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サブプライム・ローンなる悪魔 = 寺島実郎
http://www.asyura2.com/07/senkyo45/msg/961.html
投稿者 ダイナモ 日時 2008 年 1 月 09 日 20:43:57: mY9T/8MdR98ug
 

http://www.nissoken.jp/rijicyou/hatugen/kiji20080101.htm

 先物原油バーレル一〇〇ドル水準に到達という事態に途方にくれている人も少なくないはずだ。9・11の悲劇が起こる直前の二〇〇一年八月のニューヨーク先物原油価格(WTI)は二七ドルであり、六年間で三倍を上回るほど石油は高騰したのである。とくに、〇七年八月からの三ヶ月だけで二〇ドル近くも値上がりした。背景に世界の過剰流動性が原油市場に流れ込んだという要因があることは間違いない。八月にサブプライム・ローンの焦げ付きに端を発する世界同時株安が起こり、信用不安の深刻化を怖れた先進各国は瞬時に五五兆円もの資金を市場に投入、米国は二回にわたり金利の引き下げも実行してFFレートは〇.七五%下がって四.二五%となった。つまり、さらなる金融緩和で世界同時不況を回避するという意図が働き、世界の過剰流動性は一段と肥大化したのである。その流動性が再び「米国の住宅投資」に向うことはなく、行き場を探した結果原油市場に流れ込んだといえる。

進化という名の退嬰−金融工学の影

  サブプライム・ローンなる仕組みを生み出すに至った米国の「金融工学の進化」には慄然とさせられる。私自身の思い出を辿り問題の本質を考えてみたい。二〇年前の一九八七年五月に私はニューヨークに赴任した。八〇年代後半の米金融界のスターはマイケル・ミルケンであった。「ジャンクボンドの帝王」と呼ばれ、ウォートン・ビジネススクールを出てLBOファンドなどを創出した天才として持て囃されていた。その後、ミルケンは映画『ウォールストリート』の主役のモデルにもなり、インサイダー取引で訴追されたが、彼が創造したLBOファンドなどが、IT革命を主導した若い経営者に資金を提供する仕組みとして機能したわけで一定の社会的役割を果したといえる。
  代わって、一九九〇年代の米国の金融界のフロントランナーとして存在感を高めたのが「ヘッジファンドの帝王」ジョージ・ソロスであった。九〇年代に急速にヘッジファンドが肥大化した背景には、冷戦の終焉による「IT(情報技術)とFT(金融技術)の結婚」という事態の進行があった。八〇年代末までの冷戦の時代には、米国の理工科系卒業生の三分の二が広義の軍事産業に雇用吸収されていた。ところが九〇年代に冷戦後の「軍民転換」「平和の配当」といわれる時代を迎え、軍事予算の半減という事態を受けて、軍事産業は合従連衡の嵐に襲われ、雇用を創出しなくなった。そして、理工科系の青年が雇用吸収されたのが金融であり、かれらが軍民転換の象徴として進行した情報ネットワーク技術革命を生かした「新しい金融ビジネスモデル」を創造し始めた。正に「ITとFTの結婚」であり、その谷間に産み出された象徴がデリバティブであった。デリバティブとそれを運用するヘッジファンドを支えた金融理論ともいえる「オプション価格理論」で九七年のノーベル賞をとったのがロバート・マートンとマイロン・ショールズであった。その二人が参画していたヘッジファンドのLTCMが九八年八月に破綻し、これほどの皮肉はないと話題になり、陰りの見えたヘッジファンドだったが、二一世紀に入って一段と規模を拡大させ、昨年には世界の過剰流動性を吸収して一・六兆ドルに達し、デリバティブの市場は四一五兆ドル(BIS、想定元本ベース)に達したという。
  私は二〇〇二年四月の本連載で「エンロン問題の深い闇」(単行本『脳力のレッスン』所収)として、「電力デリバティブ」なる世界を開発し、基幹インフラである電力さえもマネーゲームの対象とすることさえためらわなかったエンロン社の破綻の構造に論及した。規制緩和や自由化への流れの間隙を衝き、さらにIT革命という情報ネットワーク技術の進化を利用して新しい金融ビジネスが産み出されたこと、そしてその究極として電力の先物取引さえ推進したエンロン社が、三〇〇〇もの国内外の子会社を作って損益を操作し、外部には利益の部分だけを公表して株価を引上げるという不正を繰り返していたこと、何やら現代資本主義の病理を見る思いだった。
  その後、エンロンの不正経理や経営責任は法的に処断されたが、デリバティブ型のビジネスモデルは拡大を続けた。デリバティブが取引の対象とする世界は、ビジネスを取り巻くリスク全般へと拡大し続け、株式・債権のみならず、土地の所有権を証券化したREIT、電力や通信回線の利用権、二酸化炭素・二酸化硫黄の排出権、さらには天候異変リスクにまでおよんでいる。正に「万物の金融化」が進行しているのである。これらの金融取引にいかなる社会的効用があるのか疑問を禁じえないが、そんな当惑をあざ笑うかのごとく登場した「悪知恵」がサブプライム・ローンなる仕組みである。

