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「政治と『想像の力』」【日本経済新聞】
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投稿者 そのまんま西 日時 2007 年 6 月 26 日 22:01:46: sypgvaaYz82Hc
 

「政治と『想像の力』」【日本経済新聞】政治部・島田学(6月18日)

 先日、台湾の李登輝前総統が来日した際、ある外交筋から興味深い話を聞いた。「アジア各国の外交インテリジェンス(情報)の世界の関心は『安倍晋三首相は李氏と会ったのだろうか』ではなく、もはや『彼らが会って何を話したか』だ」――。

 そもそも首相が李氏と会ったのではないかということ自体、誰も確認しておらず憶測の域を出ない。5月30日に来日した李氏の目的は、あくまでも松尾芭蕉ゆかりの「奥の細道」の探訪。ただ今回は総統退任後の来日で初めて東京に滞在したほか、初めての記者会見、靖国神社参拝など、政治的要素が強かったのは否めない。中国外務省は敏感に反応し、「中国の重大な懸念を重視し、台湾独立勢力のために政治的舞台を提供しないよう強く求める」(姜瑜副報道局長)と強い懸念を表明した。

 小泉政権時代に冷え込んだ日中関係が、安倍首相の昨年の電撃訪中によってようやく改善機運に転じている状況で、首相が李氏と面会すれば一気に悪化するのは確実。だから首相と李氏の会談はあり得ない――。だがインテリジェンスの想像力は時に、こんな「常識」をも軽く超えるようだ。

 首相の1日の動静を細かく伝える弊紙小欄「首相官邸」。李氏来日後の5月30日と6月1日の欄をみると、首相は両日とも夜はホテルオークラで夕食をとった。

 <5月30日> 18時47分 ホテルオークラの「ケンジントンテラス」で勝俣恒久東京電力社長、岡素之住友商事社長ら。

 <6月1日> 19時28分 ホテルオークラの日本料理店「山里」で森元首相、的場官房副長官。評論家の宮崎哲弥氏が加わる。

 何の変哲もない情報だが、李氏が両日ともホテルオークラに泊まっていたとなると話は別。しかも首相が途中、1時間にわたり席を外したとのうわさが現場で飛び交い、集まっていた報道陣は一時、色めき立った。もちろん関係者は言下に否定し、真偽はわからない。だがインテリジェンスの世界では首相が李氏に面会したことは前提で、関心はその先に向けられている。

 別のある外交筋は「中国にも当然同じような情報は入っているだろう。そのうえで直後の日中首脳会談で李氏の来日問題にほとんど触れなかったとすれば、中国は日中関係改善にかなり真剣だということだ。日本も相当の覚悟で臨まねばなるまい」と解説する。なかには「首相側がわざわざ会合場所に李氏の宿泊先を選び、関係者の想像をかき立てる仕掛けを設けて中国側をけん制したのではないか」との見方まで飛び交っている。

 政治の世界では想像が政治家のイメージを作り上げていくことがある。「大物政治家AがライバルBと密会したらしい」――。それを利用して時にライバルをかく乱し、自らの存在感を高めることもできる。あえて会ったことを公にして「2人きりで一体何を話していたのだろう」と想像をかき立てる方法もある。

 麻生太郎外相はそんな術を身につけた政治家の1人ではないか。弊紙「首相官邸」を調べてみると、昨年9月の安倍政権発足以来、短時間でも2人きりで会った回数は少なくとも32回(6月17日現在)。これは女房役である塩崎恭久官房長官の40回を除くと、閣僚の中でも群を抜く多さだ。「ポスト安倍」の有力候補にも擬せられるが、実は総勢15人の小派閥の長に過ぎない。「安倍側近」のイメージを醸し出すのに、首相との「サシ」の面会が効果的であることを麻生氏は知っているようだ。

 想像が力を持つのは何も政治の世界に限らない。以前、取材した自動車メーカー幹部に「経営における戦略的思考とは何か」と尋ねたことがある。その幹部は少し考えたあと「誰も想像し得ない可能性をひたすら考えることだ」と答えた。目前に迫った参院選は年金問題を最大の焦点に、自民、民主の2大政党が激しく争う展開になるだろう。選挙後の政治風景について、永田町に棲(す)む面々はどんな想像を巡らしているのだろうか。

http://www.nikkei.co.jp/seiji/20070616e3s1600816.html

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