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第2次アーミテージ報告―米日同盟:2020年までアジアをいかにして正しい方向に導くか―についての浅井基文さんの分析
http://www.asyura2.com/07/senkyo31/msg/280.html
投稿者 gataro 日時 2007 年 2 月 26 日 18:52:09: KbIx4LOvH6Ccw
 

http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2007/173.html から転載。

第2次アーミテージ報告

 2007年2月16日に発表されたアーミテージとナイによる「米日同盟:2020年までアジアをいかにして正しい方向に導くか」と題する報告(以下「報告」)は、2000年10月に両者が「アメリカと日本:成熟したパートナーシップを目指して」(いわゆる「アーミテージ報告」)を発表してからの事態と状況の変化を踏まえた、今日の段階における情勢分析及び政策提言を行うことを目指したものです。その性格をまとめていえば、2000年の時と同じく、アメリカの国益を中心に据えて、アメリカにとってもっとも望ましい日米関係のあり方に関する青写真を示すとともに、日本に対する要求事項をめいっぱい並べ上げるということにあります。また、前回の報告がブッシュ政権のもとでの対日政策の方向性を規定してきたという自負のもとに、今回の報告によって今後(2020年まで)の日米関係のあり方に関する政策論議をリードすることを意図したものである、という点も見逃すことはできないでしょう。

以下においては、報告全体の性格を押さえるとともに、個別の記述の中での注目点について私の分析を加えておきたいと思います。


1.報告の全体的性格

全体を通じて浮き彫りになる報告の大きな特徴・問題点としては、次の諸点を指摘する必要があります。


(1)権力政治(「力による」平和観)的国際観

ブッシュ政権において国務次官の要職を占めたアーミテージとクリントン政権において安全保障問題で影響力を発揮したナイが中心となって作成したこの報告が権力政治(「力による」平和観)の発想に貫かれた国際観を全面的に展開していることは、当然といえば当然ですが、その関連でいくつかの特徴・問題点を指摘する必要があります。

@ 脱ブッシュ政治

報告は、ブッシュ政権の政策に対する直接的評価に踏み込むことを慎重に避けています。しかし、対テロ戦略を政策の中心に据え、一国主義(unilateralism)を追求したブッシュ政権の内外政策路線を、報告がきわめて批判的にとらえていることは、次のような記述から明らかです。

−「イスラム過激主義に対抗することはより緊急であるかもしれないが、主要国間の協力を確保するという長期的要請こそが、持続的で効果的なアメリカの対外政策の組織原則でなければならない」(p.2)。

(浅井注:言葉を換えれば、対テロ戦略に没頭し、主要国間の協力に意を払わなかったブッシュ政権の対外政策は「持続的で効果的」ではあり得ない、といっているわけです。)

−「議論の余地はあるが、現在のアメリカは、世界の他の地域に戦略的に専念することを強いられている」(p.20)。

(浅井注:イラク問題で足を縛られているブッシュ政権の対外戦略の欠落を指していることは、誰の目にも明らかです。)

−「アメリカが2020年までアジアで効果的に活動するだけの財政的、軍事的手段があるか否かはきわめて疑問である。巨額の赤字予算、増大する国債、軍事的に伸びきっていること、逼迫する国内的要請(老齢化する人口のためのヘルス・ケアや社会保障から公教育の回復まで)のいずれをとっても、ワシントンの意向如何にかかわらず、アメリカのアジアに対する影響力を損なうだろう」(pp.20-21)。

(浅井注:このくだりは、ブッシュ政権の内政、財政政策に対する間接的批判であると見られます。)

−「対テロ世界戦争(という表現)は、問題を正確に明らかにすることができない誤った言い方である。対テロ戦争とは、実際には、過激主義に対する闘いであり、その闘いのわずかな部分のみが軍事的手段に訴えることができるに過ぎない」(p.25)。

(浅井注:このくだりは、軍事的強硬手段に訴えることだけのブッシュ政権の対テロ戦略を実質的に否定しているに等しいものです。)

A アメリカ中心の多面的権力政治路線の提唱

このようにブッシュの対テロ戦争を中心に据えた1国主義の戦略に代えて、レポートがアメリカのアジア政策に求めるのは、アメリカが抜きんでた地位を占めることを前提にした上での、大国関係を中心とする本来の権力政治的発想に立った、アメリカの国益をどん欲に追求する戦略です。そこには、「アメリカに求められているのは何か?」(p.20)という問いかけは一応ありますが、アメリカの伝統的な発想に立った権力政治に立脚した対外政策を根本的に自己批判する姿勢は片鱗も窺えません。極端に走ったブッシュ政治の負の部分を取り除きさえすれば、アメリカの対外政策は根本的に正しいという考え方に立っていると言えるでしょう。

