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薬害肝炎(ヤブ医者ブログ)
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投稿者 そのまんま西 日時 2008 年 1 月 09 日 00:47:45: sypgvaaYz82Hc
 

薬害肝炎(ヤブ医者ブログ)2007年12月31日


 迂闊にも私はつい最近まで「救済」とか「一律」の中身を知らずにいました。


 「救済」に関しては治療費の肩代わりだと思いこんでいましたが、損害賠償請求や給付金だったのですね。それも千万円単位の。大阪訴訟では原告一律6600万円の請求で、最高3630万円の認容額が判決されました。こうしたことを受けて、政府は給付金で和解手続きを取るそうです。いろいろな考え方があるとは思いますが、これを聞いて心穏やかではない方が全国には沢山いらっしゃる筈です。

 私には近い親戚に輸血が原因で肝硬変・肝癌になったものがおります。親しい友人のお母さんもやはり輸血に起因する肝硬変・肝癌です。職業柄いろいろと相談は受けまして、可能な範囲では関わりました。身内という意識で相談されますから患者サイドの本音もよく分かりました。当然二人とも、そして家族にも、輸血が残念だったという意識はあります。でも輸血しないと生命が脅かされる状況だったので、そして当時はC型肝炎の実態すら不明の時代ですからC型肝炎ウィルスを除去した輸血は不可能だったので、また当時はC型肝炎(その頃は非A非B型肝炎と呼ばれていた)が高率に肝癌まで移行するとは判明していなかったので、文句を言っても仕方がないという認識です。二人とも自分で支払うべき範囲の治療費は当然のこととして支払っています。おそらく、輸血後肝炎の結果として肝硬変や肝癌に移行された多くの患者さんが、私の親戚や知人と同じく、運命と経済的負担を受け入れた上で病気と闘っていらっしゃるのだろうと思います。

 そして今回の訴訟です。同じC型肝炎であり、本人になんら落ち度がないことも同じでありながら、何故血液製剤による感染のみが損害賠償の対象となるのか?明確な説明は難しいですが、輸血はそれを施行した時点で生命維持に重要であったのに対し、血液製剤は必要とは言えないのに投与された、という理屈ではないかと思います。輸血とは明確に線引きされて賠償を受ける方は次の二点を満たす必要があると思います。

・ 血液製剤による感染が証明できること。(A)
・ 血液製剤投与の必要性が低かったこと。(B)

 ご存じの通り結局は政治決着され、この限りにおいては上記(A)(B)に対する考慮は足りないと感じます。救済の対象と方法はこれによれば以下の様です。

http://www.people.ne.jp/a/465958407f554063b3a2354e985f217a

【救済対象は「フィブリノゲン製剤」と「第9因子製剤」の血液製剤を投与された被害者。症状に応じて3段階に分けて「給付金」を支払い、給付後に症状が進行した場合には給付金の差額も支払う内容だ。

 大阪高裁の和解協議で20日に示された政府案では、血液製剤の投与時期などで被害者を線引きしていた。だが、今回の法案では投与時期にかかわらず、被害者の症状に応じて給付金を支払うことから「一律救済」となる。投与事実の証明や認定は、各地の裁判所による「司法認定」とする。

 また、最大200億円規模の基金を国と製薬会社の拠出で創設し、運営は独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」に委ねる。】


  実は(A)を証明するのは非常に難しいのです。C型肝炎は主に輸血などの医療行為で感染すると言われますが、輸血以前から日本人に一定の割合でC型肝炎ウィルス保持者がいたからその様な事態になるわけで、医療行為以外でも感染機会が必ずあります。血液製剤投与とは無関係の感染がなかった事実を証明することは難しいです。ましてや輸血も別に受けていれば、血液製剤が原因であると証明するのはさらに困難です。

 フィブリノゲン投与でC型肝炎に感染する確率は3.7%程度と言われています。実際はウィルス不活化方法や材料血液によりかなり幅がある筈ですが、全体としてはこの程度ということです。一方輸血後肝炎の発生率はと言うと、これは輸血量に依存するので個々のケーズで確率は異なります。売血の時代には2リットル輸血すると70%が肝炎を発症していました。献血時代でかつB型肝炎がスクリーニングされてからでも輸血後肝炎は15〜20%程度は発症していました。特に1980年頃には輸血量が増える傾向にあって、病院によっては半数近くが輸血後肝炎を発症したという話もあります。これからお解りの様に、血液製剤よりは輸血の方がC型肝炎に感染する確率はずっと高かったのです。(現在は輸血でC型肝炎に罹患する確率は無視できるほどに小さくなっています。C型肝炎ウィルスが発見され、スクリーニング法に改良が重ねられた結果です。)

