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JMM [Japan Mail Media] アメリカ株式市場・ドル下落は構造的・本質的な問題を含んでいるのでしょうか?
http://www.asyura2.com/07/hasan53/msg/596.html
投稿者 愚民党 日時 2007 年 11 月 20 日 18:40:30: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2007年11月19日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.454 Monday Edition

▼INDEX▼

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第454回】

   □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
   □中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
   □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
   □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
   □津田栄   :経済評論家
   □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 ■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』


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 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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 Q:836への回答ありがとうございました。キューバからバンボレオがやって来
ました。キューバ人と過ごす日々が始まります

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 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第453回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:837
 先週末、またアメリカの株式市場が大きく下落しました。ドルも下げているようで
す。これは一過性のものなのでしょうか、それとも構造的・本質的な問題を含んでい
るのでしょうか。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 最近の米国株式市場や、ドル為替レートの下落傾向の直接のきっかけはサブプライ
ム問題の発生だと思いますが、その背景には、もう少し根の深い構造的な問題が潜ん
でいると考えます。

 先ず、米国を巡る経済状況を整理します。米国経済は、よく"キリギリスの経済"と
称される過剰消費の体質を持っています。つまり、国内で100単位のものを生産し
ても、国民は120単位の商品を消費します。当然、国内の生産能力だけでは、消費
者の需要を満足させることが出来ません。その分を海外からの輸入に頼ることになり
ます。その結果、米国の貿易収支は多額の赤字を計上することになります。

 この状態は、家の中でお父さんが毎月10万円稼いでくるのに対し、家計費を12
万円使う構図に似ています。毎月2万円足りませんから、その分をどこからか借りて
くることになります。こうした状況が続くと、家の借金は着実に増加することになり
ます。その家庭にお金を貸してくれる人がいる間はよいのですが、借金が嵩んでくる
と信用力が低下して、いずれかの段階では、誰もお金を貸してくれる人がいなくなる
かもしれません。そうなると、この家庭の資金繰りは立たなくなり、行き詰ってしま
います。

 米国は多額の貿易収支の赤字を計上していますが、その赤字は、基本的に海外から
の投資資金の流入で埋め合わされています。投資資金とは、わが国や中国、欧州や産
油国の投資家が、米国の国債や株式を買うことを意味します。そうして流れ込んだ資
金によって、米国は経常収支の赤字の帳尻を合わせています。

 もう少し大局的に世界の主なマネーフローを考えると、わが国や中国、産油国など
の貿易黒字が投資資金の格好で米国に流れ込み、それによって米国の資金繰りが上手
く回ると同時に、その資金の一部は米国の金融システムの回路を通して、いわゆる
"リスクマネー"に返還され、新興国などに再投資されていることが考えられます。

 このマネーフローは、つい最近まで、とても上手くワークしていました。米国が多
額の赤字を容認することによって、わが国や中国などの輸出が振興され、当該国の経
済活動が活発化します。米国の人々も高い生活水準を享受することができます。しか
も、わが国や中国、産油国に蓄積する貿易黒字は、投資資金として米国に還流するわ
けですから、米国の資金繰りも立ちます。

 さらに、その投資資金の一部が、資本の蓄積の少ない新興国などに投下されますか
ら、新興国はその資金を使うことで高成長を達成することが出来ます。その結果、米
国の金融分野は、世界の銀行として、預かった資金に対する利払いと、得られる投資
収益の差額分を手数料として獲得することが可能です。短期的に見ると、それぞれの
経済主体が全てハッピーになることが出来るシステムになっているように見えます。

 しかし、このシステムにも大きな問題点があります。それは、米国の貿易赤字が雪
だるまのように拡大することです。米国のドルは基軸通貨ですから、米国は、必要に
応じてドル紙幣を輪転機で印刷して配れば済むのですが、しかし、ドル紙幣を沢山刷
りすぎると、世界中にドル紙幣が氾濫してしまいます。そうなると、ドルの価値は下
落することになるはずです。

 経済専門家の中には、最近のドル安傾向は、そうしたことの予兆ではないかと懸念
する人たちがいます。グリーンスパン前FRB議長もその一人です。同氏は、以前か
ら、米国経済の先行きに懸念を表明していました。米国の過剰消費体質が続くと、い
つかはドルの価値が下落すると警鐘を鳴らしていました。ドルの先安感が台頭する
と、投資家がドル建ての金融資産を嫌って、他の国への投資に動く可能性もありま
す。その場合には、米国の株式や債券の市場が本格的な調整局面を迎える可能性も考
えられます。また、著名投資家のジョージ・ソロス氏も、最近の講演の中で、そうし
た事態の発生に懸念を表明しているようです。