「この報告の目標は、『自由を好む勢力均衡』(原注:2002年9月にホワイト・ハウスが出した「アメリカの国家安全保障戦略」からの抜粋)を達成するための最善の見通しを提供するビジョンを描くことにある」(p.1)とするレポートは、このビジョン実現の中心にすわるのは、「アメリカ、日本、中国、ロシア、インド、ヨーロッパの間における協力関係だ」(p.2)と言い切っています。「自由を好む勢力均衡」をレポートがどういう意味でとらえているかに関しては、アメリカの価値観をアジアに押し付けるわけではないと一応断りつつも、「アメリカの政治的経済的目的と一致する形で、アジアの指導者たちが自国の成功を定義する環境を促すことだ」といい、「『内政不干渉』という時代遅れの概念」を退けている(p.1参照)ところからも、普遍的価値としての自由ではなく、あくまでもアメリカが定義する自由を押しつけようとする含意は明らかです。

また報告は、アジアにとって最善の構造が「アメリカの力、コミットメント及びリーダーシップに依拠し、アジアの他の成功している国々が地域の問題に積極的に参加することと結びつく」(p.14)ことによって実現するとし、「アメリカとのパートナーシップ及び共有する民主的価値に立脚する、日本、インド、オーストラリア、シンガポールなどが範を示すことで導く開かれた構造こそが、自由市場、法の支配に基づく繁栄の継続及び政治的自由の増大を強調するアジアの課題を実現する最も有効な道である」(同)と主張していますが、ここでもアジアにおける「自由を好む勢力均衡」が、アメリカの国益を実現するのにもっとも都合のいい内容のものとしてとらえられていることが明らかです。要するに、アメリカは常に正しく、そのアメリカと同じ立場をとる(とアメリカが認定する)国々を味方につけて権力政治を行い、アジアを仕切っていきたい、というのが報告の提唱する今後のアメリカのあるべき対アジア政策、ということになります。


(2)日本と中国に対する見方

報告は、「アメリカと日本」というタイトルにもかかわらず、中国に多大の関心を払っています。報告の際だった特徴は、小泉政権以来の日本の内外政策に対しては手放しの評価をしているのに対し、中国に対してはその内政及び対外政策に対して距離を置いた見方に徹していることです。この際立った扱い方の相違は、アメリカ的価値観に対して恭順の気持ちを示すのにやぶさかでない日本とあくまで是々非々を貫く中国との違いに基づいています。

@ 小泉政治以来の日本政治に対する手放しの評価

上記のとおり、ブッシュ政治に対しては距離を置く報告ですが、ブッシュ政権と小泉政権との協力関係及び日米軍事同盟の強化については、手放しの評価を与えており、名指しはしないものの、安倍政権を筆頭とする「戦争する国」を指向する動きに対しても最大限の評価を与えていることも見逃せません。第1期ブッシュ政権で国務次官を務めたアーミテージですから、このような評価になるのは当選といえば当然です。その手放しぶりを示すいくつかのくだりを紹介しておきます。

−アメリカが9.11事件にぶつかったとき、「ブッシュ大統領と小泉首相は、前例のない個人的及び戦略的なパートナーシップを確立した」(p.2)。

−「2020年頃でも確かなことが一つある。アメリカと日本は、民主的制度と価値観を共有する世界で最大の経済2強であることだ」(p.15)。

−「日本の新しい指導層は、より活動的な安全保障上及び外交上の役割を主張し、日本の国際システムにおける比重を高めようとしている。アメリカは、自信があり、このように行動する日本を必要としている」(同)。

−「国際の安定と安全のために、日本がもっと積極的な役割を担うように励まさないとしたら、国際社会は日本の持てる最高の潜在能力を否定することになる。しかし、アメリカが日本の国民感情に合致するように日本に対して戦略的に高い期待を持つことによって、日本は、民主的価値に基づくリーダーシップが何を意味するかについて、アジアにおいて力強いモデルとなることであろう」(同)。

