる
ためにモノを言うこともあるはずです。それを言わずに投資だけをすれば良いという
のであれば、これまでの企業経営者の規律と経営の効率化の流れに逆行することにな
ります。それは、スティール・パートナーズを「濫用的買収者」として非難してブル
ドックの買収防衛策を容認した判決にも通じていて、企業経営者の企業防衛や株式持
合いが安易に進められ、経営者の規律が緩み、株主軽視に逆戻りするのではないかと
恐れています。

 そうなれば、市場経済のグローバル化が進展するなかで、海外の投資家は、日本へ
の投資はリスクが高すぎると判断して、日本を素通りして海外に資金を流すことにな
るのではないでしょうか。それは、最終的に日本経済の効率化が進まず、世界的に発
展していくなかで日本が遅れていく可能性があります。そうした点も考えて、今後、
司法には、市場における公正、公平という観点を中心にすえながら、こうした経済的
事情を理解し、現実を直視して、モノ言う株主、経営の規律などのバランスをとっ
て、理念だけで判断しないように願うばかりです。

 最後に、この村上ファンド事件は、村上被告個人の問題かのように報じられていま
すが、村上ファンドに資金を提供してきた内外の投資家も実質共犯者ではないでしょ
うか。また、ライブドアのニッポン放送株の買占め報道や村上ファンドの動向の報道
を考えると、マスメディアも、この一連のインサイダー取引を演出する役割を演じた
といえます。そうした点を言及し、反省する姿勢が見られないことを考えると、依然
としてこの問題の本質的な根源と責任があいまいのままであり、これからも同じよう
な問題が繰り返されるのではないでしょうか。

                             津田栄:経済評論家

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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:821への回答ありがとうございました。今、横浜は激しい雷雨です。二本の
連載を書き終えて、「カンブリア宮殿」を複数回収録し、やっと体調が回復している
のを実感しました。各種精密検査はいずれもno problemでした。初夏から続いた体調
不良の原因については、いろいろと考えましたが、このエッセイに書くようなことで
はなさそうです。

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Q:822
 先週、アメリカに端を発し、欧州と日本でも株が下落しました。その原因と、今後
の株式市場の推移について、ご意見をいただければと思います。

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                                   村上龍

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【編集】  村上龍
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