★阿修羅♪ > 戦争87 > 1164.html
 ★阿修羅♪
二つの「昭和遊撃隊」【平田晋策】
http://www.asyura2.com/07/war87/msg/1164.html
投稿者 ワヤクチャ 日時 2007 年 1 月 21 日 22:15:19: YdRawkln5F9XQ
 

(回答先: その後「日米戦わば」の未来戦記が盛んになり、少年雑誌の平田晋策ものを胸おどらせながら読んだ。 投稿者 ワヤクチャ 日時 2007 年 1 月 21 日 22:02:13)

二つの「昭和遊撃隊」
http://www.kaibido.jp/bunyoku/shinsaku/hirata2.html

「昭和遊撃隊」は平田の処女長編で、しかも「新戦艦高千穂」と並ぶ彼の代表作である。いや、大人向きの子供向きを問わず、日本における未来戦記の最高傑作かもしれない。それほどこの作品はドラマチックで、迫真性があり、感動的である。最終的に、すべてが潜水艦富士の「肝腎のあの点」に絞りこまれていく物語構成や、それが明らかにされて今までの悲壮感がいっきに崩壊するカタルシスは、ストーリー・テラーとしての平田の非凡な才能を証明している。


アメリカの煽動で、中国空軍が揚子江上の日本の艦隊を無警告爆撃し、その報復に日本が米国艦を撃沈したことから、日米太平洋戦争の火蓋が切って落とされる。

 以下、物語は絶対的物量差で臨むアメリカに、少数精鋭技術で対抗する日本というテーマに沿って、平田の想定する太平洋戦争のプログラムが進行していく。日本側の地名は実名そのままだし、実在の艦船が登場した。人名は一部をのぞいて仮名だが、すでに交戦中の中国側はさしさわりなしと判断したのか、張学良・馬占山らは実名で出てくる。年代も近未来が設定され、現実と空想が交錯する、きわめてリアリティーの高い内容だった。少年小説で未来戦記をここまで徹底してリアルに描いたのは、画期的なことだった。

 一例をあげると、「昭和遊撃隊」で日本側の連合艦隊司令長官・末山大将は、あきらかに海軍大将・末次信正がモデルになっている。本文では「末山大将は吉田松陰や山県有朋は長州藩士で、長州・徳山両藩とも維新後は山口県に併合されている。また末次が連合艦隊司令長官の地位にあったのは昭和8年末から丸一年、ちょうど「昭和遊撃隊」の連載と同時期になる。こうした細かな演出が、読者を小説世界へひきこんでいくわけである。ちなみに平田と末次とは、個人的に親交があり、平田の葬儀で友人総代を勤めたのは、ほかならぬ末次であった。

 ところが、「昭和遊撃隊」には、内容の異なる改作版がある。昭和10年2月、大日本雄辯会講談社から出た単行本がそれである。

 オリジナル版では日本とアメリカの対戦だったのが、単行本では日本人と同祖の海洋民族国家 “八島王国” と、南米の白人国 “アキタニア” に変わった。艦船名も「金剛」が「猛虎」、「比叡」が「北斗」などと全面的に改められた。揚子江の「泥色の水」がカルタゴ港の「エメラルド色の水」になり、「わが海軍航空本部」といった一体感のある表現も、単行本では削られた。せっかくのリアリティが、大幅に殺がれている。なぜ改悪されたのか。考えられる理由は、当局の検閲をクリアするための措置、ということである。旧憲法下では、「出版法」「新聞紙法」にもとづく内務省の検閲が認められていた。検閲の対象は「安寧」と「風俗」に二分され、前者の基準には「戦争挑発の虞れある事項」が含まれている。未来戦記はこの項目に照らし合わせチェックされるわけである。たとえば、「昭和遊撃隊」の前後数年間に、次の未来戦記が発禁処分に遇っている。


アメリカ総攻撃 F・ギボンズ 昭和7年
打開か破滅か興亡の此一戦 水野広徳 昭和7年
日米開戦 米機遂に帝都襲撃? 綿貫六助 昭和8年
日米若し戦はば 作者不明 昭和9年
少年肉弾戦 村田義光 昭和10年
危し! 祖国日本太平洋の激戦 津乃田菊雄 昭和11年
太平洋行進曲 長野邦雄 昭和12年
太平洋非常艦隊 宮島惣造 昭和12年
日米大海戦 豊島次郎 昭和12年
予言日米戦争実記 佐久間日出男 昭和12年

 反戦思想ゆえに左傾人物としてマークされていた水野広徳はともかく、「昭和遊撃隊」と同年「少年少女譚海」に連載された長野邦雄の日米未来戦もの「太平洋行進曲」までひっかかっているのだから、楽観はできない。国内だけでなく、対外的に未来戦記が問題をひき起こしたケースもある。昭和8年暮、「日の出」新年号附録の福永恭助『小説 日米戦未来記』が、輸送先のホノルル税関で全冊没収されるという事件がおきた。フィクションの中の仮想敵国が、現実に国家間の緊張を招いたわけである。

 検閲に大人もの、少年もの、フィクション、ノン・フィクションの区別はない。むしろ描写が密な分だけ、フィクションのほうが挑発的と受け取られかねない。オリジナル版「昭和遊撃隊」をそっくり単行本化すれば、発禁の憂き目にあう危険性は充分にある。

 発禁の予感は、すでに「少年倶楽部」連載中から、うすうす持っていたようである。アメリカの表記が途中から○国、A国と変わるのは、そのためだろう。実は平田はすでに一度、発禁処分を喰った苦い経験があった。昭和5年に、『売国的回訓案の暴露』という単行本が安寧秩序紊乱の烙印を押されたのである。その記憶が、平田に改稿を決意させたのだろう。同時に講談社編集部からの要請もあったに違いない。人気小説が発禁処分を受ければ、「少年倶楽部」のイメージ・ダウンにもつながりかねない。おそらく両者の危惧懸念が一致して、自主改稿に至ったものと思われる。

 もっとも問題なのは当事国をはっきり日本とアメリカにしてしまったことだったようで、オリジナル版と単行本とでは基本的なストーリーに大差はない。どうやら戦略的見地からよりも、表現に難のあることが問題だったらしい。それにしても舞台を架空国に置きかえただけで通用するとは、ずいぶんおかしな話である。いかにもタテマエにこだわる役人仕事、といった印象をうける。

 余談になるが、平田が『売国的回訓案の暴露』で筆禍事件を起こした翌昭和6年には、かつての同志である近藤栄蔵が、『失業反対闘争方針書』と『無産党出直すべし』の二冊を発禁にされている。同じ主義のもとに活動した二人が、まったく正反対の立場で行政処分を受けているのは、人生の巡り合わせを感じさせられる。

【ワヤクチャ】そういえば先日「白虎隊」の話がテレビで放映されていましたね。郷里を守る為に若き兵士が自己犠牲の精神を発揮するってストーリーで。戦記ものが増えてくるんだろうねえ。過去の戦記ものから近未来戦記ものへと多分移行していくでしょうねえ。戦意高揚を狙っているという暴露をしていかねば。


 次へ  前へ


  拍手はせず、拍手一覧を見る

▲このページのTOPへ      HOME > 戦争87掲示板

フォローアップ:

このページに返信するときは、このボタンを押してください。投稿フォームが開きます。

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。