 さていわゆる418人リストの中身を見ますと、驚くなかれ

輸血の  有    無    不明   無記載
     233人  112人   82人    1人

ということで、リスト全体の55.7%が輸血され、輸血の有無が確かな345人に限れば実に67.5%の人が輸血されています。輸血の事実の無い方に限れば血液製剤がC型肝炎の原因である可能性が高いと言えますが、輸血もされている方は、確率から言えば輸血が原因である可能性の方が高いのです。したがってもしこのリストの中の方々を「一律救済」すれば、中には血液製剤ではなく輸血で感染した方も少なからず含まれることになります。ちなみに給付金は
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/20071229/20071229_006.shtml

【国と製薬企業が血液製剤フィブリノゲンと第九因子製剤の投与によるC型肝炎ウイルス感染者に対し、肝硬変・肝がん(死亡を含む)4000万円、慢性肝炎2000万円、未発症者1200万円を給付金として支払い、給付のための基金を独立行政法人医薬品医療機器総合機構(東京)に設置する】

になるそうです。輸血による感染であれば他のC型肝炎の患者さん大多数と同じですが、扱いはあまりに違います。また実際にフィブリノゲンや第九因子製剤で感染してC型肝炎になっても、投与を証明出来なければ給付金は貰えません。税金で行われる処遇にこれほどの不公平があってよいのか、疑問ですね。

 上記(B)については、次回に書きます。

http://blogs.dion.ne.jp/yabudoc/archives/6639690.html#more


薬害肝炎2(ヤブ医者ブログ)2008年01月02日

 前々回になりましたが、お約束の(B)について書いてみたいと思います。

 まず一般論として、「出産時出血にフィブリノゲンが効くのか?」について書きます。2007年12月のランセットに、

Risk of authoritarianism: fibrinogen-transmitted hepatitis C in Japan.
(権威主義の危険性:日本においてフィブリノゲンで感染したC型肝炎)
という過激なタイトルの論文が掲載されています。お書きになったのは東大病院企画情報運営部に所属される康永秀生先生です。論文要旨は以下です。

[In 1977, the US Food and Drug Administration revoked all licences for fibrinogen concentrate because of the risk for hepatitis infection and suspected lack of effectiveness. However, in Japan, fibrinogen concentrate was used routinely for treatment of obstetric bleeding until 1988. Even in 1997, academic texts by Japanese authorities in obstetrics still recommended that obstetricians use the product. An estimated 10 000 cases of hepatitis C infection are attributable to use of fibrinogen in Japan and are a result of authoritarianism that hindered effective policy changes. Scientists have a duty to refine repeatedly the quality of their evidence, and policymakers need to adjust existing policies continually to accord with the latest scientific evidence.]

お目障りでしょうけど、拙訳も附記します。
*********************************************************
1977年、米国FDA(食品医薬品局)は、肝炎感染の危険があることと効果が疑問視されることから、フィブリノゲン濃縮剤の全ての認可を取り消した。一方日本では、1988年まではフィブリノゲン濃縮剤が出産時出血の治療に日常的に用いられていた。1997年の時点でさえも日本の産科権威達は教科書で産科医にフィブリノゲン濃縮剤使用を推奨していた。日本ではC型肝炎感染一万件がフィブリノゲン濃縮剤に起因すると推計されており、これは有効な治療方針への転換を妨げる権威主義の産物でもある。科学者は自身が依って立つ根拠の精度を繰り返し高める義務がある。そして治療方針を規定する者(要するに権威のことです)は、その時点で行われている治療法を最新の科学的根拠に合致する様訂正し続ける必要がある。
**********************************************************

(FDAが認可取り消しの理由とした肝炎はあくまでもB型肝炎であって、今問題となっているC型肝炎、当時の非A非B型肝炎ではありません。念のため。)