−「小泉首相のリーダーシップと政治的意思によって、日本の世界的地位は大いに高まった」(pp.18-19)。

確かに報告は、歴史問題をめぐる日本と中国、韓国との緊張について言及し、この問題によって、アジアにおけるアメリカのもっとも重要な戦略的財産である日米同盟が不必要に弱まることに懸念を表明はしています。しかし、報告はその懸念についてはそれ以上立ち入ることなく(アメリカ国内にもある日本の保守政治の歴史認識に対する懸念にも言及しないで)、「日米同盟は、アメリカのアジア戦略の核であり、そうでなければならない」とし、そのためのカギは、「日米同盟が、共通の脅威に対する排他的な同盟から、共通の利害及び価値に基づくより開放的で包容的な同盟に向けて深化していくことにある」(p.15)と、歴史問題を素通りしているのです。

思うに、アメリカ追随度において世界に類をみない日本の保守政治は、アメリカにとっては絶対に失いたくはない存在でしょう。ですから報告としては、歴史問題に代表される日本の保守政治の負の部分には目をつぶり、日本の保守政治の反人権・反民主主義の体質をも最大限大目に見て、日本をますますアメリカの権力政治の駒として活用していくことが、アメリカの国益にもっとも資する所以と判断していることは間違いのないところだと思います。

A 中国に対する期待と警戒

これに対して、中国に対する報告の見方は期待と警戒が入り交じったきわめて複雑なものになっています。報告では、2020年にかけてのアジア情勢を見通す作業を行った上で日米関係のあり方を考察するという順序を踏んでいますが、アジア情勢の見通し作業の最初に取り上げられているのが中国であり、ほぼ2頁のスペース(独立して取り上げている台湾問題を含めれば3頁)を割いています(インド、朝鮮半島、韓国、東南アジア、地域統合問題がそれぞれほぼ1頁、オーストラリア、ロシアがそれぞれほぼ半ページ)。しかもそれ以外の場所でも、中国は何度も顔を出しています。

ここでもやはり、報告の対中認識の部分をいくつか抜き書きして、その対中認識の所在を確認しておきます。ちなみに、冒頭の方で述べたことですが、報告が内政不干渉原則という国際関係の民主化を考える場合のもっとも重要な原則(国連憲章でも明記されている)を「時代遅れの概念」と切り捨てているのは、この原則を常に最重視するのが中国であることを考えれば、中国批判の意味が込められていることは間違いないことです。

−「アメリカ、日本そしてアジアのすべての国々にとってカギとなる問題は、中国が成熟した経済及び軍事大国となるに従い、その新たに見出した能力及び資源をどのように使うか、ということである」(p.3)。

−「2000年10月に報告が出されてから(今日までにおける)、太平洋地域でもっとも重要な出来事は、中国の爆発的な経済成長であった」(同)

−「中国は、国内に大量の課題を抱えている。(中略)これらの課題ゆえに、中国は国内に専念しており、対外的安定を重視している。(中略)中国としては、経済成長及び公共の福祉という目的とは無関係の課題に資源を大きく振り向ける余裕はない。

とはいえ、アジアの他の地域と同じく、中国でもナショナリズムが台頭している。(中略)このナショナリズムは、アメリカと日本が中国との間において期待できる相互交流を進める上で、予見できる将来にわたって、制約となるだろう。同じく制約となるのは価値観の違いである。(中略)次第に明らかになっていることは、価値観と対外政策が結びつくことにより、アメリカの利害にマイナスの影響を及ぼしていることだ。このことは、イラン、スーダン、ヴェネズエラ、ジンバブエそしてウズベキスタンなどの国々に対する中国の行動で明らかだ。」(pp.3-4)。

−「中国が現代化し、成長することによって、力がつき、豊かになることは間違いないが、中国がどの方向に向かうかは予断を許さない。2020年には、中国は…政治的自由が増し、自由な制度をもった責任ある安定要素になる可能性もあるし、度量のない制度、熱狂的ナショナリズム及び腐敗を伴った重商主義で国際規範をゆがめ、隣国を脅かすようになるかもしれない」(pp.4-6)。

−「アメリカと中国の価値観が違い、地域的及びグローバルなそれぞれの利害について明確な認識が欠けている限り、米中によるアジアの共同統治などということは、米中関係の可能性を過大評価するものだと考える」(p.14)。

−「東アジアが安定するか否かは、米日中の関係のあり方によって決まるだろうから、アメリカが日本と緊密に同盟関係にあるからといって、ワシントンとしてはこれら三国間の関係が良好であるようにしなければならない」(同)。

以上の抜き書き部分から明らかになることは、アメリカとしては、圧倒的な経済成長を遂げ、総合的国力を増大させつつある中国との関係を良好なものに保つことを考えざるを得ないけれども、価値観の違い及び国際関係のあり方に関する立場の違いゆえに、中国を日本と同列におくことができない、ということでしょう。