 さらに最近の世界情勢を見ると、米国の覇権国としての信任に、少しずつですが陰
りが見えているように思います。ITバブルからバトンタッチを受けた住宅バブルに
は、既に終焉の兆しが見えます。それに伴い景気の先行きには、不透明感が出ていま
す。また、国際政治の舞台でも、イラク問題などの影響から、米国のリーダーシップ
にやや後退傾向が感じられます。つまり、米国の覇権国としての信任が、やや揺らぎ
始めているように見えます。

 それに伴い、様々な分野でドル離れが起きているようです。中東の産油国は、元
々、ドルペグ制を採ってきました。ところが、ドルの下落によって、一部の国が既に
ドルペグ制を廃止しています。また、わが国の石油会社が、産油国に支払う原油の代
金の一部を円建てに変えているようです。さらに、中国やロシアは、外貨準備に占め
るドルの割合を引き下げて、その代わりにユーロなどの割合を引き上げているようで
す。こうした動きは、一時的な現象ではないでしょう。むしろ、長期的に見て、米国
の構造問題を勘案して、少しずつリスク分散を図る動きと考えた方が分かり易いと思
います。

  信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト

 ニューヨーク株価の急落は米サブプライムローン問題を発端とした米マネーセンタ
ーバンクの巨額の損失発表、そこから生じた金融不安と米景気後退の懸念が原因であ
ると思われます。株価の急落は世界の投資家のドル離れを引き起こすきっかけにもな
りえますし、世界の金融資本市場は極めて深刻な局面に入ってきたと言うことが出来
ます。

 これまで米金融機関はリスク分散が進んでおり、サブプライム問題の影響は軽微と
いうのが通説でした。7月にニューヨーク、ワシントンを訪問した時、現地の市場関
係者、当局者と意見交換したときも、だいたいそのような回答が返ってきていまし
た。決して彼らの意見を鵜呑みにしたわけではないのですが、米金融機関がSIV
(ストラクチャード・インベストメント・ヴィイークル)というファンドの子会社を
使って合成債務担保証券(CDO)などサブプライムローンの派生商品に、ここまで
巨額の投資をしていたとは知りませんでした。

 情報が事前に十分開示されていなかった為に、7〜9月期決算の数字が公表される
や、数千億円規模の損失が次々と発表され、ここまでやられていたのかと市場関係者
も驚きでした。シティグループやメリルリンチのトップも辞任に追い込まれる事態と
なりましたし、SIVが投げ得りして損失を更に膨らませるのを怖れたマネーセンタ
ーバンクは米財務省の後押しで住宅ローン買い付けのスーパーファンド設立に動きま
したが、これは90年代のバブル崩壊時に我が国で不良債権塩漬けのために設立され
た「共同債権買取機構」に類似しており、それだけ事態が厳しいことを連想させます。


 これまでかなりの損失を出しても米金融機関は自己資本が潤沢にあるので金融シス
テム不安には進展しないというのが、業界のプロの意見でしたが、海外紙が米金融機
関の一部に債務超過の可能性が出てきたので、資本増強の必要があるとの観測記事を
だすなど、状況は急速に変化してきています。金融機関の経営危機まで発展するか否
かは定かではありませんが、金融不安が頭をもたげると株価に悪影響が及ぶのは避け
られません。

 あと、これだけ金融機関が損失を出して資本が毀損しますと、当然、貸し出し態度
に影響が出てきます。既に、米銀が大手企業へのクレジット枠を優先するあまり、中
堅優良企業が融資を受けにくくなっていると聞きますし、消費者ローンの査定厳格化
でクリスマス商戦など消費への影響も懸念されます。

 我が国の場合はバブル崩壊で銀行の資本が毀損して、不良債権問題が長期化しまし
たが、最後は公的資本の注入で銀行が息を吹き返しました。米銀の資本毀損の度合い
が分かりませんので何とも言えませんが、構造的な問題を含んでいる恐れはありま
す。それは今後の情報開示により明らかになっていくでしょう。