 PubMedで出産時出血にフィブリノゲン製剤が効くのか検索しましたが、私が調べた範囲では(先天性低フィブリノゲン血症を除き)効果ありとする論文は見つかりませんでした。欧米でも1970年代では出産を契機に発症したDICにフィブリノゲン単独投与が行われていた記載がありますが、1980年代以降は新鮮凍結血漿が使用されています。

こうした事実からすると、日本で出産時出血のコントロールや予防にフィブリノゲン製剤を使用する様になったのは、国際的に認められた科学的根拠からではなく「フィブリノゲンを投与した方が止血しやすい筈だ」というジャパンオリジナルの発想からではないかと思います。

 ただ、上記の論文の様に権威主義の産物と決つけるのはどうかと思います。EBM(evidence-based medicine)などという概念はほとんど浸透していなかった時代ですし、「患者さんのために良かれと思うことはなんでもするのが正しい」という時代だったと思います。お産が当時から自由診療だった点もフィブリノゲン使用に拍車をかけたと思います。(保険診療なら審査でバッサリと切られる治療でも自由診療ならその心配はありません。)
 また前回の記事で峰村さんが教えて下さった訴訟判決もフィブリノゲン使用を促したのは間違いないと思います。産科医にとって大出血を防ぐことはどの科の医者よりも切実です。お産の現場で盛んにフィブリノゲンを使用していた医師達の多くには無駄なことをしているという意識は無かった筈で、その時代はそれが当たり前で皆良いことをしているという認識だったと思います。「権威」達も当時の常識を書いただけだったのでしょう。肝炎感染さえ無ければ、良かれと思ってしたことが結果的に大して意味がなかったというだけで、強く批判されることではないと思います。


 したがって効果の面に限って言えば、現在の医療からみれば当時のフィブリノゲン投与の多くに効果は乏しかったと判断されます。一方、当時の医師とすれば、むしろ「使用する方が正しい」であり必要という判断だった、というのが私の結論です。


 最後に問題になるのは当時の医療関係者(医師だけでなく行政担当も含めて)が、どれほど血液製剤の危険性を認知していたか、だと思います。非常に危険であることを知りながら、科学的に根拠のない治療法を選択したとするならば、それは大いに批判されるべきことだからです。次回は医原性非A非B型肝炎に対して、当時の医療関係者の危険認知度について書きます。

http://blogs.dion.ne.jp/yabudoc/archives/6648838.html#more


薬害肝炎3(ヤブ医者ブログ)2008年01月04日

 1980年代、当時の医学界が非A非B型肝炎に関してどれほど重大な認識を持っていたのか、文献から推察してみます。

 PubMedで検索すると、まずこの文献が目に付きました。
The long-term course of non-A, non-B post-transfusion hepatitis.
(非A非B型肝炎の長期経過)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6774906?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVAbstractPlusDrugs1

これは1980年の論文ですが、輸血後に生じた非A非B型肝炎の経過観察の結果、しばしば慢性肝炎に移行し、一部の患者ではゆっくりと肝硬変に進行する可能性がある、という主旨です。

 1982年には以下の論文がありました。
The significance of blood transfusion in non-A, non-B chronic liver disease in Japan.
(日本の非A非B型肝炎における輸血の関与)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6287737?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVAbstractPlus

これは輸血後に生じた非A非B型肝炎70例を経過観察し、一年以上生検で観察した32例中11例で慢性化の所見があったというものです。同時に非A非B型肝炎による慢性肝炎・肝硬変・肝癌症例406例をretrospectiveに検証もしています。この406例の中には輸血歴を有するものが多く、肝癌症例でも15%は輸血歴があったというものです。したがって結論は、輸血後非A非B型肝炎は将来的に慢性肝障害を来す可能性が高い、ということです。

 上記論文から判る通り、当時の非A非B型肝炎由来肝癌の85%は輸血歴なしですから、肝癌に限れば輸血が原因ではない方が圧倒的に多い時代でした。そして、輸血なしで肝癌になっている人が多い以上、輸血歴があるからと言って直ちにそれが原因とは結論出来ません。あくまでも可能性の範囲です。(本筋からは外れますが、もともと輸血以外の非A非B型肝炎感染から肝硬変・肝癌になっている方が少なからずいた事実は、現在でも輸血以外の感染に起因する肝硬変・肝癌が間違いなくあることを示します。)