悪魔の知恵としてのサブプライム・ローン

  サブプライム・ローンとは何か。米国経済の下支えとされた「住宅投資ブーム」を長引かせるためにはどうすべきかというテーマが背景にあった。本来、家など建てる資産も収入もない貧困層に家を建てさせることに思いが至り、住宅ローンなどを借りる条件を満たさない黒人・ヒスパニックを中心とする低所得層に審査基準の緩い、しかも低金利での貸し出しシステムが創案されたのである。当初は低金利での融資で借入者への負担を軽くして家を建てさせ、数年後急に金利が引き上げられる条件になっている。常識的には、そんな無理なローンを組んでもやがて返せなくなり延滞が発生すると考えるはずだが、住宅ブームが続き、住宅価格が値上がりを続けるという前提でこのビジネスモデルは成立している。例えば、購入した住宅が三年後に二倍に値上がりしていれば、それを担保により有利な条件でのローンを組み直すという楽観シナリオでこの仕組みが回ることになる。しかし、住宅ブームがいつまでも続くわけはなく、低金利融資の年限がきて、ローンを返せない延滞者が急増し始めたということである。
  冷静にいえば、サブプライム・ローンの総額は一・三兆ドル程度だという。そのすべてが焦げ付いているわけではなく、延滞比率はプライム・ローンが四%未満なのに対して一四%前後、したがって、実際に焦げ付く規模は約一八〇〇億ドル(約二〇兆円)である。先に述べたように先進各国が市場に緊急避難的に投入した資金総額は五五兆円にもなり十分に機能してもよいのだが世界の不安は収まらない。何故ならば「証券化」という手法によってサブプライム・ローンが埋め込まれた金融商品、例えば不動産ローン担保証券(MBS)や債務担保証券(CDO)などが七兆ドルもの規模で売り込まれ、肥大化した世界中の過剰流動性が買い手となったからである。「リスクが見えないから安心」という証券化手法が、皮肉にもリスクを世界中に拡散させ、焦げ付きの兆候が現れるや、関連金融商品全体の信用崩壊へとつながり、連鎖的に際限なき「証券投資からの資金引き上げ」「同時株安」が進行する。市場を騙した悪魔が市場によって逆襲されている構図である。
  一九八〇年代からの規制緩和とIT革命を要因として進行した金融世界の変質を振り返る時、「産業の金融化」という潮流をどう捉えるべきか。金融の進化か、また退嬰と呼ぶべきか。少なくともいえるのは、「優秀な青年達」がMBAやロースクールを目指し、ITシステムの専門家と一緒に金融という分野での付加価値に群がって生きていく時代を作っていることである。「額に汗して働く」という価値が後退し、マンハッタンの超高層ビルから人間社会の営みを見下すようにコーヒーを飲みながら「濡れ手で粟のごとく儲かる仕組み」を創出し運用する者が高笑いをする経済へと我々は足を踏み入れているのである。それどころか、我々はIT革命の進行の中で、ネット社会がもたらす仮想現実に次第に引き込まれ、実体経済と仮想空間を行き来することでビジネスを組み立てるという状況に近づいているのかもしれない。だからこそ、生身の人間としての身体性が問われるのである。人間らしく生きるという正気が新たな試練を迎えている。
 


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