 ドルに関して言えば、既に8月に外国人投資家が693億ドルの資本流出(ネッ
ト)に動きました。年間8千億ドルの経常赤字を出している米国にとりこれは極めて
危険な兆候です。サブプライム問題の早期解決を図らないとドル離れが進行して世界
経済は大きな混乱に陥るリスクがあります。これまでも米国の巨額の経常赤字は世界
経済にとり大きなリスク要因と言われてきましたが、それが現実のものになる可能性
が出てきたのです。よって、今回の金融危機はかなり構造的・本質的な問題を内在し
ているように思われます。それだけに、リスクが顕在化しないようにG7で徹底した
危機管理政策を機動的にやってもらいたいと願っています。

               伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 日米の最近の株価下落は一時的なものと考えます。米国には大統領選挙の前年に株
価が上昇するという戦後一度も破られていない経験則があります。米国の代表的な株
価指数であるS&P500の昨年末値は1.418ポイントだったのに対して、今年
11月15日時点の値は1.451ポイントでしたので、サブプライムローン問題が
起きた今年も、現在のところ株高の経験則が有効に機能しています。大統領選挙の前
年に株価が上昇するのは、株価には景気に対する先行性があり、大統領選挙の年の景
気は良いからと考えられています。

 サブプライムローン問題が1987年のブラックマンデーや、98年の大手ヘッジ
ファンドのLTCM破綻のような一時的な金融危機なのか、日本の1990年のバブ
ル崩壊のような10年以上にわたって資産価格の下落や景気停滞につながるものなの
かについて意見が分かれています。米国経済を弱気にいう人は、住宅価格の下落が今
後数年にわたって続き、個人消費に対して大きな逆資産効果を与えるといいます。G
DP最大の項目である個人消費が落ち込めば、企業収益も減速して、設備投資意欲も
なくなるといいます。銀行の自己資本が毀損されて、日本のような強烈な貸し渋りが
起きるという悲観的見通しがあります。ブッシュ大統領もこれ以上の再選がないの
で、大統領選挙年に向けて、景気対策は期待薄と考える向きがあります。

 私が米国景気は来年も堅調と考える理由は、GDP上、住宅投資の2倍以上の比重
がある設備投資の中期サイクルが依然上向きである、日本と違い、賃金上昇率が堅調
である、米国政府及びFRBは、日本を反面教師にして、素早い対策を打ち出してい
るためです。不動産の価格形成には人々の期待が大きな影響を与えます。不動産価格
が下落すると思えば、売り出し、売りが増えれば、価格が下がり、さらに売りを呼ぶ
という展開があります。米国政府はそうした悪循環を防ごうとしています。FRBが
利下げすると、ドルは下落しやすく、ドル下落は米国企業の業績回復や、景気浮揚を
もたらします。

 サブプライムローン問題は一時的な金融ショックであるものの、87年のブラック
マンデーや、98年のLTCM危機の時よりは、株式市場の戻りが鈍くなると思われ
ます。87年後は、世界的金融緩和で、日本を中心に資産バブルが起きました。98
年以降は、ITバブルが起きて、世界中のIT株が大幅に上昇しました。しかし、今
回は中国を除くとそうしたバブルは起こりそうありません。

 日本はサブプライムローン問題がなかったのに、状況は米国以上に深刻です。米国
株は年初来上昇しているのに、日経平均が12%下落しました。このままいけば、5
年ぶりに陰線となりそうです。

 9月の住宅着工戸数は前年同月比44%減と、米国以上の大幅な落ち込みです。6
月に建築基準法が改正されて、住宅着工の認可を得るのが難しくなったためです。昨
年は貸金業法が改正されて、消費者金融が使いにくくなり、倒産が増加しています。
ともに、消費者保護が主目的だったとはいえ、関連業界には大きな打撃を与え、景気
の押し下げ効果も大きくなっています。日本は内需が弱いうえ、政治が混乱し、コー
ポレートガバナンスも悪いなど、外国人投資家からの評価が著しく低下しています。
外国人投資家が買わないと、日本株は上がらないという状況に変わりありません。

 当面、日本独自の好材料がないため、日本株の回復は他力本願でしょう。株価回復
のきっかけは、米サブプライムローンの一巡による世界景気見通しの回復、改正建築
基準法など国内悪材料の出尽くし、日本のバリュエーションの割安さの再評価などで
しょう。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 ご質問の場合「構造的」に対立する概念は「循環的」でしょうか。現在のアメリカ
の株価やドル下落の背景にある「サブプライム問題」は、これらのどちらかと問われ
れば、循環的な問題だといえるでしょう。景気拡大の後半に不動産ブームが起こり、
不動産に対する投資の損や融資の不良債権が起こることは、典型的な景気と金融循環
の一局面であり、問題は循環的だと考えていいのではないでしょうか。

