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アメリカ発の世界不況  【田中宇の国際ニュース解説】
http://www.asyura2.com/07/hasan54/msg/705.html
投稿者 愚民党 日時 2008 年 1 月 24 日 10:03:31: ogcGl0q1DMbpk
 

田中宇の国際ニュース解説 2008年1月22日 http://tanakanews.com/


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★アメリカ発の世界不況
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 1月21日から22日にかけて、世界的な株価の急落が起きた。日米だけで
なく、欧州各国の株も下落し、世界の主な市場の多くが、1日で4−6%の
下落という、911以来6年ぶりの急落を記録した。
http://www.ft.com/cms/s/604d71dc-c853-11dc-94a6-0000779fd2ac.html

 株安の原因は、世界から商品を旺盛に輸入・消費し続けてきたアメリカが不
況に陥りそうだということだ。不況(リセッション)は、経済のマイナス成長
が6カ月以上続く状況を指すが、ここ1カ月ほどの間に、ゴールドマンサック
スやメリルリンチといった米大手投資銀行がアメリカの不況入りを予測し、ブ
ッシュ政権も不況対策の計画を発表し、すでに米経済の不況入りはほぼ確実で
ある。
http://news.yahoo.com/s/nm/20080109/bs_nm/usa_economy_goldman_dc_2

 最近発表された12月期のアメリカの失業者数は、前年同月比13・2%増
となった。米経済はこれまで、失業者数が13%以上の増加になると、必ず不
況に陥っている。住宅着工は約30年ぶりの激減だ。アメリカの消費者は、
16年ぶりに消費を減らし始めた。経済統計から見ても、米経済は今後かなり
ひどい不況に陥ることが見通せる。
http://www.nytimes.com/2008/01/19/business/19charts.html
http://www.ft.com/cms/s/0/58247d58-c50a-11dc-811a-0000779fd2ac.html
http://www.nytimes.com/2008/01/14/business/14spend.html

 米政府は、消費と投資を誘発するため、減税を中心とした総額1500億ド
ルの財政的な景気対策を行うことにしたが、この対策は効果が薄く、時期的に
もう遅すぎるとも指摘されている。景気対策の発表後、米株は失望売りで下落
した。
http://www.ft.com/cms/s/0/90e0f850-c5f1-11dc-8378-0000779fd2ac.html

 アメリカの今の政権と議会は、産業界や農民、医者などが作る各種の政治圧
力団体(ロビイスト)からの要請に弱いことで有名だ。911後のテロ対策や、
2005年のハリケーン復興など、特別枠の予算の多くは、本筋とあまり関係
ない業界への利益誘導に使われている。今回の景気対策も、議会で、各種の利
権のひも付きになっている議員たちにいじり回された挙げ句、景気対策とはほ
ど遠い予算の無駄遣いになる可能性が高い。
http://online.wsj.com/article/SB120070893894602249.html
http://www.ft.com/cms/s/0/35397fb8-c079-11dc-b0b7-0000779fd2ac.html

▼景気対策は無駄遣い

 米政府はすでに巨額の財政赤字を抱え、今後は高齢者向けの官制健康保険
「メディケア」や年金の支出急増も確実だ。支出増の一方で不況で税収が減り
そうな中、景気対策に財政を無駄遣いすることは、非常に危険である。債券格
付け会社のムーディーズは1月10日、米政府がメディケアや年金の支出増を
抑制できない場合、今後10年の間に、米国債は現在の最優良格付け(AAA)
からずり落ちるとの予測を発表した。
http://www.ft.com/cms/s/0/40f3a2be-bfa9-11dc-8052-0000779fd2ac.html

 メディケアや年金の支出に加え、景気対策の無駄遣いが米政府の財政負担と
して重なると、ムーディーズが予測する「10年後の格下げ」は前倒しされ、
下手をすると2−3年後には米国債が格下げされるかもしれない。格下げされ
ると、米国債を買いたい人が減って利率が上がり、ますます米財政の首を絞め
る。格下げはドル安も招き、最悪の場合、米政府は国債の利払いや償還が不能
になり、債務不履行に陥る。米国債が紙くずになる事態が、絵空事ではなくな
ってきた。
http://www.telegraph.co.uk/money/main.jhtml?xml=/money/2008/01/14/bcnfedcut114.xml

 すでにブッシュ政権は、1960年代のジョンソン政権による戦後最大の財
政の大盤振る舞いとして知られる「偉大な社会」以来の、財政の大浪費をして
いると指摘されている。ジョンソン政権の財政浪費は、次のニクソン政権に引
き継がれ、1971年のドルショック(金ドル交換停止、ドル急落)につなが
った。
http://www.antiwar.com/bandow/?articleid=12227