 そして1983年になってやっと以下の論文がみられます。
Primary hepatocellular carcinoma following non-A, non-B posttransfusion hepatitis.・・・・(*)
(非A非B型輸血後肝炎に続発した原発性肝細胞癌)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6193933?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVAbstractPlus

これは1例報告です。ここで初めて確かに輸血後非A非B型肝炎が原因であると結論できる肝癌症例が報告されたのです。
つまり1980年代前半は、肝炎研究の先端にいる人々がやっと輸血後非A非B型肝炎による肝癌発生の事実を突き止めた頃だったということです。

 さて、産科でお産した方に輸血が必要で、輸血後肝炎を起こしたとします。産科医は当然内科医に相談し、肝炎の治療は内科医が行っていた筈です。症状が重ければ内科に転科したでしょうが、産科に入院したまますぐに軽快したケースも多かったと思われます。1980年代の内科医に輸血後肝炎が将来高率に肝硬変・肝癌に移行する認識があれば、患者さんにその後のケアについて必ず説明した筈です。そして産科医に対しては、必須と考えられるケース以外は輸血を極力控えた方がよいと伝えた筈です。実際はそれ程ではなかったので、内科医にも後から知れ渡った輸血後肝炎の悲惨な将来がその時点では認識されていなかったことを示します。輸血後肝炎に比較すれば遙かに感染頻度が低いフィブリノゲン投与後肝炎でも同じことです。内科医に危機感がなかったから産科医に伝わらなかったのです。では、当時の内科医は皆勉強不足だったのでしょうか?

 (*)の論文は米国のDigestive diseases and sciencesという雑誌に掲載されたものですが、専門家以外はめったに読まない雑誌だと思われます。今でこそネットで論文検索が簡単にできますが、昔は図書館で論文のタイトルを集めた大きな本から検索し、図書館にない雑誌の論文は取り寄せる必要があったのです。タイトルから期待して取り寄せた論文の内容が期待はずれであることも珍しくなかったそうです。膨大な手間がかかりますから、自分の専門分野でなければ論文検索など不可能な時代でした。

 したがって当時における非A非B型肝炎の最先端研究成果は、一般内科医は知るはずがなかったと思います。目新しい論文の内容は検証や追試され、正しいと認識されてから教科書に記載されます。そして多くの医師が知るべき一般的知識のレベルに落ちることになります。とは言ってもそれは先駆的論文が掲載されてから何年も経過してからのことです。そして、一般的知識とは言っても他科の医師にはとても一般的のレベルではありません。

 つまり1980年代当時は日本中で大多数の医師が、輸血後非A非B型肝炎の将来がそれほど深刻であるとは知らなかったのです。B型肝炎の方が概して重篤であり、劇症化して短期間に亡くなる患者さんもいます。当時は既にB型はスクリーニングされていたので、輸血後肝炎は症状が軽く大きな心配はないという認識だったと思います。


それよりは「大出血で死んだらどうするんだ」の方が遙かに重大な問題だったのです。


ましてや輸血よりも感染頻度がずっと低い血液製剤投与後肝炎に関しては、その危険が伝えられても重大視されなかったのはほぼ確実です。実態を知らない方がこれを不勉強と批判するのは簡単ですが、当時の一般臨床医が血液製剤投与後肝炎に大きな危機感を持つのは現実問題として無理だったと思います。それどころか、肝炎の専門家でさえも非A非B型肝炎の大部分が後から見つかったC型肝炎であることを知らなかった時代です。1988年になってやっとウィルスが同定され、その後確実に診断された患者さんたちの経過観察や治療経過を通じて、C型肝炎の臨床像が明らかになっていったのです。それは1990年代のお話です。

 私は医療や医療行政の全てを擁護するつもりなど毛頭ありませんし、批判すべきは過去であっても批判するのが当然だと思っています。一方、進歩の速度が大きく常識そのものがどんどん変遷していく領域において、現在の知識から20年以上も前の事を批判すれば妥当性を欠く場合が多いと、これも当然の如く思っています。多くの医者には、ましてや旧厚生省の役人には、1980年代当時医原性非A非B型肝炎の深刻さはほとんど理解されていなかったし、そのことに大きな落ち度があるとは思えないのです。

http://blogs.dion.ne.jp/yabudoc/archives/6654144.html#more


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