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飄々と始まった増税論議 森永卓郎氏(日経BP社)
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投稿者 そのまんま西 日時 2007 年 12 月 22 日 20:39:12: sypgvaaYz82Hc
 

飄々と始まった増税論議 森永卓郎氏(日経BP社)
経済アナリスト 森永 卓郎氏 2007年11月26日

 11月5日、政府税制調査会の第5回総会が首相官邸でひっそりと開かれた。メディアの注目は民主党小沢代表の辞任騒動に集まったため、新聞ではほとんど触れられていなかった。

 さて、その場で2008年の税制大綱の大枠が事実上決まったのだが、ここではっきり福田内閣が何をやろうとしているのかという方向性が見えてきた。


 基本方針は、次の三つである。

1.社会保障財源としては消費税以外に考えられない

2.人的控除は圧縮もしくは廃止(配偶者控除が最大のターゲットだが、もしかすると給与所得控除や扶養控除の圧縮や廃止も視野に入れているのかもしれない)

3.法人税率引き下げ、研究開発投資支援の拡充


 消費税の税率引き上げについては、連合の高木会長ら一部を除いて、ほとんどの委員が大筋で一致したという。


 安倍内閣は「上げ潮政策」を採用して経済成長率を高めることを目指し、できるだけ増税を避けようという姿勢だった。だから消費税論議も封印してきたのだが、福田内閣はさっそく露骨な増税を打ち出してきたのである。


景気低迷時に消費税増税は避けるべき


 それにしても、この時期に消費税増税というのは、まったく理解できない政策である。何も、わたしは安っぽい正義感だけで言っているのではない。景気が低迷している時期には、金持ちから税金をたっぷり取って、金のない人に再配分するのが大原則なのだ。

 現状を見ればよく分かるだろう。金があり余っている人はなかなか金を使おうとしないが、いまの庶民に10万〜20万円を渡せばすぐに使ってくれるはずだ。こうすれば消費が拡大して景気が刺激される。

 これは経済のイロハのイである。だが、あえて福田内閣はその逆をやろうとしているのだ。消費税増税は、社会保障維持のための安定財源確保のためとも述べているが、このコラムで何度も書いたように、日本の財政状況は報道されているほどひどいわけではない。

 おそらく、消費税を上げることで、法人税率引き下げや研究開発投資支援拡充のための資金を確保したいのだろう。給料が上がらずに苦しんでいる庶民から金を取り上げて、空前の利益を上げている大企業に所得移転をするわけである。


 福田総理のイメージは、飄々(ひょうひょう)としてソフトのように見えるが、やっている経済政策は安倍前総理にくらべて、はるかに弱肉強食である。


 消費税は、低所得者ほど実質負担が大きい逆進的な税制だと言われる。低所得者は収入のなかから消費に回す割合が大きいから、税率は同じでも、所得の低い層ほど実質的な負担が大きくなってしまうのだ。

 ところが、総会前に開かれた2日の企画会合の議論のなかで吉川洋主査(東大大学院教授)は、消費税増税は逆進的ではないかという指摘に対して、次のように主張したと報じられている。

 「社会保障は低所得者ほど給付が大きい。生涯にわたる所得でみれば(消費税の逆進性は)深刻ではない」。

 つまり、年金にしろ何にしろ社会保障は低所得者に手厚くなっているのだから、取るときも低所得者からとって問題はないというわけだ。これが本当に東大教授の発言なのだろうか、唖然としてしまう。

 わたしが改めて言うまでもないが、低所得者に手厚く分配するから社会保障なのである。そうした再分配効果を否定されてしまっては、社会保障の意味がない。

 わたしは以前、吉川さんと同じ委員会のメンバーだったことがあるが、こんなおかしなことを言う人ではなかった。日本最高の頭脳といえる人が、こんなことを堂々と言ってしまうのも、福田内閣がそうした思想に基づいているからだろう。


めちゃくちゃな前提で算出した試算の数字


 それにしても、あまりにも消費税増税が繰り返されるものだから、国民の感覚がマヒして、「増税やむなし」という気分になってしまっているのが心配である。

 今回もまた、内閣府が経済財政諮問会議に試算を出して、2025年には消費税が最大限17%になると示した。だが、これは完全なブラフだろう。前提となる数字がめちゃくちゃである。

 というのも、2012年度以降は一切歳出削減努力を放棄したことを前提としており、人件費は民間賃金と同じ率で上がり、その他の経費も名目GDPに比例して増えるとしている。つまり、野放図に歳出を増やした場合に、これだけ必要だという数字なのだ。

 2011年度のとりあえずの目標として、消費税を2.5%程度引き上げなくてはいけないとしているが、これもひどい話だ。

 これは、小泉内閣で目標を決めた14兆3000億円の歳出削減をしないという前提で算出された数字である。しかも、成長率が2.1%というバブル崩壊後5年間の低成長と同じ想定である。たしかにそれでは引き上げなくては足りないだろう。

 じつは、報告書には標準ケースが書かれている。それを見ると、当然のことながら歳出削減が含まれている。そもそも、来年度予算はそれで組んであるのだ。すると、2011年度にはプライマリーバランスは黒字になるのである。つまり、既定方針どおりに進めれば、財政赤字は順調に減っていくのだ。


消費税率は7%が落としどころ?


 では実際に政府税調の方針通りになったら、どれだけの増税になるのか。

 消費税率が10%に引き上げされ、配偶者控除が廃止された場合、年収500万円の世帯の増税額を計算してみよう。

 年収500万円のうち7割が消費に回るとすると、消費の総額は350万円。したがって、消費税額は35万円。現在の5%からの負担増は17万5000円となる。

 配偶者控除は、国税の計算の場合は38万円、住民税の場合は33万円である。税率はそれぞれ5%、10%だから、廃止されると合わせて5万2000円の負担増になる。

 というわけで、合計の増税額は22万7000円、年収の4.5%に当たる額である。これは家計にとって大打撃となることは間違いない。

 では、今後どのような展開が待ち受けているのか。ちょっと想像してみよう。

 おそらく17%はブラフであり、そのまま通るとは誰も思っていないだろう。そこで、総選挙が終わったところで、自民党は10%という法案を出してくるのではないか。ところが参議院は与野党逆転しているために、そんな法案は通るわけがない。そもそも、総選挙の結果がどうなるか分からないが、それはここではおいておくとしよう。

 そこで福田総理はどう出るか。ここからはわたしの勝手な予想である。民主党が反対したところで、小沢代表にまた党首会談を持ちかけるのではないか。そこで、前回の党首会談に怒っている小沢代表に花を持たせて、ちょっと数字を下げる。「小沢代表の力で消費税10%が7%になった!」。

 7%というところが落としどころと見ているのではないか。だからなのか、どこからも7%という数字が出てこないのが不思議なのである。

 前回の党首会談に懲りずに、こんなふうにして、もう一度小沢代表を利用するシナリオを考えているのではないかという気がしてならないのだ。


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