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不朽の汚名−国民投票法の成立(人生の証明日記・森村誠一ブログ)
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投稿者 gataro 日時 2007 年 5 月 26 日 13:50:15: KbIx4LOvH6Ccw
 

http://blog.livedoor.jp/morimuraseiichi/archives/50528209.html から転載。

2007年05月16日
不朽の汚名−国民投票法の成立

 改憲の足がかりとなる「国民投票法」が成立した。これによって、直ちに改憲というわけではないが、憲法の外堀はついに埋め立てられたという感じである。今後の争点は、「護憲か改憲か」から「憲法をいつ、どのように変えるか」に移った。あたかも北朝鮮に対する六ヵ国協議の焦点が、テポドンの発射以後、「北朝鮮に核開発をやめさせる」から「北朝鮮に核兵器を使用させない」に移ったのと似ている。

 残る内堀は、衆参各院の三分の二以上の発議と国民投票であるが、戦争の貴重な犠牲と、ヒロシマ、ナガサキの放射能の灰を踏まえて手にした戦争の放棄、戦力の不保持、永久平和主義を高らかに宣言した現行憲法が、六十余年にして内堀のみを残して崩壊の危機にさらされている。

 現行日本国憲法は、二度と戦争の過ちと痛みを繰り返してはならぬという反省と悔恨を込め、核兵器を地球上初めて浴びた国家として、このような惨禍を世界から除去するための理念として掲げた。その反省と精神が早くも忘れられようとしている。

 現行憲法が現実に合わなくなったという名目で変えるための下地となる国民投票法には、不明朗な点や、いくつかのトリックが仕掛けられている。

 まず、なぜいま改憲なのか。対応すべき多くの課題の中で、なぜ改憲をそれほど急ぐのか。つまるところ、夏の参院選のセールスポイントとして、国民投票法を利用しているのである。首相の首などはせいぜい数年ですげ替えられる。一時の首相の政治的野心のために、日本一国だけではなく、人類の理念として制定された憲法が、政治の道具として利用されていることである。国民投票法案そのものを否定するのではない。投票法案を選挙の道具に使うことがアンフェアなのである。

 改憲の最終決定権を握る者は国民であるが、政治権力というものは一種の凶器である。権力の恫喝と餌で獲得した最大多数で国会を操り、国民を誘導、あるいは誤導することができる。改憲に反対する与党議員は、党から除名されたり、村八分にされて、一人ではなにもできなくなる。民主主義とは、一人あるいは少数ではなにもできない政治形態(システム)である。

 国民投票法を踏まえての本番の国民投票において、憲法に無関心、あるいはよくわからないという国民がかなりいることを忘れてはならない。改憲に賛成、反対、どちらでもない中立票も無効とされてしまう。無関心層や中立票を投じた国民が、戦争が勃発してから、しまったと後悔しても後の祭りである。

 住民登録(住民基本台帳)に登録をしていない人は改憲投票から外されてしまう。

 また公務員、および教育者約五百三十万人が、改憲に関する自由な意見表明を制限されている。そもそも、憲法論議をタブーにしてはならないというのが改憲の根本思想である。改憲反対の意見表明も自由なはずである。これを公務員に制限するのは、改憲の思想そのものを否定することになってしまう。もともと最高権力を握っている者の発案であるから、改憲論議も俎の上の食材のようなもので、いくらでも自分の舌に合うように調理できる。

 さらに最低投票率の定めがないので、投票率が低い場合は、最悪の場合、一五パーセント程度の国民の賛成で、改憲が可能となってしまう。日本国民は直接民主主義に慣れていないので、国民投票といわれてもよくわからない人が多いであろう。

 改憲の眼目が九条にあることは明白である。九条を取り払ってしまえば戦争ができるシステムになる。民主主義は平和を前提に成り立つ政治形態である。どんな民主主義国家も戦争になれば、民主主義の根幹である政治の透明性や合議性を制限せざるを得なくなる。民主主義の原則に固執していれば、軍の機密が洩れ、敵の攻撃に即応できない。戦争は民主主義の天敵なのである。

 真の平和とは、単に戦争がないという状態ではない。戦争を絶対に起こさないという保障システムが完成していない限り、真の平和とはいえない。

 日本国憲法は世界でも類を見ない平和の保障システムである。これを一時の政治権力、それも独裁国家ではなく、国民から託された権力の維持(メンテナンス)のための道具として利用しようとしている。

 世界初の丸腰(非武装)国家は、国際的な発言力はない、核兵器を持たなければ先進有力国家の仲間入りができない、国際貢献ができないなどが改憲の実務的な理由であるが、日本は六十余年、丸腰(実際には武装しているが)で敗戦の廃墟から立ち直り、経済大国として先進国家の仲間入りを果たしている。それは憲法が軍事力と、その行使を縛っていたからである。