 「循環的」だと考えると株式投資にあっては、「どのみち大きく下落するから早く
逃げよう」ではなくて「何れ上昇局面が来るはずだから、安値で買うチャンスを探そ
う」という判断が基調になります。特に、現在割高な株価水準ではなく、アメリカの
株価下落と円高の影響を大きく受けて下がっている日本株の投資家は「辛抱」ないし
は「チャンス待ち」という考え方でいいと思います(注:結果に責任は持たないの
で、投資家は勝手に自分で考えて下さい)。

 但し、「構造的」・「循環的」という呼び方は、これを判断しようとする時間の長
さによって変わるといえるかも知れません。「サブプライム問題」と現在呼ばれてい
る問題は、主にサブプライムローンの証券化商品による金融機関の損失とこれに伴う
金融システムへの不安感の問題として取り上げられてきましたが、アメリカではサブ
プライム層以外への住宅ローンや法人向けのローンに関しても融資態度が厳格する傾
向が報じられており、また、不動産価格下落に伴うマイナスの資産効果が消費や投資
に表れるにはまだ時間が掛かるでしょう。問題の全体像は「アメリカの不動産価格下
落問題」だと思われ、この場合、サブプライム商品に関連する損失の全貌が明らかに
なり、金融機関の相互不信が解決すれば、短期的に(たとえば年末までに)解決する
というような問題ではなさそうです。「サブプライム問題」というのは、些か現象を
矮小化した呼称でしょう。

 また、米国株式と米ドルの下落は性質が違う可能性があります。前者については、
米国の経済は普通の経済循環を伴いながら成長するでしょうから、「いつ」とか「幾
らまで下がれば」反転するとは言えないものの、下落は一過性の公算が大きいでしょ
う。他方、米ドルは、アメリカが経済成長するとしても、長期的に下落を続ける可能
性が若干は存在します。

 ところで、サブプライム問題で興味深く且つ「本質的」な問題として、特に金融ビ
ジネスにおいて生じやすいマネジメント失敗の問題を見ることができます。それは、
「サブプライムで誰が儲けていたか?」という問いを立てると発見できます。

 サブプライム・ローンの証券化商品は、今年に入るまではそれなりに売れておりま
た高利回りを提供していた商品でした。そこで、金融業界では、次のような人たちが
儲けていたはずです。金融機関の証券化担当者・住宅ローン担当者・経営者でしょう
し、証券化商品に格付けを与えた格付け会社、後から大損するとしても先に貰った
ボーナスは返還しないヘッジファンドのファンドマネジャーなどが、実は、先取りす
る形で大儲けして、経済的には大半が「勝ち逃げ」出来たはずです。彼らも金融のプ
ロです。「サブプライム商品はいつかはダメになるだろう」というくらいのことは、
なにがしか分かっていた確信犯達でしょう。幸運で善意のバカだというよりは、その
方がありそうな話だと思います。

 象徴的なのは、共にサブプライム関連の損失で引責辞任したメリルリンチの元CE
Oのオニール氏とシティバンクの元CEOであるプリンス氏が、それぞれ日本円で
177億円、46億円の退職金を受け取ることが、さすがのアメリカでも批判に晒さ
れてニュースになっていることです。ここでは、明らかに個人の利益と組織の利益が
相反を起こしており、これは本質的で大きなマネジメント問題です。金銭で個人にイ
ンセンティブを与え、成果には金銭で報いる、というアメリカ型の「強欲資本主義」
の「限界」或いは少なくとも「弱点」を、サブプライム問題は明らかにしています。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 <http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/>

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 ■ 津田栄   :経済評論家

 11月9日にアメリカ株式市場は大幅な下落を見せ、ドルも急落して、その後も反
転することもなく一進一退を繰り返し不安定な状態にあります。もちろん、この動き
は、表面的に、サブプライムローン問題が起因しています。今回、金融機関がサブプ
ライムローン問題により巨額の損失を蒙り、しかもその損失が今後も拡大するかもし
れないという不安があって、一方で、経済実態にも悪影響が出て、景気が下振れする
のではないかという不安が広がったことから、アメリカ株式などリスク資産を売却
し、ドルを売って、資産下落のリスクを回避した動きになっています。

