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“環境に優しい企業”のウソ 猫も杓子も「環境保護」、でも本当に効果は出ているのか? = BusinessWeek
http://www.asyura2.com/07/nature2/msg/449.html
投稿者 ダイナモ 日時 2007 年 10 月 29 日 21:21:15: mY9T/8MdR98ug
 

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071026/138700/

Ben Elgin (BusinessWeek誌、シリコンバレー支局特派員)

2007年10月29日発行号カバーストーリー 「Little Green Lies 」

 オーデン・シンドラーが、企業による環境保護活動の心得をその先駆者から叩き込まれたのは、1990年代後半にコロラド州アスペンにあるシンクタンク、米ロッキーマウンテン研究所に準研究員として勤めていた頃のことである。

 所長のエイモリ・ロビンスは伝説的な自然科学者であり、企業が“環境に配慮”することで、地球環境を守りつつ、しかも利益を上げられるという理論を提唱した。ロビンスはシンドラーら研究員にいつもこう言っていた。

 「エネルギー効率を高め、有害物質の排出を減らせば、コストを削減できるだけでなく利益の創出にもつながる」

 この理論に大いに刺激されたシンドラーは1999年、高級リゾート経営の米アスペン・スキーイングに入社、“企業の持続的発展”の大切さを社内で強く訴えかけ、この運動の先駆者となった。

「単なる偽善だね」

 それから8年。シンドラーは6時間かけて車と徒歩でアスペン一帯を動き回り、従業員800人を擁する豪華リゾートの地球温暖化対策を見せてくれる。37歳のシンドラーは日に焼けてがっしりした体つきの登山愛好家でもある。貯蔵庫の上によじ登って指さす先には、従業員用住宅の屋根に設置されたソーラーパネルが輝く。石ころだらけの斜面を下りていくと、会社が設置した小型水力発電設備が見える。動力は山から勢いよく流れ落ちる川の水だ。

 アスペン・スキーイングは環境対策の実績をマーケティング活動に利用しており、本社には環境保護への貢献を示す数々のトロフィーや盾が飾られている。昨年、米タイム誌はシンドラーを“環境保護の戦士”と称え、雪をかぶった木々の間に立つ顎を突き出したシンドラーの半ページ写真とともに紹介した。

 だが乾燥した晩夏の午後が終わる頃には、シンドラーの得意な気持ちは完全に消え失せている。会社のセダンを砂利道の脇に停めてエンジンを切ると、ようやく重い口を開いた。

 「単なる偽善だね」

 どんなに努力してもリゾートの温室効果ガスの排出は年々増える一方だ。客が増えればロッジの稼働率も上がり、電力消費量は増す。さらに、暖冬だと何トンもの人工雪を補充しなければならず、膨大なエネルギーを必要とする。

 「いろんな面白い計画に手を染めてきたが、本来の目標は全く達成できていない。環境に優しい会社にするなんてほとんど不可能だ」

“デジタル戦略”が“環境戦略”に変わっただけ

 大手企業は連日のように、環境保護の新たな成果を声高に発表している。小売業者は店舗を改装してエネルギー消費を抑え、電力会社はクリーンエネルギーを推進して風力発電の開発を行い、大手銀行はクリーンエネルギーに数十億ドルを投資している。アル・ゴア前副大統領がどのように批判されようとも、ノーベル平和賞を受賞した彼の提言が的を射ていることは疑う余地もない。

 地球温暖化に対する消費者の不安が高まる中、どの企業もその解消の一端を担っているという姿勢を見せつけようとしている。米医薬品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)の前エネルギー担当だったクリス・ハンターは指摘する。現在は米環境コンサルティング企業グリーン・オーダーに勤めているハンターは、「10年前、企業が求めていたのは“デジタル戦略”だった。今は、それが“環境戦略”に変わっただけだ」と言う。

 環境問題にどれだけ貢献しているかが、企業のイメージアップの要となっている。米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、数百万ドルに及ぶ広告費のほぼすべてを、環境に優しい製品シリーズ「エコマジネーション」に投入するという。同社の売り上げに占める割合がわずか8%であるにもかかわらずである。米ヤフー(YHOO)と米グーグル(GOOG)は、2008年までにオフィスとコンピューターセンターを“カーボンニュートラル”にすることを明らかにしている。