 戦後六十余年、自衛隊は一人の人間も殺害していない。昔の白兵戦と異なり、今日の武器を用いれば、戦闘員、非戦闘員を問わず、大量の生命を殺傷し、数世代にわたって長い後遺症を引く。世界有数の軍事力を憲法に違反して有しながら、ただ一人も殺さなかったということは大きく評価すべきであり、世界に誇るべきである。

 それは骨抜きにされた憲法であっても、それに違反し、後ろめたさをおぼえながら、自衛隊を養ってきたからである。これを改憲し、晴れて戦争できる暴力装置として自衛隊を軍隊に昇格すれば、必ず多数の人間を殺傷し、自衛隊からも犠牲者が出るであろう。憲法に違反して創設された自衛隊が、憲法に守られたのである。イラクに派遣された自衛隊員が殺傷されたなら、その家族は改憲に賛成するであろうか。

 これまで歴代の政府は、解釈改憲によって、自衛隊を持ち、東西対決時代はアメリカの核の傘の下に身を寄せ、ソ連解体後はアメリカの極東戦略の最強の同盟国となった。世界最強の軍事力を有し、世界の警察国家となったアメリカの軍事協力の要請に対して、辛うじて不戦の姿勢を崩さなかったのは、憲法のおかげである。

 また日本国憲法の存在は、近隣の東北、東南アジア諸国に安心感をあたえる安全弁となっている。日本は核兵器を持たないので、中国、韓国、北朝鮮などに外交的な発言力がないなどという暴論があるが、それは発言力ではなく、軍事力を背景にした恫喝力なのである。

 軍事力というものは現実に使用しなくとも、所持するだけで周囲に脅威と恫喝をあたえる。原理は暴力団と同じである。軍事力を基調にした平和共存は、限りのない軍拡競争を踏まえているのである。

 国家の安全と国民の権利を最終的に軍事力に託す考えは、過去のものとしなければならないという先見の明に基づいているのが、憲法九条の理念である。理念と現実の間にギャップがあるのは当たり前のことであり、現実を理念に近づけようとするのが人間の英知であり、理念を現実に売り渡した結果が歴史の愚行となった。

 憲法に違反しながらも、日本は戦後の廃墟から立ち直り、今日がある。それは曲がりなりにも憲法に守られていたからである。

 この憲法を、あろうことか、一代の政治権力の維持のための取引材料(バーゲイニングチップ)としようとしている。

 いろいろともっともらしい理屈を並べているが、要するに、当面差し迫っている選挙に勝って、アメリカに歩調を合わせて戦争ができる国のシステムに改造しようということである。

 改憲は、食習慣でいえば肉食の発想である。他の動物的生命を栄養として生きる肉食の発想は、常に爪と牙を砥ぎ、他の生命を餌としてサバイバルレースの生き残りを図る。これに対する草食派は、爪と牙を捨て、平和共存を図る。中間に雑食派がいて、揺れている。雑食派は爪と牙に脅されて、ともすれば肉食に傾くので、草食派は分が悪い。ここに核兵器という使えない最終兵器が発明されて、人類は爪と牙による肉食の限界を悟った。

 地球の未来をマクロのビジョンで見通した憲法を、なぜ捨てようとするのか。それは現実に合わないのではない。当面、特にアメリカに合わないだけである。

 太平洋戦争の犠牲を代償として支払い、人類の理念として生まれた憲法は、日本人の良心であり、世界平和のための亀鑑としての意思表示であった。この憲法を政治権力のメンテナンス、つまるところは選挙戦に勝つために売り渡すのは、日本史、もしくは世界史に残る愚行として不朽の汚名を残すであろう。

 外堀が埋め立てられたいま、内堀はもっと脆い。狙いは天守閣の九条。特に第二項である。世界でも類を見ない平和のシンボルである天守閣を失った日本は、国際社会に占めるべき名誉ある位置を失い、世界軍事大国と共に限りのない軍拡競争に並ぶことになるであろう。

 政治権力が現実という一時の都合のために魂を売り渡そうとしている。自分の魂だけではない。戦争の犠牲と、反省と、不戦の誓いのすべてを売り渡そうとしている。いったん売り渡せば、これを買い戻すことはほとんど不可能である。このツケはこれからの日本を背負う若者にまわされてくる。

 共産党が弾圧された。私は共産党員でないので黙っていた。
 社会党が弾圧された。私は社会党員でないので黙っていた。
 組合や学校が閉鎖された。私は不安だ。しかし黙っていた。
 教会が弾圧された。私は牧師だから行動に立ち上がった。
 しかし、そのときはもう遅かった。
(ナチス時代を回顧して──西ドイツ牧師マルチンニーメラー)『白薔薇は散らず』

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