しかし、先ほども出てきた内政不干渉原則は、決して「時代遅れ」ではなく、21世紀の国際関係の民主化を展望する上でもっとも重視しなければならないものです。さすがに報告は「ならず者国家」という表現は使っていませんが、イラン、スーダン、ヴェネズエラ、ジンバブエそしてウズベキスタンを名指しして、これらの国々と良好な国家関係を維持しようとする中国を牽制しています。しかし、アメリカに歯向かう国々を一括りにして断罪する姿勢は、報告自身が距離を置くブッシュ政権のこれらの国々に対する対応と五十歩百歩といわなければなりません。

また、報告はしきりに価値観の重要性を強調しますが、その価値観という点において最大限に評価される日本の保守政治の価値観の内実を知る私たちから見れば、この基準のいい加減さを指摘しないわけにはいかないでしょう。もし日本の保守政治がアメリカの言うことを聞かなくなれば、アメリカは直ちに日本の保守政治の価値観の欺瞞性を取り上げて日本を叩くことになるでしょうし、日本を叩くに当たって、アメリカが中国と手を結ぶ可能性は十分に考えておく必要があるでしょう。報告が重視するとする価値観も、権力政治を美化するためのイチジクの葉にしか過ぎないのです。

このように見てくると、「自由を好む勢力均衡」という装いとは裏腹に、赤裸々な「勢力均衡」の本質がこのレポートの中心にすわっていることを見て取ることは、何らむずかしいことではないことが分かります。


2.個別の問題点


(1)中国の軍事力増強の本質

報告は、中国が軍の現代化に邁進していることの目的が「台湾との紛争の可能性に備えること」(p.4)にあることを明言しています。確かに報告は、中国が遠洋航海能力を持つ海軍の開発に乗りだしていると見ていますが、その狙いは「エネルギー資源とシー・レインを守る必要」(同)があるからだと見ています。

このような冷静な認識は、日本国内で盛んに喧伝される「中国が攻めてきたらどうする」といった類の「中国脅威」論とはかけ離れていることが認識できるはずです。この点では、ブッシュ政権の対中認識とこの報告のそれとは軌を一にしています。


(2)台湾問題に関する危険きわまる認識

報告は、台湾問題を独立して取り上げ、「台湾及びその民主主義の成功はアメリカと日本にとって重要である」(p.11)とか、「2005年2月にアメリカと日本は、2+2の閣僚声明で、『台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す』とする共通の戦略目標を発表した。この賢明な目標は、2020年まで、あるいは中台が政治的違いを解決できない限り、日米の基本的指針となる」(同)とか述べています。

さらに報告は、次のように述べています。「このようなアプローチの根底には、アメリカと日本が問題の対話による平和的解決に有利な環境をつくり出し、維持することに関心を共有していることがある。このためアメリカは、『二重の抑制』政策をとっており、中国が武力を行使したりその威嚇を行ったりすることを抑止すると同時に、台湾が一方的に独立に向けたステップをとることを牽制している。アメリカからいえば、このことは、台湾の正当な防衛上の必要を支援し、軍事力に抵抗する能力を保持し、違いを解決するために軍事力に訴えようとすることに反対するということであり、同時に一つの中国政策を堅持するということである。」(pp.11-12)

報告が明らかにしている以上の見解は、「台湾問題は中国の内政問題である」とする中国の立場と真っ向から対立するものであり、中国は、到底受け入れないものです。報告の以上の立場は、従来のアメリカの政策を再確認したものです。しかし、台湾の現状維持を目指す政策が今後長きにわたって「日米の基本的指針」であるとしている報告の立場は、台湾問題に日本をも巻き込むものとして、私たちとしては到底無視することが許されません。

この点に関して、報告はさらに次のように驚くべき認識を表明しています。

「日本は、アメリカのこれらの義務を理解するべきであり、同盟のパートナーとして、台湾海峡の平和と安定を維持するのに適当な方法で適応するようにするべきである。つまり、アメリカ及び日本にとり、中台の間の積極的かつ建設的な対話を促し、挑発的な言辞を弄したり、役に立たない政治的行動に出たりしないようにし、断固として軍事的恫喝や圧力に反対するということが大切である。」(p.12)

つまり、アメリカの対台湾政策に、同盟国としての日本が協調行動をとることを求めているのです。正に、台湾有事に際しての日本の自動的巻き込まれを覚悟しろ、というに等しい内容になっています。それだけではありません。

