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【連載小説 1】 とりあえず一回目を書いてみる。
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投稿者 まや 日時 2007 年 4 月 16 日 02:04:37: 1WMLvIbaif5Yc
 


この小説は九条とは関係ないお話です。「本を作ろう」とも関係ない。

私が自費出版する予定のものを披露するだけです。
「エロ小説」と「改憲反対」をポジ・ネガセットみたいな仕組みにするつもり。
伏線状態のものです。

前に「父と娘の会話 前半」書いたけど、この小説を読まないと「父と娘の会話」の意味が伝わりません。(後半が書けません)あたしゃ、こんなもんを去年、半年間かけて書いたのだ。

ブーイングがすごかったら、もう続きは書きません。


でも「本を作ろう」は、私の怪しいポリシー(立ち位置)とは関係なく、良い考えだと確信しています。もし私がいなくなっても、みんなでやってください。「まやが嫌いだから、本を作ろうはいやだ」というなら、「アメリカの押し付けだから九条はだめ」と同じ対応になると考えます。

そのまんま西さん、エールを感謝します。

 一回で終わるかもしれないので長めに出しました。 はじまり、はじまり。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

       『社長  柏崎光男』


1 デスク

 柏崎は数粒の胃薬をペットボトルの水でぐっと飲み込んだ。
「そんなに薬ばっか飲んで、病院に行かなくて大丈夫なんですか?」と、社長あての郵便物を持ってきた、若い太った部下が尋ねた。
 柏崎のデスクはオープンフロアーのオフィスを、すりガラスのついたてで仕切った社長コーナーにある。部下たちは社長が市販の胃薬を飲む姿をたびたび目撃している。
「酒よりは、薬のほうがましかなと思ってね」とボトルのふたを閉めながら柏崎は部下に言った。
「とにかく社長は毎晩毎晩飲みすぎですよ。いくら付き合いでも」と、帳簿や書類で埋めつくされた広めのデスクに郵便物を置きながら、部下が言った。
「ご忠告ありがとう。君も食べ過ぎにご注意を」と間髪入れず、柏崎は笑いながら返した。
 柏崎の話し方には何か独特のソフトムードが漂い、忠告を嫌味と感じる者はほとんどいない。柏崎に初めて接した人が抱く印象は、高級ホストクラブのホストみたいという感想が多い。芝居くさいと感じる者も少なからずいるようである。
 忠告の返礼を笑顔で言われた部下の男は、照れくさそうにぴょこんと頭を下げると、そそくさと自分のデスクに戻った。ついたての外で二人の会話を伺っていた化粧の濃い女子社員が、その男に近づいた。
「ねえ三浦ちゃん、今ボスと何を話していたの?」と尋ね、話を聞くと、「それ言えてる!」と、男の肩の肉をつまみながら、ことさら大きな声で笑った。
 柏崎は今しがた受け取った郵便物に目を通していて、ついたての向こう側で起きた笑い声に顔を上げる様子もない。女子社員にとって柏崎は、近くにいるのに遠い存在である。彼女は柏崎と業務以外の言葉を交わす機会を常に探している。「うるさいですよ」と叱られてもみたい。化粧もいつぞや柏崎に「あなたは化粧栄えがしますね」と言われてから更に濃くなったのだが、女性は柏崎に皮肉られたとは気がついていない。

 『エベレスト出版株式会社』の社長、柏崎光男、五四歳。会社は新宿のとあるビルの五階にある。『エベレスト』とは「挑戦」の気持ちで付けた社名だが、しばしば山岳関係の出版社かと誤解される。出版物の主なジャンルはノンフィクッション、評伝、思想、哲学。埋もれた文学の発掘も行っている。原稿の一般募集はしていないが、勝手に送ってくるものもある。日本人の活字離れは顕著であり、本の未来は厳しい。その荒波のなかで、社員十名ほどのこの小さな出版社は何とか踏ん張っている情況である。
 