 多極主義者であるニクソンは、世界経済の構造を多極化するため、意図的に
財政の無駄遣いを加速した可能性があるが、今のブッシュも同じ構図をたどっ
ている。特に、次期大統領が共和党になった場合、共和党の候補の多くはブッ
シュの財政大盤振る舞いを続けると言っているので、米政府の財政破綻とドル
の基軸性喪失が起きる可能性が大きい。民主党候補が勝って、頑張って財政の
立て直しを目指したとしても、成功はおぼつかない。
http://tanakanews.com/071218multipolar.htm

 米政府は、財政支出と利下げを同時に行って景気対策にしようとしている。
しかし、財政支出は米国債の格下げからドル下落につながる一方で、利下げも、
世界からアメリカに流れ込んでいる投資の利回りを低下させ、世界が対米投資
を控える結果、ドルの信用不安と下落につながるので危険だ。欧州中央銀行の
理事の一人は最近、ドル下落の恐れがあるので、米連銀はもうあまり利下げす
る余地がないはずだと述べている。米連銀は、利下げすればドル不安、利下げ
せねば不況、という板挟みになっている。
http://www.telegraph.co.uk/money/main.jhtml?xml=/money/2008/01/14/bcnfedcut114.xml

▼倒産が倒産を呼ぶ

 アメリカでは前回2000年に不況になったが、それは不況になったかどう
かわからないぐらいの浅い不況で、期間も8カ月と短かった。しかし、今年か
らの不況は、金融危機を併発しているため、前回よりはるかに大規模で長期的
なものになりそうだ。
http://www.ft.com/cms/s/0/2567b2aa-c775-11dc-a0b4-0000779fd2ac.html
http://washingtontimes.com/apps/pbcs.dll/article?AID=/20071225/BUSINESS/183214693/1001

 金融危機の発端となった住宅バブルの崩壊は続き、ファニーメイとフレディ
マックという、アメリカの2つの公的住宅金融機関が貸している比較的優良な
ローンの領域まで返済不能が増え始め、2社は経営難に陥っている。2社は、
資本の余力が少ないため、返済不能が増えると倒産の危機になり、政府の公的
資金を入れて保護せねばならなくなる。2社のローン貸出残高は合計約4兆ド
ルで、この中の1割程度が貸し倒れになると、サブプライムローンの損失総額
(3000億ドル)を上回る。しかも、2社の損失は米政府に保証義務がある。
米政府の財政は、ますます赤字になる。
http://www.baltimoresun.com/news/opinion/oped/bal-op.fannie04jan04,0,1654729.story

 不況と金融危機の併発は、米企業の倒産を増加させる。アメリカは昨年まで、
倒産しそうな会社でも高リスク債券(ジャンク債)を発行して資金調達できた
ので、倒産件数が異様に少なく、倒産率は1・3%だった。ところが昨夏以来
の金融危機で、高リスク債の市場は開店休業状態が続き、倒産しそうな企業が
高リスク債を発行しても、全く売れないか、非常に高い金利を払う必要がある。
http://tanakanews.com/070622debt.htm

 シティグループの概算によると、高リスク債による資金調達ができないため、
アメリカの企業倒産率は、09年初には4倍の5・5%にはね上がると予測さ
れている。20社に1社が倒産するということだ。しかも、シティグループの
概算には「不況」が勘案されていない。不況で倒産が2倍になったとすると、
倒産率は10%になってしまう。
http://www.ft.com/cms/s/0/afcb0cda-ba19-11dc-abcb-0000779fd2ac.html

▼米英経済の不振は10年続く?

 住宅ローンの返済不能や、企業倒産が増えると、高リスク債の債務不履行
(デフォルト)が増えるが、債券の多くには、デフォルトした場合に支払われ
る保険(クレジット・デフォルト・スワップ<CDS>、モノライン保険)が、
リスクヘッジのためにかけてある。この保険の残高は45兆ドルある(米の住
宅ローン残高の4倍)。
http://www.ft.com/cms/s/0/50d659d2-c1f3-11dc-8fba-0000779fd2ac.html

 このうちの1%の債券がデフォルトしただけで、サブプライムの損失総額を
上回る4500億ドルの保険金が必要になる。保険金はモノライン保険会社が
支払うが、こんな巨額の支払いはこなせない。アムバックとMBIAという、
モノライン保険会社の大手2社は、倒産が時間の問題だとみられている。
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601109&sid=aJhQdBxLg_ko

 モノライン保険会社が倒産したら、残っている保証契約は紙くずになる。債
券保証の制度そのものが崩れ、ヘッジされていたはずのリスクが目前に表れ、
債券全体のリスクがいっそう上がる。この分野はここ数年で急成長したので、
政府の保証は何もなく、規制もなかった。「不況のための備え」は、実は不況
など永遠に起こらないことを前提としていた。高リスク債券の世界は全体とし
て、不況を前提としておらず、この手のねずみ講的な話は、今後まだまだ出て
くるだろう。ここ20年の米英の経済力の源泉だった証券化のシステムそのも
のの大伽藍が崩壊している。
http://www.ft.com/cms/s/b81521fe-c50a-11dc-811a-0000779fd2ac.html