 こうした企業広報活動を過熱させているのは、環境保護はコスト削減になるだけでなく収益アップにもつながるという考えだ。だが、ほんの数年前まで先頭に立ってこの理論を支持していたシンドラーは、今、環境に配慮した企業活動が収益を生むという意見に強く反論する。

中身のない謳い文句

 カリスマ性があり、企業で環境問題を担当する幹部の間でも顔の広いシンドラーは、陰で密かに囁かれていることを公然と口にしている。「企業は環境対策を、ほかの投資計画と同様に投資回収率に基づいて評価している」ということだ。

 環境保護事業の中には、長期的に見れば投入した資金を回収できるものもある。しかし資金をほかの用途に使えば、より多くの利益を短期間で創出することもできる。その結果、世に出ないまま葬り去られてしまう環境保護計画は少なくない。

 さらに重要なのは、多くの場合、コストの削減効果は全く望めないということだ。計画実行にはひたすらコストがかかり、金をかけなくても環境は救えるという信念は大きく揺らいでいく。

 腰の重い同僚、妥協してばかりの自分自身、欧米企業に蔓延する見せかけだけの環境保護運動――。シンドラーの告発の裏には、そうした諸々に対する失望の積み重ねがある。

 今のところ、シンドラーの発言が解雇騒動にはつながっていないが、アスペン・スキーイング経営陣には競合リゾート各社から“シンドラー発言”に対する苦情が寄せられている。同僚たちは、個人的な好意をもって接してくれているが、時にはイライラしているのが分かる時もある。

 「自社に対する批判的な態度をとがめないのが我が社の企業風土だ。シンドラーにはこれまで通りそうあってもらいたい」と、アスペン・スキーイングのCEO(最高経営責任者)のマイク・カプランは言う。リゾート業界を環境対策活動の最前線に引っ張ってきたのはアスペン・スキーイングなのだと、カプランは自信を持ってつけ加える。

「グリーン電力証書」は中身のないただの宣伝文句

 だが、シンドラーはささやかな提案が何度も却下されるという憂き目に遭ってきた。昨年は老朽化したロッジを省エネ設計に改装する計画を提案した。10万ドルの投資は、7年間の電気料金節減効果で回収できる計算だった。だが会社は新しいスキーリフトやスノーモービルなど、いつも購入している物に資金を回した。「経営資源には限りがある」と不動産部門担当副社長のドナルド・シュスターは言う。

 業を煮やしたシンドラーは昨年、自らも認める過ちを犯した。アスペン・スキーイングに「REC(再生可能エネルギー証書/グリーン電力証書)」を購入させ、環境問題に取り組んでいると宣伝するよう促したのだ。

 グリーン電力証書は、地球温暖化防止への貢献をアピールしたい企業が、その根拠としてよく使うようになった決済システムだ。企業がグリーン電力証書を買うと、資金が無公害エネルギーの発電や開発に回るというものだが、その実態は極めて不透明であることが明らかになっている(BusinessWeek.comの記事を参照:2007年3月26日「Another Inconvenient Truth」)。

 アスペン・スキーイングは、グリーン電力証書で相殺することで「電力使用による二酸化炭素排出ゼロ」をアピールした。しかし、今、シンドラーはそれが中身のないただの宣伝文句にしかならなかったと悔やんでいる。アスペン・スキーイング以外にも、怪しげな環境対策をアピールする企業は少なくない。問題の多いグリーン電力証書を計算に入れないとしたら、環境対策を主導しているとされる大手企業数十社は、その主張の説得力を失ってしまう。

 オフィス用品小売大手の米ステープルズ(SPLS)は、2001年以来19%増加している有害物質の排出量を、グリーン電力証書を利用して15%削減したと環境報告書に記している。米ペプシコ(PEP)と米ホールフーズ・マーケットは、グリーン電力証書で電力使用による公害排出を完全になくしたと宣言した。

