★阿修羅♪ > 社会問題5 > 372.html
 ★阿修羅♪
死因偽装社会の被害者にならないために(その1)メディアを通じた現状把握 = 日経メディカル
http://www.asyura2.com/07/social5/msg/372.html
投稿者 ダイナモ 日時 2008 年 1 月 09 日 19:29:09: mY9T/8MdR98ug
 

http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/kaidou/200801/505228.html

 2007年11月に、講談社ブルーバックスから『死因不明社会』を上梓しました。おかげさまで発売1ヵ月で4刷が決まるという大変快調なすべり出しで、一般の人たちの、この問題への関心の高さを肌で感じています。

 タイトルを決めたのは昨年8月ですが、それから半年もたたずに、社会の実状に対する私の認識は大きく変わっています。それは、現状は『死因不明社会』などなまぬるい、『死因偽装社会』だ、ということです。つまりこの問題は人災であり、責任部署の人間は懸命に責任転嫁に走っています。

 現場の人間とは誰か? 警察関係、法務関係の官僚、そして現場担当者である警察官と法医学者です。今回はそのことを新聞記事から読み解いてみましょう。そして、そうしたことを認識しないと、お人好しの「医師」は、「おまぬけドンキー」にさせられてしまいます。『死因不明社会』で繰り返し書きましたが、「無知は罪」なのです。

 年末年始の朝日新聞に、大相撲の力士急死問題の記事が続けて掲載されました。死亡時医学検索問題に対し、既存の大メディアの理解度が乏しいということを露呈した記事ですので、ここに呈示してみます。

 2007年12月30日付け朝日新聞に、「力士リンチ、初動捜査のミスが痛い」という社説がありました。以前より少しマシになのは、問題が「犬山署が事件性なしと決めつけ、検死官の要請をしなかった」とクリアに書いている点です(シンプルに考えれば当たり前ですけど)。しかし、後がいけません。以下、医師にとって重大な部分を引用します。


死因の発表の仕方にも疑問がある。犬山署は「虚血性心疾患」との病名をつけて発表したが、搬送先の医師が書いた死亡診断書は「急性心不全」だった。警察は「口頭で了解を得た」というが、犯罪の疑いはなく病気によるものという印象を深める結果になった


 これは医師が記載した死亡診断書内容を、犬山署の警察官が勝手に書き換えたに等しい行為です。その行為は公文書偽造と同様の社会的影響をもたらす越権行為であり、明らかに違法行為です。「虚血性心疾患」と「急性心不全」は、全く異なる疾病概念です。死因的に見れば、「急性心不全」とは「死因不明」という単語の別表現に近い。「虚血性心疾患」は、心臓病による死亡で、死因はある程度確定されていることになります。

 この行為の問題は、医師が「死因不明に近い」と診断したものを、現場の警察官が「心臓病による死亡」と偽って発表した、という点にあります。これが『死因偽装社会』の実態なのです。「偽装」すれば「不明」になるのは自明です。

 専門家でない警察官が、社会制度上極めて重要な情報である死因について、そこまで恣意的に改竄(かいざん)してもメディアは重大な問題と認識できない。そして医学界も抗議一つしない。これは由々しき事態です。この事件の当初の報道を思い出してください。あたかも医療現場で「虚血性心疾患」という死亡診断書があったから検死要請をしなかったというような偏向報道がされていたのです。これは医師に、現場の警察官が行った不作為行為の責任をなすりつけようというものです。これが、公平で国家国民を守るという大義名分を掲げる司法警察の行う行為なのでしょうか。

 法医学会もなめられたものです。社説では、「愛知県警は新弟子の死と暴行の因果関係を解明するため、遺族の求めによる新潟大での解剖に加え、新たに名古屋大での再鑑定を依頼した」とあります。文章も、朝日新聞らしからぬ悪文です。シンプルに事実を書けばこうなります。「愛知県警は、新たに名古屋大での再鑑定を依頼した」。うっかりすると遺族まで依頼したかのようにも読めるという意味では、文脈が過剰修飾の悪文の見本です。