 この金融崩壊が続く限り、不況も悪化する。少なくとも今年いっぱいは、タ
マネギの皮を一枚ずつむくように金融危機が拡大していくのではないか。金融
崩壊が一段落した後、不況も一段落するだろうが、欠陥が露呈した以上、証券
化のシステムが復活して米英経済が昨年までの強い状態に戻る可能性は低い。
いずれ別の金融システムが構築されれば復活するかもしれないものの、米英経
済は下手をすると今後10年は不振が続く。
http://www.larouchepub.com/pr/2008/080112trillion_bankruptcy.html

▼長期的にはデカップリング

 アメリカは戦後ずっと、世界中から旺盛に商品を買い続け、大消費国として
世界経済を牽引してきた。牽引役が失われるわけだから当然、アメリカの不況
は世界の不況になる。日本もEUも、経済の減速が予測されるようになり、こ
こ数日、ユーロの為替も下がっている。(日本は、米株の購入資金作りに使わ
れていた円キャリー取引が清算され、円高になっている)
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601101&sid=aLvF4F3dwJGc

 日欧も今年は不況に陥りそうだが、金融危機は併発していない。日本は、
90年代のバブル崩壊後の金融界の慎重さが幸いし、金融機関は高リスク債をあ
まり買っていない。欧州では損失を出す金融機関が出たが、全体として見ると、
たとえばドイツでは、企業の投資の90%は内部留保を使った自己資金であり、
イギリス以外では債券発行は少ない(フランスでは60%)。
http://www.ft.com/cms/s/0/861e4b00-b9eb-11dc-abcb-0000779fd2ac.html

 中国やインドなどの新興経済大国も、対米輸出が減って経済が減速するだろ
う。年明けからの世界的な株安傾向を見ると「アメリカが消費しなくなっても、
その分を新興大国が消費するので世界経済は高成長し続ける」というデカップ
リング説は、短期的には間違いだったことがわかる。

 昨年来の危機でアメリカの金融機関の株価が半値になり安値感があるので、
中東産油国や中国の政府投資基金(SWF)がさかんに米金融機関を買収して
いる。だが今後、金融危機はもっとひどくなり、金融株はもっと下がることを
考えると、彼らは高い買い物をしている。
http://www.iht.com/articles/2008/01/03/opinion/edbowring.php

 これらの問題はあるが、中長期的に考えると世界経済は、中国、インドやそ
の他の大小の新興国の人々が、貧乏人から中産階級へと上がっていく際の消費
力によって牽引されていくしかない。世界経済が今後、アメリカ発の世界不況
から立ち直れるとすれば、そのシナリオは、世界経済の中心がアメリカからア
ジアなどの新興市場に移ることになる。デカップリング説は、短期的には間違
っていたが、長期的には当たっている。

▼「新しいT型フォード」

 先日、インドのタタ財閥が、10万ルピー(約25万円)という超安値の自
家用車「ナノ」の発売を発表した。フィナンシャルタイムス(FT)はこの車
を「新しいT型フォード」と呼んでいるが、この視点は示唆に富んでいる。
http://news.ft.com/cms/s/3602e8da-c079-11dc-b0b7-0000779fd2ac.html

 1910年代に開発されたT型フォードは、世界初の大量生産の自家用車で、
当時アメリカに登場しつつあった中産階級が、世界経済を牽引する消費力の主
役になる転換点の時期に出てきた商品だった。FT紙がナノを「新しいT型」
と呼ぶ意味は、ナノがインドをはじめとする新興市場諸国で、中産階級として
登場しつつある人々が買う最初の自家用車になるかもしれない、ということで
ある。

 以前の記事( http://tanakanews.com/071225crisis.htm )に書いたように、
世界の消費を牽引してきたアメリカの中産階級は疲弊し、縮小しているが、そ
の代わりにインドや中国などで中産階級が登場し、彼らが世界の消費を牽引し
ていこうとしている。その象徴がナノであるというのが「新しいT型フォード」
の視点から読み取れる。

 ナノに対しては「途上国の人々がみんな自家用車を持ったら、排気ガスや地
球温暖化で大変なことになる」と、先進国の環境運動家が叫んでいるが、これ
は先進国の人間の傲慢であり、新興国の台頭を「環境保護」の名目で阻止しよ
うとしているにすぎない。「地球温暖化問題」が、イギリスなどの先進国が新
興国からピンハネするために誇張しているプロパガンダであるのと同じ構図で
ある。


この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/080122recession.htm


★関連記事

アメリカ発の世界不況が起きる【2006年1月25日】
http://tanakanews.com/g0125mortgage.htm

アメリカ発の世界不況が起きる(2)【2006年9月30日】
http://tanakanews.com/g0930recession.htm

金融危機を悪化させる当局
http://tanakanews.com/071225crisis.htm

深化するドルの危機
http://tanakanews.com/071204dollar.htm

サブプライム危機の再燃
http://tanakanews.com/071113subprime.htm

イギリスの凋落
http://tanakanews.com/080115UK.htm


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