 ジョンソン・エンド・ジョンソンは、炭素ガスの排出を1990年から17%削減したとしている。ただし、これもグリーン電力証書の利用に基づいた数字で、それがなければ削減どころか24%の増加だったと同社幹部は認める。「ジョンソン・エンド・ジョンソンをはじめとする企業の最近の環境対策は正しい方向に向かっている。だが、問題の大きさに比べれば外面を飾ったポーズに過ぎない」とジョンソン・エンド・ジョンソンの前エネルギー担当ハンターは言う。

効果は小さく、継続も難しい

 各社によるアピールが過熱する中、正真正銘の環境改善を実現した企業もある。米ウォルマート・ストアーズ(WMT)は省エネ型蛍光灯の一大広告を打って、市場の火付け役となった。白熱電球の方が儲かるにもかかわらずだ。米オフィス・デポは600店舗以上で照明とエネルギーの徹底点検を行い、温暖化ガスの排出を実際に10%削減することに成功した。米ダウ・ケミカル(DOW)と米デュポンも、実際の排出レベルを大幅に削減している。

 しかし、こうした動きが長期的に続くかどうかには不安が残る。ダウは10億ドルを投じ、1994年から2005年までの間に19%の排出削減を達成したとしている。だが技術的問題とコストの面から、今後18年間、つまり2025年まではこれ以上の削減は見込めないと予測する。

 企業が自ら宣伝する環境保護の実体は、紛らわしい統計データと誇大な宣伝に過ぎない。本気でこの問題に取り組むのであれば、実際の成果と単なる見せかけとを明確に区別する必要がある。

 シンドラーは、8年前に可能だと思っていた劇的変化を企業に望むのはもう無理だと考えている。企業はそうした変化が起きたと吹聴することに慣れっこになっている。シンドラーによれば、「(アスペン・スキーイングは)企業の環境保護活動が見せかけだけのものに終わってしまう典型的な見本だ」と辛辣である。「我々は都合のいい計画ばかり50ほど選んで実行した。だが、すべてのスキーリゾートが同じことを実施したとしても、環境に対する効果はこれっぽっちもないだろう」。

まるで“塹壕戦”

 オーデン・シンドラーが自然に魅了されたのは14歳の頃だった。叔父に連れられ、リュックを背負ってモンタナ州北西部の荒涼たるボブマーシャル野生地域を旅した時だ。

 ごみごみとしたニュージャージー州ハッケンサックで育ったシンドラーは、常に窮屈で居心地の悪い思いをしていた。そんな思いから逃れるように、メイン州大西洋沿岸のボードン大学で環境学を専攻した。「山に登ったりアウトドアを楽しんだり。望んでいたことが実現できた」。

 大学在学中には、標高2万300フィートのアラスカ州マッキンリー山を制覇したほか、ワシントン州中央部に険しくそびえるレーニア山への登頂を何度も成功させた。冬のヨセミテを9日間かけて1人、スキーでトレッキングしたこともある。手で雪穴を掘って寝泊まりした。「秋の朝、標高1万2000フィートもの高山のキャンプ場にいる時ほど、幸せを感じることはない。空気はさわやかでひんやりしている。キャンプファイヤーの上ではコーヒーが沸いている。まさに至福のひとときだ」。

 大学を卒業後、シンドラーはアスペンへ移り住み、スキーを指導するかたわら、高校では数学も教えた。コロラド州から、環境関連の仕事を請け負うようになったのもその頃だ。低所得世帯がエネルギーを節約できるよう、移動式住宅(トレーラーハウス)の断熱性を高める仕事だった。崩れそうな住宅の床下を這い回る作業もあり、腐臭を放つアライグマの死骸に出くわすこともあった。「気合を入れなくてはできない仕事だった。穴を掘ったりもぐったり、言わば、気候変動緩和を目指した塹壕戦だね」。

理論を実践に移す

 1997年になると、シンドラーはアスペンの近くのロッキーマウンテン研究所(RMI)に就職した。RMIは、1982年に冒頭で紹介したロビンスらが共同設立した機関だ。物理学者でもあるロビンスは、当時の妻L・ハンター・ロビンスと、実業家のポール・ホークンと共に、後にベストセラーとなる『Natural Capitalism(自然資本の経済)』の執筆に取り組んでいた。彼らはこの本の中で「企業が事業運営を見直し、原料を賢く選択すれば、汚染物資の排出を大幅に削減できるだけでなく、利益を生み出すこともできる」と説いた。