 この動きは、今サブプライムローンで問題になってる金融機関の損失が、まだ金額
で不確定で拡大することもありえますが、償却などにより、今後明確になってくるに
つれ落ち着いてくると思われますので、一時的なように見えます。確かに、金融機関
を通じてサブプライムローン問題の拡大を阻止するために、FRBは金融緩和に舵を
切り、しかも大胆な政策金利の引き下げを行なうと同時に、資金の流れが滞らないよ
うに大量の資金を供給して、信用収縮を引き起こさないように図っています。それは
90年代の資産バブル破裂の日本の日銀の対応に似ていますが、対応のスピードは速
く、大胆といえましょう。

 しかし、アメリカ株式の下落だけでなく、ドルの下落の動きは、このサブプライム
ローン問題が個人消費にからむ根深い問題であって、いかに深刻なのかを暗示してい
るような気がします。しかも、この背後には、アメリカ経済の構造的・本質的な問題
が潜んでいると同時に、世界経済がドルという基軸通貨をもとにアメリカの一極集中
を認めてきたというこれまでの構造的・本質的な問題も垣間見えるのではないでしょ
うか。

 これまで、アメリカ経済は、GDPの約7割を占める個人消費を中心に堅調な成長
を持続してきました。そして、アメリカでは、ローンを組み借金してまで消費すると
いう過剰消費体質が染み付いています。しかし、今や、この過剰消費体質は維持でき
なくなってきています。これまで過剰なまでの消費ができたのは、90年代の株式上
昇によるバブルがあり、2000年代の住宅などの不動産価格上昇によるバブルが
あったからです。前者は市場メカニズムのなかで行き過ぎた反動による調整が終われ
ば回復してきますし、どちらかというと借金ではないので得られるべき株式の所得が
減ることになるため消費の抑制に終わりますが、後者はそうはいかないように思いま
す。

 今回、住宅バブルが進んでいる中で、これまで日の目を見てこなかった低所得者層
を中心に、所得では払いきれないローンを組んで住宅価格の上昇を見込んで住宅など
に投資してきました。その上に、住宅などの不動産担保価値の上昇をもとにさらにロ
ーンを組んで消費をしてきました。ですから、度重なる金利引き上げにより住宅価格
が一旦下落すると住宅バブルは崩壊し、借金が雪だるま式に膨らんで返済が滞り、個
人破産に追い込まれる者も現れて、消費の減退につながります。

 また、サブプライムローン問題を金融機関の救済に集中して住宅価格の下落を放置
しておくと、優良なプライムローン、そしてクレジットローンや自動車ローンなどに
も焦付きなどの問題が波及して、個人消費の悪化を通じてアメリカ経済は一層厄介な
状況になる可能性があります。もちろん、住宅価格も市場メカニズムが働きますか
ら、どこかで下げ止まり、回復してくる場面がありますが、特に多くの低所得者層が
より悲惨な状況に置かれるため、株式バブル崩壊より傷は深いといえましょう。

 一方、アメリカの堅調な個人消費は、貿易赤字、ひいては経常赤字につながる一
方、財政も堅調な消費を支え、膨張する軍事費を維持するために支出が増えて赤字に
なるという双子の赤字を生み出しています。それを可能にしてきたのが、基軸通貨で
あるドルです。ドルが基軸通貨である限り、ドル紙幣をどれだけ刷っても世界中から
モノが買え、資金を借りられます。そうして基軸通貨としてのドルによる資金調達が
双子の赤字の不足分を補ってきたといえます。それも、アメリカが経済的・政治的・
軍事的に世界のスーパーパワーである時にいえます。

 アメリカは、90年代から最近まで、冷戦の終結とともに、景気拡大のために、市
場経済のグローバル化を進めた結果、それまでの発展途上国や旧東側諸国までが生産
や消費における市場として参入でき、世界から投資を受けるようになりました。もち
ろん、アメリカの景気拡大に伴いアメリカ株価も上昇しましたから、それに吸い寄せ
られるように世界中から資金が集まり、双子の赤字を埋める以上に調達された資金が
リスクマネーとしてアメリカから世界中に再び還流していった結果といえます。その
意味で、世界経済も、基軸通貨としてのドルのもと、堅調なアメリカ経済に依存し、
成長してきたといえます。