 柏崎は出版会社の他に、外国からアンティークを輸入したり、日本の古美術や民具の輸出したりの骨董事業を行っている。社名は『サンライズ』、事務所は新橋にあるが、取り寄せた骨董品は、晴海の貸し倉庫に保管される。実店舗を持たないため、商品の販売はインターネットオークションでの取引が中心となり、受注もほとんどインターネットを通じて行われる。柏崎は、日々、新橋の事務所と新宿の出版社を山手線で往復している。

 さらに柏崎は、埼玉県大宮の実家近くで姉が経営するレストランに週一度のペースで通い、経理やその他もろもろの相談に応じている。柏崎の住まいは新宿と目と鼻の先、豊島区のマンションである。そこでひとり暮らしをしている。結婚はしているが、妻とは事実上別居の状態が続いている。妻は実母を介護するため新潟に帰り、東京の自宅にはほとんど戻ってこない。息子たち二人はすでに独立している。

 柏崎は年がら年じゅう人と会う。それが仕事と言っても過言ではない。これまでさまざまな分野の仕事をしてきた。今振り返ると、なぜあんな仕事をしたのだろうと疑問に思うこともある。人に会うのは、概ね金がらみ話である。知人たちは問題が起きると柏崎の顔が浮かぶらしく、酒席を用意して呼び出す。「久しぶり、まあ一杯」の後、「実は…」と、相談事を打ち明けてくる。「他に頼める人がいない」と言われては、上手い口実を作って逃げることも出来ない性分である。そして行き掛かり上、場当たり的に厄介事を請け負うことも多い。失敗もたくさんしてきた。裏切りにあったのも二度や三度ではない。「柏崎はお調子者だ」と陰口をたたく者もいるが、その彼とて行き詰まると柏崎に声を掛けてくる。業界では柏崎の名には信用が定着、名前だけ貸してくれと頼まれ、どれほど融通してきたか自分でも数えたことがない。現在も数社の役員を請け負っている。

 馬鹿げた人生だと思う。だがすべて自分でよしとして進んできた。断らないで引き受ける。出来る限りのことをする。いつしかそれが柏崎の基本姿勢になっていた。だから今、真っ白い世界に連れて行かれて、「さあ好きなことをやりなさい」と言われたら、しばらくは途方にくれるだろう。今と同じ情況だけは選択しまい。人生のここかしこで見捨ててきたこと、あきらめたこと、そういった未経験のことを試してみたい。だが、柏崎は結局、生身の人間と接するのがいちばん面白いのだと思う。そして神(もし存在するならば)は、必然的に柏崎を人間対応型の性格に作り上げたのであろう。

 現在、出版社の社長をしているのも、長期入院した友人に頼まれて引き受けたまでの話である。本は嫌いではない。中学生時代から、本ばかり読んできた。大学生になりたての頃はジャーナリストを志望していた。だからある意味やりたいことに手が届いたと言える。こと最近の人間対応型の柏崎は、出版界の人間との交流がメインとなっている。

 柏崎の予定表には、次の月まで連日連夜、人に会う約束がびっしり書き込まれ、今現在もタイトなスケジュールに押されている。出版関係の申告期限が近い。映画会社からの協力要請も入っている。またこの日は、大宮の姉からも「相談したいことがあるからなるべく早く来てほしい」と携帯に何回もメールが入った。

 柏崎は郵便物チャックのあと、山積みされた事務処理に没頭した。途中ふとパソコンでメールチェックをすると、「文章講座」の講師をしている友人に、面倒見を頼まれた小説家志望の中年女性から来ていた。先日柏崎が「小説は、お客様にお金を出して買ってもらうのですから、アブノーマルなくらいのセックス描写が必要ですよ」と助言したことに対する、潔癖な乙女の如き反論がずらずら並んでいる。結局、彼女は自分の体験を赤裸々に書く羽目になるのが嫌なのであろう。自分をさらけ出すことが出来ないなら、小説を書く必要はないのではないか。柏崎はその旨を書いて返信した。彼女が小説を書かなくても、世の中何も損失はないのである。

 他にも男女数人からメールが来ている。訪問した会社の秘書からのもある。いずれも「会いたい」だの、「お食事」だの、「ゴルフ」だのである。「それなら、私の代わりに仕事をしていただけますか?」と柏崎は書いてみたものの、×マークを押してメールソフトを閉じた。ただ、ここ数ヶ月来、瑠璃子という女性からのメールは非常に気になる。瑠璃子は詩のような短い文を送って来る。彼女の謎かけのようなメールを読むたび、柏崎の気持ちが揺らぐ。昨日も次のようなメールが届いていた。