 シンドラーはロビンスの下で、執筆のための調査を担当した。ロビンスはシンドラーのことをこう振り返る。「彼は素晴らしい人物だった。積極的で頭が良く、ひたむきだった」。

 ロッキーマウンテン研究所には、エネルギー効率への異常なこだわりがあった。シンドラーは、やかんに蓋をせずに湯を沸かしてひどく叱られたことがある。心酔するロビンスと共に働き、ホークンとジョギングを楽しむ。「大学院に進学する代わりに、あの研究所に行ったんだ」とシンドラーは語る。

 1999年、富裕層の行楽客に人気のホテルとスキー場を経営するアスペン・スキーイングが環境担当ディレクターを公募していることをシンドラーは知った。まさに自分のやりたかった仕事だった。「ロッキーマウンテン研究所を退職した当時、政府は強力で、企業も十分に物分きありが良く、利益が出れば環境に必要な変化を起こそうと動いてくれるだろうと考えていた。疑いもしなかったね」。

 スキー産業は、エネルギーを大量に消費する。なにしろ、ゲレンデにはいつもパウダースノー、山の上には居心地の良い隠れ家という夢の世界を作っているのだから。理論を実践に移すには最適の場所だった。

白熱電球を蛍光灯に交換する提案は却下

 アスペン・スキーイングは、シカゴのクラウン家が所有する非公開企業だ。クラウン家は、軍需企業である米ジェネラル・ダイナミクス(GD)をはじめとする複数の企業に出資して数十億ドルの富を得たことで知られる。自然保護に対する真摯な姿勢を示すのは、ほんの数度の気温上昇でスキーリゾート事業も“溶解”してしまうからでもある。前出のアスペン・スキーイングCEO、カプランは、「子どもたちから“ねえ、パパ、大人になったら一緒にスキーに行ける?”と聞かれても、“それは、分からないな”としか答えられない」と言う。

 当時29歳だったシンドラーは、アスペン空港近くに位置する、木壁の建物のアスペン・スキーイング本社に採用された。当時のCOO(最高執行責任者)、ジョン・ノートンはこう振り返る。「彼は素晴らしいカヤック乗りであり、優れたスキーヤーでもあった。スキーの会社では間違いなく歓迎されるタイプだ」。しかし、会社の金を使うということになると、話は別だ。

 シンドラーは手始めに、90の客室を備えたリトルネルホテルに的を絞った。アスペン山の麓に位置するこの贅沢なロッジは電気をふんだんに使っていたので、すぐにでも成果を出せると踏んだのだ。当時マネジャーだったエリック・キャルデロンに、全客室に蛍光灯を取り付けたいと申し出た。蛍光灯は白熱灯より10倍も長持ちし、電力消費を75%も抑えられる。コストはたった2年で回収できる。

 しかし、キャルデロンは首を縦に振らなかった。こざっぱりした青いブレザーとチノパンツを好むおしゃれなキャルデロンとしては、蛍光灯によって客室が待合室のような雰囲気になり、5つ星評価が汚されるのではないかと心配したのだ。「環境問題に取り組むことと、顧客の期待に応えることのバランスの問題は、ビジネスに常につきまとうものだ」とキャルデロンは語る。

売り上げ2億ドルの企業が、NPOから5000ドルの助成金

 客室の件では提案を聞き入れてもらえなかったシンドラーは、リトルネルホテルの地下駐車場だったらどうかと考えた。ホテルのボーイがロビーで車を預かる方式なので、客が駐車場を見ることはない。シンドラーは、エネルギーを無駄に消費する175ワットの白熱電球用の照明器具を蛍光灯用のものに取り替えるのにたった2万ドルしかかからず、年間で1万ドルの支出を抑えることができると説得した。

 それでも、キャルデロンは前回同様にこの提案を跳ね除けた。仮に2万ドルあったとしたら、良質のレザーを施した家具を購入したり、バスルームの金具を新しいものに取り替えるなど、客の目に留まるものに使いたいと思ったからだ。

