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[戦争と平和]レオナルド・ダ・ヴィンチ、モネ、ドレスデンの光
http://www.asyura2.com/07/senkyo34/msg/937.html
投稿者 鷹眼乃見物 日時 2007 年 5 月 20 日 14:37:30: YqqS.BdzuYk56
 

[戦争と平和]レオナルド・ダ・ヴィンチ、モネ、ドレスデンの光


<注>お手数ですが、当記事の画像は下記URLでご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20070520


●たまたまチャンスがあり『レオナルド・ダ・ヴィンチ/天才の実像』(東京国立博物館)、『モネ展/印象派から現代へ』(国立新美術館)、ドイツ映画『ドレスデン、運命の日』(日比谷、シネ・シャンテ)を鑑賞してきました。


『レオナルド・ダ・ヴィンチ/天才の実像』(東京国立博物館)、公式HP → http://dresden-movie.com/


レオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』 Leonaldo da Vinci(1452-1519)「The Annunciation」 ca1472-1475 98 x 217 cm Oil and tempera on wood Uffizi Gallery、 Florence
[f:id:toxandoria:20070520133922j:image]


このダ・ヴィンチとの出会いは二度目(もう7年以上前のウフィッツィから数えて)ですが、やはりその存在感の強さには圧倒されます。このイタリアの至宝(というより世界の至宝/ウフィッツィ美術館発行の図録によると、この受胎告知はモンテ・オリヴェートのサン・バルトロメーオ教会に由来し、師ヴェロッキオ(Andrea del Verrocchio/1435-1488)の指導を受けていた頃のダヴィンチが若い時代(20〜23歳)の作品であり、1867年からウフィッツィに帰属している)を日本へ搬入し展示するため、保護ガラスの存在を殆んど感じさせない「無反射ガラス」(ドイツ・ショット社製)を使った特別の保護ケースをドイツのグラスバウ・ハーン社へ発注しています。


この絵を目前にして改めて思わされたのはダ・ヴィンチのリアリズム感覚の先見性(我われが、現代社会で意識するところの現実感覚の遥かな先取り)ということです。いや、「絶対知」を前提とするようなダ・ヴィンチのリアリズム感覚は我われのリアリズムをも超えていたのかも知れません。ダ・ヴィンチは自然界、現実界に存在する何らかの問題を考える場合は、必ず図に描いて考えたとされています。しかも、その図に描くというダ・ヴィンチの行為には現代的な意味での「科学の眼」が感じられます。それは科学的な観察眼であり、草花の習作にせよ、人体解剖図にせと、機械装置のスケッチにせよ、それらのダ・ヴィンチの描写は限りなく精緻をきわめています。


ダ・ヴィンチのもう一つの「科学的な観察眼」は遠近法(線遠近法、空気遠近法、色彩遠近法)です。空気遠近法と色彩遠近法は遠景の描写で見事に生かされています。全体の構図が正確な線遠近法(消失点は中央奥の小高い山辺り)で描かれていることは、この横長の画面を右から左へ、あるいは左から右へと移動しながら自らの視線の変化の有無を意識することで確認できます。例えば、青い衣で覆われたマリアの両足の向きと手前にあるテーブルの向きを意識すると、それらが何れも鑑賞者の移動方向を追いかけてくるように(別に言えば、どこへ移動しても、マリアの両足とテーブルの向きが自分を追いかけてくるように)見えるはずです。これこそが、視覚上の錯覚を利用した平面上での科学的な立体表現ということです。


更に、このダ・ヴィンチの絵には、更に超越的な何かを暗示するような不思議な空気が漂っています。それは、カルロ・クリベリ『聖エミディウスがいる受胎告知図』(参照、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20060529)に通じるものであり、“形象不可能なるものの形象への降臨”という伝統的な受胎告知図のモチーフです。それは、「悪魔」(人間精神の悪魔的な要素)を否定したはずの現代世界が些かでも油断をして気を抜けば、たとえレオナルドのような「科学的な観察眼」でさえもが、その「悪魔的・カルト的なもの」によって逆襲される恐れがあるという「暗黙知」(相対知)のプレゼンテーションです。


<注>「絶対知」と「暗黙知」(相対知)については、下記★を参照してください。
★改憲論に潜入するカルトの誘惑(1)、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20070508

『モネ展/印象派から現代へ』(国立新美術館)、公式HP → http://www.nact.jp/


モネ『かささぎ』 Claudo Monet(1840-1926) 「The Magpiec」 1868-1869  Oil on canvas 89x130cm  Mus馥 d'Orsay 、 Paris
[f:id:toxandoria:20070520134013j:image]