 しかし、世界のなかで市場経済が進展し、アメリカなどとの貿易を通じてBRIC
sなどの新興国が経済力をつけ、投資・生産・消費において自律的な経済成長を遂げ
るようになってきています。一方、これまでゆるい経済共同体であったヨーロッパ
が、経済だけでなく政治的にもより強固なEUを組織し、通貨も統一通貨としてユー
ロを導入することで、EUの拡大とともに、投資・生産・消費がEU内で強まるよう
になってきています。つまり、新興国やEUなどを含めた世界経済がアメリカ経済に
依存する度合いを徐々に低下させる状況になってきているということです。

 こうした世界経済の変化のなかで、ドルとしての資産価値が世界的に低下してきて
いるのではないかと見ています。例えば、アメリカに対して膨大な貿易黒字を稼いで
きた中国は、これまで米国債に投資して、アメリカの資金調達の一端を担ってきまし
たが、ドルの資産価値の低下によるリスクを警戒してユーロへの投資を始めていま
す。ロシアや韓国も同じ動きをしています。アラブの産油国のなかには、ドルペッグ
制をやめる国も出始め、またユーロや円など複数通貨を加えた通貨バスケット制への
移行を示す国や、イランのように円決済を日本の石油会社に求める所もでてきていま
す。

 こうした流れを受けて、ドルは今年に入って、ユーロに対して一貫して下落傾向に
あるばかりでなく、中国元をはじめとするアジア通貨、カナダやオーストラリア、
ニュージーランドなどの資源国通貨などに対しても下落傾向にあります。それは、こ
のサブプライムローン問題が表面化し拡大する以前から起きていましたが、この問題
により、より鮮明になってきています。そして、低金利で円を借りてドル経由で海外
のリスク資産に投資してきたキャリートレードの資金も、ドル下落で巻き戻しが起こ
り、これまで弱かった円も急騰する結果となっています。

 ドル下落のもう一つの要因は、このサブプライムローン問題で金利の引き下げが行
なわれ、相対的にドル資金の魅力が減ったことです。もちろん、この問題がアメリカ
経済にも影響して景気下振れ懸念が高まれば、さらに一段の金利低下が見込まれ、同
時にアメリカ株式などのドル建てリスク資産の下落リスクを考慮すると、海外に資金
がさらに移動していくことも予想されます。しかも、新興国の経済に目覚しい成長が
見られ、それらの国への投資とともに、原油、金、希少金属、穀物など商品需要の拡
大が予想されるために、先週末の95ドル/バーレルという原油価格、787ドル/
オンスという金価格に見られるようにドルから国際商品市場に投機資金が流れていま
す。

 こうした状況を見ると、このサブプライムローン問題は、世界的に、それを証券化
して全く別物となった商品を購入した金融機関へと波及していますが、その金額に限
度があり、いずれ、各国の中央銀行の対応により信用問題としては収束に向かうもの
と見ています。ただ、この問題の震源地であるアメリカにおいては、信用問題と景気
への配慮のための金融緩和が一段のドル安を招き、ドル離れした資金が国際商品市況
に向かって商品価格の上昇を招くという二重の意味でのインフレにつながる動きに直
面することになります。つまり、アメリカは、景気悪化懸念による金利引き下げが、
ドル安と商品価格の上昇を通じて物価上昇圧力を受けるという皮肉な状況に追い込ま
れる恐れがあります。

 したがって、こうした株価や為替の下落の動きは、このサブプライムローン問題を
契機に、アメリカ経済の過剰消費体質に基づいた構造的・本質的な問題と、ドルとい
う基軸通貨のもとでこうした問題を抱えるアメリカ経済に依存してきた世界経済の構
造的・本質的な問題をクローズアップし、こうしたアメリカ及び世界の経済が抱える
問題の解決を迫っているといえましょう。そして、アメリカの過剰消費体質の改善に
はアメリカだけでなく世界も相当な痛みが伴いますが、それは避けて通ることのでき
ないものといえましょう。

 ただし、その結果は、ドルという基軸通貨の時代が終わりを告げることになるかも
しれません。それは、アメリカという覇権国家としての「帝国」の終わりが始まるの
かもしれません。もちろん、アメリカは問題の分析と対応、責任の追求においては優
れたものがあり、簡単に基軸通貨としての地位を失うこともないでしょうし、覇権国
家としてのスーパーパワーを容易に他国に渡すことにはならないと思います。