 これは意図的な情報操作です。なぜなら新潟大で解剖したのは法医学者でした。新潟大の司法解剖担当者による検索結果が名古屋大で再鑑定することで変わる可能性がある、と言っているわけです。見方を変えれば、法医学者の解剖結果は、施設によって精度が異なると、警察が暗に主張しているわけです。さらに、犯罪を見逃した愛知県警で再鑑定をする理由はシンプルに考えれば、自分たちに都合のいいような鑑定結果を導き出すためだ、と邪推されても仕方のないことです。

 愛知県警が起こした不祥事の再捜査、再鑑定なのですから、本来的には、監査を行えるのは、警察庁が警視庁に命令し、監察医務院や科学捜査研究所に鑑定させなければ、信頼される結果はでないでしょう。ところが、法医学者は誰一人、そうした提案も抗議もしません。

 この再鑑定は、法医学会としては断固抗議すべき事柄でしょう。なぜなら司法の法医解剖検索に対する介入に等しい行為だからです。もしも法医学会会員が自ら行う司法解剖に矜持(きょうじ)を持っているのであれば、名古屋大での再鑑定に対し学会を挙げて抗議声明を出すべきでしょう。そうしなければ法医学会は、警察捜査組織に隷従する団体と誤認されてしまいます。

 医療従事者ならば、そんな法医学者に医療現場での医療関連死を任せたくない、という感情に囚われてしまうのも当然です。医療の実状をよく知らない捜査官に中身をねじ曲げられてもまあ仕方ないと諦めもつきますが、自分たちの医療仲間だと信じていた法医学者が、同じくらい医療現場の状況に対して無知だと知れば、捜査官と同じように一緒になって医療従事者を叩くに違いない、と危惧してしまうからです。

 そもそも再鑑定での「死因究明」が必要ならば、新潟大法医学教室での解剖では死因が分からなかったということです。その後で、臓器から作成された標本だけを再検討して死因が分かると思いますか。解剖よりも少ない情報量で死因が分かるなら、経費削減のため法医学会はすべての鑑定を名古屋大に集中して依頼すればいいのではないでしょうか。

 もちろん医師であれば、それがナンセンスであることを簡単に理解できます。ですが、朝日新聞という権威あるメディアの論説委員すら、そういう理解さえできずに、こうした記事を当局発表に基づいて無批判に垂れ流しているわけです。

 こんな程度の医療知識レベルしかないのであれば、Ai(エーアイ)の意義なんて、当然理解できるはずもありませんよね(苦笑)。

 自分の足元の解剖という検査が、結局捜査機構からも、社会からも不信任をつきつけられているという事実に、法医学会の会員の皆さんはいち早く気づくべきでしょう。

 さらに朝日新聞報道は、自分たちの無批判記事掲載暴露に追い打ちをかけます。2008年1月1日付け朝日新聞では、力士急死問題で「前親方も傷害致死容疑」という記事が掲載されました。これによると血液に致死量のカリウムが含まれており、それによる心停止が死因と推測するように記載されていました。

 記事を引用します。


カリウムのデータは、名古屋大の再鑑定で新たに死亡との因果関係が着目された。


 さらに記事の最後に、


県警は昨年7月、斉藤さんの身体の組織を新潟大に出して鑑定した。同大の鑑定結果では、死亡前日と当日のいずれの打撲が死に結びついたかが特定されなかったため、捜査が難航していた。


 とあります。新潟大法医学教室では、このような基本的とも思える血清データの鑑定をしなかったのでしょうか。それなのに、多発性外傷性ショックという診断をつけたのでしょうか。他の記事を総合すると、肋軟骨骨折から類推し、「多発性外傷性ショック」という診断を総合的に判断してつけたようです。つまりこの記事を別表現すれば、「解剖でも死因が特定されなかった」ということが明らかにされているわけです。

 思い出してほしいのは、私が週刊現代の記事に対し、Aiに対するサブリミナルネガティヴキャンペーンだと申し上げた記事です。週刊現代10 月27日号に掲載された法医学者のコメントでは「今回は救急搬送先の病院でCTやレントゲンを撮ったそうですが、頸椎骨折はCTやレントゲン等の画像検査では見逃されやすく、結果的に体を開いてみなければ正確な死因は確定できません」とあります。しかし、死亡直後に撮影されたCTは頭部だけでした。その法医学者はそうした基本事項の確認もせず、こうした発言を行ったわけです。これこそ結果的に、不十分な情報でネガティヴ発言をすることが「事実を語りウソをつく」ことと同じことになってしまうという実例です。