 その後の取締役会で、シンドラーは駐車場に蛍光灯を設置する計画の妥当性を示すために、一風変わったプレゼンテーションを行った。配線を施したエアロバイクを持ち込み、蛍光灯の消費電力がいかに少ないかを実証したのだ。30人のマネジャーが見守る中、シンドラーは体格の良い経営幹部を1人選び、エアロバイクをこぐよう説き伏せた。確かに、白熱電球を灯すには蛍光灯よりもはるかに多くの労力を要した。

 しかし、不動産部門担当のシュスターは、蛍光灯を設置したからといって資金の節約になるとは思えなかった。彼はこう振り返る。「シンドラーが示した改修工事のROI(投資収益率)は疑わしいと感じられた。実際の利益を考えずに、理論上の試算に基づいて資金を投入することはできなかった」。

 それでもシンドラーは2年がかりで、駐車場の照明設備の交換に対する社内の抵抗を打ち負かした。それも、彼が地元の非営利組織(NPO)から5000ドルの助成金を確保したからこそ実現できたのだ。アスペン・スキーイングは数字を伏せているが、業界の関係筋によると、同社の年間収益は約2億ドルと見られている。このような大企業が、自社の電力消費を削減するために助成金を得るなどということが非常識であることを、シンドラーはもちろん知っている。

 「ROIの壁を越えるためには、ちょっと過激な行動が必要なのさ」。シンドラーは皮肉を込めて言う。

環境技術への先行投資は株主利益に反する?

 シンドラーが蛍光灯をめぐって引き起こしたような騒動は、スケールの大きさは違えども、ほかの多くの企業でも起こっている。

 環境問題における先駆者との呼び声も高い米フェデックス(FDX)は自社のサイトで「当社は温室効果ガスの排出を極力少なくするために、革新的な技術の採用に取り組んでいる」と表明している。世界最大の輸送企業である同社は7万台の車両と670機の航空機を使用しており、その燃料消費によって膨大な温室効果ガスを排出している。

 同社は2003年、今後は大気汚染物質の排出が少ないハイブリッドトラックを年3000台のペースで導入し、将来的にはディーゼルエンジン車の温室効果ガス年間総排出量25万トンを削減する予定であると発表した。また、「この計画を推進することによって、当社所有の3万台の中型トラックを今後10年でハイブリッドトラックに切り替えられる」と表明した。2004年、米環境保護庁はこの取り組みに対し、クリーンエアエクセレンス賞を授与した。

 ところが、発表から4年間でフェデックスが購入したハイブリッドトラックは100台にも満たない。これは同社が所有する車両総数の約0.3%だ。ハイブリッドトラックの価格は7万ドル以上。通常の車種に比べて少なくとも75%のコスト高になる。車両の寿命を10年とすれば、この間に燃料の節減によってコストの差額は相殺されるとしても、これは大きな障壁だ。2007年度(決算期は5月31日)に20億ドルという記録的な収益を報告したフェデックスは、10年をかけて収支を合わせるような方法では、資本を最適に活用できないと判断したのだ。

 環境担当ディレクターのミッチ・ジャクソンは語る。「我々は株主に対しての責任がある。環境技術の開発に先行投資した結果、成熟した技術のうま味を競合他社に持っていかれるわけにはいかない」。

太陽光発電への投資は渋々認められた

 シンドラーは、新しい提案をするたびにROIの問題に衝突している。今年の初めには経営陣に対し、アスペン郊外の太陽光発電企業に100万ドルを投資するよう提案した。ロッキー山脈にあって電力を消費する多くの企業と同様、アスペン・スキーイングも主に石炭火力発電所のエネルギーに依存している。石炭火力発電は膨大な二酸化炭素を排出する。

 しかし、政府がクリーンエネルギーを奨励するために打ち出した税制優遇措置を考慮しても、フットボール競技場サイズの太陽電池パネルが生み出す利益は投資額のわずか6.5%だ。つまり、元手を回収するには15年かかる。最高財務責任者のマット・ジョーンズは、「この提案はかろうじて承認されたが、試算が正しいかどうかも怪しいものだ」と話している。

 シンドラーの粘り強さを、一部の経営幹部は認めるようになってきた。もろ手を挙げて計画に賛同しないにしてもだ。プレゼンテーション用のエアロバイクをこがされた前COOのノートンは語る。