「このアプローチの底流にはまた、平和な両岸の対話に有利な環境はどうしたらもっとも効果的につくり出すことができるかについて、台湾の人びとはアメリカと日本のビジョンに近い考え方を支持しているという想定がある。しかし、時とともに、民主的過程を通じて、台湾が異なる道を選択するのであれば、アメリカと日本は、この地域における日米の共通の利害をどうしたらもっともよい形で追求することができるかについて再評価する必要が起こるかもしれない。」(同)

「台湾が異なる道を選択する」とは、台湾独立を指していると見るほかありません。この可能性にまで踏み込むことにより、報告はアメリカのこれまでの政策の根本的見直しの可能性にまで言及しているのです。報告が中国に対して複雑な見方をしていることはすでに紹介したとおりですが、2020年までの時間幅をとるときには、台湾独立の可能性をも視野に入れようとする報告の本音であろう危険きわまる本質を、私の承知する限り、誰も指摘していないということは、本当に信じられないことです。私としては、声を大にして報告の危険性を訴えたいと思います。


(3)朝鮮半島問題

報告は、2020年までには朝鮮統一の可能性が大きいとし、そのことは「北東アジアにおける戦略的バランスを作り替えるだろう」(p.7)と予想しています。また、北朝鮮による核開発問題は、「統一によってのみ最終的に解決される可能性が高くなっている」(同)とする判断を示します。その判断根拠として報告は、「金正日政権は、ケ小平的開放の危険を取るよりは、…何とかやりくりしていくという道を選ぶだろう…。したがって、金正日がアメリカに対して根深い不信感を抱いており、アメリカの経済的インセンティヴを『毒りんご』と見ている以上、よく宣伝される『大取引』はありそうにない」(同)としています。報告は、北朝鮮が六者協議の合意を実行する可能性はあると一応はいいながらも、北朝鮮のこれまでの行動を前提にすると、その可能性は考えにくいと判断しています。

この問題については、2005年9月の共同声明を実施するための初期段階の措置が2月13日に合意されたばかりですから、軽率な判断を避けるべきだ、というのが私の基本判断です。私は、これまでの経緯をふまえるとき、北朝鮮が約束を履行しない可能性よりも、アメリカが約束を履行しないことによって合意が行き詰まる可能性の方が大きいのではないか、と見ています。金正日がアメリカに対して根深い不信感を抱いているとするレポートの指摘はそれなりにそうですが、その原因はアメリカ自身がつくり出してきていることにレポートがまったく目を向けていないことは、やはり独善的という評価は免れないでしょう。


(4)日本経済・社会のアメリカ経済への組み込み

報告は、日米経済関係について約3頁を費やして詳しく扱っています。そこを貫いているのは、新自由主義という言葉こそ使用しないものの、日本の一層の改革、規制緩和を促し、日本経済をアメリカ経済の一部として組み込もうとする露骨な姿勢です。日本経済の将来を考える上では、重い国債、人口減少、サービス及び金融における低い生産性の三つが重石になっているとし、アジアの経済的繁栄と安定にカギとなる日米としては、リーダーシップを発揮する責任があるとし、日本に対しては、日米自由貿易協定の締結、一層の規制緩和、日本農業の徹底した自由化を勧奨しています。

小泉政治のもとで、日本経済は徹底的に丸裸にさせられる過程が進行しました。教育、医療、福祉など、本来市場原理を入り込ませてはならない分野にまで改革、規制緩和を名目にした荒廃と破壊が持ち込まれています。報告は、今後更にその方向での日本経済・社会の荒廃と破壊を促しています。ブッシュ政治が終わったとしても、アメリカの対日経済政策には大きな変化は期待できないということを、私たちは冷静に認識しておく必要があると思います。


(5)日米安全保障関係

すでに全体的評価のところで述べたように、報告は、小泉政治のもとでの日米安全保障関係の進展に高い評価を与えています。しかし報告は、「日米安全保障関係を推し進めるためにはもっと多くのことができるし、アジアにおいてもっと活動的で積極的なプレゼンスを」(p.19)とどん欲です。


(6)2020年に向けての勧告

報告は、日本、日米安全保障関係、地域政策、世界政策のそれぞれについて勧告を行っています。これらの部分については、朝日新聞その他のメディアも報道しているところなので、ここでは省略しますが、日本に対する勧告において、政策決定の迅速化、改憲論議に対するアメリカとしての期待感の表明、迅速な海外派兵の実現、一層の軍事費増大、国連安保理入りするためにも軍事的な対応能力を備えることが必要であることなど、露骨にはいいませんが、憲法「改正」を強烈にアッピールする内容になっていることは、改めて確認しておきます。

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