【件名 無題】
━━撮影で九十九里浜に行きました。背中にタトゥーのあるサーファーを見かけました。あなたと同じね。
でもあなたは自分の背中に”孤独”って書いてあること知らないでしょ?━━

瑠璃子への返信を考えていると、柏崎もいつか詩人になってしまう。忙しい時には、瑠璃子からのメールは開かないほうが無難なようである。

2 大宮

 柏崎はほぼ週一回の割合で、大宮の姉夫婦が経営するレストランへ足を運ぶ。そこからさほど遠くない実家には兄夫婦が住んでいるが、両親が他界してからは、実家を訪れるのは正月だけになってしまった。
 六十歳になり今年定年退職した兄は、東大を卒業して以後三八年間、公務員を勤めあげた。実は左翼的思想の持ち主で、生涯その思想傾向が変わることはなさそうである。一九六八年、学生運動が盛んな時代、安田講堂に立て篭もったというエピソードを持つ。公務員になったのも、内側を知るとか、内側から変えるとかいう理念をもってのことだったが、その内側で大いに出世して、最終的には県立美術館の館長になった。口が達者で、インテリ女性を口説くことを密かな楽しみとしてきた。その際に左翼思想や、安田講堂立て篭もりの体験談が効力を発揮したのは想像に難くはない。
 兄の妻は何事も気にしないタイプの女性で、自分の夫が両手の指では足りない数の不倫をしてきたことなど、露ほども疑ったことはない。兄と関わってきたインテリ女性━ほとんどが女流画家だが━は皆プライドが高く、束縛を嫌い、別れ際も鮮やかであった。
 兄はことごとく要領が良い。そこが柏崎と根本的に違っている。

 柏崎は、自分から女性を追いかけた記憶はほとんどない。密かに好意を抱いたことは何回かあったが、思いを打ち明けたりはしなかった。柏崎の場合、自分から行かなくても女性が次々に飛び込んでくる。なぜかメス種族に気に入られてしまうのである。その様子は、アフリカ大陸に渡り医療活動を行ったシュバイツアー博士の「行く先々で動物たちが集まってきた」というエピソードを連想させる。
 女性が柏崎を好む現象に関しては、実の姉さえも例外ではない。姉は柏崎にべったり依存し、「これ私の弟よ」と誰彼構わず自慢げに紹介する。自慢の根拠は希薄であるが、社長であるとか役員であるとか、そういうことではない。おそらく柏崎の存在が発するオーラに関係するのであろう。それにひきかえ、彼女は自分の夫を、改めて誰かに紹介したことがあっただろうか。
 柏崎としては、姉や女たちのふるまい、あるいは友人知人の誘いかけなど、総じて親和的な触手━イソギンチャクの如きヌラヌラした誘い━に対しては、受け入れるしかない。どうせ受け入れるなら、嫌な顔はしたくないし、角を立てたくない。それが柏崎独特の笑顔を作り上げた。嬉しいけど困ったな、という表情である。その笑顔から、困ったな、の気持ちが消えると、まぶしいような笑顔になる。
 更にいうと、柏崎は稀なる美男であるが、美男子が老いるのは非常に難しい。柏崎は現在、美男子と言われてきたその顔に、いかにその生き様を刻むのか問われ始めている。

 姉の日出子は、柏崎より三つ年上である。姉夫婦の経営する『子ぶた』は、大宮の繁華街の目抜き通りを少しそれたビルの地下にる。四人掛けのテーブルが六卓と、六人掛けのカウンターのある、ごく庶民的なレストランである。内装には、南フランスの田舎をイメージし、観葉植物、骨董のランプ、人形や壷などが置かれている。銀座のレストランや高級ホテルを知る柏崎の目には、センスの無さが映る。だが黙っている。そこまでいちいち面倒を見ていられないのである。
 料理を作るのは、柏崎と同じ年齢の夫の仕事である。性格は無口で頑固。職人気質である。