 「我々はスキー場を4つ、ホテルを3つ、スポーツ施設を2つ、ゴルフコースを1つ所有し、非常に複合的な事業運営を試みている。しかし我々は、シンドラーが自分たちの仲間だということを忘れたことはない。彼はいつもユーモアを交えながら意見を述べるが、ここぞという時には断固でひたむきな態度を示す。信念を持った人間だ」

苦労して作った水力発電は需要の1%も満たさない

 シンドラーは既婚で、幼い子供が2人いる。役員ではないものの、ほとんどの重要な会議には出席する。アスペン・スキーイングは給与額を一切公表しておらず、自らも給与額を明かすことはないだろうが、同社の事情に詳しい関係者によると年収は約10万ドルだという。

 シンドラーは年中忙しく動き回って、何にでも率先して取り組む。ボイラーのノブをいじってみたり、建物の照明がどうして昨夜はつけっ放しになっていたのか聞いて回ったり。東海岸のエリート大学出身という気取ったイメージを崩したいかのように、ロッジの電気配線の修理を手伝ったりもしてみせる。行く先々で声を掛けられ、冗談交じりにからかわれる。「“よう、今日は空き缶1個リサイクルしたぜ”って、何回聞いたことか」(シンドラー)。

 誇りにしている実績は、2003年に15万ドルを投じてゲレンデ内に小さな水力発電設備を設置したことである。1年のうち2カ月間、小川に大量に流れ込む雪解け水を利用して発電する。残りの10カ月間は休止状態だ。

 スチールタービンが配置されている小屋の中で、シンドラーは建設中に起こった様々な困難について生き生きと語った。「地面を掘るとガス管に当たってしまうし、予算はオーバーするし、大変な目に遭った」。だが、やり遂げた。

 苦労して完成させたものの、内心では失望を感じ始めていた。水力や太陽光による発電量は、社内の電力需要の1%にも満たない。同僚たちは精いっぱい協力したつもりだったが、シンドラーにとっては到底満足できる結果ではなかった。

「環境に優しい企業」をアピールする権利の売買にすぎない

 2005年にグリーン電力証書の導入を決めたのは、そういう経緯があった末に、業界をリードするという姿勢を何としてでも示したかったからだ。

 グリーン電力証書は、2000年代に入って導入された仕組みで、風力発電と太陽光発電の市場取引を推進するものである。クリーンエネルギーの発電事業者は、電力量1メガワット時(メガは100万)単位でグリーン電力証書を発行し、売却する。企業がこれを購入する。環境に優しいエネルギーに出資することで、自社の温暖化ガス排出量を相殺する。

 しかし、グリーン電力証書の取引は、実際には「環境に優しい企業」とアピールする権利を売買しているのに過ぎない。風力タービンやソーラーパネルの設置を推進しているとは、とても言い難いのである。

 “環境に優しい”という証明を求める企業が増加し、仲介業者が増えるにつれて、グリーン電力証書のような取引が一気に広まるとシンドラーは予測していた。2006年、シンドラーはアスペン・スキーイングの経営陣に、年間エネルギー費を2%だけ上乗せし、4万2000ドルを投じて1メガワット時当たり約2ドルでグリーン電力証書を購入するよう説得した。

 この金額は、水力発電設備に投じた建設費の3分の1にも満たない。それでもグリーン電力証書の一般原則に従えば、アスペン・スキーイングは石炭火力発電によって供給された電力使用量をすべてクリーンエネルギーで相殺したことになったのである。

 社内でのシンドラーに対する評価は一気に高まった。当時のCEOパット・オドンネルはプレスリリースで、「グリーン電力証書の購入は、当社の理念を行動で示すものだ」と表明した。環境保護庁はアスペン・スキーイングを称賛し、地元紙はその快挙を報じた。シンドラーは「当時は、これでやっと大きな成果を上げることができたと思えた」と振り返る。