 しかも、今回の2回の朝日新聞記事から明らかな通り、「法医学者が解剖しても死因は分からなかった」わけです。この法医学者と同じ表現手法を用いてみれば、さしずめ、「今回は遺族の依頼で司法解剖に準じた承諾解剖が行われましたが、血清カリウム値の上昇などの基本的医療情報は司法解剖では見逃されやすく、結果的に解剖してみても、正確な死因が確定できないことは少なくありません。Aiでは最新のMRI検索を用いれば、こうした生化学変化も検出できるようになる可能性があるので、Aiを行わないと正確な死因を確定できないのです」とでもなるのでしょう。私がそう主張しているのではなく、自分の都合の悪い事実を隠し、都合のいい部分を膨らませれば、こんな表現だって可能なわけです。

 法医学者は自分たちの専門外領域の画像診断についてうんぬんする前に、自分たちの地盤である解剖を「再鑑定」するという作業が必要でしょう。簡単にいえば、私の主張はこうです。「Aiで死因が確定できる症例は限られているが、解剖でも死因確定できない症例もあるので、総合的な死亡時医学検索を確立し、情報量を増やして診断していくべきだろう」。

 ところが、法医学者たちの主張は違います。「画像診断では死因を確定できない症例も多いので、解剖を全例に行うべきだ」。彼らは、Aiで死因が確定できないのは3割だ、と声高く言い募ります。一方で、解剖で死因が確定できない比率を口にはしません。

 加えていえば、彼らは検死CTとAiを同義に語ります。ですが、Aiとは死体に対する画像診断であり、CTには限定していません。MRI を使えば、死因確定率はもっと上昇するでしょう。用語の理解と用法は正確にしていただきたいものです。

 これはフェアな態度とはいえません。このままの姿勢で主張を続ければ、いつしか司法解剖という制度自体が、司法や社会どころか、医療現場からも信頼を失ってしまいかねません。

 法医学者は、「医師」ではありません。なぜなら彼らは、業務として生きている人を見ることがないからです。彼らは「医学者」です。だから、医療のことはあまりよく知らないし、知らないことは裁けるはずもないのです。彼らは、司法、警察、そして法学と親和性の高い人種なのです。そして当たり前の常識なのですが、司法解剖とは「医療行為」ではなく、「捜査業務の一環」なのです。年頭に当たり、まずその事実をよく確認してください。そうすると、医療事故調査委員会をめぐるごたごたも、別の見え方ができるようになるでしょう。

 それでは司法と法医学者により、死因不明社会の責任を押しつけられた、「おまぬけドンキー」こと、現場の医師はどうすればいいのか。その処方せんを次回、「死因偽装社会の被害者にならないために(その2)」でお送りします。お楽しみに。


1月26日(土)午後、こうした問題を紀伊国屋ホールで講演します。紀伊国屋ホール講演会の第100回記念講演になるのだそうです。第99回の演者は何とあの、ノーベル文学賞受賞の大江健三郎先生なのでした。しかも無謀にも、入場料1000円です。本人は途方に暮れているのですが。ただ、こうしたことからも、この死亡時医学検索の問題に対する社会的認知度が上昇していることが分かります。

1月14日〜17日の4夜連続で、NHKラジオ深夜便の「ナイトエッセー」というコーナー(夜11時台)で喋ります。こちらは聴取無料です。お暇な方はたまにはラジオに耳を傾けてみてください。


日経メディカル ブログ 海堂尊の「死因不明でいいんですか?」
ブログの紹介
現役の病理医でありながら、次々に医学小説を上梓する海堂氏。氏がもともと小説を書こうと思ったきっかけ、それは厚生労働省の政策への不満だった。真正面から正論を説いても国は動かない。ならば、小説で世論の方を動かそう。ブログでは海堂氏が医療従事者に本当に訴えたいことをストレートにつづります。
 

  拍手はせず、拍手一覧を見る

 次へ  前へ

▲このページのTOPへ      HOME > 社会問題5掲示板

フォローアップ:

このページに返信するときは、このボタンを押してください。投稿フォームが開きます。

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。