今回の展示は、フランスのオルセー美術館、アメリカのボストン美術館、メトロポリタン美術館ほか国内外の主要なコレクションから集められた約100点のモネの名作、およびモネの遺産である「モネの光」の影響を受けた作家たちの作品を集めたものです。コレクションを持たない国立新美術館は、国内最大級の展示スペース(14,000m2)を生かした多彩な展覧会の開催を目指すと謳っていますが、その割には展示スペースの狭さが少々気になりました。いささか商業ベースへ傾きすぎているように感じられました。


それはともかくとして、ここでもパリ・オルセー美術館いらいのモネとの再会(約5年ぶり)です。周知のとおりモネは印象派を代表する巨匠であり、彼の作品『印象・日の出』が印象派(印象主義)という言葉のもとになっています。自然界の凡ゆるモノに反映する一瞬の光をとらえようとした印象派の絵画の特徴を一口に言うならば、それは近・現代の産業化社会における、ある程度まで資産を持つようになった中産市民階層の人々へもっとも良くアピールする美的感性ということです。


『パラソルの婦人』、『ルーアン大聖堂』、『睡蓮』などの連作シリーズは見るごとに新鮮な印象を与えられ、モネの才能に改めて驚きますが、なぜか今回はこの『かささぎ』に目が止まりました。寒々とした冬の光景にもかかわらず、この静寂と懐かしいようで幸せな光は一体どこから来るのでしょうか? この温もりがあるモネの光は何なのでしょうか? この絵のテーマとされる“かささぎ”の向こうに広がる冬の遠景には、なぜか平穏な安堵感のようなものが広がっています。そこには、苛烈化し、中間層が没落しつつある現代のグローバル市場原理主義社会が見捨ててきた何かがあるように思われます。


ドイツ映画『ドレスデン、運命の日』(日比谷、シネ・シャンテ) 映画公式HP → http://dresden-movie.com/


[f:id:toxandoria:20070520134124j:image]


再建されたフラウエン教会
[f:id:toxandoria:20070520134221j:image]


エルベ川の風景(ドレスデン)
[f:id:toxandoria:20070520134307j:image][f:id:toxandoria:20070520134408j:image][f:id:toxandoria:20070520134447j:image]


予想したとおり、「戦争の悲惨と愚かしさ」を真正面から取り上げた力作・秀作でした。現代日本の「追憶のカルト」に取り憑かれたような異様な空気が広がるなかで「戦争と平和」を言葉で語ることの限界を感じている方々も多いと思いますが、そのような時にこそ、この映画はお薦めです。


ドイツ流の誠実さで、言葉と映像によるコミュニケーションの努力をこれからも積み重ねて行こうとする姿勢は見習うべきだと思います。過去の愚かな戦争への真摯な反省と平和への希望は、未来への意志と行動で示して行くしかないのです。ラストシーンでの主人公アンナの“私たちは、後ろを振り返っても影しか見えない・・・”というコトバと、まさに奇跡的と言っていいほど見事に再建された「フラウエン(聖母)教会」の壮麗な姿が心に深く残りました。


この映画は「戦後レジームからの脱却を目指す、先制攻撃論者?」も、「心から平和だけを望む方」も、「そんなことはどうでも良い方」も、すべての立場の方々に“ぜひみていただきたい映画”だと思いました。


<注>この映画の詳細および「追憶のカルト」の詳細ついては下記★を参照してください。


★英国民のドレスデン爆撃への反省と「ブレア」の退陣
http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20070511


★改憲論に潜入するカルトの誘惑(4/終章)
http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20070512


参考まで、米国アーカンソー州立大学の軍事教授であるデーヴ・グロスマン氏が、名著『戦争における殺しの心理学』(筑摩学芸文庫)の中で「戦争の愚かさ」のエッセンスについて語った部分を転載しておきます。


・・・人間を殺すことに関して「強烈な抵抗感」を持つ初年兵たちも心理学的に工夫された一定プロセスの訓練を受ければ戦争で人を殺すことができるようになる。


・・・しかし、そのようになった場合でも、兵士たちは、実際の戦場では上官(指揮官)の命令がなければ殆んど発砲できない。


・・・(戦場で、)この兵士らは「イーリアス」に登場するどんな人物にも劣らぬ偉大な英雄たちなのだが、それにもかかわらず、本書で語られる彼ら兵士たち自身の言葉(デーヴ・グロスマン氏が克明な面接調査で集めた結果)は「戦士と戦争が英雄的なものだという栄光の神話」を打ち砕くのだ。


・・・他のあらゆる手段が失敗して、こちら(彼ら戦場の兵士らの側)にその「つけがまわって」くる時があることを、そして「政治家(政治権力者ら)の誤り」を正すため、または「人民の意志」(=政治家やメディアに扇動され高揚したポピュリズムの意志)を遂行するために、彼ら兵士たちが戦い苦しみ死なねばならぬ時があることを、兵士たちは理解しているのだ。

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