 シンドラーは、そのことを効果的に伝えるマーケティング戦略を練り、「アスペン・スキーイングは電力使用量を100%風力発電証書に転換し、膨大な汚染物質の排出を防いでいます」という宣伝文句を作成した。スキー場のリフト、宣伝パンフレット、無数の電子メールなどあらゆるものに、この文句を張りつけた。
 だが、このキャンペーンに携わりつつも、シンドラーは割り切れない気分だった。証書の購入が、風力発電所の新規建設に結びついていないのではないかという疑いが消えなかったのである。実際には何の埋め合わせにもなっていない。複雑な心境だった。

グリーン電力証書を買ってもグリーン電力は増えない

 「本当は何が正しく、何をすべきで、何が問題なのか、私にはよく分かっている。だが会社のブランドを確立することも大切だ。業界をリードするというアスペン・スキーイングの地位を維持することも、自分の仕事だから。スキーリゾート産業はこぞってこの流れに従おうとしていた。カリフォルニア州の小さなリゾートが既に動き始めていて、我々も動き出さないわけにはいかなかった。せめてもの救いは、この動きから学べることがあるという点だった。グリーン電力証書そのものに価値がなかったとしても、そこから巻き起こった様々な議論には、何らかの意義があったはずだ」(シンドラー)

 シンドラーの予想は的を射ていた。アスペン・スキーイングがグリーン電力証書を購入してから1年半のうちに、その後を追ったスキーリゾート会社は50を超えた。うち28社が「100%風力発電エネルギー使用」と謳っている。少ない投資で環境保護をアピールできるということもあって、グリーン電力証書はほかの業界からも注目を集めた。環境保護庁によると、今年度、証書購入量上位25社が購入したクリーン電力量は、総計600万メガワット時。2005年度のほぼ4倍だ。

 シンドラーはグリーン電力証書の先駆者として称賛されることに空しさを覚え、次第に不安を募らせていった。仲介業者に対し、証書の売買によって風力発電施設の新設が推進されているという証拠を提示するよう要求した。だが、曖昧な回答しか返ってこない。シンドラーの苦悩は募るばかりだった。再生可能エネルギー分野の専門家に、自分のマーケティングメッセージが妥当なのか聞いてみたが、「取り合ってもらえなかった」と彼は語る。

 問題の根底は、グリーン電力証書の基本的な仕組みにある。アスペン・スキーイングやほかの多くの会社は、1メガワット時当たり2ドルで証書を購入する。この証書自体には、理論的にさほどの効果はない。風力発電事業者は、1メガワット時当たり約51ドルで電力を電力会社に販売し、さらに連邦政府の税制優遇措置として20ドルを受け取る。その上、最大20ドルまで設備投資を加速減価償却できる。

 証書を売れば利益を得られるとはいえ、1メガワット時当たり91ドルを手にしているのに、あと2ドルのために発電量を増やそうとは思わないというのが風力発電事業者の本音だ。

 新規風力発電事業に投資する投資銀行、米バブコック・アンド・ブラウンの国内風力発電事業の最高開発責任者ジョン・キャラウェイはこう語る。「現行の価格では発電事業者にとってほとんどメリットがない。不可欠ではない設備をあえて作らせるインセンティブにはならない」。

増えるのは環境保護活動を称える「賞」ばかり?

 この問題に気づいている環境問題担当者はシンドラーだけではない。2006年、ジョンソン・エンド・ジョンソンは100万ドルの証書を購入し、40万トン分の温暖化ガス排出量を相殺した。これによって、排出量を1990年に比べ17%削減したことになる。世界自然保護基金をはじめとする環境保護団体はこの功績を高く評価し、環境保護庁は2006年度の「グリーンパワー賞」を授与した。

 グリーン電力証書にまつわる様々な疑念に対し、ジョンソン・エンド・ジョンソンのグローバルエネルギー担当シニアディレクターであるデニス・カナバンも、環境保護を推進する理想的な手段とは言えないことを認めている。

 「証書を購入したからと言ってジョンソン・エンド・ジョンソンのガス排出量を実際に削減しているわけではない。いずれこうした証書の必要性がなくなることを願っている。それでも、この証書が何らかの形で再生可能エネルギーの拡大に役立っていることは確かだ。当面は、二酸化炭素ガス排出量を相殺する手段としてこのシステムを活用していく」(カナバン)