 柏崎は、姉からのメールを受け取った翌日の夜、『子ぶた』を訪れた。階段を下りて店に入り、カウンターに座る。姉が嬉しそうに近づいて来た。手にはすでに柏崎の好きな生ビールのジョッキを持っており、黙って柏崎の前に置く。姉も化粧の濃が部類に入る。鼻の先に赤い玉を付ければ、すぐにピエロの顔になりそうである。気性はいたって単純。柏崎と同じく好奇心は旺盛、だがむき出しの好奇心である。

 今回、柏崎に持ちかけた相談話は、数日前の「ゴキブリ騒動」の一件である。若い女性三人が注文したビーフシチューのうちの一皿に、大きなゴキブリが紛れ込んでいた。その客が静かに教えてくれればいいものを「ギャー」と叫んだために、店中が大変な騒ぎになったというのである。それを聞いた柏崎は
「誰だって大声出しますよ。起きてしまったことは、原因をしっかり調べて同じ失敗を繰り返さないという教訓にすればいいじゃないですか」と言った。
「私もそう考えたけど、あなたに同じこと言ってもらって安心した。自分の考えだけじゃ安心できないのよ。それにくやしくて、くやしくて」
「何がそんなにくやしいの」
「あり得ない失敗だもの。基本中の基本でしょ」
柏崎もそう思った。おそらく容器の点検不足か、デミグラソースの保管が悪かったかであろう。
「くよくよしてるとまた何か失敗しますよ」と柏崎は言った。姉が黙っているので
「少しは自分で考えて、そんなことで僕を頼らないでくださいよ。義兄さんだってそう言うでしょ」と押して言った。
「あの人に相談なんか出来ないわよ。すぐに喧嘩になるんですもの。あなただって亜紀さんと喧嘩するでしょ」
「僕は夫婦喧嘩などしませんよ。やりたいようにさせています」ふと帰って来ない妻の顔を思い浮かべた。
「ああそれで」と姉はまた自分の話に戻す。
「やっぱりゴキブリ駆除の会社に頼んだほうがいいかしらねえ」
「あたりまえでしょ、そんなこと。飲食店なんだから」
業者に駆除処理を頼むと、消毒の匂いが数日間は消えない。姉はそれを気にしている。
「レストランじゃなくて、病院の匂いになっちゃうのよねー。それで帰っちゃうお客もいるし…」
「姉さんの店だから、ゴキブリレストランと評判が立とうと僕は一向に構いませんから」
「はい。わかりました。消毒する決心がつきました」と、姉はぴしゃりとゴキブリの話を閉じた。
「ところで」と姉は声をひそめて、また別の話を切り出した。
「洋子さんの店の噂、あなた分かってるの?」
「ああ、またその話ですか。あの根も葉もない……。また、誰がいらんこと言ってきたんですか?」
「あなたがここに来るのは、本当はあっちと会うためだって思ってる人がいるの」と姉は顔を寄せて話しかけてくる。
「誰ですか、それは」柏崎は苦笑いしながら言う。
姉は誰が言ったか答えない。
「本人が否定しないのよ。もともと自分がばら撒いた噂なのよ、きっと」

 洋子も、柏崎に生涯まといついている女性である。姉はこの手の話がことさら好きなのだ。自分の弟がよその女にもてるのがよっぽど嬉しいと見える。
「他に困ったことが無いなら、僕は帳簿を見て帰りますよ」と柏崎は席を立った。
そして「義兄さんはいないんですか?」と今更のように尋ねた。
「ラストオーダー出して、さっさと帰りました。片付けは私の仕事だから」
店内にはまだ数人の客が残っている。
「そうですか、ではがんばって」
姉の話につきあっていたら、終電に間に合わなくなる。
「最近面白い話はないの?」と、調理場に向かう姉が振り返って尋ねる。
「あるわけないでしょ。いつもと同じ、金の話ばかりです。金なんて誰が作ったんだろう。僕はそんなものより自由が欲しい」

 柏崎は、埼京線の最終電車に飛び乗り、東京に戻った。この日もまた、四年に一度のワールドカップをテレビで見ることが出来なかった。
 


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