                             経済評論家:津田栄

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 米国住宅市場のバブルはすでに昨年の段階で弾け、米国経済の好調の原因であった
住宅価格が上げ続けることを前提とした部分は、サブプライム問題による金融機関の
巨額損失という形で清算されようとしています。

 FRBのバーナンキ議長は、この問題による金融機関の損失額は今年7月時点では
1000億ドル(11兆円)との見方を示していましたが、11月に入っての議会証
言で1500億ドル(17兆円)と修正しています。その結果、通常の商業銀行も含
めて、銀行はローンの貸し出し姿勢を厳しくしていますから、信用の収縮の影響が実
体経済に影響を与え始めています。バーナンキ議長も、今年の年末にかけてGDP成
長率の減速は必至であることを認めざるを得ませんでした。

 アメリカの消費がもっとも賑わうクリスマス商戦は、昨年比ですとマイナスになり
そうです。ただ、それが激減と言われるほどのものにはなりそうもありません。その
意味では、今回の金融危機は一過性のものにとどまりそうです。

 シティーグループなど巨大金融機関の兆円単位の損失の発表が相次ぎ、額の大きさ
が門外漢のスケール感覚からはみ出しているため、どこまで深刻なのか量りかねる面
があります。あえて定性的に表現すれば、現在は経営者が責任をとって交代する程度
には事態は深刻ですが、銀行セクター自体が赤字に陥るまでにはいたらず、サブプラ
イムローン自体の供給機関をのぞいて、金融機関の破綻の心配をする段階にはないと
いうことでしょう。

 現在言われている損失規模が、これ以上拡大しないことが言えるのならば、今回の
サブプライムによる信用用収縮の規模を比較するのに、失われた10年を生み出した
日本の不良資産の積みあがりによる金融危機と持ち出すのは大げさだと思われます。

 現在良く引き合いに出されている金融危機は、80年代のアメリカでのS&L(貯
蓄貸付機関。あえて日本で似たものを探すと、信用組合や信金のような存在)が15
00億ドル規模の損失を出して業態ごと崩壊していった事例です。当時のアメリカ経
済はちょうど低迷期でドルも一貫して弱かった時代でした。その後の経済規模の拡大
を考えあわせると、今回のインパクトを類推すると、今回の危機の金融機関の損失が
1500億円にとどまるのなら、そのときの危機以下のものにとどまる可能性が高い
といえます。

 これまでの、アメリカ経済の好調を支えてきた要素には、住宅価格の伸張のほかに
も、雇用の安定や低インフレ・低金利があげられます。住宅価格の要素はすでにマイ
ナスに転じましたが、他の要素はどうでしょうか。

 これから、悪影響が出てくるにせよ9月末段階のGDP成長率は好調でした。現
在、米国企業の9月四半期決算の発表が済んだところですが、雇用を支えてきた好調
な企業収益状況には急変の兆しは見られないようです。

 ただ、インフレと金利に関しては変調のリスクが拡大しました。今回の問題で急速
に進んだドル安と原油高のダブルパンチで、押さえ込まれてきたインフレが上昇圧力
にさらされることでしょう。

 現在、信用収縮を回避するために、FRBは必要な分だけ流動性を供給する意図を
示していますが、この供給された流動性が将来のインフレの引き金になり、長期金利
の本格的な上昇を招きかねません。

 願望も入っていますが、サブプライム問題による信用収縮は山を越えたと思われま
す。その意味で、影響は一過性ですが、あらたにインフレと金利上昇の危険性が出て
きたという点では、経済は新たな局面に入ったように見えます。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:837への回答ありがとうございました。RYU's CUBAN NIGHT 07 が続いてい
て、ほとんど原稿が書けません。しかし、キューバ人と話していると妙に元気になり
ます。つまらないことを気にしてもしょうがない、自らの欲望と欲求を肯定し、実現
に向かって全力を傾けるだけだ、という気分になって、「この人たちが帰国したら全
力で小説を書こう」というシンプルな思いを持つことができます。

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Q:838
 政府や与党の中で、消費税率の引き上げを「(財政健全化のため)当然のこと」と
して語る人が増えてきたように思います。消費税は平等・公正な税だという意見をよ
く聞きますが、そのような指摘は正しいのでしょうか

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                                   村上龍
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JMM [Japan Mail Media]                 No.454 Monday Edition
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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