 もっと直接的な手段を講じる企業もある。自社で多量のクリーン電力を生産することもその一例だ。8月、マサチューセッツ州ハンコックの米ジミニー・ピーク山岳リゾートは、高さ386フィートの風力タービンの稼働を開始した。これで使用電力量の半分を賄える見込みだ。完成まで3年を要し、400万ドルが投じられた。

 多くの大手企業は、コスト負担の軽い手法を弁護する。ステープルズの環境問題担当副社長、マーク・バックレーは「市場に正しいメッセージを明確に伝えることができる」とグリーン電力証書を擁護する。ペプシコ(PEP)で同じく環境問題を担当するロブ・シェイゼルも「我々は間違いなく大気中に排出される有害物質を減らしている」と同意する。ホールフーズ・マーケット(WFMI)はコメントを拒否した。

会社側の困惑と苛立ち

 今春、シンドラーはついに、方針を180度転換すべきだという結論に達した。ほんの数カ月前に自ら推進したグリーン電力証書の購入を取りやめ、もっと意義のある環境プロジェクトを支援するよう経営陣を説得したのだ。会社側は困惑と苛立ちを隠せなかった。

 上級マーケティングマネジャー、スティーブ・メトカーフから4月に受け取った電子メールにはこう書かれていた。

 「君ほど訳が分からない人に会ったことがない。例の環境メッセージ――君のメッセージだ――を全社的な取り組みとして発表しろと言ったのは君だったよね。君の言いつけ通りに、少しおかしいとも思えるほどの環境保全への情熱に喜んで応えてきたんだ。繰り返すが、本当に訳が分からない。疲れ果ててしまうよ」

 シンドラーはこう返信している。「落ち着いてくれ。これまでの協力には本当に感謝している。わが社はこの問題の先頭に立っていて、正しい答えを模索しているんだ。答えが単純で簡単なら、もうとっくに誰かがやっているだろう」。

 アスペン・スキーイングは、少なくとも契約が切れる2008年まではグリーン電力証書の購入を続ける。経営陣は購入停止を早めることには否定的だ。競合他社がこぞって風力発電100%をアピールする中、環境保全の流れに逆行しているとは見られたくないのだ。今も同社のマーケティング資料には、証書の購入について誇らしげに掲載されている。

企業は規制しなければ動かない

 シンドラーの立場は微妙だ。所属する企業がグリーン電力証書を購入しているにもかかわらず、先頭に立ってそれを批判しているからだ。4月には、サンフランシスコで証書の認定を行っている非営利団体、米資源問題解決センター(CRS)に手紙を送り、証書は新たな再生可能エネルギー開発に何の効果ももたらさず、「石っころか、借用証書か、松ぼっくり」を交換しているに過ぎないと批判した。

 この文言はインターネット上に流れ、スキー業界内ではこれを明らかな“攻撃”と受け止めた者もいた。シンドラーの直属の上司、法務担当責任者のデーブ・ベラックのところには、シンドラーに発言を控えさせるよう求める声も寄せられた。しかしベラックは取り合わなかった。

 環境問題担当者にとって敵か味方か分からなくなったシンドラーだが、「業界では足並みを乱すやつと思われているかもしれないけど、気にしてないよ。スキー産業だけの話ではなく、もっと大きな問題なのだから」と語り、悪評を物ともしない。3月には、米下院の「エネルギー及び鉱物資源に関する小委員会」で、企業を動かすには炭素排出に対して規制をかけることが不可欠だと述べた。

 利益を生む環境保護事業が盛んになれば、企業運営のあり方が変わる──。かつての信じていた理想を捨てた瞬間だった。

 シンドラーのかつての良き指導者ロビンスは、経営陣がもっとシンドラーに協力的であれば、シンドラーは低いコストでエネルギー効率を上げる方法をもっと見つけられるだろうと語る。だがシンドラーは、このような甘い考え方こそが問題であり、企業が手っ取り早く見返りを得られるプロジェクトにしか目を向けなくなる元凶だと警告する。

 「環境保全は楽しく、簡単で、そのうえ利益に結びつく──などというのは危険な考え方だ。実際は大変で、面倒で、しかも必ずしも利益が得られるわけではない。企業は現実的な取り組みを開始しなくてはならない」

(敬称略)

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